精神への旅へ ①
姉タレイアの精神との融合〜シンクロ化後、アグライアは薄くゆるゆると目を開きかけたが
ゴォォォンン!!
『キャッツ!!』
一瞬にして様々な映像が洪水のように押し寄せた為、大慌てで ギューーーーッ目を閉じた……
しかし、目を固くつむって閉じていても、激しい点滅する光が感じられるのだ。
これ程、強烈な押し潰されそうな圧迫感に遭遇した事は無く、心の底から縮み上がりそう!!
しかし今のアグライアは今までの、泣いてばかりの、寄る辺ない気弱な女の子では無かった。
『負けるもんですかーーーーー!!』
もぅ怖いものなんかない。
必ず「メッセージ」を受け取り還るんだから!!
アグライアの想念が通じたのか、吹き飛ばされそうなガチガチの固い空気感が何故だか 急にピタリと消え失せる。
消失後、ゆっくりとーーーー……勇気を出して瞼を開くと、なみなみと半透明のジェルにタプタプに満たされたカプセル内部でもなくて。
さりとて研究施設のどこもかしこも真っ白な空間とも違い、ジェルだって1欠片も1滴すらない。
赤茶色の足場の定まらない、さらさらとした 見覚えのある砂の海の上に居た。
ビユッッーーーーー!!
……
突然の叩き抜ける生暖かい空気になぶられ、思わずフラリと体勢が崩れる。
ーーーグラッとよろめいた足。
踏ん張り抜いた跡が出来、ガボッ、サラサラな砂地に大きな足跡が出来上がる。
ビョウビョウビョウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
四方八方に風が荒れ狂っているーーーー
『そうだここはーーーーー!!」
全く想像もしていなかった場所、私達姉妹の故郷である惑星ラオコーンだ。
今正に大地を照らす恒星が、雄大な、砂ばかりの何も無い地平線に沈もうとしている。
ほんの数分間の〜 夕暮れの壮大な天体の「ショータイム」夕暮れ時の風物詩。
風の影響でーーーー風紋が出来ーーー……
でこぼこの砂上に影法師が黒々と 長い長い姿を映し出す様。
アグライアは驚きと懐かしさの余り絶叫しそうになり、慌てて両手で強く口を覆うのだ。
ラオコーンにいた時はーーーー……この星からどれ程心底逃げ出したかったか?
反面、どれ程故郷を愛していたか?
もう2度と足を踏み入れることが出来ない、懐かしき故郷……
いいやーーー……
再び戻るつもりも無いくせにそんな事を思うのは唯の嫌らしい偽善だ。
お姉様もーーー優しい母様もーーーー……も
ぁの憎たらしい父ですら もう居ないーーーーー
本当に何もない星。
もぅ行ったって しょうがないのだ。
砂漠の遠くで、キラリとかつての自分達の住んでいた「街」が、夕方の最後の光を反射してチカリ 一瞬ダイヤモンドのように激しく輝いた。
日没後、ラオコーン名物 ”強風”になぶられ起こる砂嵐から市街地を守る為に、巨大な半透明のドームで 街丸ごと覆われるのだ。
その絶対的な「閉門」を知らせる鐘の音が アグライアの耳にも荘厳に届いた。
1つ 2つ 3つ 4つ 5つ ーーーーーーーーー
全部で20 でラストだ。
20個目の鐘の音が終わるか終わらない内に、周囲の景色は、サーーーっと赤茶色の砂の粒が流れるが如く、目の前から 暗く溶けて消えた。
ーーーー思わず目を閉じる。
再び、おそるおそる瞼を開くと別世界、信じられない事にアグライアは再び、全く別の空間に居た。
目を開けるとーーーー
そこは見渡す限り、一面のボンヤリとグレーの世界に変わっている。
死と生の狭間の、人間の介入を徹底的に拒む氷と風の王国ーーー
ラオコーンの永久凍土〜薄暮の白夜、激しい吹雪ーーー!!
轟々耐えがたいブリザードの真っ只中。
『ホワイトアウトーーーだわ!!』
耳をつんざく吹雪の、怒る荒れ狂う歯ぎしりの軋みの音。
が、不思議な事にーーー寒さ〜温度は一切感じないのが奇妙だ。
ビョーーーーーーーーーッッッッーーーー
方々の四方から突撃し 体をなぶる雪の針、なのに寒くない
『?!』 ふと自分の体を見ると、自身は防寒具どころか、柔らかな介護服を着ていることに気がついた。
城で着用していたものと同デザインの 清潔な白い衣服。
アグライアは、剥き出しの手首、手足露出部分をバシバシと叩く痛さに顔をしかめたが、こんな場所には有り得ない軽装でも、全く凍えたりはしなかった。
薄墨色に染まった地獄ーーー
真っ平らで有りながら、見渡す限り生命の痕跡すらない。
1メートル先さえもボヤけてしまい、はっきりと視界がおぼつかず、何もかも輪郭が薄ぼんやりと白い闇の中だ。
突然〜雪だらけの視界がパッと開けた。
カーテンがまるで開く様に。
『?!…』
ゴソリ、突然前方のーーーーー
こんもり ”岩か何かの塊?” だと思っていたモノが、にょっきりと急に立ち上がった。
驚くべき事に小さな「人間」で、全身色鮮やかなオレンジ色の着衣を着ている。
グォォォォォンッッーーーーーー
「何の音…??」 かなり遠くから 低い重低音が聞こえる。
オレンジ色の人間は、身につけた太いベルトからバッと筒のような形状の物体をつかみ出す。
ぶ厚い手袋に苦労しながらも、先端部を躊躇いなくボキリと折り高々と掲げる。
シュッッッ!!
目にも鮮やかな、痛い程のショッキングピンクの耀きーーー!!
闇に光源がバチバチバチッと閃き、氷と白夜の無彩色の世界に飛び出す。
信じられない程 神々しく美しい、そんな不思議な光景に見えた。
”閃光”をーーーー!
発煙筒を 右手で頭上高く上げ、何度も何度も力の限り大きく振りたくる。
グオォォォォォォォォォォォォォンッッ〜〜〜〜
ずんずん近づく重低音は、すでに耳をつんざくバリバリバリバリ轟音と化し、黒い塊がとうとう視界に現れるのだ。
ーーー1台の、アイスモービルーーー……
どんな過酷な氷の大地でもモノともせず、高速運転で長時間駆け抜けることが可能な、軍事用 特殊装甲バイク!!
散らす白い雪のスカートを盛大に巻き上げながら、ザクッ!大きく地表を削り取り ガガガガガガガガ……!!
素晴らし過ぎる見事な運転テクニック、ピタッと急停止する。
生憎、操縦者の顔は雪上用ゴーグルとマスクで判別出来ない。
頭部から何からフード付き〜全身を覆うぶ厚い防寒用衣類で全くわからない。
『!!』
雪だらけのアイスモービルには、現在のアグライアにはハッキリ見覚えがある某マークがペイントで描かれている。
『あれは……!! トール軍、宇宙艦隊のマークだ!!
ーーーーと言う事は
この方は!! ーーーーーまさか……!!』
アグライアの喉がゴクリと鳴る。
「大丈夫か!!」
ショッキングピンクの閃光ーーー
発煙筒を持っていた小さな人物は、声を聞くと力尽き、ガックリと膝をつく。
「ーーーーーー」
「おっと!! よく頑張ったな タレイア? 偉いぞ君は!」
ーーー氷の大地に倒れ込もうとする「姉」
オレンジ色の人間は、タレイアだった事に、アグライアは漸く知る事になる。
そして、すんでのところで、アイスモービルからギリギリに飛び降りた人物は、ガッシリと少女を 逞しい腕の中にしまい込む。
そのままーーーーー
グッタリする、小さな体を軽々と両腕で抱き上げる。
大切にお姫様だっこ状態で抱きこみ、アイスモービルの側まで運ぶと、バイクの物入れの中から水筒を取りだし、白い湯気の立つ飲み物を少しずつ それこそ一口ずつ。
愛しそうに少女の体を抱きしめ、ずぅっと語りかけながら飲ませ続けるのだ。
それは多分、緊張がほどけて眠り込むのを防ぐ用心の為。
「さあ ……もう大丈夫だよ?」
宝物のように守られている姉が、急にぴくっと身じろぎをする。
「よかったーーー」
叔父が思わず零した涙声、救助した人物の 嬉しげな声ーーーーー
アグライアは 心が粉々に砕け散る思いがする。
姉を救助した人物の声で、ゴーグルと防寒着で全く顔が見えずとも、彼が誰なのか誰か姉を抱きかかえているのか。
ーーーーアグライアには 直ぐにわかるのだ。
目に涙がプワッと浮かんだ。
あの方はーーーーまだ年齢がうんと若い頃の叔父様!
確かに参謀本部勤めはしていたと思うけど?
でもまだ いち青年将校だった頃!!
間違いない、新しく現れた人物は、愛おしいロームルス叔父様だ。
おそらくこの遭難ーーー救出劇はーーー
私達が10代にもならない、本当の子どもの初等部の頃起きたあの事件だろう。
抱きかかえられた際の ”体の差” 姉の身体の大きさ〜背の高さから容易く想像可能だ。
自分も事情を聞いて知っている。
そう……!
父と叔父様が決定的な 仲違いの切っ掛けになったあの遭難の日の記憶だわ!
『ーーー無事に、姉が九死に一生を得て助かった事を喜ばないといけないのに!
そんな、子どもの頃の姉に嫉妬するなど、汚らわしい唾棄すべき事なのに……』
それでもカーーっと、心の暗部の、闇の暴走が押さえきれなくなりそうになる。
激しい嫉妬心で目が回り、ああ、気が狂ったらどんなにマシな事か!!
なんて自分はーーーー性根が浅ましいのだろうか?
助ける!! と偉そうに宣言したのは〜どこの誰だというの??
黒い心がフツフツと渦巻く自分、手に負えない感情が限りなく情けなく どうしようも無く惨めだ。
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「脳波計に 激しい動揺がみられます」
研究施設内で食い入るように、クリスタル球と計器を観測していた 主席研究員が城主に伝えた。
「まだ『いけそう』?」
「ーーーおそらくは、でも〜『運』ですね」
確かに、これは過去の『事実』なのだろう。
がしかし「幻」 脳内にしか無い白昼夢でもあるのだ。
人は新たな「未来」を作り出す事は可能でも、「過去」には絶対に遡れない。
「やり直せない」
仮想現実を辿ることは出来てもーーーーーー!
城主はアグライアが意識の生み出す幻の魔物に、何としてでも打ち勝ってくれるよう心の中で祈った。




