姉からの秘密の「メッセージ」 ⑤
「無事 同調化致しました」
姉タレイアの精神と連結された電脳装置
ーーーあと少しで天井まで届くという透明な信じられないサイズの巨大人造クリスタル球内部世界に、アグライアの『視ている』モノが、浮かび上がる。
最初はうっすらと……
しかし徐々に像を結ぶ、クッキリした輪郭の映像が浮かび上がる。
固唾を吞んで見つめて居たスタッフから思わず安堵の吐息が漏れる
「ぅん、上手くいったようね、後は何とかしてタレイア様から『バグ』のメッセージを引っ張り出すだけね?
んじゃ『バグ』用の、別途の捕獲システム抽出映像撮影準備はいいわね??
アーーっと、わかってると思うけど?ーーーー
これは失敗が許されないワンチャンスだからね!」
「無論です!」
「期待してるわ?」
「何度も別のモデルデータで臨床試験済みです いけます!!」
優秀な主席研究員は城主に向けて、即座に自信を持って答えるのだ。
「ーーーでは 後は無事に『帰還』するだけね」
「しかし…それが1番難しいのです、正直ーーーいつもここで事故が起きます。
今回は大丈夫でしょうか?」
「ーーーー」 2人とも押し黙る。
「施設総責任者の私が 全責任を持ちます、だから心配しないで?」
「……」
研究員達に彼女は、装置計器から一切視線をそらさず答え、モヤモヤ不安が渦巻く心の最奥を隠す為に誤魔化す。
『頑張って!!』 アグライアに、城主は心の底から強く念じた。
「ところであのぅーーーー」
「何?」
主任研究員は言いづらそうにビクビクと顔を引き攣らす。
「きちんと”彼”に、貴女の口から何もかも『説明』しておいた方が 私はいいと思いますよ?
信繁君、『企み』、はかりごとに感づいているとは思いますけど、ねーーー」
主席研究員は俯き加減でそこでコフンと咳払いをし城主に、ボソッと聞こえるか聞こえないかの声で喋った。
本音の所、余り目を合わせたくなかったのだ。
「誰に?」
城主も同じく様々な計器のモニターを見続けながら、視線を合わせず何処吹く風でしれっと返し、ワザと ”一部分だけ” 対象者の名前だけ聞こえないふりをしているのが素直じゃ無い。
『わざとらしいなぁ!』ーーーー後ろめたさ炸裂過ぎる。
わかってるし?『聞こえてるくせ』に!!
『っっ全く、この人は意地っ張りなんだから!!
もーーシャラッと ”こういう事” を、平気で言うんだよなァ、どこまでもハードボイルドな方だょ〜〜〜!』
主席研究員は 『困ったなーーっ……と心の中でボソボソと呟くのだ。
「えっとですね、当然〜信繁君にで・す・よっ」
やむなく主任研究員は、ワザワザ強くアクセントをつけてまで、渋々語りかける事にする。
「アグライア様ーーーーあんな心と神経が過敏〜
”尖った状態”では、僭越ながら今の様な上手なシンクロ化は望めなかったでしょ?
だから、誰しもの予想を 『一発大逆転』、悪しき状況を覆す行動を貴女がしたって事です」
「……」
「みんなバレてますから……」
「……」
気難しい性格の城主に、何だかんだいっても 意見を通すことが出来るのは信繁だけだと研究員はよく知っている。
彼ーーー信繁は、実は意外と「潔癖」な性格。
過去家族全員を失いーーーー
日々喧嘩で メッチャクッチャに体力の限界まで荒れに荒れた時ですら、異性関係だけは異様に綺麗なものだった。
彼がどうして身辺のクリーンさをそこまで保ったのかは、その理由についてはわからない。
無論、強烈なオーラにフラリと吸い寄せられた女性も(男性も)、手足の指の数をあわせても足りないくらい当然居た。
ーーーが、信繁は、子分を引き連れ路頭を組む事も、性的に爛れた日々を送る事も無かった。
大概は ”吞む打つ買う”
ーーープラス合法ドラッグ、最悪違法な物にも手を出し、のっぴきならない所まで行き着く所まで行く〜
なのに、彼の場合そうはならなかった。
精鋭「信繁班」が、モテまくる人員の宝庫なのに何故か この類いの悪評が立たない一因は、班長の、この彼の気質が大きい。
(子龍は別として)
つまり今回、上司である城主は状況的に仕方が無かったとはいえ、彼が性格的に「最も嫌がる」手段を取った事になり、最大級の地雷をバッチリしたたかに踏んでしまった結果となった。
そうなってーーー……ただで済む筈が無い。
「こんな事は私も言いたくないですが、『以前』執務室に子龍君がーーー
ーーーっと! 『フレイヤ様の件が終了して直ぐ』
〜俺の親友の扱いが劣悪だ!〜 怒鳴り込んで来ましたよね〜ぇ、確か」
「ーーーーーそうだったかしらね」
「こっちの、引きこもりに近い私達お籠もり研究室職員も、『あの騒ぎ』
〜 ”大騒動”は しっかり聞き及んでいますよ?
それはもぅ、凄かったそうですね、『彼』?
なにしろとんでもない剣幕〜
秘書課の人達が恐ろしくて、子龍君が出ていった暫く後も執務室の貴女に会うのが躊躇われたとかーーー?ってホントなんですか?
後、備品が随分、移動してたとかしてなかったとか?
〜『散らかりまくり掃除が大変だった』〜って云うのは?
何故あの日の直後、執務室高級客用応接セット、総張り替え修理に出したんです?」
「ーーーーーーそうね」
信繁と、研究所内で 何やら明るく話し込んでいる様子の子龍の姿を、城主はさり気なく振り返り、遠目でチラリと見た。
ーーー目線の様子、主任研究員は小さく首をすくめ、ため息を吐く。
「あ 子龍君、また背が伸びたーーーって事ないですかねーーー?
いやぁ〜、もぅね、若いって本当に素晴らしい!!
とうとう彼も、身長190の大台ですか?!
〜あんなにどこもかしこも綺麗なナリのおぼっちゃまなのに、実際は信繁君と負けず劣らずの超武闘派なんですもんね?
うーんイザとなれば、全身が武器庫?
果たして一体、何所のどの星でそんな特殊訓練を積んだのやら〜ハハハハハ
彼の得意技は 狙撃手〜スナイパー故、一応は銃器全般ですが。
ーーーー”素手で人殺せる” でしょ? 本当のところ実際は。
お? あっと、ナニナニ?
『そんなに怒る事かよ?』ーーーですね、あの唇の動きでは。
なのにホントーーー 優しいですよね、彼。
信繁君の激しい怒りのエネルギーの矛先を、取りあえずはワザと自分に向ける様、あの感じじゃ画策してるようですね、いい若者ですよ。
ねぇ 見て下さいーーー
ガンガン怒り心頭の信繁君を、聡明な彼は〜何とか、この場を穏便に納める為、ニコニコ笑いながら 手綱を取って巧みなユーモアでもって上手に宥めてます。
コミュニケーション能力に総じて難ありな『人間が怖い』我々からしたら〜
まさしく天才かよ?!な、途轍もなく凄い事なんですよーーー??
あー〜ー羨ましい!!羨ましい〜
が、彼 実際は、悪魔のように、相当怒ってますよ?
いつも通り綺麗に微笑みながら、あ〜 ……これはよくないです、今夜は『執務室』、この調子じゃ再び荒れに荒れますからネ?
ーーーー是非、お覚悟なさって下さい。
大切な物や貴重な割れ物は 奥にお片付けを。
〜キャビネットにも鍵を掛けて、貴重な絹張りでローズウッドやマホガニー造りの応接客用セットも ”急ぎ”
〜そうですねぇ、埃だらけで倉庫に眠る、合板と廉価なうっすいポリエステルを張ったソファーセットの安物に、総出で交換した方がきっと良いでしょう。
クリーニング部や保守点検課、後は〜装備備品係や会計課に
”何やってんですか?!”
〜前回みたく後日こってり突き上げられ、しつこい濃密な嫌みをネチネチ言われますよ?」
「〜わかったわよ……」
「賛同してくださり何よりです」
『しょうがないわね』
〜そんな風情、グシャグシャッと頭を掻き、ぷーーーーっと頬を膨らませる。
主席研究員の有り難い指南の言葉にて(恐喝)、城主はノロノロと重い腰を上げ彼らの元に足を向けるのであった。
「……」
ーーーーそれにしても参った!可愛すぎる 『ううっっ』〜……ったく!
うっかり、無造作なワイルドな様子〜何時もとは違う、天然な素のかわいらしさについつい見とれ、ホロッと仏心を出しそうになったのだが
「イカンイカン!!」 主席研究員は邪念をブンブン振り払う。
そうだ、「とばっちり」がーーー来る!!
何故なら……「経験あり」
ここで何とか、長の自分が〜被害を最小限に食い止めなけれ〜ば!!
自分が仕切る大切な居場所である宝物の研究室に、あの!!「恐怖の王子様」
〜意地悪い超絶魔王進化した子龍殿が、地獄の配下の雅姫を連れて襲来するのを知っている。
ーーーーそれだけは絶対に勘弁して欲しいのだ。
頭でっかちな理系が 「ああ言えばこういう」「こう言えばああいう」
ーーー自由に言葉を操る弁士に勝てるはずが無い。
精鋭・信繁班 ナンバーワンの、信繁の大ファンを自認する「雅」姫。
誰もが ”清らかで素晴らしい!”大絶賛する城至宝〜
天使の微笑みを浮かべながら、ドカドカ自分の所へ容赦なく乗り込んでくる事が判っていたから余計に頭が痛いのである。
雅姫は、今日は「別件」、有り難い事に、不夜城の瑠架の元に詰めていた。
『多分、実験機の調整の事だな?』
だから今回は2人の側に居なかったのだ
(有り難い事に)
アッチはここよりも出入りが遥かに煩雑ーーー
重ね合う時空に、更に増築を増築に重ねたせいでグニャグニャ〜気色悪く酔っ払った蛇みたく迷路じみているからそれだけでも充分に時間がかかる。
「貴方程の人が付いていながら、何で城主の暴走を止められなかったんですか?
仰る様な方法以外にも、僕の見立てですが?、やりようは 他にもありましたよね?
ーーーーぇえ確実に?」
主席研究員は溜息も出なかった、心配の種は山程有る。
信繁班の電脳担当員の雅姫は、元は同じ技術畑の職員である。
城一番の情報通、恐怖の「彼」に、生憎ーーー言い訳は厳禁の禁句、事実以前ポロッと零した不用意発言を元に、散々に矛盾点を突っ込まれ泣きをみたのを思い出す。
互いに手の内を知り尽くす相手ーーー
つまり同業者だから、見え透いた煙に巻く専門用語とかの誤魔化しは全く効かず、通用しない。
誤魔化せるどころかーーー逆に突っ込まれ、益々言葉尻をとられてカオス化にドップリ突入するのが今回も目に見えている。
『雅姫だったら前もって調べ尽くし、絶対理論武装して私に迫るだろう。
やれ恐ろし……くわばらくわばら〜〜〜!!』
「姫君」の背後には おそろしい不夜城がついているし、万が一にでも若い彼の論理で手に負えなければ、最悪、天才不夜城組”姐”
〜ラスボス親分ーーー瑠架様のお出ましだ!!
あれやこれやを熟考するとバタンと貧血で倒れそうになる「ナニその展開!」
ーーーでもまぁ取りあえず、このプロジェクトを成功させる事だ。
それにしてもである。
ハードルが一気に上がったことを、嫌でも自覚せざるを得なかった。




