姉からの秘密の「メッセージ」 ④
「お姉様の事は我々にお任せ下さい。
貴女様は……ご自分の安全と、メッセージの回収のみに集中して下さい」
〜研究員の発言にコックリと頷いた城主が、発言の後を引き継ぐ。
「お姉様は〜現在、整合性が無く、途切れない鬱々とした夢……!
つまり『悪夢』に支配されていると言っても良い状況下です。
貴女は決して惑わされず、それらに影響を受けないで下さい
それらは、ネガティブな陰の心が生み出す偽物〜『魔物』です。
でもそうは言っても『言うは易し』 ……実行は大変難しい事だと思いますが」
城主は強い口調で勇気づける。
「もしもーーーの時は、私が貴女をサルベージ 〜救出活動に向かいます。
ですが 現在の貴女たち御姉妹の身体的年齢と。
ーーー私の脳の容積、3人分全体の体積を考えると、ギリギリ、何とか装置が持ちこたえる『限界値』です。
どんな事があっても、全く不思議ではありません」
城主は、フゥゥゥゥゥゥーーーーー
特別長い溜息をついたが、特段腹立たしげと言うよりも ”しょうが無い”〜
そんな諦観のニュアンスが濃厚に感じられるのだ。
だがーーーそれを聞いたアグライアは腰が抜けそうな程に驚く。
「!!エエエッ、まさか『城』総責任者の貴女が!!
もしかしてーーー自らーーーそんな危険な事を するのですか?? 」
『有り得ないわ!!』 本気でギョッと驚き目を剥く。
ところがである。
すると逆に、不思議そうな顔を城主にされるのである。
「?ーーーーそんなにおかしい事でしょうか?
本当に大切な時、トップの人間自ら決断。
最高の結果と、最良の結果を引き出す為に、結構現場と連携を密に取り泥臭く危険にすれすれに立ち向かい動くものです。
誰がやっても難しい肝心の要を、トップがおざなりに集中を欠き関心を失い、人任せにしたとたん、賭けても良いですがーーー
その組織は求心力〜 信頼を失い崩壊する事でしょう。
貴女の叔父様も 長年勇敢にそうされて来ました、私はその努力と尽力と勇気をよく存じ上げております。
そうではありませんか? 違いますか?」
城主は迷いなく言い切った。
「……」
「とはいえ〜今回の『作戦』は、叔父様は余りーーーいい顔をしていないので。
貴女様にもしも、最悪の何かが降りかかり、おまけに『救助活動に失敗』した日には」
彼女はどうしてだか? 目をキラキラさせながら極めて楽しげに先を続ける。
「惑星トールの大王様が、極秘開発中だと言う新型ーーーそう、例えば?
確実にお怒りの叔父様は、惑星破壊ミサイルーーーー!
ジャパン目がけて『試運転』致しますので、絶対に還ってきて下さいね??
やっぱり私も、ジュッ……! 蒸気化は、まだ嫌ですから」
『ええええええっっっつ!!』
さらーーっと、何気に怖い事を言い切った……城主。
アグライアにクスクス笑いかける城主は、あっと言う間にフワリ側に寄り、視線を合わせ口をパクパクするアグライアの左頬に何故か すっと軽く手を掛ける。
「ぁのその、なんでしょうか?」
「もぅ可愛い方ーーー」
そのままの流れでーーー 優しく右頬にチュッ♡ 接吻をする。
「これは御守りですよ?」
グッと接近したまま唇にも。
フンワリ羽毛のように柔らかなフレンチキスで、瞬間一筋撫でた。
『!!!!!!』
ーーーー何が起きているのか、自分でも頭がついていかない。
城主は、耳までカァーーーーッ!!
真っ赤になったアグライアを、可愛らしく小鳥のように細い小首をかしげ、面白げにジーーーっと見つめる。
『全くこの人は〜〜〜〜』 様子を伺っていた信繁は大きく溜息をつく。
城主は時々、変な困らせ方を、突然気まぐれに相手の迷惑顧みず行う癖がある。
それも特に ”気に入った相手に” 仕掛けることを知っている。
『っったく〜〜〜〜!!』
整った形の眉を寄せ、こめかみにぐりぐりっと指を当て長い長い溜息をつくが、気は晴れない。
「ハッッッッ! まーーー綺麗でいいじゃないか〜?
魔女も一見、一応はルックスだけは美少女に見えなくもないし?!
アグライア嬢も折り紙付きの超美女だし?
ーーー名画みたく様になってるし。
お前ホント ちょ〜真面目すぎ!!
なんの、あんなのあれっぽっち、地球でも欧州じゃっ単なる社交儀礼だろ??」
外交官を輩出する家系出身の子龍は、無責任に自分の親友に明るく軽〜く言う。
「オイちょっと、待てよ! 信繁!!」
ツカツカツカツカツカツカーーー
信繁は子龍の「あ〜あ〜〜」
自分を引き留める声を背に受けながら、友人が心配して行う精一杯の制止を堂々振り切るのだ。
「城主! あまり若い真面目な子を、しょーもない自分の興味本位、面白半分におちょくって からかわないで下さい!」
かぁぁぁと益々真っ赤になり、耳たぶ処か首筋まで紅く染め上げたアグライアの側に信繁は憤懣やるかたなく。
ユラユラ楊炎の様な怒りのオーラを全身から漂わせ、ツカツカ近寄る。
「ーーー何してるんです?!」
『チッ、ムカツクーーー!!』
特殊部隊の軽装備を身につけ、2m近い高身長の上から地獄の番人的な低い声は迫力あり過ぎである。
信繁がムッとした怖い表情で意見するのだが、城主はフンと鼻でせせら笑うから普段は我慢強い信繁も、流石にいい加減忍耐力の限界を感じた。
「えっ? あれは何??」
信繁の言葉に、ツーーーンとそっぽを向いていた城主が突如ーーー
急に視線を空中上部に向ける。
「えっっっ?」
アグライアもうっかり、つい釣られて同じ方向をハッと見上げてしまった。
つまりはーーーー「引っかかった」
「……いい加減にしないと 本当にロームルス閣下に蜂の巣にされてますよ?」
「ーーーーー」
「嫌だった?」
「……」
アグライアの唇の上で、蕩けそうな甘い優しい吐息が囁く。
至近距離、黒真珠と見まごう濡れたように輝く澄んだ瞳と視線が絡んだ。
「もう一1つ オ、マ、モ、リーーーね?
ーーーーこれは だからーーー 必ずここに 還ってくるのですよ?」
ついっとあご先から、優しい細い指先の繊細な感触
〜圧迫感が ふいに消失。
ウフフと、城主は軽やかに艶然と言い残すと、肩に乱れた腰まである艶やかな黒髪をサラリ、細くたおやかな指で払いのける。
その後、何事も無かったの如く、装置側の主席研究員達に軽やかに振り返らず優美な姿で歩いて行ってしまった。
「ーーーーーーーーーー」
信繁は再び眉間を押さえフーッと長い溜息を吐き、親友で有りバディの子龍が隣に立ち、ポンッと如何にも何気なく信繁の肩を叩くのだ、
「まぁ ーーーそんなに気にするな。
彼女は、魔女で 妖怪で 物の怪で 宇宙人だ。
雅が『シッポが9本ある狐に違いないーー!』
千年万年生き続ける、不死のチャイナの狐だって言ってたぞ?」
何だかんだの小さな一幕……
『何もかもが、美しい立体映画の映像のようだわ〜〜!』
アグライアは身の回りの1幕劇、一連の騒動をぼーーっと夢うつつに感じているばかりで。
「これを彼方のルームで着替えます」
指示の通りにアグライアは係員と共に着替えに入る。
タレイアの精神の内部にシンクロする為だけに造られた、特殊な仕様の身体にピッタリとしたウエットスーツである。
細やかに手伝って貰いながら、ヨイショヨイショと必死に着替える。
「いいですかーー?」
「はい」
ボソボソと声がくぐもる。
『まるで自分の声じゃ無いみたいーーー!!」
そんなこんなを思うのだ。
この後、生命を維持する酸素マスクで顔面をすっぽり覆われ、研究員に手を添えられ、準備が完全に整えられた 強化アクリルカプセル装置内に入る事となる。
「うわぁ〜〜〜〜」
カプセル内部、柔らかな半透明ジェルにひたひたとトロトロに満たされている。
微かな〜…… さざ波に似た低周波刺激が彼女の全身を包み込む。
ーーーーうっとりと気持ちがいい。
浮力が案外あるせいなのかーーーポヤンと。
快適な気持ちの良い温度設定のバスタブの湯に、ただ何も考えず体を浮かせる気分だった。
「では、なるべく楽にして下さい。
大きく息を吸って、吐いて、吸ってーーーー吐いてーーーー」
声を聞きながらゆったりと呼吸を整えるーーーー
先程の甘々の、呼吸する酸素に混入されたよい香りの睡眠誘導剤から
ーーーふわふわと、あの甘い、心の芯までとろけてしまう柔らかなキスが思い出された。
頭が更にボーーーッとしだす。
『ーーーあの時は、気がついたらいつの間にか。
香り高い南国の果実に似た、ふっくらと優しいかたまりにくすぐられて囚われて
私ーーー変ーーーなーーー気持ちーーー …… 』
脳を中心まで切なく痺れさせる密やかな 吐……息……
恥じらいを誘発する 心地良い甘い……囁きーーー……
するするとーーー誘惑するように絡め取られる
夢うつつの……滑らかな……魅惑的な……感触
ーーーー考えが纏まらない
信じられないーーー
背骨までゾクリとする突然の思わぬ衝撃に頭はぼんっと真っ白になった。
『……何がおきたのか自分でもわからない内……に…
唇から温かな甘い熱は消えた……の……』
!……ぁ私……一体全……体 ……何考えてるの……!……?
急にモゾモゾと慌ててしまう。
とーーーーー…… 再び
打ち寄せる、温かな南国の浜辺の波の様にーーー……
そんな動揺すら飲み込む……ーーーーー
柔らかでーーーー 優しい不思議な感覚……
ユラユラと、ふわり心がとろけだしーーー
ーーー子どもに戻る。
夢うつつの揺れる輝きが纏い付く
それはそれは……摩訶不思議なーーーーーー
全身がやわやわほどける感覚
アグライアは完全に意識も肉体も全身が支配された
…ふーー…
…ふ… …
ーーース… … …
カプセル内に密閉されたアグライアの肉体は無理なく研究員の指示通りの『シンクロ化』状態に同調ーーーー
”完璧すぎる”程ーーー抵抗なく落ち込んでいった




