姉からの秘密の「メッセージ」 ③
アグライアは翌日正午前に、やっと、研究施設内の「立体映像再生室」に案内される。
研究室は途方も無く 広大な空間に作られていた。
「ウワァーーーー!!」
アグライアの心臓の鼓動がドクンと高鳴る。
『ーーー凄いわっっ!』 ーーー確かに そう思うのも無理は無い。
高い天井まで届きそうなほどの、巨大人造クリスタル球……!
ドッシリと、威圧感たっぷりに来訪者を睥睨しているのだ。
『でも何処か懐かしいーーーーー』
子どもの頃、毎年楽しみにコレクションしていた素敵な品〜
それは遙々トールに住む叔父から特別便で送られる ”宝物”
『そう〜!!クリスマスの。
ロームルス叔父様からの嬉しいプレゼントの、スノードームそっくりだわ?!』
呆然と目を見開き感動、ボーーッと瞬きもせずついつい見とれてしまう。
その様子に大慌てで駆け寄ってきた主席研究員が、苦しげに、おずおず申し訳なさそうに顔を歪める。
「本来でしたらーーーアグライア様。
〜球の外側からデータのみを安全に、ごらんになる方法もとれるんですが。
今回は、『依頼者の意識に潜る』という荒技ですので、申し訳ございませんがそれは出来ませんーーー本当に残念です。
この最高度の装置も 万能では無いのです。
改良の余地が有るというのは研究者として喜んでいいのか〜悪いのか〜ですが」
「!!!! ……どうか〜お気になさらないで下さいっ!!
今日のお願いを、私達姉妹の我が儘を聞いて下さり、こちらこそ 申し訳ない気分で一杯です。
本日、どうぞ宜しくお願い致しますーーー!!」
アグライアは心を込めて、首を垂れ〜手を胸に当てて膝を折る。
これは貴人に対するトール風カーテシーのポーズである。
『いい方ねーーー』
側で2人のやり取りを全て見ていた城主は、心の中で呟く。
アグライアは必要な装置内での対応方法のレクチャーを受け、各種様々な電脳許可書類の数々に、サイン、網膜スキャン映像添付など、細かい入力作業を粛々と済ませていく。
「これはまた! 〜実に綺麗な筆跡ですね……!」
「そんな事は……ございません」
惚れ惚れ感動する研究員の感心しきりの微笑み、それにポポポッと思わず反射的に赤くなる姿は純情そのもので、兎に角可愛い過ぎる。
『さくらんぼみたいに頬を染め、恥じらう姿、本当に可愛らしいわね〜〜!!
ぁ〜もぅ、こんな繊細で純情な世間擦れしていないカワイイお姫様が、あり得ないーーーっっ!
も〜〜〜〜〜〜ッッッッーーーーーッッッッ……
どうしてよりにもよって、何であの狼の姪御さんなのよッッッーーー?!
ホンット詐欺だわねっっーーーッッ、銀河の七不思議だわっっつ!!』
実は子龍よりも、うんと毒舌家なのである。
口が超〜〜悪い、冷笑主義者の城主は心の中だけでビシバシ突っ込む。
アグライアは文句や不平も全然言わず、サクサクと言われた通りに煩雑な契約をこなして行くのが、非常に好感度が高い。
実際、かなり沢山の雑多な細かなものが多く、しかも姉であるタレイアの「代理」として入力しなければならないものもあり、モニター映像の瞬く点滅が目に痛く結構疲れるのである。
『凄い忍耐力だなーーー!』 我慢強い信繁も、これには流石に感心する。
この作業を自分の所の班員に振ったとしたら、こんな理想的には先ず行かない。
猛然と山の様にブースカブースカ文句が来て、なだめすかすのが絶対に大変なところだと思うのだ。
アグライアが漸く、ふうふうと電脳書類への全記入と撮影を済ませ 不備無く完了させた頃、聞き慣れない音ーーー
小さな機械音が耳に届いた。
カチャカチャカチャカチャカチャーーーブィンーーーー
厳重な警備態勢にて、警護の人間に付き添われ「姉」がやって来たのである。
『〜〜〜〜えええッッ!』
水素エンジンで 中空に支え無しで浮かぶ、自動型拘束具装置に厳重に束縛された無残で変わり果てた 最愛の姉の姿。
『ーーーどう言う事なの?!』
アグライアは予想外の姿に、胸が潰れそうにショックを受け心の中で絶叫した。
『やめて!!ーーーそんな酷い事しないでっっ!!
だって、タレイアはもぅ殆ど身動きできない状態なのに!!』
その通り、確かに余りにも、彼女は見た目に痛々しい姿だった。
やせ細った、ただでさえも小枝の様にか細い肢体、そんな肉体に禍々しく光る冷えた金属、レザーの拘束具が食い込み、扱いに容赦の無い形状に見えた。
「これも例外無しの規約なので〜申し訳ございません」
アグライアの、恐怖に顔色を変えた非難の視線を感じた城主が心より、申し訳なさそうに詫びる。
そんな中で研究員は 黙々と拘束具解除の為の操作を行う。
ーーーと、側にスッと寄った城主は、城 最高責任者である彼女だけが知りうる「暗号コード」を、細く美しい指先でスラスラ流れる様にインプットして行く。
延々と何処までも続く、何桁もの ”素数” 利用の数字の羅列である。
『……え!』
城主はチラリとアグライアに微笑みかける。
ーーー姉の四肢を縛る重々しい拘束具の数々をパチンパチンとリズミカルにたおやかに、次々解除してゆく。
城主のその姿は 雅やかで、たおやかに優しく、琴をつま弾く十二単を纏う高貴な姫君の姿に似ていた。
先程の悲愴さがどうしてなのか、見ていて急激に緩和されて驚く。
「ではもう1度、意思の確認です、後悔は、なさりませんね??」
再び様々な禁忌や規約、注意事項、今回の特殊な体験における意志確認。
「私の意思に変更はございません。
私達姉妹の事をーー どうぞ宜しくお願い致します」
「わかりました、では〜 こちらにお越し下さい」
『いよいよだわ!!』 アグライアはつい信繁をチラリと振り返る。
『頑張って! 私が必ず、ずっと貴女についていますから』
信繁より返される優しい微笑み!
ーーーアイコンタクトで確かにそう言った気がした。
「お姉様ーーー
タレイア様は、現在脳波計などの計器類を見ても以前と少しも変わらず、混乱と混沌とした精神状態にある様です。
ですから、ストレートにーーーーー
『メッセージ』を、簡単にお渡しという状態には、”残念ながら不可能!”
ーーーならないと思われます」
タレイアを酷い拘束から開放、スラリ立ち上がった城主は言う。
アグライアの姉タレイアは、相変わらず糸の切れたマリオネットの様に無反応。
かつて、銀河1美しい!ーーー口々に褒めそやされ大いに讃えられた令嬢。
重々しい拘束具を全て解錠されると、すぐさま専門の研究員により、まるで”新たな代わりの如く” 様々な複雑なラインが伸びる電極類を、今度は全身にビッシリと装着されて行くのが見える。
作業は見とれる程手際が良く、極当たり前という感じで頭部には、更に重厚なフルフェイスマシンが取り付けられる。
そして最終段階の「仕上げ」
ーーー最後に、細長い透明樹脂チューブ状の装置に送り込まれるのだ。
されるがまま、長々と寝かされると ”そのまま”
〜まるで人間の手に負えない怪物に捧げられる贄の美姫
妖しげな巨大な装置に丸ごと飲み込まれ、ゴトリゴトリ埋め込まれて行く。
『〜お姉様ーーー』
アグライアは身内として気が狂いそうなその無惨な様子を、明るい未来の為にジィッと悲しい瞳で無言で見送るしか選択の余地はなくて。
『泣いてはいけないーーーー
泣いてはいけない〜泣いてはいけない……!!』
アグライアは そんな風に呪文の様に、自分に必死で鼓舞の暗示をかけた。
〜そうしないと心が持たず悲鳴を上げ、泣き叫び、四方八方のたうち回りそうだった。
『大丈夫、きっと戻ってくるんだからーーーーっ!
必ず〜もう1度元気なお姉様に会う為に!!
だから、今ひとときだけ待ってて、ね?! タレイア!』




