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姉からの秘密の「メッセージ」 ②


アグライアが精一杯の気迫を見せるのが傍目にたまらなく健気に映り、それだけに真摯な勇敢さが見るものの胸を強く打つ。


最初から強い人間が勇猛さを当たり前に示すのと、生来弱い気質の者が勇気を振り絞り表すのとは決意の尊さ崇高さがキッパリ別物。


部屋にいる城主と信繁には、二つのランクの違いがよくわかっていた。



「私はーーーいつも誰かに守られて生きてきました。

姉、叔父様、そして、こちらの『城』の方々にも。


でも何1つ私からお返ししてはいません」

 


城主はくすりと笑う。


「いえーーーそんなことは無いと思いますが?」


しかしアグライアは俯きかげんで 首を強くブンッと激しく振り、激しく否定する。



「いいえ!! でもそれでは〜いけないと思います。

  

私がーーー今度は誰かの役に立つ番、『メッセージ』を受け取り必ず無事に戻ってきます。


でも もしも ーーーもしも失敗したら、その時は『私』ではなくタレイアの生命を優先して下さい」


「!!」

「!……」


城主も信繁も、余りの返答内容に絶句するしかない。



『似てるなーーー流石に…』


『ぁーーーーーお姉様とそっくりだわ?……もぅこの子ったらぁ』

 


信繁は天井を、ぁーーーっと仰ぎ見ーーーー

城主は再び深ーーーーい…溜息を吐くのだった。


「そうですか、そこまでお心を決め、決意をされているのでしたらーーー!!


私どもも、全力で還ることが出来るようサポート致します」



『私も彼女同様、ーーーここは余計な事を考えず集中しどころって訳ね!!

ん……たくもぅ! 

鼻の下を伸ばす、喜び勇んだ死に神の鎌が見えるようだわ!!』



その通り、これはもぅ『伸るか反るか』の、終わってみなければわからない賭けであり、前例の無い 生と死の紙一重の一か八かのドラマ。


ーーー運を味方につけるしか無い、誰も過去経験した事が皆無、死と隣り合わせ命懸けの重大ミッション。

 

「研究施設内の特殊装置、機材のセットアップ等の為に、直ぐにはちょっと。

ーーーでしたら相当な時間がかかります。


ですから、おそらく本番は明日ーーー

今までの経験では、翌日になることでしょう」


「そうなんですか……」

 

「はい…明日は大変ですよ? 今日はとにかくゆっくり体を休めて下さいね?


 

賭けても良いのですが明日、貴女がダイレクトに受ける肉体的 精神的疲労は想像を絶する物になるのは確実です。


我々も結末がわからない、驚異の体験になりますので。


でもーーそれにしても 本当に貴女の勇気には感服致しました」


城主は穏やかにアグライアに微笑み、予想外に瞳の中には労りの色が濃い。



「そんなーーー」


ジャパン古代明治時代より生きながらえる恐るべき魔女とはいえ、外見は艶めく黒髪ロングの完璧美少女、そんな所長からの直々の優しい声色に彼女は思わずカァッと赤面してしまうのだった。


「明日は宜しく」


「ぃいぃぃ……ぃぃぃえーーーこちらこそーーー どうぞ宜しくお願い致します!!」


声を上ずらせながら、ぺこりとアグライアからも城主に丁寧に一生懸命依頼し返答をするので精一杯。


それにしても 『なんて綺麗な方ーーーー』


城主の黒い漆黒の、塗れたように光り輝く瞳、柔らかな甘い果実を思わせる ふっくらとした唇。


素晴らしい、艶やかな腰まである長い、東洋人独特の色つやの髪。


ジャパンの「鴉の濡れ羽色」

〜その表現方法は彼女の為にある様な言葉だと思う。



『凄く素敵ーーーーー!!』


羨ましい、ついうっとり、ツーーーっと指先で触ってみたくなる細くて繊細なサラサラで絹糸のような髪……


撫でたらさぞや夢見心地になるだろう!!

 

ずっと触れて愛したい、この方とお付き合いする男性は蕩ける感触に日々堪らないだろう。


おまけにその美貌にこの美声だーーー

高い波長の子どもだけが持つ特有のソプラノの声。


しかも彼女の声は聞いていて心地よく、生まれつき?

声楽を志す人間にとってはまさに至宝!


専門教育を受けた彼女が聞いていても、幸せと羨ましさを感じる豊かで煌めく美声なのである。



『こんな容姿と声が手に入るならーーーー!!

なんだってする人間が 後を絶たないでしょうね。


この方は、細部隅々まで間違いなく神様に愛された完璧な造型だわ!』



ーーー本当に世の中は広い。

こんな奇跡のような人も居るのだなぁと、素直に感服し感動に心が震える。


見た目は、見たことも無いほど可愛らしい、ジャパンの学生の女の子にしか見られない。


ただーーー彼女は何故かーーー?


奇妙なのは、今は誰も使う事も無い、極めて古い古語ーーーー

 

形状は聞き取り易い見事な連邦英語ではあるのだが、表現方法としてわざわざ古風な言い回しを敢えて自分に使っている気がした。


『どうして??』


しかし、かえってその様子がミステリアス、魅力度が更に増す。


確かにハッキリと言う事は言うが、決して嫌では無くて、実は真っ直ぐで心優しい魅力的人物に感じられたのだ。


そりゃぁーーーあれ程人を見抜く才能がある叔父が一目置く以上、必ず信頼に足る人物だろう。



でも? 首を傾げることもあった。

 

『この方が 本当に、叔父様が言う様に、どんどん皮肉な物言いで相手を追い詰めるのだろうか〜?』


アグライアは 会ってみて不思議、言われた様なそんな事が全然無かったからである。




************



城主との細かな打ち合わせが終わると、アグライアは「城」到着後最初に休んだ部屋で、とにかく一旦休息を取ることになった。


『素敵な落ち着く部屋……!」


真白な部屋に到着すると、理由は計らないがリラックスーーー急激に気持ちが和らぐのである。


漸くここでアグライアの強い緊張がほどけ、急に目の前が明るくクリアに見えた気がするのだ


そんなこんなで執務室から退出、ホーッと、やっと戻って来た最初に休んだ〜元の白い部屋で体の隅々まで力を抜くと



「お疲れ様です」 ーーー優しい声、当然信繁である。


と同時に、ポンポンと絶妙なタイミングで背後から極柔らかく肩をタップ

 

パッと勢いよく嬉しく振り向くと、そこには蕩ける微笑みを浮かべる信繁が当たり前の様に立っている信頼感と幸福感。



「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

一気に強い緊張が解け、安心の余り、思わず信繁に目を潤ませて縋り付く。


 

彼女はワッと泣き出しそうに、不安でずっと心細くて……!


信繁は、そんな不安定で感情の起伏が激しい状態の彼女を癒やす様、柔らかく優しいハグで肩を抱く。



「ひぃっく……」


「頑張りましたね ーーーー男の俺でもビックリしました」


「〜〜〜」

 

あんなにハッキリーーーーー……大見得を切り、ここの所長、全統括の城主に思いの丈を言い切ったといえども。


ピキーンと張り詰めた緊張が解けて、たまらなくどうしようもなく心細かった。


 

「ッッ、グスッ……」


「ーーー女性はいざとなると、男性よりも 遙かに強いですねーーー」



クスクスと、甘い笑い声が降る。


視界が塞がれて今は見えないけれど、きっと、信繁は悪戯っぽく茶色の瞳で自分に微笑みかけている。


ああ、何と贅沢なことだろうーーー



「悲しいときは悲しいと、その都度発散させた方が 後々引きずりませんよ?


ええ 確実に…… 明日は『大仕事』ですから。


精神的に〜今だけ……は〜 どうか 格好付けて無理をしないで下さい。


ーーー護衛役を仰せつかる私の前だけは、そんな事をせずに良いのですよ?」


 

「……」


信繁は優しく心が蕩けそうなハグを続けーーーー


身も世も無く激しくしゃくり上げ、ドロドロに前後不覚に泣き崩れるアグライアを優しくベッドに誘導、まるで母親の様に寝かしつけるのだ。



『相当 ーーーー我慢されてたんだな……』


上掛けの下でピクピク震える、ほっそりとした体、少し食事を取ったほうが落ちつくかも知れない。


『何とか食べられそうなものだけでも、例え1口だけでもお食べ下さるといいのだが……』


 

さてーーー何がいいか……? 

あくまで真面目な信繁は、ウーンと頭を悩ませるのだ。




少し寝かせた後ーーー病室に自ら軽食を運び込む。


「食事は女の子が好きそうな物」管理栄養士と相談の元、脂っこい物は避けた。



チョイスされたのは、思わずホッとする香りが頬を緩ませるコンソメスープ。

季節のフルーツの盛り合わせ。

濃厚カスタードの焼きプリンとバニラアイス。

 

ーーーいずれも量は少なめ。



「ここに私は居ますから、美味しいですよ?ーーー1口だけでも」


アグライアはノロノロと、透き通ったコンソメスープのみ、ほんのひと匙、極少しだけ口に含んだ。


「大変よくできました」



優しい甘い微笑みーーーー

いつしか明日への強い恐怖や不安が嘘のように解けて消える。


「もう少し、お口に入れられますか?」


彼にそう言われると、頑張ろうと不思議に体と口が動く。


 

「〜もう少しならーーー」


ジリジリゆっくりな促しで、とうとうスープボールは空になる。



「では、ぷるんと美味しそうな焼きプリンは如何です?

甘くて優しい味のバニラアイスも。

 

2つ共、タップリ栄養と水分が詰まっていますから……

こんな時には最高な食べ物なんです。

ーーー私が掬います」


「……」


ぼーーーーっと再び意識混濁、ぼんやり捉えどころのない意識のまま、アグライアは小さく口を開ける。


あーんと食べさせて貰うーーーデザート。

 

ーーーーゆらゆらと、幼い時間に時が一気に戻る。


優しい母との思い出、懐かしさにうるうるっと視界が歪んでしまうのだ。



フルーツの盛り合わせも同じ様な形で軽妙に介助されて…いつの間にか全部残さずに食べきった。



彼女の為の食事が運ばれて来た以後も無駄な励ましも詮索もせず、食事に集中させて、信繁はただ柔らかな、ここに彼女が来た時と同じく穏やかで静かな様子でじっと側にいた。


彼は余計な事は何も言わない。

しかし心の底から安心できる雰囲気を 醸し出している。


アグライアにとって、その静かな行為が、どれ程心強いものだったか!



『自分は決して1人ではない』


自然にそう思えた心強い対応だった。

 


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