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姉からの秘密の「メッセージ」 ①


「入りますーーー信繁です、アグライア様をお連れしました」


「どうぞ?」



インターフォンで入室許可を改めて取り、アグライアは信繁に付き添われ城主の執務室に入る。


ロームルスとの話し合いは既に終了、ガランと広々した部屋には城主しかいなかった。

 


「お姉様にお会いになりましたか?」にっこり爽やかに城主は問う。


「はい」

 

「”会わなければよかった” 〜ですか?」


アグライアは強く首をブンブンと振ったので、様子に城主はニッコリ微笑む。



「今まで姉の事を大切にして下さり、有り難うございました。

姉の、あの様子を見ればーーー

どれだけこちらで大切に、親切にして下さっていたのかわかります。


心から、お礼を申し上げます……」



アグライアは再び丁寧なジャパン風の深い会釈を。

彼女は少し躊躇った後、少し戸惑いを見せながら口を開く。



「ぁのぅーーそれなのに 〜私の勝手な、更なる我が儘なお願いですがーーー」


「はぃ?」


「こちらにーーー

”城”に到着する迄に、私の姉の身に何があったのか教えて下さいませんでしょうか?」


「ーーー叔父様から何も?」

アグライアは小さく首を縦にコクンと振る。


「……」


『どうします?』

信繁の、眉を寄せた思案げな視線が城主に向けられる。


『さぁてと、どうしたものかしら?ーーーね』


城主は信繁とアグライアと交互に顔を見比べたが ”答えは出ていた”

 

アグライアの思い詰める強い目の光を見て『全てを話すべきだ』と悟り、腹を決める。


「〜先ず取りあえず、そちらにお座り下さい」

 

「……」


城主は執務室内の来客用ソファーにかけさせる。


するとーーーーー……なんと驚くべき事が起きる。


スッ……彼女を守るかの様ーーー

ゆっくり、彼女の背後にギラッと強く光る眼をした信繁が付いたのである。


全身より肉食獣が静かな戦闘的オーラを発散させるかの様で、かつての「手負いの虎」というあだ名を彷彿とさせる妖しい気配をジワリ発している。


『事と次第では、所長の貴女と一戦交える事さえ俺は厭いませんが?』


ーーーー”宜しいですね?”


そんな言外に脅す気迫が、ビシビシと感じられる鋭い怖い眼をしていた。


当然、こんな事は滅多に無い。

寧ろ普段は何だかんだ云っても ”自分の味方”


そう〜必ず ーーーーよき理解者の信繁。


例え、他の職員がどれ程、自分が下す方針で紛糾したとしても。


それだけに城主も居住まいを正す。

 


残酷な、今までのタレイアが体験した様々な出来事を、アグライアは涙を零すこと無くじっと聞き続ける。


総てはここへの収監を依頼した、ラオコーン現大統領がペラペラ語った聞き取りからである。


胃が捻れそうな、残忍な行為。

  

捻れた、うら若き女性に対する男の劣情。


ーーーそれでも男はトクトクと、それを「愛」だと自画自賛して言い張った。


柔やかな余所行きの顔を貫き通した城主は、”全ての契約”が満了したその後。


〜その直後から、暫くーーー自分専用の浴室兼洗面、トイレ施設等々水回りのパウダールームから全く出てこなかった。



彼女は淡々と云う。



「叔父様からのご依頼の『メッセージ』ですが 〜ぁあ頼まれたそうですね? 閣下から『内密』に。

 

ロームルス閣下は、もう無理に聞かなくてもよいと仰っています。

『君が傷つく事は望まないから』


ほぼ『内容』も『わかっている』から、後は自分達でいかようにも対処のしようもあるから無茶を君はしなくてもよい。


あくまでも、貴女のお心の方が大切だから決して無理はするな……!


貴女がこの先苦しむならば『予定通りの約束された姉との面会だけで、私は一切構わない』ーーー


意外にお優しい方ですね 閣下は?

ーーーで、どうされますか?」



「姉からのメッセージをお受け致します、私の気持ちは変わりません」

アグライアはキッパリ城主の目を見て言い切った。



「ふぅ……」 城主は小さく溜息をつく。


『頑固なのは閣下譲りなのかしらねーーー』血は全く繋がっていない筈なのに。



「ではその様にいたしましょう」

 

ニコリと城主は ”今が春” 咲き誇る黒薔薇の如く艶やかに大きく微笑む。



「ただ問題の〜『メッセージ』ですが、通常のものとは少し様相が異なります」


城主の返事にアグライアの瞳が大きく見開かれる



「それは 一体 どういうことでしょうか?」


「城では 元々本来〜 転送移植という独特の方法を取っておりまして。


体験された方は、おおよそ ”ほぼ”ーーー『現実と変わらない』『全く見分けがつかなかった』と仰ります。


しかし〜……あくまでも人工の ”作り物” 合成製作された『記録データ』の中にもれなく入るのです。


お姉様のタレイア様は、あの意識が回復された際、私の説明を聞くやいなや『それはダメです』

 

ーーーー仕様を強く拒否なさりました」



「ーーーそれはどう言う」



「はい、今から思えば ”当然”の〜納得の事なのですが!


『内容を絶対に誰にも知られたくない』、ご自身で私どもにその様にハッキリ仰られました。


で〜それでーーー『じゃぁどうすればいいのでしょうかーー』


以下の問いかけに対し、タレイア様は、こう仰られたのです。


『自分の精神に入って、妹が、直接私からのメッセージを受け取れるように』

 

〜つまりそう出来るシステムを新たに設計、研究開発して欲しい。


ーーーーーそういう事をお望みに成られました」


「そんな無茶な」


「ですから私は〜

『おそれながら 貴女の精神が 正直、そこまで当てもなく長期間持つのでしょうか?』

 

だって貴女が、あの方の生存中に、必ずや?

ーーー収監されたここを見つけ出せる保証は無かったのです。


ですので、仕方なくこの様に問いかけました。


『足取りを追い、妹様が城に辿り着けたとして。


〜もしもアグライア様が、精神の中に入って危険が伴う事が勃発しましたら、最高責任者として私は強制サルベージに向かわなくてはなりません。


タレイア様はーーーそうなったらもう、お命すら無くしてしまう可能性が大きいですよ?』


その様にお知らせしたのです」



「!姉はーーー何と言ったのですか?!」



「タレイア様は優しく微笑まれました、驚きましたよ。


〜その方がいいのです〜


どうしてなのか、澄んだ瞳で私どもにそう仰られました。


もぅキッチリと、ご自分の死をご自覚〜お覚悟された方に、こちらとしても何も申し上げる事は出来ません」



漸く城主は言葉を切ると、今度は今までとはガラリ口調を変える。



ギリギリと静かな怒りの滲む声で、地を這う様な低い唸る声でーーーーまるで違った。



「……〜今更、こう言う事を言うのは誠に恥ですが、私どもは『メッセージ内容』を当時知らなかったので。


よもやここまでのラオコーン現政府からの『隠蔽』があったとは本当に”青天の霹靂” 露程も疑いませんでした。


新政府と交わした『契約』とは著しく違う、実際の悪辣な内容に腹立たしい気持ちで一杯です。


そうなればーーー此方もペナルティーとして当然、それなりの処置を致します。


ーーーーこれが私どもの誇りです、必ず自らの手で引導を渡します。



ですから『近い将来』 確実に貴女のお姉様は罪人では無く〜城から晴れて自由の身にして差し上げます。


貴女のお姉様の掛けられた ”呪い”

魔法使いによって定められた、悪い眠りを総力挙げて解いて見せましょう。



その上でもう一度お尋ね致します……


『メッセージ』を 『どうなされます』〜か?」



城主はハッキリアグライアの眼を真正面から見て問いかけたのだが。


だがーーーアグライアの胸に秘めた答えに揺るぎは無い。



「もしもーーーー『メッセージ』を受け取り私が無事に帰り着いた場合


ーーー姉は以後、どうなりますか?」



 

「おそらくあの方は、無理な記憶注入を短時間でーーー雑に、しかも不完全な設備内で急激に行われたのでしょう。


〜お気の毒に!


今のお気の毒なお姉様の精神状態は、祖国でのヒューマンエラーも原因〜

それが遠因の1つだと、当施設研究者も私も考えております。


つまり〜脳のバグです。


1種のアレルギー反応……とも考えられますが、滅茶苦茶な無茶をしたから余計に過剰に脳が誤作動、激しい防衛に廻ったんだと思われます。


バグの存在そのものが消失した場合ーーー

例えば ”真珠貝” から上手くパールのみ取り出せることが出来たならば、状況が快方に向かう可能性のパーセンテージはかなり大きいかと思われます」



「……そうです、か」



顔色の酷く悪いアグライアの瞳の奥に、ポッと今初めて光が灯った様に城主は感じた。


しかしこれはあくまでも「可能性」、仮説の域、理論上の話なのである。


無茶過ぎるーーーー!!


 

「止めるよう説得する事は、最早無理なようですね、やっぱりお姉様と、行動形式がよく似ていますね」


「姉妹揃って済みません」


「本当にもぅーーーー」



『この展開を全部閣下が聞いたら、間違いなく怒り狂うわね!

あの過保護過ぎる、厄介な怒りんぼな保護者は〜!』


フーーーーッ……諦めたように城主は、自分の愛用チェアをギシギシ言わせながら、ふにゃーと身を沈める。


 

『あーあ……』

諦観と憐憫のタップリ混じり合った深〜い長ーい溜息をつく。




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