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待ち望んだ姉との面会


『ここ?!』


アグライアは呆然と石みたく固まっていたが……!


「あと少しで到着ですよ?」


信繁に優しく甘やかに促されて特別病棟におそるおそる、ドキドキしながら足を踏み入れる事となる。



彼はその後も同じ様な機械操作を繰り返し 『ぇえッッ…いつの間に…!』



パステルカラーの塗装と内装仕様ーーーー


明るくしとやかで女性に大変好まれそうな、天井も壁も廊下床カーペットも、どこもかしこも樹木や楽しげに唄う小鳥や花が爽やかに描かれている場所に到達。


2人は淡いカラーリングがほどこされる美しい病室前で、今度こそ止まった。



明るく平和な病室の前には、ぱっと見 ”似つかわしくない” 不穏な空気を纏う重装な装備の女性隊員が警護についている。


信繁の顔を見るとーーーサッと椅子から立ち上がり黙礼。



「では、アグライア様の事を宜しくお願いします」

 

「はい信繁班長ーーー上から連絡は受けています。

では、アグライア様だけこちらへどうぞ」


 

警護していた女性隊員に 恭しく先導され ドキドキ……

 

胸を躍らせながらも静かに、コトリとも音を立てず病室へ入室。


『ようやく姉 タレイアに会えるーーーーー!!』

期待と喜びで胸がはち切れそう!!


『とうとう〜私ここまで来たわ! 姉様……っ』


期待と押し寄せる不安で とうとうガタガタ全身までが細かく震え、指先まで痙攣する。


室内は、ほんのりとした穏やかな明るい光に包まれている。


アグライアは心を決め最後の扉をくぐった。



そろそろと、はやる心を抑えて病室を見回すと、部屋のほぼ中央。


水素エンジン搭載の移動式ソファーに姉「タレイア」は座って自分に整った美しい横顔を見せている。



「〜〜〜!!」


ーーーーー……声が出ない、イザとなると。



「タレイア」

 

アグライアは何度もパクパク口を開けたり閉じたりした後、透き通る程の白い横顔を見せている姉に小さな声で呼びかけた。


 

ところが、最愛の妹の自分が呼びかけているにも関わらず、何故なのか何の反応も無い。


「ーーー?ーーータレイーーーアーーーー??」



そんなーーーー



手入れの行き届いた明るい金髪の髪。

丁寧に複雑な形状に結われ、綺麗に長く体に沿っている。


奇妙な程に、静止し目の前にある。


が、麗しい彫像の様な美貌はピクリとも動かず、妹からの呼びかけに身動きすらしなかった。



白く長い裾の、清潔なドレス型のデザインの介護服を身につけ、妹の声にも 全く反応をしない。


「そんーーーな……!」



いつも父に付き添い、健康的な薔薇色の頬をして活動的だった自慢の姉。


暗い庭からグイグイと、明るい世界に引き上げてくれた姉。



「自分が父の元に残る!!」そう宣言し、宇宙空港まで留学する妹の私の重い荷物を、フウフウ共に運んでくれたーーー

 

想像以上、意外に筋力があり 存外な力持ちの元気いっぱいの姉!


そんなこんなの柔らかな幸せな過去が、アグライアの脳裏を走馬燈の様に駆け巡る。




しかし 光り輝く思い出の面影ーーー欠片すら何処にも無かったのである。

 



”今の彼女”は…… まるでーーーー 良く出来た人形のよう。

  



「タレイアーーー!!」


アグライアは姉の体に駆け寄り、思わずしがみついたのだが、それでも全くピクリとも動かなかった。



『誰が 誰が 貴女をこんな目に!!』 


ブワッと後から後から、涙が次々に零れ落ちる。


酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い!

悲しみと怒りで頭が爆発しそう!!



『絶対に私は許さない!!』


こんな目に遭わせた相手を私は許さないーーー……!


着衣の上からもゴッソリと、筋肉が萎えてしまっているのが直ぐに解った。


優しいまろみも、女性らしさの柔らかみも粗方無くなってしまっている。



顔も、記憶よりも遙かに小さな気がする!


見る影も無く 萎えてしまった哀れな姉の、体を、アグライアは止めどなく流れ落ちる涙と共に強く抱きしめた。



「お姉様、私よ!! 私よ? アグライアよ!!

わからないの??

貴女が大好きなアグライアが戻ったのよ〜


会いたかったーーー貴女に会いたかったのよーーー……


御免なさい、1人にしていて御免なさい……!!」


 

彼女の泣き叫ぶ悲痛な声は、病室の外の信繁の耳にも届いた。


本来は防音設備が機能しており、一寸やソットでは絶対に洩れない筈なのを、施設に勤める職員として彼は重々承知していた。

 

にもかかわらず、アグライアの悲鳴に似た号泣は信繁の耳にも届いたのだ。



ーーーーそれはまさしく ”慟哭”



もぅ自分を見舞った悲劇から随分遙かな時間を経過した、しかし、それでも尚密やかに、今は亡き家族の記憶を忘れ去る事が出来ない信繁の心に突き刺さった。



アグライアが恋い慕うーーー唯一のたった1人の姉。



どんなに泣きじゃくって、名前を切なげに呼んでも、どれ程会いたくて、再会出来て嬉しいと訴えかけてもタレイアは、それでも全く無反応。



抱き締める最愛の姉の細い体はーーー『為すがまま』


グラグラユサユサ、無気力に妹に揺さぶられるだけで。



「時間ですーーー」


アグライアがハッと気がつくと、この部屋に常駐する介護スタッフと先程の女性隊員が困った様な微かな笑みを浮かべ、側に立っていた。


 

「”これ以上”はーーーお姉様のお体に障ります。

そしてーーーー貴女様のお心にも」



「……ぁのぅーーーどれ位ーーー」


「ここでの時間経過は、体感がいつも微妙ですが、機械計測ではキッカリ1時間経過しています」


「!」


ーーーそんなに時間が経っていたのが信じられない。




「行きましょう、信繁班長が心配して、お部屋の外にお待ちです。


実はあの御方も、ご家族全員を10代後半に突如酷く失われた方なのです。


何も語らずーーー泣き言は聞いたことすらございませんが、今でもフラッシュバックに人知れず苦しんでいると思います。


でもーーー必死で耐えられています。


ですからここの職員の誰よりも、お嬢様の現在のお辛いお気持ちを理解されている筈」


 

「……そうでしたかーーー」


「信頼して下さい。

彼以外、アグライア様を当施設で御守り出来る方は、正直私どもの見立てでも居ないでしょう。


肉体的にもーーー精神的にも。


信繁班長は ”サバイバー” です。

あの人は信頼に値する、非常に強い優しい人です。

 

何があっても貴女だけの味方です、それを是非ーーー忘れないで下さい」


アグライアに語った、介護スタッフはそこでにっこりと笑う。


その姿はまるでこの世界に降臨した、光り輝く女神の貌に見えた。


 

「姉をこれからも宜しくお願い致します、そして、無理を言い面会させて下さり有難うございました」



「いえ此方こそーーー」

アグライアは深々と腰を折り ”ジャパン風”のお辞儀をする。


「ではこちらへ」


彼女は内部に誘導した物々しい戦闘装備の女性隊員と共に部屋の外に誘われる。


アグライアはーーーー ツイッと精一杯顔を上げた。



〜私が現在の時点で わかっているのは、その何かを取り除いた場合。

タレイア様の現在の症状が、上手くしたら緩和されるのでは無いかという想定。


私と信頼できる研究者間とでの仮説の定理です〜



彼女の脳裏に、柔らかに語りかけた信繁の声がーーー甦える。


 

賭けてみよう、私もうんと頑張るからね? お姉様ーーーー


ここに来たこと、ちゃんとわかっているんだよね?


 

私それをーーー信じています。




『ぉ……?』


病室から漸く現れた、アグライアの表情を見て信繁はハッとする。


何故ならば入室前と後とでは、彼女の雰囲気が随分違っていたからだ


ーーー少なくとも、本能的直感で様子〜変化を感じた。



ずっと、自信が無さそうな、ここに来てからは途方に暮れた迷子の幼子の様な悲しげな顔。


ーーーなのにどうだ?


姉との面会後、寂しい寄る辺ない迷いが、全身に纏わり付く弱気が、どうしてなのか、消えていたと感じたのだ。


だいいちーーー瞳の輝きが まるで違った。

 


『こうも変わるものだろうかーーーー……?』



何かが、彼女を新しくしっかり支え始めたのだ。


『使命ーーーか?』 信繁は気がついたが指摘はやめておく。



『そっと見守ろう……』


ノビノビ本人の自由にさせるのも優しさだーーー……


年上が下世話で無神経で、つまらない言葉掛けで〜

漸く彼女の中に芽生えかけた、明るい小さな変化、想いをくじきたくは無い。



「信繁様ーーー……」


「はい」


「私は姉からのメッセージを、正式に受け取りたいと思います。

どの様な手続きーーーどうすれば良いのでしょうか?」



彼が感じた直感。


『それが正しい』と ”その証拠”に。

アグライアは信繁に、決意に満ちたはっきりとした明瞭な声で問いかけたのだから。



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