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恋心の考察について ②


「でもそうするとーーーフレイヤ妃殿下は どうなさるのですか?」



『信繁様は 心から愛してらっしゃるのでしょう?』


ーーーーという言葉を アグライアは何とか辛くもグッッッと飲み込むのだが。



それこそ、これだけは……何があっても



「絶対に言ってはいけない言葉」



「『エメラルドの大天使様』……王子様の2人目のお妃様は、誰がなるのというのですか?


どなたが、あの優しいお妃様を、敵だらけのーーーーッッ


私が行かなくては魑魅魍魎渦巻く王城内部で、守るというのですか?」


 

信繁は壁にもたれかかったまま、静かに口の端を小さく上げた。


奇妙な、何所がどうとはいえないが、先程とは明らかにハッキリ別の顔だ。


但しーーー困ったような様子ではなく、むしろ悠然と達観した表情に見えるのが不思議だ。


「あの方でしたら きっと大丈夫だと思います」


「どうして? どうして そんなことが軽々しく言えるの?!」


アグライアの声がついつい上ずり思わずムキになった。



信繁はパチパチと瞬きをする。


「第5王女フレイヤ様~ いえ現フレイヤ妃殿下が、どう言った経緯であの戦場でトール側に捕縛されたかご存じですか?」


信繁の予想外の静かな問いかけにアグライアは フルフルと首を振る。



「あの方は強く 誇り高い方です、少々のことではびくともせず決して負けたりはしません。


トールの宇宙軍戦闘艦隊にフレイの王都が攻め落とされそうな時、作戦を練り直す為にーーー


王立宇宙軍の空挺団は1度〜撃墜されずに残った、残存する使える戦闘艦を結集させる為、全艦宇宙空間に後退


ーーー撤退を命じたそうです。



フレイヤ王女様は、その時、自らの艦を、小さいながらも足の速い〜

縦横無尽に小回りの利く、見事な艦をお持ちでした。


首都防衛で真新しい新造艦・戦闘艦『艦長』として王都上空で指揮を執っておられました」


「……」



「艦にーーー……動力源のエネルギー燃料も、武器である弾薬、砲弾も。

総て 申し分ない程残存しておりました。


つまり、そのまま撤退しーーーー時間を稼ぐか?


或いは、新たに王都を守護する為に再度最前線に出撃、華々しく勇ましく仲間と共に玉砕するか~


そして最悪、『王女』

尊き王家の人間として他惑星にそのまま逃れ出て亡命するか?~


複数のいかなる選択肢も選べると云う、充分に余力を残された状況、どんな行為も、いずれも、艦長で有り王女でもある彼女の1存で何もかも可能な状態。


幾らでもーーーええ、結構な数の可能性、『選択肢』があったのです」



「……」


「ですが結局、フレイヤ妃は『どれも』選びませんでした。

ここで採ったのは誰しも予想外の ”選択” でした。


私はーーー”それでこそフレイヤ様だ” と感服します。


彼女はーーーそんな撤退途中で、あるものを見つけます。


王宮近くの 幼年学校校庭に哀れに運悪く逃げ遅れ、恐怖で怯えて固まっている、大勢の小さな生徒達の1団が居たのが艦の最新スクリーン越しに確認されました。


最初は、王女様の指揮する『艦』搭載の、人体熱源反応モニターに 微かにひっかかったのだそうです。


よくーーー戦火の炎の熱源と混じり合い、誤認しなかったと思います。


それだけ飛び抜けて、あの方の技量が優秀だったという事なんでしょうね……


全く皮肉な話ですが……で、モニター

艦長席スクリーン映像でそれらを正確に分析確認後〜『助けに行きます!』


果敢にアタックを開始されました。


 

〜止めろ!! 戻れ!!〜


フレイヤ王女様は、空挺団隊長の大声の必死の制止をも振り切ってーーー



『私が行きますから、隊長は他の艦の指揮を!!』


そう入電するとただ1艦のみで、戦闘艦の艦首をグルリと反転させ、猛然と艦を全速前進させました。


小さいとは言え一目でわかる最新鋭の新造艦で、しかも一際目立つ『王家の紋章』入りの戦闘艦です。


何がこの先起こるのか、その事も、『意味する事』も 充分よく認識されておられました。


自らが『囮』、注意をそらす為、あえて、ご自身が矢面に立たれたのです。


命懸けの挑発行為の結果、一気に王女様の艦はトールの優秀な戦慣れした戦闘艦の、悪戯な無作為の弾幕どころでは無い、本気の嵐のような容赦ない集中砲火を受けました」



アグライアはゴクリと息を吞む。


「それでーーーどうなったの?」 必死で何とか声を絞り出す。



「ーーーー小さな戦闘艦で有りながら、実に勇敢に、果敢に、王都上空を埋め尽くす大艦隊に 1人の艦長として彼女は怯むこと無く立ち向かったそうです。


ーーーー信じられません、無茶するにも程があります。


でもどうやらそう思ったのは私だけではありません。


『敵ながら天晴れ…ーーーー見上げたものだ……!』


雨あられのエネルギー砲弾が飛び交う空中戦、無茶過ぎる鬼気迫る闘いに驚いたトール側・某歴戦の艦長が語った記録があります」



「……そんな……」


「ええ、でもいくら何でも物量作戦にもハンデがありすぎました。


フレイヤ王女様の艦は、雲霞のように押し寄せる巨大戦闘艦相手に巧みな操舵で応戦、積載エネルギーを使い果たし……


弾薬・砲弾の全弾全てを撃ち尽くすまで戦い、矢尽き刀折れたズタズタの状態で撃墜されました。


もうエネルギー残量も限りなく『0』だから、トール群に撃墜されても艦は燃える煙を吐く程度で爆発すらしませんでした。

 

それ位、総てを使って応戦したとのことです。

 

しいていえば 『自爆用の装置を特攻に使え』ば〜ですが。


しなかった理由は墜落した際『下界に居る人間がどうなる?!』

これを充分考え、思案した結果でしょうね。


誹られようが罵られようが、性格的に出来なかったんだと私は思いました。


ーーー”どうしても” です」



「……」


「彼女が自ら囮になり、命と引き替えに救助しようと試みた幼年学校生徒の子ども達は、皆無事に安全なシェルターに誘導され避難出来ました。


彼ら幼年学校の生徒達はーーー自分達の盾になって、打ち込まれたエネルギー弾の真っ赤な紅蓮の火炎に包まれ、市街地の遙か外れの彼方にボゥボゥ激しい煙を吹き上げ墜落していくフレイヤ様の艦の最後を。


シェルター内のモニター越しに、全員目を涙で一杯にして見送ったそうです


彼女が乗員クルーの命の延命と引き替えに、銀河でライブ中継の『公開処刑』に決まった時。


『電脳ジャーナル』本部に


〜私達の末の王女様を殺させないで下さい〜

 

〜おねがいです 王女様を助けてあげて下さい〜



1番沢山のメッセージを送ったのは、彼女が救った多くの子ども達です。


避難先の惑星やコロニー、様々な星々の過疎地に点在する小さな基地から、多額の通信費も厭わず、日々の食事にも事欠く状況でも、必死に彼等はお金をため、小さな声と手で必死に救援を求めました。


宇宙間の通信費はべらぼうで、本当に桁数が違うんですよ?


それでも、大人達に 純粋に一生懸命嘆願したのです。


あの何にも日和らないと名高い『鉄の電脳ジャーナル』が動いた背景は。

名も無きその幼い子ども達の願いが、鋼の意志を持つ彼等でさえ ”無視できない” 程……


『訴えの力の存在が途轍もなく大きかった』と、私は知らされています。


お生まれの、お妃様の愛しいご子息、お子様の愛おしき天子様の事もございますが〜


あの方は、既に、決して自らの、我が儘の出来る自分1人の命では無い事を自覚なさっている筈です。


自分の『お立場』と……『責任』


身辺に留意し、周囲に配慮、決して軽はずみな事を成されないと、私はフレイヤ妃殿下の事を心より信じております」



「信繁様はーーーー……厳しくて優しい方ですね」

アグライアは ぽつりと言葉を零す。



「さてとーーー」

信繁は壁にもたせかけていた長身を真っ直ぐに伸ばし、俯いたアグライアに手を優しく差し伸べると礼儀正しく、地球古代フランス風の〜騎士の礼を行う。


ピシリとーーーーよくプレスの効いた「城」制服が華を添えていた。




「今の話は 私達の間だけの秘密ですよ?


この区画は”特殊”ーーー監視カメラの死角にあたり映像も音声も残りません。

ですから是非安心なさって下さい」



信繁はそう語ると、先程の静かなピリリと張り詰めた風貌からは全く想像がつかない明るい 茶目っ気のある表情を既に取り戻している。


 

『そうかーーーそうなのね? 信繁様は私と同じなんだわ……


どんなに辛くとも、明るく周囲に心配かけまいとしてーーーー』



アグライアは切なさで胸がいっぱいになる。


フレイヤ妃殿下が、どうして彼に本気で心を寄せたのか? わかった気がした。



ただ男性として美しく格好いい〜外側の容姿が優れていただけではきっとお好きにはならなかっただろう。



厳しさと辛さに、臆病に逃げない心ーーーそこを愛したのだ。



「ここですよ、着きました」



信繁はテクテク歩く廊下の角を曲がると、突如ピタリと足を止めた。


「え?」

『本当にここなの?!』


視線の先は、何も無い、のっぺりとした、ぶ厚く頑丈そうな壁が3方を取り囲む閉鎖空間。

 

今来た後方以外〜どっちを見ても、鈍い銀色の光を放つツルツルの壁がドッシリ立ち塞がる場所。



短いのか長いのかわからない廊下のーーー更に 末の、どんずまりの、行き止まりの区画だ。




信繁は躊躇わずに『何もない壁』に手をスルリと滑らせる。


ブレスレット型確認用データを、当然の仕草で専用装置で読み取らせると、突如、身長に合わせ金属壁表層にシュッと現れキュィインーーー!


〜耳障りな甲高い音をたて作動する、網膜確認用レンズを信繁はしっかりと覗き込むのだ。


ピーーーーーーーーー……


頑丈な『壁』が軽やかな電子音と共に、天国の扉の如く上下左右に4つに開く。

  


「アグライア様ーーー……ではこちらにどうぞ」



緩やかな誘導ーーーー

あっけにとられて呆然、口を開けて見つめるしかなかった。



『この ”城” は、いったいどうなってるの??』


まるで子どもの頃、姉とホログラムムービーで見た、セットのニンジャ屋敷!!


凄い!!


本当の姿はーーー もしや〜 ニンジャの里!!



”城”はひょっとして、銀河で伝説として伝わる ”シノビ総本山”なのだろうか!


 

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