恋心の考察について ①
特に目印は無い場所を信繁はスイスイ歩いて行く。
『凄いわ!!』
どうして迷わないのかしら!
小さな数字やアルファベッド、目印はあってなきがごとしの状態で自分には無理だと思うのっぺりとした廊下
皆どこも同じに見えるーーーーー……
どうしてこんなにサッサと彼が目指せるのか不思議だ。
おまけにーーーー! 遠近感そのものが変で、近くなのに遠く感じ、遠く見えていたのに直ぐ近い〜
ーーーという実に奇妙な奇っ怪な現象が何度もあった。
「気分が悪いですか?」
信繁が心配そうにアグライアを振り返った。
「ええーーーー少し」 実際にクラッと目眩がし吐き気がする。
「まだ来て直ぐですから無理もありません。
少し休み、何かお話ししましょう」
信繁はそう言うと 悪戯っぽくニコリとし「こちらへ」
?ーーーと思う間もなく、目の前に小さな背もたれ無しのソファーとフリードリンクのウォーターサーバーが現れる。
アグライアはべったり座り込む、正直なところ暫く立ち上がれそうも無い。
信繁は美しい仕草で水をコップに汲む。
「どうぞ」 長い腕を伸ばし紙コップに注いだ冷えた水を差し出す。
「ありがとうございます」
優雅な好意的対応に礼をし受け取る。
体を起こしコップを手にしたアグライアも微笑みを浮かべた。
冷えた水は堪らなく美味しく、こんなに美味しい水は飲んだことが無いと思う。
「少し焦って連れてきました、済みませんでしたね」
「ここはーーーどうやって出来ているんですか?」
「エネルギー源は核融合です。
”小さな太陽”を人為的に作り出し、時空を広げる莫大なエネルギーをまかなっています。
ーーーでなければ、維持することは絶対に不可能ですね」
信繁はウンウンと頷き、ニパッと少年みたく笑った。
「!!〜〜〜そんな事が出来るんですか?!」
「まぁ銀河でも定評のある ”不思議の国NO.1” ですからねぇ〜
普段は適当でバラバラしてますがイザと言う時だけ何でか、ぱぱっと1つに急速に纏まる習性があるんです。
で……その後はダラーッとまた元に戻ります。
巨大大国〜外圧で無理難題を突きつけられて、絶対な不可能に挑戦したのが我々のご先祖だった〜……らしいんです。
当時核融合だなんて、優秀な研究者が寄り集まって連合で研究しててもまるで成功しなかったらしいですよ?
どうーーー『造った』のかは私は知りません。
きっとお得意の ”火事場の馬鹿力”……って奴だったんでしょう!」
クスクスクスクス……と、呆然とするアグライアに信繁は面白そうに笑うのだ。
『この方は、幸せそうに楽しげに笑っていた方がずっと良いわ!』
「アグライア様は、どなたか お好きな方がおられるでしょう??」
「!!」
ええええ……!っっっーーーー
いきなりのーーーーーー不意打ちッッ!!
信繁の驚きの直球の質問に、サラッと表情を取り繕う暇も無い。
酷い!
何て事を聞くのかしらッッ!
『前言撤回!!』
大慌てで、おろおろとする様子を見つめ、プププッと 信繁の笑いをこらえた様子がこうなると憎たらしい。
「ぃやぃや御免なさい!!そんなに 動揺するとは思わなかったのでーーー!
でもーーー
貴女が心底、お心を寄せている事を残念ながら ”あの方” は全くご存じないでしょう。
ぇえーーーーロームルス閣下は」
『!!!!!!!』
今度こそアグライアは気絶一歩手前になってしまい、目に〜動揺しすぎて うっすら涙が浮かんで来る程だ。
「お似合いだと思いますが?」
信繁はチェシャ猫のような笑いを浮かべ、白い壁に 優雅に長身をもたせ掛けて美しすぎる腕組みをするのである。
『何でーーーー!!〜〜〜何で そんな事までわかるの?!』
アグライアは余りの混乱で既に、先程の、猛烈な気分の悪さなど何処かに行ってしまい、ポンとすっ飛んでしまった。
その後
”この時、気働きの良い、勘の良い彼がワザと最悪の気分を紛らわす為、この話題を敢えて振ったんだ” と。
ピュアに恋する真面目な彼女がハッと気がつくのは、これ以後ずっとずっと、ずぅっと、うんと先の事だった。
信繁はーーーー
「本当に大切な事は貴女の口から直接、きちんと言わなければいけませんよ?」
アッケラカン、ヘラヘラそう語ったから、ちょっとばかりムッとする。
ーーーーいや、かなりした!!
「信繁様はーーーそうしたの?」
と、驚いた事に信繁はコックリと深く頷いたのである。
『嘘! そんな話は全然聞いていないわッッ!』
ぎゅーーーっと眉をしかめるアグライアに、信繁は飄々とその先を答える。
「ただ、先方は、 全く気がついていないと思います。
私が愛していると言う事を。
しかしーーーそれでも良いと思いました。
きっと『愛している』ではなくて、深い〜『友愛』としてのーーーだと感じた事でしょう。
ーーーでもいいんです。
こう言うことは ”1つの宣言” 自分に対してのケジメですから」
「……」
ぱったり無言になってしまったアグライアに、相変わらず信繁はクスクス笑いながら呑気そうに中々の凄いことを言った。
「ーーー閣下も『男』ですから。
真面目に向き合えば、貴女の気持ちをむげにはしませんよ?
本当にーーー本気ならば、別に貴女側〜女性からドンッと告白を言ったっていいじゃ無いですか?
だから『勇気』を出して!!
私の…… ”エーデルワイスのお姫様”……」
「〜〜〜〜!」
ぱっと、途端に明るく華やかに表情を変えた様子を信繁は面白げに見つめる。
あ〜〜あーーーそれはそうだろうーーーー……
『閣下』は、どう考えたって 彼女の事を。
極々大真面目に、誰よりも何よりも大切に考えているのだから。
血が繋がらないが、小さな可愛らしい『姪』では無く
1人の女性としてーーーーー
異国の地で暗殺に襲われた、健気な姉想いの優しい宝物。
端から見たら丸わかりじゃ無いか!!
子龍や雅に意見をワザワザ聞くまでもないぞっ?と、俺だってわかるさ!
〜今頃きっとあの『強面の閣下』は 「1人で行かすんでは無かった!」
気も狂わんばかりの、ひとり反省会の真っ最中だと見た。
「城へ1度に入城出来る客人は ”ただ1人” 」
設立以来の、”鉄の規約”のせいではあるが??
う〜〜〜〜ん結構ーーー今現在、狼とあだ名を馳せる彼自身、自分の気持ち
揺れ動く男としての愛が、全く理解できない猛烈な葛藤のただ中にいるかもしれない。
『嘘だろう?!
彼女はーーーかわいい”姪”だ!』
あり得る、寧ろあり得すぎる!!
プラトニックのあくまで父性愛に貫かれた、まともで真面目な関係。
「そんな関係では断じてない!!」
確かに関係性としては禁忌ーーー禁断なのかもしれない。
それなりの年の差もある。
彼のユラユラ右に左に揺れ動く、綱引きに似た戸惑いの心の動揺が信繁にはわかる気がした。
今回の「暗殺未遂事件」で、案外漸く 重い腰を上げたかも知れない。
”自分の本心” を。
〜逃げずに真っ直ぐ、見つめ直すと言う事に。
『そうだといい』
相手の事を好きで好きで堪らないという、こんな可愛らしい女の子を泣かせてはいけない……!
信繁は本気でそう思ったのだった。




