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ティータイム ③


「アグライア様は、叔父様から〜『閣下』から。

何か必ずお姉様から聞いておく~等の頼まれたご依頼はありませんでしたか?」



「!!」



『なんで知ってるの??』

アグライアは予想外の質問に言葉を無くす。


彼からの”そのものズバリ” 単刀直入の質問に、思わずヒッ! 声にならない悲鳴が出そうになり


ーーー慌てて動揺を飲み込んだ。



アグライアの手がピクリと反応、繊細な新たな怯えが空気を通して伝わって来る


ーーーー信繁の表情が微かに動く。



「それって、どういう意味でしょうか?」



「そのままの意味です」


信繁はあえてサラリと答えた。



「隠し事を怒っているわけでもーーー或いは責めているわけでもありませんよ?


私は敢えてそれが『何か』はお尋ね致しません。


多分貴女がお考えになっている事とは ”真逆”〜『お姉様の為になるかな?』という推理の為です」


 

「それはどういうーーー」



「詳しくは厳重な守秘義務がありますので、自分の口からは言えませんが。


私が現在の時点で わかっているのはーーーその『何か』を取り除いた場合


タレイア様の『現在の症状』が、上手くしたら 緩和されるのでは無いか〜という想定です。


ーーー私と信頼できる研究者間とでの『仮説の定理』です。



勿論『仮説』ですので、絶対の結果が望めるか?というと、そういう確定的なものではないのですが」



信繁の提案にアグライアの目が大きく見開かれ、信繁の茶色がかった瞳がニコニコと優しく笑う。



「何事も、どんな時も諦めない事ですーーーーー絶対に」


「そうでしょうーーーか?」


 

「はい 『原因』があれば『結果』もあります。


結果からーーー……どんなに苦しくとも『原因』を探る 


〜探究心や不思議に思う気持ちを。

”謎と理由”〜を追及する歩みを止めてはいけません。


私はそう思いながら職務に就いています、困難ならば困難な程〜特に」


信繁はニッコリと力強く断言する。


それを言い終えると最後に、緩やかに構えていた姿勢をそっとさり気なくキリッと正す。



『もう彼女は大丈夫だろうーーーー』

そんなふうに感じたせいである。



信繁は敢えて穏やかに聞こえる様に話しかける。


 

『さぁーーーこれからがヤマ場だ、頑張って貰わねばーーーーー……』



何とか自力で進まねばならない。


信繁は自らにもビシッと渇を入れる。

 

ーーーー自分の弱気が伝染しない様に。


 


「今から貴女を 

ーーーー私が、お姉様のいらっしゃる、特別病棟にお連れ致します。



いいですか? これだけは 忘れないでください。


今の状況から タレイア様を助け出す〜……!


サルベージ出来るのは、唯一、おそらくこの世でアグライア様 貴女だけです。


その事に自信を持って対面して下さい、お姉様は ”見えて” いますよ?

 

その ”変化” が、残念ながら、こちら側に伝わらないだけです。


見た目に惑わされてーーーー焦らないで下さい」


 

信繁はそう断言し、再びポットの新しいティーを優雅な仕草で勧める。


「又おひとつお砂糖を如何ですか?」

 

「戴きます」

 

「そう来なくては!!」



信繁はニッコリ太陽の如くに微笑むと今度はーーー


如何にもオシャレな「ヒペリカム」、作り手の”遊び心”が楽しいシュガーアートの角砂糖をトングで掴むのだった。



黄色の4枚の花びらと、花火の様な広がったしべの細工〜

 花が終わった後の、コロコロのピンクの実まで可愛らしく再現され手が込んで美しい。

 


「”悲しみは続きません” よ? ”燦めき” ーーーを貴女に」


 

「では私もーーー!」


 

目をキラキラ輝かせたアグライアは ”お返し”とーーーー!


信繁のミルクティーのカップに「エーデルワイス」の、可憐な上品な白と緑が控えめだが、洗練された美の角砂糖をそぉっと沈める。


信繁には微笑ましく、選んだ花は彼女の化身に思えた。


 

『”大切な思い出” それと ”勇気”ーーーか』


 

2人ともお互いに静かにティーを飲み干すと顔をあわせる。



「では行きましょう」


信繁はスックと椅子から立ち上がりアグライアを促すのだ。




信繁とアグライアはーーーーー


タレイアが収監されている『城』特別病棟に向かった。






『え?』


ーーーーどう言う事なの?!





アグライアは、貴賓室の扉を開けて上品にエスコートする信繁の脇を静々と通り過ぎる際にわずかな〜 


本当に微かな


ーーーー ほんの1瞬 「あの時の香り」を感じた。



本当に『気配』…


香りーーーいや ささやかな ”気”


柑橘系の花のエッセンスーーーおそらくネロリ


香りが飛びやすく、滅多に嗅ぐことが無い、多分オレンジの花の香りだろうと 想像した


惑星トールでは、かなり貴重な香料。

ーーー期間限定で保存が難しい、不安定で繊細な美を誇る香りな故、何所の星でもそうだろう。


本当に直ぐ側、彼が偶然体をかがめていたから感じたのであって、今まで全く気がつかなかった、個性的で、印象的な温かな香りだった。



『あの時のーーー人って事?!』


それは〜アグライアが、体調を崩し宇宙空港滑走路で無様に倒れ込み……


本当に ”あと少し”で頭部を大きく舗装道路に打ちつけ、打撲と裂傷で必ず何かしらの怪我を負うという際。

 

誰かが、フワリと優しく抱きかかえてくれた際に感じた、あの幸福な安心出来た香りと全く同じだった。



『ーーーそんな!』

動揺で瞬時にカーーーーーーっと首筋まで熱くなる。


『だってそんな事は度もッッ!』


アグライアに信繁は1言も、恩着せがましく、空港でのその時の事を語らなかった。

 

というよりも、まるで無かった事としてくれ、気配すら気取られなかった。



『そうだったのねーーーーーー!!」


全てがわかり、つーんと鼻の奥が痛くなってしまう。



ーーーーー恥ずかしい。


自分は泣いてばかりで、面倒を掛けるばかりで何1つ〜ここに来てから誰の為にも動いていない。



信繁がーーー彼が陰ながら、密やかにずっと今まで自分の事を気にかけ 

 

静かに完全に守ってくれていた事を、まるで知らず気づきさえしなかった。


 

ーーーーそれ程の彼の徹底した矜持に、アグライアは初めて気がついたのだ。


そんな無力な、気の利かない自分が 情けなくてたまらなかった。


 

「信繁様ーーあのぅーーー」


「はい? 何でしょう」


「空港の事ーーーーぁのぅ」


「何のことですか?」


「ーーーー済みませんでした」

 

「?〜ああ!!ーーーはははっ それが私の仕事です……!

一切そんな気に病まないで下さい。


私は閣下自ら、こちらにお越しの貴女を守る様にと指名された護衛官です。

逆にキチンとお役に立てて嬉しく思いますよ?」

 

「……」



罪悪感で押しつぶされそうな内気なアグライアに対し、信繁はニコニコと真夏の向日葵の花みたく大きく華やかに明るく笑う。


その晴れやかな笑顔にきゅうんと、益々胸がチクチクする。


ーーーー申し訳ない



だが、彼の屈託無い明るい笑みに、何時も彼女を励ましてくれた、姉の優しい表情が二重写しに脳裏に浮かぶ。



そうーーーー


姉は何時もこんな風に励ましてくれたわ!





『今度は私がタレイアを助ける番だ』



それがせめてもの ”私の仕事” ーーーー……




彼の言う事が『その通り』、信繁様が自ら信頼する研究者と立てた〜

 

本当に ”仮説通り” ーーーならば!



これは…… 「私しか出来ない事!」 なのだ、確実に。




『だったらこんな様子ではいけない!』


アグライアは初めて、しっかりキリッと顔を上げるのだった。


ーーーそれは、城に来て初めての事。




信繁はアグライアを連れて 沢山の壁の角を曲がり、幾つものエレベーターを乗り継ぎ。



白い長い廊下を 迷いも無くスタスタ進んで行く。




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