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ティータイム ①


城 到着翌朝、漸く落ちついた昼過ぎにアグライアは叔父ロームルスと直接会話をする事を果たす。



回線機器は 何故か大王のプライベートルームに有るらしく、なんと!!

〜叔父の側には恐れ多くもリーズ大王の姿がチラリと見えたのだ。


しかしーーー

部屋の調度品は今まで1度も見たことが無い不思議な家具類、内心首をひねった


〜どうしてなの??〜訳がわからない。



「もう大丈夫なのかい?」


「えぇ、ご心配おかけし申し訳ございません」


ーーーー本当は……全然記憶が無かったからだったのだが、最愛の叔父の心底ホッとした顔を見たら本当のことが言えなかった。


 

『大変だったのは、信繁様達ばかりなの!

私はただグッスリ眠ってただけなのッッ!!』


アグライアはいたたまれず俯いてしまうのだ。



「兎に角 無事で良かったよ、そういえば君とはホログラム映像でも初めて会うね?

 

ロームルスは何でか君を私にはーーーイテッッ!」


と!!急にホログラム映像が叔父に成り代わる。


「どうされたの?」

優しい叔父はクフンッと奇妙な小さな咳払いをするのみだ。



「お前は何も気にしなくていい、あくまでこちらの事だ。

だが本当にーーー本当に無事で良かった。

 

この度は勇敢だったな、怖かったろう?」


「……」

 

『叔父様ごめんなさい〜〜〜〜』

アグライアは申し訳なくって心の中で謝るばかりで。




そんな時、城主がロームルスと 「貴方と折り入って話がしたいわ」


「では私は彼女と話をするからーーー

少し時間がかかるから、彼と少し一緒にいなさい」


ロームルスは柔やかにアグライアに告げる。


二人がそれぞれ切り出したので、信繁は慇懃にお辞儀をしアグライアを伴い執務室を退出する。




「では私も貴女〜折角遠き所お越し戴いたので。

是非、『城』規約等の詳しいご説明を致しましょう。

 

どうぞーーーこちらに」


信繁は穏やかな足取りで、アグライアを或る場所に誘導する。


礼儀正しく通されたのは、実に手の込んだ漆喰装飾がほどこされた、アールヌーボー様式と和風デザインの良い所を合体させた、風雅で豪奢な貴賓室である。



『うわぁーーーー』


思わずアグライアは部屋中をキョロキョロ見上げてしまう。

 

どこもかしこも、ついつい見とれてしまう、東洋的な美しく繊細な意匠が感じられて凝視せずにいられなかった。



2人が絹地の緞子張りのソファーに着席すると、スッーーー

 

自走式の給仕用ワゴンが、パタンと装置専用扉を開けて静々と入室する。


中央には上等の白磁の茶器とティーカップが用意され、ポットには芳醇な豊かな香りの紅茶がどうやらなみなみと煎れられている。


更に脇に置かれた、魅惑的なガラス製透明ケースには薄切りのレモン。


対のデザインのガラスポットに収められた角砂糖には、如何にも女の子が好みそうなシュガーアートが封じ込められている。


同じ柄が1つとして無い〜色とりどりの小指の爪の半分の大きさも無い花々の飾りがついた小粋な品。

 

つまりーー全てのどれにも、遠方より訪れた客人である彼女に対する歓迎が感じられる心こもる様子が忍ばれるのだ。

 

ワッと心ときめく麗しき品々が添えられ、揃えられていた。




では”信繁の分”はというと、シンプルで極小さなビッチャーに濃厚なミルクがタップリ入った物が別途用意されていた。



コポコポコポ……


優雅な手つきでしかも当然〜な様子、信繁がティーを自分にサーブした事にアグライアは仰天。


信繁はその後、慣れた手つきで自らの飲み物を注ぐ。

 

ーーー絵になる綺麗な仕草に思わず見とれる。


「……」


「コーヒーが宜しかったでしょうか? それとも日本茶でしょうか?」


「いえ、こちらで構いません」


 

信繁の茶色の瞳で心配そうに覗き込まれたアグライアは、慌ててブンブン首を振り ドキドキしながら恐縮して返事をする。


 

「なら良かった」


信繁は瞳に優しそうな色を浮かべて フッと笑う。



「ーーーー」


「冷めないうちに是非どうぞ」



「っっではーーーいただきます」


オロオロしながら口に含むと、心の中までホンワリ温かくなる気がした。



『美味しい』 思わず心の中で呟くちょうど良い濃さの加減。


フレイヤ妃殿下が彼の事をわざわざ敬称をつけ、信繁様と仰っていた意味が本当によくわかると思った。


警備というから厳つい無骨な男性を想像ーーー

それがまさか、これほどの優美、魅力的な身のこなしと風貌の貴公子的青年だとは考えもしなかった。



全く翻訳機も使わないで自在に操る、美しい滑らかな語学の能力もさることながら、流れるような身体全体の関節の動き〜


指の動きに手の振り、歩き方は言うに及ばず、ムービングの様子全てがおそろしく気高いのだ。



アグライアは音楽〜声楽を志すものとして”留学中”


〜専攻は違うが、同じくステージを使用する舞踏や演劇のトップの座を賭けて精進する友人、そんなダンサーも少なからず居たから知っている。


「これでもか!」

そんな感じで日々努力に次ぐ努力をシビアに課す、厳しい修練を欠かす事が無い才能の塊。


友人達は皆、ほんのちょっとした日常動作も魔法の如く素晴らしいのである。


何所でも”華麗な舞台” はっと思わず目を奪う「美」を醸し出す特別に神様に愛された存在。


〜ただ側に居るだけで、薔薇色の幸せに浸る事が出来るのだった。


 

その事を、うっとり告げると彼等は、ポポポッと赤く照れながら


「そうでないと、この世界はつとまらないのよ!」



「僕達はーーーさ〜 ウン! 強さ=美しさに 見事に直結するからね!!


どんな時も、舞台上で無くとも人々が夢みる ”金色の泡”


場に”現れた瞬間” 部屋に居る全員がパッと一瞬で僕に振り返るぐらいでないとダメなんだよ。


特別に薔薇の花が満開に咲き誇るみたく、香しく素晴らしく綺麗に見えないといけないんだよね!」


〜クスクス楽しげに微笑みかけた。



目の前の青年、信繁はそんな愛する友人達の皆を彷彿とさせた。



この人は目算で、おそらく身体は2メートル近い高身長だ。


今時の世界的なバレエ学校の ”王子様”

〜主役を張るレヴェルの実力を持つ 「王子様役候補」

 

男性のプリンシパル〜NO.1を目指す男子学生集団は全員190近いか、悠々それ以上だ。


彼等は特殊な教育を受けて舞台に立つ。

 

肉体が大きいのに相反する要素、優美で優雅で繊細な美に全身くるまれている。

 

だからこそーーー嫌悪する陰、嫌な圧迫感や威圧感は感じられない。



信繁は彼等と同じベールーーー空気感を纏っている。

 

いいや、むしろーーーそれ”以上”ーーー!


「親しみやすい」 穏やかで話し易い

爽やかでキラキラしたオーラを、全身からシャワーの如くに照射している様が凄いと思う。



『……嘘みたい…』



だって! 人見知りの極端に激しい自分ですら ”話しかけられる” のだから。


本当に有り得ない! それが既に自分でも信じられない!


 

「元々は気性が信じられない程に激しい、山猫の如しの気難しい方だ」と噂の〜


惑星フレイの第5王女だったフレイヤ妃殿下が穏やかな瞳で頼りに、全幅の信頼と心を寄せた御気持ちが理解出来る気がした。




物知りの賢き叔父の話によると、なんでも彼は「城」きっての素晴らしい優秀な精鋭の戦闘員の1人なのだとかーーー?


 

『こんな穏やかな方が嘘でしょう?!』


『ホントに?!』〜〜と、全くーーーー戦闘状態の様子なんて想像が無理っ!



相当な上流階級の、虫も殺さぬ洗練された上品な子息、もしくは女性皆が表情を蕩けさせる「舞台の上の王子様」にしか本当に見えないのだ。


 

『どうなっちゃってるの?』


自分は人を見る目が無いのだろうか……?



そんなこんなを、ツラツラぼんやり


〜レッスンは涙が浮かぶ程厳しかったが、本当に夢の様に楽しく幸せだった留学時代、懐かしい学生時代の思い出に浸りながら考えているとーーー


偶然、自分が妄想中の、信繁と真正面からバチッと偶然視線が合ってしまう。



アグライアは 真っ赤になって慌てて再び顔を伏せる。


『ぅわどうしよう どうしよう どうしよう!』


 

そんな気配がモロにダイレクトに相手にどうやら伝わったらしく…


「そんなにビクビクしないで下さいーーーー私が怖いのでしょうか?」


その声に思わずハッと顔を上げると、相手は少し困った表情を浮かべている。



視線がバチッとーーー交錯する。




彼の戸惑いを見せるその表情がまたーーー魅力的、きゅぅんと可愛くて


ドキドキドキドキ……!



真っ直ぐ見つめる癖?


ジィッと瞬きをしない綺麗な茶水晶? ーーーみたいな瞳。


 

『……』

アグライアは胸から心臓が飛び出そうに心拍数が急上昇。


「とんでもございません!」動揺しまくりで。フルフル頭を振るしかない。



「よかった」


信繁が明るくフッと人なつっこく笑うと、茶色の瞳が悪戯っぽくキラッと揺れるのが見えた。



「ーーーー……」


ーーーードキドキが止まらない



『いっ いけないわ!!』


思わずぼーっと……口を開けて見とれそうになり、必死で何とか視線をそらす。


何せ眼が蕩けそうーーー!


アグライアは何か話の接ぎ穂を探そうと必死に頭を巡らせる。


失礼で無く、相手が答え易そうな平凡な物ーーーー



当たり障りの無い、誰もが聞きそうな話題



「こちらの責任者の方が、あんなに 若い方だとは思いませんでした」



しまったーーーー


『女性の年齢を話題にするのはマズイ事かも知れないっっ』

 

瞬時にそうは思ったが、今更否定はもうかえって失礼となる。



すると信繁は、ニコニコと戸惑いをサラリと受け流し、丁寧に返すのだ。

 


「いえ、あの方はーーー

『特異体質』と言う事で、ずっとあのままの容姿です。


けれども中身は見た目とは全然違いますよ?


私が初めて出会った時は〜〜高校3年時でしたが?


ーーーあの頃と記憶では、所長は容姿が全く変わっていません。


実際の年齢は何歳なのかーーーは…… ここの『城』職員ですら知りません。

私も聞いていません。


個人情報は 元々極秘事項なので当然ですが、彼女はさらに輪をかけて 特別な方です」



「羨ましいですねーーーー」


が、ほんの少し、褒めたにもかかわらず予想に反し信繁の瞳が曇る。


 

「?」


「さぁーーーーー それはどうでしょう?」


「え?」

 


「……ーーー特に、ご本人にとっては。


私達、周囲の人間としては 嬉しい事ですけどね」


「ーーーそれはどうして?」


 

アグライアは目を見開き ?と思わず反射的に信繁に問い正す〜訳が解らない。


疑問に対し対し信繁は淡々と答える。



 

「我々はーーー『後』を任せ、安心して。

ーーー老いて、不安無く 戦って行くことが出来ますので。


局所によっては ”散る”……


自分のようなーーーいつ何処で亡くなってもおかしくない……

特殊部隊の戦闘員の人間にとっては、絶対的なリーダーは 嬉しいんです。


”心の拠り所”ーーーー

何があっても、還る場所が有るという事に他ならないのですから。

 

魂になったとしてもです

”後始末”はしてくれると知っています」



「ーーー……ごめんなさい…」


謝るしか無い!!

でも彼に許して貰えるのだろうかーーー…?



アグライアは、殆ど初対面に過ぎない、しかも ”通りすがり” の自分が


不作法にもーーーー!!


不用意に聞いてはいけない”デリケートな部分”

無邪気な顔して、無神経にズカズカ踏み込んでしまったと、ガンッとショックを受け身を縮めた。


どう考えても明らかに失言だったのだーーーー……


『申し訳ないっっ』


恥ずかしいやら悲しいやら申し訳ないやらで、身体を震わせ、気持ちのやり場が無い。

 



〜と

「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。

私は気にしていませんよ?


ーーー辛そうな顔をされることの方が自分は傷つきます」



アグライアは ハッと顔を上げる。


「ーーーえ?」


そこには信繁の優しく微笑む顔があった。



「はい。

貴女は、これから、否が応でも、本当に厳しい現実に向き合わねばなりません。

 

ですからそれ以外は、アグライア様には幸せそうに笑っていて欲しいんです。


お姉様との面会での ”サポート” は必ず致します。

 

ですので決して貴女はお1人ではございません」


「〜〜〜〜」


信繁は包み込む様に 優しい微笑みを浮かべ、ごく さり気なく、ティーカップの量の減ったお茶に新たな継ぎ足しを注ぎ入れる。



コポコポ……コポコポーーーー


耳に優しい茶湯の音、嗅覚を潤す豊かな馥郁たる香りが、落ち込む悲しい心を癒やしてゆく。



「ーーー済みません」


「そんな事言わないで下さい、私に遠慮は要りません。


おひとつだけ、どうですか?

甘みをほんの少々如何です? 緊張が解れます」



「……」

 

 信繁はシュガーアート細工が可愛らしい角砂糖入りガラスのポットの蓋を手ずから開けると、容器をスッと彼女の目の前に差し出す。



「ではーーー戴きます」


その答えに信繁は如何にも嬉しげに微笑む。


 

「それではこれをーーー」


彼はその中の ”スズラン” の模様の角砂糖を、シルバーのトングで器用に掴み出す。


極そっと…… 彼女のティーカップに丁寧に入れる。



ゆっくり、白い塊が底に沈むのをアグライアは瞬きも惜しみ見つめていた。



甘やかに、ふんわり踊るかの様に


シュガーが次第に透き通り、透明になり、ホロホロ形を崩しながら溶け始めると


〜ぷかり、可憐な小さなスズランのデコレーションが湯の上に浮かび上がる



唐突にアグライアは、うんと昔の遙か遠い時の事ーーー!

 

どうしてなのか? 不意に眠れる記憶の中から呼び覚ましたのだ。



それはーーーー 

生前の母と、姉の居た、ささやかな、何処かの場所での幸せの場面。


「思い出補正」がかかっているせいなのかーーー


安らかな、飛びきりのキラキラ光り零れる、満ち足りた、一切、憂う事の無い甘やかな幸福な時代の断片。


母と姉と自分と あと1人 誰かが「居た」


 


そこには えっと……


アレは「誰」だったのかーーー



 ”顔が無い人”


どうしてか肝心なそこだけ思い出せない……



でも ”その人” に、優しく確かに 「この花の”花言葉”」を教わったのだ。




カップの中をジックリ見つめる。


スズランの花言葉は ”優しさ” ”謙虚” ”純粋”

 


そしてーーーー

 



”再び幸せが訪れる”




「”ご存じ”ーーーーなんですか?『花言葉』」

 

「ええ」


 

信繁は至極当然〜といった様子で、ニコッと柔らかに微笑みかける。



「……」


「……宜しいですね? 先程の事ーーーーー」


アグライアは こくりと頷いた



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