アグライアのプロファイリング
信繁は既に城主からアグライアの細かな経歴が添付された資料を渡されている。
『ふ〜〜〜ん……』 成る程ねーーー……と。
電子書類を何度も穴が開く程眺め、行間を空想した。
数字が「何を意味するか?」……熟考する。
信繁は元々は理系的人間では無く(成績は悪くは無かったが)、文系型発想をするタイプである。
理系的ーーー
場合によっては冷酷とも云える、奇妙な割り切り方切り捨て方も無い。
さりとて文系的、理路整然と終点に向けて順序立てて決着をつける事が、生理的に苦手的な、抒情的な甘やかさも持ち合わせていない。
美味しいとこどりと言える、程々の資質が、なんともいえない彼の魅力を生んでいるのである。
信繁は一見 純体育会系に見えるが、物語をひもとく事〜
例えば〜 ”不思議な話” ”ロマンティックな伝承”
古今東西の古い古い文献や、失われた文明のもう決して見る事が出来ない古代時代の古典小説を読むのが何故?、どうしてか?
ーーー大変、男性にしては不思議な性分にマッチしていたのである。
「どれも〜『深いくせに短い』からだよな!」
実際、現代の長編と比べれば長さなどたかが知れていた。
ところてんの様な 切れ目の無い文章。
簡略化の粋としか思えない、一見そっけない物語にワクワク胸を躍らせる。
「まるでパズルみたいだなーーー……!」
想像をかきたてられる部分の余白が、特に良い。
〜学生時代は、そんな事をよく思ったものだ。
おそらく古代の物はどれも「紙」
〜特に和紙は庶民には恐ろしい程に貴重、高価だった為、そのせいで1つ1つの記録が短いのだろう。
もっと言えば「鳥獣人物戯画」の様に、文字すら無いのに図画でウィットの効いた表現方法もあり、古代の人々の大人のしゃれっ気にはクスッと笑ってしまう。
白と黒の墨絵なのに、それでいて読み手〜 見る側に飽きさせず、必ず凝縮した世界を深く想像させる形式が鮮やかすぎると思っている。
作り手達は知恵を巡らせ、世界を宇宙的にまで拡大させた。
音、香り、色彩、時代の息吹〜森羅万象を、「えっこれだけ?」という、ペラペラの枚数と 少ない文字数に封じ込めた。
ミニマムな世界観が、まるで遠き道を行くが如し、一切の無駄をそぎ落とした先に見える達成。
武道を極める、遥かなる道の途上〜
師範である真面目な信繁は、いたくお気に入りだったのだ。
何はともあれ、そういった経緯を踏み、信繁にしてみれば「裏読み」が当然で
”無駄な経験など無い”
正にそれが現在 仕事に最大限、大いに生かされている。
アグライアが地球に音楽の勉強で留学した時の年齢は15歳になって直ぐ……
18歳で、祖国ラオコーンで現軍事政権主導のクーデター勃発。
両親は処刑。
姉 タレイアは「城」に収監。
タレイアは現在でも”表向き” 「生死不明」という扱いに世間ではなっている。
城は、極秘施設だ。
つまり、ここに収監されてしまった以上、この先も ずっと「幽霊」同様の存在なのだ。
それがどうしてーー……ロームルスが居所を知っていたのかはわからない。
「それこそが彼の底知れぬ政治力の証」
ーーーーー……証明なのだと信繁は理解していた。
アグライア達は元々は「3つ子」の3人姉妹達。
ギリシャ神話に登場する美しい「3美神」の女神達から名前はつけられた。
子どもの頃になくなったとされる エウプロシュネ(歓喜)
タレイア(花の盛り)
アグライア(光輝)
名前の通り、この世で最も愛らしい3姉妹ーーーと補足的な記述有
生存した二人は幼き頃から仲が良く、クーデター時は
彼女はまだ18歳になって間もなかった頃、無機質な数字の羅列は告げている。
ジャパン同年齢の未成年者の多くは、高等学校3学年に在籍中だ。
信繁は思わず自らを襲った呪わしい「事件」ーーー
惨劇の記憶が甦りそうになる。
ブンブンと強い精神力で力ずくで「オイデオイデ〜」と不吉に意識にまといつく昏い幻影のそれを追い払う。
『ーーーー参るよな!』
そうーーーー男の自分ですら、ここまでの強烈な精神的ダメージがある。
アグライアの性質の様子を見て、余りの気の毒さに溜息が知らず知らず洩れてしまう。
支援者の手で守られて、からくも叔父の住む『惑星トール』に……
政治亡命を果たした日々は 誕生日の、もう後僅かで19歳という年齢。
ーーーー時は巡り、今月華やかな「22歳の誕生日」を迎える筈だ。
「誕生日自体 幸せの日ではないかもな……!」
信繁は電子資料を読み込み 思わずそう呟いてしまう。
自分だったら『どう思う』だろうか?……?
自分は確かその頃〜リアルでは『城』への就職を望み、24時間ーーー
ダブルスクール通いで、寸暇を惜しみ猛烈な勉強漬けの日々を送っていた頃だ。
正直忙しすぎて、日々の事はつかみ所無く、手応えなくボンヤリとしか覚えていない。
が!ーーー目標があったせいで。
それが良かったのか悪かったのか〜
自分を不幸だとも哀れむことも、そんな余裕も全く無かったな〜〜と思い出す。
『誕生日は〜
あまり嬉しい記憶に結びつく記念日では無いのかも知れないなーーー』
周囲に気がつかれぬよう小さく息を零す。
フゥッッッッ……ーーーギュッと胸が締め付けられてしまう。
年齢にそぐわない、奇妙な程の落ち着きと……気遣い。
それでいて余りにナイーブな儚げな印象。
精神を根幹から揺り動かした「18歳」の時からきっと心の時間は止まってしまったのだ。
『お気の毒に……』
それでも何とか冷静さと平常心を保っておられたのは、元大統領令嬢としての矜持と強い自制心の賜。
精神の鎧ーーーー……彼女の心を今までひたすら支えてきた原動力。
総ての可能性を差し引くと、彼女は苦しい恋ーーーー片恋をしている。
しかしその事で決して取り乱したり、無様に心乱れる姿を見せられない。
その相手は言うまでも無く「閣下」だ。
信繁は決心する。
目の前で自滅し、1人の女性が心を破壊される事を見過ごす訳にはいかない。
その救援、彼の手助けが例え、自分にとっての最愛のあの方の不利益に結びつくとわかっていても……!!
信繁はグッーーと、奥歯を嚙み締める
心は決まった
ーーーー自分は彼女を助けると!!




