不夜城にて ④
ーーーー……
ーー……
……
「どうも『この話』は最初からおかしい」
現場を指揮した当事者としての報告を交え、信繁は友人瑠架に個人的見解、総纏めの結論としてこう結ぶのである。
「爆弾~あのミサイルの飛行音から察するに最新式の型式……!!
発射された本数、病院分も合わせたら全弾とでざっと計算すると、例えば〜」
「例えば??」
瑠架の問いかけに、腕組みを崩さず難しい顔で答える。
「そうだなぁ〜
ザックリ言えば、現在ジャパンの首都にある、今建ってる○○本社ビルの総工費を軽く超えてしまうだろうな。
昔に建造してるから今とは多少物価は違うが、額面だけで比較すれば概ね金額は近い筈だ」
彼が ”例”として上げた某企業名は、瑠架ですら知っている有名な会社である。
「へぇぇーーー アンタ随分いろんな事知ってるのねーーー」
「俺は元々『そっち系』の経営〜
ーーーー経済の勉強をしてたからな。
家業を継ぐ為に、未来の取引先相手に絶対に不快な思いをさせない為、ありとあらゆる事を叩き込まれた。
『コイツそんな事も知らないで身の程知らずに自分達と付き合うつもりか?!』
ーーーまっ足下を見られない為さ?
まぁ、今となったら全部 『無駄知識』だがな……
病院施設の『上物』は、上空から見ても、キレイに跡形も無かったよ?
で、直ぐに総攻撃は、地下格納庫から抜け出した光学迷彩発動の俺達に移った。
”だから”ーーー……攻撃は明らかにーーーー
意図的にアグライア様を標的に選んだものだろう。
とはいえーーー……
『人間1人』を狙ったものとしては ~あまりに道具立てが大仰すぎる。
ロームルス閣下の身辺に『何か』が ”秘密裏に計画されている” のか?
それとも 『何か全く別の思惑』が、隠されているのか……??
ーーーー この”いずれか”だろう。
〜で瑠架は。
ーーーきな臭い俺達と、共有情報の階層が違うーーー
平和主義を唱える階層と、荒々しい俺達じゃ、属する人間の持つ情報の入手筋が違うからな?
だからこうしてお前の所に来た、何かそっちで手がかり聞いていないか??」
「う〜〜〜ん…そう言われても、ねーーー」
ーーーーコンコン 「失礼致します」
小さな遠慮がちのーーー別扉へのノックと共に瑠架の可愛らしい部下が入室。
あの ”助っ人”ーーー
瑠架主宰、クッキング教室で信繁がつきっきりで暫く、卵液の乳化作業の調理作業を手ずから助けた、おとなしめの雰囲気を纏う上品な女性職員である。
彼女は信繁に感謝の気持ちを込めて小さく微笑み ぺこりと頭を下げるのが奥ゆかしい。
「紅茶をどうぞーーーティーパック製ですが」
「久しぶりだね、全然構わないよ、仕事の手を止めさせて済まないね、わざわざどうもありがとう」
信繁は彼女に優しく微笑む。
差し出された食器からフワリとあたたかな馥郁たる豊かな香りがたちこめる。
山登りの人間は伝統的に何故か紅茶を好む。
理由として考えられるのは、アジア山岳地帯はどこもティー
”紅茶”の、優良茶葉の名産地が多いからなのだろうか?
『美味いーーー……!』
美しい色合いと、入れ立ての紅茶だけが持つ素晴らしい薫り。
そしてなんとも言えない程よいティーの濃さが、カップを受け取った信繁の疲れた肉体と心に、じぃんと沁みる。
『堪らなく美味、いい煎れ方だ……』
それは本当に、飲む人の事を考えた上で、心を込めて丁寧に大変上手にいれられた特別の紅茶であった。
『セイロンかーーー
今みたいな時は、逆に癖が無くて心がホッとするなーーー』
「もう1杯如何ですか?」
「? いいんですか?
ーーーでは是非。
要らぬ手間を掛けさせて済まないんだけど、もう1杯お願いしてもいいかい?」
上司とは正反対の、性格が良く、周囲の事に細々と気が付きそうな〜華奢で可愛い瑠架の部下。
信繁に嬉しそうにぺこっと頭を下げて、給湯室があるらしき方角に去って行く。
その後も信繁と瑠架の『仮説』検証、様々な意見の調整は続いたのである。
「あの ”噂”の??……?…… 」
静々と、カップを下げに来た先程の助手の彼女にふとーーー
「アグライア」の名前が耳に入ったらしく
ボソリと不審げに聞こえるか聞こえないか程の 極小さな声で、ひと言言葉が零れた。
本当に ”つい” ーーー思わず そんな風情。
「”噂”??? 」 信繁は咄嗟に聞きとがめる。
『何かが』ーーー奇妙に心に引っかかったのだ。
ある ”個人的事情” でーーーーー
(子龍と飲む、彼が好む酒がらみで)
最近そのワードに、やたら耳がぴくぴくっと反応、信繁の精神が過敏、過剰反応を起こしているという事情もあった。
「それはどんな風に聞いてるんだい?」
「あのぅ、ロームルス閣……下の、……事では…ないのですが。
強いて言えば~……アグライア様ーーー……
いえ……元はそのぅーーーー……ーーー……」
ニコッと微笑む信繁に、少し唇を震わせながら、訥々と彼女は話し始める。
しかしーーー
”相手”は、かなりの相当な内気な繊細で人見知りな性質らしく、気の毒な程に声がユラユラと上ずる。
「ゆっくりでーーーいいかい?
ーーー君のペースでいいからね?」
「……彼女のーーー
『故郷』に関係するーーーーーエンジニアの1部で、流れる『噂』です。
~証拠も無く、確かなことじゃぁ無いんですけど?
ぁでも、『確実な情報』だと私はーーーー」
彼女のフワフワ揺れる声が、気の毒な程ハイトーンに上ずり、自信なさげな矛盾をはらむ発言。
瑠架は コホンと咳をし先を促した。
「貴女の思いのたけを 言ってみなさい」
「……」
「ほら!!」
「ーーーーー」
「こら?瑠架?
ーーーーお前が無意味に怖すぎるんじゃ無いのか??
無駄にエネルギッシュで、内気な子をガツガツ圧迫してるんだろ?
ねぇ君〜落ちついてーーー……
ゆっくりでいいから、自分の言葉でどうぞ?」
「……」
「君の話が聞きたいから」
「!!」
「ちょっとーーーー! 信繁それ逆効果でしょ?!
アンターーー『殺し文句』を言ってどうすんのよ!!」
瑠架も返礼として突っ込み、実はその通りであった。
信繁の言葉に頬をぽっと赤らめながら、いやーーー! 一瞬で林檎みたいに耳まで真っ赤になりながら。
そんな中、それでも、瑠架の部下である、純情そのものの彼女は何とか声を絞り出し、勇敢に、おずおずと2人に意見を話し始めた。
その一部の「噂」ーーーーー……
「流布される話」全て聞き終わった後、室内は重苦しい沈黙が支配する。




