不夜城にて ②
「ーーーーー良いニュースかどうかはわからんが。
あのさーーー……
また最近、”お前を紹介しろ”って言う奇特な変な男がいるぞ?
そうだ、いい考えがある、少しーーー……会う気はないか?
俺から〜男から見ても本気でいい奴なんだ、顔もかなりかっこいいぞ?」
「やだ」
ハァ?! 何故に即答なんだよ!
多少はわかっていた事とは言え余りにそれは酷い、俺の板挟みの立場も少しは考慮してくれよ!!
「〜〜〜って何でだよ? ーーーちょい会うだけ会ってみたらいいじゃないか?
別の班だが、俺と同じ職制の ”特殊部隊”の。
〜『勇次』って言う 男の目から見ても中々良い性質の奴だぞ?
腹芸も出来る、良くモノのわきまえた男だし、若手の中じゃ出世頭だしーーー
まぁ趣味としては山よりも海が主戦場だがさ?
勇次はサーフィンがメチャ上手いんだ。
ハワイとかの世界大会への挑戦者でそっちで有名な男だから賞金稼ぐし、スポンサーも既に数社だ。
電脳メディアからも取材がひっきりなし、城の造波プール内での練習なんか思わず見惚れるぞ?
だからさ1度……俺と一緒に、アイツの練習風景見学と応援に行かないか?
瑠架も気分転換になるだろうし〜
あぁ!
アイツもきっとモチベーションが上がるし、第一滅茶苦茶喜ぶぞ?」
「え〜〜〜〜〜?
行ったらさ〜〜実験する時間が無くなるでしょ〜〜〜〜?
時間が勿体ないしーー……
付き合うと、ただでさえも細かくアレコレ連絡しないと向こうが荒れるし
ーーーーメンドクサイ」
「……」
ナンジャソリャ
もうちょっとマシな言い方は無いのかよ?
ストレート過ぎるだろ
ーーーー半ば想像がついていたとは言え、ガックリと信繁は項垂れた。
『コイツはそういう奴だよな……』
フーーッと信繁は溜息をつき、適度に短くやっと綺麗に整えた髪を掻き上げる。
「何よ?〜〜〜ソッチこそ最近『山』どう?」
〜恋愛よりも”山”かよ?〜〜〜〜〜!!
ーーーお互い同期。
しかも信繁とはスキル的に同レヴェル?ーーーな、ディープ極まる「山仲間」である二人である。
『これでいいんだろうかーーー?』
しかし信繁の”心の声”をもしも子龍と雅が聞いたら
「オイオイ!!
なーーーにぃ言ってんだ信繁テメーーーはっはっは〜〜笑わかせてくれるぜっ」
「え〜〜?信繁さんも僕から言わせれば人の事ぜーんぜん言えないですよっ!」
ーー突っ込みが確実に入りそうだが、自分の事は案外気がつかないものである。
彼は再びフーーー……ッと立った侭、長い長い溜息をつく。
「んーっと、あっそうそう〜!コレ言っとかなきゃ、今度纏まった休みが取れそうなのよねー!
エベレストに今度一緒に行きましょうよーー?」
ーーーーいきなりガツンとハイレベルの直球が来た。
グッと言葉を無くす信繁に、天然無頓着な気質の瑠架はウッキウキで更に楽しげに誘いかけるのだ。
「あのな瑠架、遠すぎて無理、そこまで班を留守に出来ない」
「へー……信繁『行く気』は一応あるのねぇ〜!」
ーーーーーどうしてそうなるっっ!!
有っても ”行けない” って、だから俺が今ーーー理由を”言ってる” だろ?
「なら今度〜『トレッキング』だけでも一緒に行こう?
ね? ね? ね? 楽しーわよ? ゆっくり山裾を歩くだけでも〜〜〜〜!!
そりゃー V字谷の『落石の巣』とか……
上からゴロゴロ振ってくる、漬け物石より大きな石に気をつけたり……
『数日前の雪崩の後のデブリの上』〜
再びの、表層雪崩に自分達も巻き込まれない様に気をつけて、足早に通る事とかは有るけどね!?
雪解け水で出来る虹とか〜? 絶景のビューポイントとか、行くと本気で素晴らしいわよ?」
「ーーーー」
「馴染みの伝手があるからさ、ジャパンからカトマンズまでの手配なら任せて!
アンタは高山に登る体の準備だけしておいてよね〜
年齢的に、もぅいけるときに行かないと、体力的にきついわよ?」
瑠架はアッサリ言い切り、信繁に向かってニコッと笑みを見せるのだ。
ーーー因みに彼女がお茶の子歳歳みたく簡単に言う「高山」〜
峠から峠を目指す、ヒマラヤトレッキングルートの標高は、谷ですら低くても高度3,500〜4,000とか6,000、もしくは「それ以上」、普通にある。
それを充分熟知、承知している信繁は肯定も否定もしなかった。
瑠架は明らかに〜 今は亡き彼の父親と「同タイプ」の人種だった。
「でーー何?改まって。
『悪いニュース?』
〜死ぬ程疲れてんのに 信繁がワザワザ足を運んでこんな所に来るにはそれ相当の重大な訳あるんでしょ?
なんか特別な……『的』な!?」
「まぁな!
一寸気になる事があるんだが、瑠架のコネで調べてもらえないかな?」
ーーーーー信繁は重々しく相談する。
クッキング教室』でメイン講師役瑠架は、城 秘密兵器開発部門で主導的立場、『博士号』を持つ人物だ。
かつて新人時代の頃の、雅の指導教官でもある。
優秀な科学者で それに伴う臨床実験も行い、信繁班ヘリ実験機搭載の光学迷彩も優秀な彼女の尽力による部分が大きい。
「アグライア様がここに来る〜
城に入館前に、大変な事件があった事は聞いてるか?」
信繁は念のために瑠架に尋ねてみたら、瑠架は信繁に散らかった椅子の1つをピッと指さした。
「ぇ〜っと、立ったままじゃあアレだから、取りあえずその辺に座って」
彼はその雑な様子でピンと来た。
『そうか……俺が場所取りで目障り、邪魔だったかーーー』
信繁は小さく目線で頷き、彼女の指で指し示され促された、事務用簡易チェアに着席する。
高身長の人間は、有り体に言うと……
ただうっかり気を抜いて、ボーッと立っているだけで壁になってしまう。
周囲からヒソヒソ 『全く! どこか行って欲しいわよね!』
ーーーなんぞと嫌がられたり、陰口をたたかれるのが宿命みたいな人生だ。
じゃぁ!と気を利かせたつもりで座れば座ったらでこう言われる。
「後ろの人間が 前が見えないっツーーーーの!!」
「帽子被るんじゃねーッッツーーー!!」
ーーー実に理不尽、不本意な悪評をぶつけられる。
幸い信繁は「キャーーーーーッツ!!」の恩恵のせいで……
俺はまだ随分生きやすい方だ〜と自覚はあったが、周囲が自分に譲ってくれている〜という事実には変わらず、事実そう感じて生きて来た。
なかなかに難しい性質の瑠架の視界の邪魔にならない様ーーー
心配性で気遣いの塊の信繁は、業務の支障が大切な友人に出ない様、さり気なくコソッとチェアの向きと位置を素早く計算し、移動させた。
彼は意外な程〜男性にしては勿体ない程の良く出来た「気配りさん」で、当然周囲からは瑠架に対する彼の空しい心遣いが丸見えだった。
「何であんな優しい方が、超がさつ野獣女に〜?!」
「騙されてる! 絶対騙されてる!」
「信繁様ーーーー可愛そう〜〜〜!」
信繁の真面目な感性が読み取れる女性職員は、パシリ的扱いに怒り心頭、当然瑠架を目の敵ーーーー
女性同士の「お約束」で、取りあえず詰めるべく様々に嫌がらせをしてみたが、残念な事に相手が悪かった。
〜そんな繊細なテクニックが効く筈もなかった。
ーーールート工作せずアルパインスタイルでチャッチャと直で登攀する、生粋の野獣のような底知れぬパワー
生憎エベレスト登頂仕様の、ルート工作に使うザイル(ロープの事)以上、異常な、ぶっーーーっとい精神の持ち主の瑠架。
彼女の異様なタフネスぶりは、周囲を震え上がらせた。
「姐さんと呼ばせて下さい!」
「僕も〜!」
「ウワ 狡いぞ狡いぞ〜抜け駆けは!」
「姐さんに乾杯!」
「『不夜城組』の姐さんーーーーー!」
「姐さん!!」 「姐さんに敬礼ーー!」
一応職種は ”正義のヒーロー”
この世の悪を快刀乱麻かっさばき、にっくき非合法組織をお縄につける〜本来、取り締まる側である。
それがあろう事か? 実際は「不夜城組」姐の称号
ーーー「親分」街道まっしぐら瑠架なのである。
瑠架はぐーーーーっ…とチェアの背にもたれかかり、髪をワイルドにグシャグシャッと掻き回す。
普通 即女子力低下になるのだが、何故か猛烈にフェロモン全開になるのが不思議としか言いようがない。
その上ヒョイッとーーー
山岳のガレ場昇りで引き締まりピリッと素晴らしく鍛え上げられた、超超超健康的過ぎる、丈の短いタイトスカートに包まれた長い脚。
信繁の真正面で悠々堂々組み替えるから、彼は思わず目をそらしてしまう。
「俺の前以外でそういう事を絶対にするなよな?目のやり場に困るだろ〜
調子に乗る変質者に襲われたって知らないぞ?!」
「へ?なんで??
襲ったら、自分の方が秒で実験動物化されるかもしれないのに?」
「〜〜〜〜〜」 ーーーーその通り過ぎて信繁は頭を抱えた。
瑠架は信繁の”問い”に対し
『そんなの知ってるに決まってるでしょ?』 言わんばかりの顔をする。
「聞くも何も、ずっと貴方達の行動は、全部、飛んでる時は<不夜城>で計器のモニタリングしていたじゃない?
『全部知ってる』わ? 〜なにもかも。
今回『光学迷彩』乗せてる実験機の使い勝手どう?ーーーーヘリの調子は」
「今回も上々だったよーーー最高だった、事実”アレ”で無けりゃ撃墜されていたかもな」
「じゃお役に立てて、そりゃ本当に良かったわ。
でもよくあの修羅場の中から勝って、無事に生きて戻ってきたわよ〜アンタ。
あのキツキツのきわどい状況で 『貴方達だからこそ』ってーーーー
大切な実験機 託してよかった〜と、ほんっと 胸を撫で下ろしたわよ」
それを聞き、信繁はガックリ項垂れた。
「ーーーなんだ、一瞬俺の命の心配してくれたのかと思ったよ」
「え?いやーん
『信繁達も』心配に決まってるじゃない?!」
瑠架は元気よくアハハと楽しげに笑う
『どうだかーーーー??……』
信繁は心の中で呟き誰しも見とれる綺麗な腕組みをし フーーーーッ……と、ここへ来てから何度目かの深い溜息をついた。
「でーー……彼女は”ご存じ”ーーーなの?」
「イイヤあの時、偶然アグライア様は、雅の手による睡眠ガスの吸入でグッスリお休みでいらしたから~
あのーーー『数時間中の事』
暗殺の襲撃事件は 今のところ一切ご存じない」
信繁は淡々答える。
「まぁーーーその方がよかったわよ!
精神的ダメージが計り知れなくなったでしょう。
ーーーでも結局……『話が違う』”簡単な依頼”ではなかったわね……!」
「ぁあそうだな」
信繁も瑠架の瞳から視線をそらさずハッキリ同意する。
実はーーー今を遡る事 数時間前〜
城 特殊部隊 信繁班は彼女の搬送の真っ最中、激しい襲撃を受けたのである。
ーーーもっとも!! 襲撃ーーーなどという生易しいものでは無い。
入院中の大学病院は建物ごと標的にされ、数発の高性能ミサイルの爆撃を受けたのである。




