不夜城にて ①
「今はとにかくお体を休めて下さい ーーーー宜しいですね?」
信繁の言葉にアグライアはこくんと頷きこう考える。
〜だってーーー城には来たばかり、時間はまだタップリと沢山あるのだから〜
「ハイどうぞ、これをお召し上がり下さい」
ニコッと男性とは思えぬ優しい笑みを浮かべ、彼より盆の上の飲み物を勧められる。
『!』
〜サイドテーブルに用意されていたホットミルク。
器は綺麗な純白の〜灯りが透けそうな薄手の上質な、素晴らしいボーンチャイナ製のティーカップ。
いつの間にか小さな花柄の盆の上に乗せられ、タップリなみなみ注がれており、思わずゴクッと喉がなった。
信繁が用意していたホットミルクを、アグライアはありがたく受け取る。
そぉっとーーーゆっくりと口にする。
唇にカップ縁を沿わせると、少し熱めの温度のミルクが混乱し疲れた精神たまらず、オマケに…ほんのり甘いハニーの香りが漂うので驚く。
「有り難うございます、これ…ハニーが入ってるの?」
「えぇ、心も体も疲れている時は最高です。
『縁起担ぎ』でクローバーのハニーを使いました」
ふんわりと滑らかに、優しい甘さが口の中に広がったので『っあ…』 思わず頬が緩む。
『美味しいーーー』
デリケートな甘さは心まで蕩けるよう、様子を察した信繁がクスクスと笑い安心した笑みを浮かべる。
「ジャパンでは、クローバーの『ある数の葉っぱ』ーーー『4つ葉』は、持つ人にラッキーを運んでくると言われてるんだよ」
子龍がすらり長い腕を組んで語リ……ワイルドにクイッと顎をしゃくる。
「?」
すると、背の高い上官の脇に控えていた雅がニコニコと、胸ポケットからハンカチを丁寧に取り出すのだ。
ピシッと、よくプレスの利いた布帛を開くと、クルクル〜手品のように何かを取り出したのだ。
「ハイこれどうぞ」
『何かしら……?!』
そぉっと覗き込むと、細い繊細な指先につままれた薄い透明な樹脂カード。
その中に、ピタリ押し花にしたクローバーの花と、見事な「四つ葉の葉」が封じ込められている。
「ウワァーーーーいいんですか?」
「それを見つけて来たのは雅だよ?
お嬢様に是非ラッキーアイテムをっ!!ってな?」
子龍が優しい目をしてそう説明し雅の方に視線を向けると、ふふふっと本人は照れるのが可愛すぎる。
「ここの施設は、歪んだ時空の関係で『悪夢』を
ーーーー特に来て直ぐの頃は、強い影響により、見る事がよくあるのです。
私もーーーーそうでしたから……
ですので、今夜の塞いだ気分の『夢』は もぅ忘れて下さい。
興奮した状態の『脳』が作り出した、バグ、意識の過剰な誤作動にすぎません。
ーーーー宜しいですね??……?」
信繁は甘く、フワッと包み込むように微笑むのだ。
労りに満ちた〜魔法のすべが効いたのかーーー……
その晩は、アグライアは……
以後再び、暗く冷たい心の迷宮に彷徨い出す事は無かった。
グッスリと夢すら見ない深い眠りにつき、疲れ果てた体を漸く休める事が出来たのだ。
本当にーーーー墜落するかに眠りに落ちた。
************
「今から行くところがある」 信繁は子龍と雅にそう告げたから、2人共、子龍と雅は本気で腰を抜かさんばかりに驚いた。
「「!!」」
「マジかいッ!」
「……っっっ本気で言ってんですか?!」
「ああ、お前達は休め」
「!!〜〜〜〜しかもお前まだ”仕事” するのかよ!!」
「っっ…そうですよっっっ!
〜今日はあんな事があったのにぃぃぃぃぃぃぃぃ〜…
僕ら全員、あとちょっとで死ぬ所だったでしょっ!
ホントに信繁さん、いい加減キチンと体を休めないと〜〜〜僕もう知りませんよっっっっ!!」
「悪いなーーー」
信繁はぎゃんぎゃん大騒ぎをする2人にあっさり手をヒラヒラ振り、スタスタと某場所に向かう。
信繁が向かった場所は、城、施設内でもーーー
不夜城 〜と呼ばれる、特殊研究部門でも最も厳重なセキュリティを誇る場所。
しかし信繁は 手慣れた様子で何事も無く、網膜認証と、ブレスレッド型確認用データ
ーーーその他 認証に必要な様々な事〜
爆弾が炸裂してもびくともしないと云う、ぶ厚い金属製の扉の前で 読み取り専用装置にピタッと体をそわせる。
ピーーーーー♪
軽やかな電子音と共に、ユックリと肉厚の何層もの超金属製の扉が開く。
彼の体を奥に飲み込むと ”関所”は再び、固くスルスルと閉じられた。
同一の方式で、様々な箇所で信繁は入室許可を得ると、最奥のブースに向かいドンドン躊躇いも無く進行する。
各扉の前で、再び似た同様の認証作業を行った。
……どれだけ歩いたのだろうか?
とある場所で、信繁は胸ポケットからスルリと小さな装置を出す。
これは短い一定時間を過ぎると、様々に変化する複雑な素数を元にする16桁の暗号を次々に表示する装置だ。
中に通う、限られた者のみが許可制で持つ事が可能な ”特別な品” 認証キー
これが無いと、何人もこれ以上は「先には進めない」
信繁は手早く打ち込み、更に「静脈認証」も追加する。
ピーーーーーーー♪
認証装置のランプが許可の合図の色彩に、パチリと変化し、重い扉が開いた。
コツコツコツ、ガランと誰も居ない無人の廊下に彼の軽快な彼の足音が響く。
「今晩は」
コンコンとーーと。
とある全面透き通る素材で出来た部屋扉の、適当な場所を拳でノックをすると信繁は穏やかに明るく声がけを行う。
スーーっーーー滑らかに透き通る扉が変化し出し「不透明な壁」に色彩がいきなり変わる。
一見”脆そうに見えて” この透き通る扉は今まで彼が通過したどの扉よりも遙かに凄い強度がある。
因みにマジックミラー機能も搭載されているから気分によって形状が変えられる優れものである。
此処に勤める研究者は概ね『気紛れ』で、繊細な意識の集中を誰にも邪魔されたくない気質のものが多い。
今回は壁の様な扉は開いたが、場合によっては埋め込み式マイクにより通話が可能な為ーーー
「ドアを一切開かずに面会も可能」
ドップリのめり込む実験の手を、一切止めずに透き通る扉越しに客に会う「自由」と……
又は、特にうざったらしい相手に対し、居留守を使いたい場合」
好みの指定の色に相手が目にする前面が、 前が一瞬で不透明に”変化”し、上手く相手側は「見えず」自分は「見える」ーーーー
そんな2層に別れる、お得機能付きなのである。
相手とのコミュニケーションの手間すら一欠片も取らず、問答無用完全にピシャリと変わるという鬼の様な人でなしのツールだ。
ここまで手間暇を掛けて厳重なセキュリティをくぐり抜けて通過して遙々やって来た相手に対しーーーその対応は無いと思うのだが。
それでもあくまで「会う会わない」の取捨選択の主導権は、インナーワールドに引き籠もりがちの繊細な心のな住人側にあるのだ。
内部からカチッと音が響き、「来客は安全だ」と認識されたのだろう、解錠され再び周囲の色彩がパパッと透明に変わり、一部がシャッと開いた。
「今日はソッチに入っても構わないんだな」
言葉をかけると、その先の広々したブースに足を踏み入れる。
「あ〜信繁〜♪♪〜まぁそんな尖った事言わないでよ?
今日1日とーーーんでもなく大変な作戦だったわね!本当に……お疲れ様!
んーーーーそろそろ来る頃だと思っていたわ〜……
それからこの前は〜クリスマスの調理の時は本当に有り難う〜♪」
「……ああ」
信繁が内部に入るのを見届け、白衣を着て信繁を嬉しげに向かい入れたのは、城 クッキング教室・講師役、瑠架その人だった。
彼女の名前の「瑠架」は、ネオアメリカ軍・Navy所属の父親の家系が代々、敬虔なクリスチャンという事によりこの名が授けられたのだ
因みに彼女の母方家系に、医者が多い事も名付けの理由の一つと言える。
ルカは、地球ヨーロッパ世界では芸術を司る画家、及び、医療に従事する人間に対して、特に医者の守護聖人である。
まずまずのわかり易い、”納得の命名”であった。
「この前は有り難う!!」
ニッコリと感謝に堪えないピカピカの表情で、瑠架は白衣姿でニコニコ笑い、仕事着とも言える姿はとてもよく似合っていた。
時々は危険な溶剤や微生物系の「ナノテクノロジー作品」も取り扱う為、なんだかんだで白衣を愛用しているのだが、彼女は身長が170強なので、ウエスト幅に合わせると、支給された制服タイトスカートの丈が若干短くなる。
しかし見事な健康的脚線美な為、いやらしさは露程も無く、逆に 見た目的に溌剌とした不健康さがカケラもない若さ溢れる眩いキラッキラの輝きを放つのである。
「で?」
信繁はコホンと小さく咳払いをする。
そして〜珍しく若干緊張した面持ちで、こんなわざとらしい「枕」からあえて話し始める。
「良いニュースと悪いニュースとどちらから先に聞きたい?」
「あなたの考える良いニュースからに決まってるわ?そんなの」
「そうだよな、お前なら」
信繁はフーーーっとため息をつく。




