ナスチャのちっちゃなウサギのぬいぐるみ、その後〜
遙か遠き「地球」 ジャパンーーーー
城への旅立ちが正式に決定後
アグライアは「王城」のフレイヤ妃殿下のプライベート空間へお目通りが叶い、特別な居室に直接挨拶に訪れている。
「こちらへどうぞーーー」
慇懃に大王リーズ陛下の乳姉弟、フレイヤ妃殿下付きの美貌の女官長 エリザベスの誘導で、アグライアはフレイヤ妃の普段寛ぐ居間に通された。
いつもと変わらず、プライベート空間は何処もふんわりと良い香りと明るい清々しさで満ちている。
数多くの観葉植物。
花よりも〜瑞々しい爽やかなグリーンが目立つ気がする。
初めて来た時……想像とあまりにも違い 全然違った事に言葉もなかった。
本当にビックリし、てっきり惑星フレイの名高い夜会三昧の王妃の娘だから、きっと私生活はキラキラなものだとーーーー
「何処か先入観があったせいね」ーーーシュンと反省して思ったのだ。
「それにしてもーーーいつ来ても 優しい素敵なところね……」
穏やかで静かで、何時までも居たくなる場所!
彼女が巨大温室「クリスタルパレス」を好むらしい事に充分納得する思いだ。
実はアグライアもそうだったから共感出来、体のどこもかしこも、身も心も癒やされる感じに眼がジワッと潤む。
ーーーそして
彼女が今回通されたのは、”信頼の証”
以前よりもずっと遥かに奥まった、かなりの特別な部屋である。
ーーー思わず息をのむ。
それは直ぐに理解でき、胸が熱くなり体がフルフルと感激と緊張で震えた程だ、
〜と言うのも、そこには有名な ”とある大切な物” が置かれていたからだ。
明らかに極々気心の知れた、別格の身内しか入れない場所に入室が許された事がただもぅ嬉しい。
”とある大切な物” とは、世界でただ1つのモノーーー
見学者の目を楽しませる、白いモダンな猫足の小型テーブルに、麗々しく乗せられるゴージャスに丁寧な造りで生地が張られた「ぬいぐるみ用」ソファー
〜特別製のおそらくこの椅子の為に贅沢に織られたシルク製ブロケードが張られ、光り輝くサテン地と繊細に浮き出る模様が艶やかだ。
その上にチョコンと座る愛おしきモノ……!
『!これって!』
思わず驚きでアグライアは口元に手をやってしまう。
それは、ハッキリ” 見覚えのある有名な品”!
一時期本当に報道が過熱し、毎日凄まじかったのを思い出す。
遡る事しばし〜
フレイヤが再びこの星、トールに仕立ての良いマタニティードレス姿で静々と宇宙軍艦から降り立った際ーーーの事。
彼女が支え無しでタラップから降りる時に、両腕でしっかりとーーー!
ヒシッとまるで、音が聞こえそうな程真剣に抱き締めていた、小さなウサギのぬいぐるみ。
この「えっ?」と驚く、”らしくない意外性”は世間の衆目〜耳目を集めた。
このぬいぐるみについては、滞在中のジャパン旅行中で気に入り自ら買い求めたとか?
……或いは彼女のファンからの、出産と先々のご多幸を願うプレゼントだとか?
ーーー様々な説が囁かれた。
「古来からジャパンでは女児の幸福を願い”身代わりの人形を誂える風習があるのですよ?」
女児=フレイヤ姫の事だろう。
もしくは〜身籠もる愛おしい我が子の ”象徴” か?
概念が物知りの文化人類学者により公表〜
発表された時、数多くの皆は祝福を持ってこう考えた。
「お姫様はお腹のお子さんを呪ってはいらっしゃらないんだわ!」
ーーーー……と…
「勇猛果敢でならすフレイヤ王女様は、妊娠に至る経緯と我が国との軋轢と現状はともかく〜
少なくとも、お腹に宿すベビーに対しては公正で紛れもなく確かに愛情をお持ちだ」
「信じられないーーー見上げた崇高で清らかなな精神をお持ちの方!」
「でなければ、あんなしっとりした母性的な行為は絶対にしやしないだろう」
当初……「所詮は敵国の姫じゃ無いか!」
疑惑と厳しい目でジトリ、懐疑的だった世論は、ほんのささやかな、この一件で一気に雪崩をうって、フレイヤ王女の味方に付いたのだ。
それ程ーーー……
このぬいぐるみは、いっぺんに劇的に状況の風向きが変わる切っ掛けになった。
〜このちっちゃなウサギのぬいぐるみは、城 信繁班アナスタシアの秘蔵の品。
「この子は『私の妹』だも〜〜〜〜ん、絶対に譲ったり出来ないわよ!
……オカネなんかで」
そのように断言していた、愛情全てを注ぎ込んで作り上げた特別のぬいぐるみである。
フレイヤへのバースデイのご来光撮影の為、富士山をも一緒に旅行した「ぬい」は〜
その後、アナスタシアから彼女への映像のお披露目と共に白き病室に登場。
大いに場を和ませた、人間以外の立派な重要キャストでもあった。
アナスタシアは、決死の空港脱出の際の作戦直前、咄嗟に機転を働かせた。
〜急いで自室に戻り、飾り棚から自身の装備内ポケットにワンセット隠し持ち込み、本当の最後のお別れ直前に
「みんなずっと一緒だから!」
〜ストレッチャーに、酷く辞退するのをやや強引にギュウウ〜〜押し込み、フレイヤに急遽渡していたのである。
柔らかな可愛らしいぬいぐるみを愛でる姫の素朴な姿は雄弁で印象的で、飾らぬストレートな気負いの無さが胸をざわつかせ虜にさせる。
当然ーーー
このどうも「着せ替え」が出来るらしき、同一の品を我も我もと皆が一斉に欲しがったが ”販売先”〜
ぬいぐるみを買い求めた?「出所」は、いずれも王家から公表されず謎の侭だった。
「凄い……!!」
アグライアは ”普段は非公開” のそのぬいぐるみを腰を屈めて貌を近づけしげしげと見つめる。
そのまるでーーー掌に乗ってしまいそうな、小さなウサギのぬいぐるみ。
「本当に良く出来てるわ!!」
瞳、アイは、透き通る美しいエメラルドグリーンに、銀粉入りの物。
衣装とか靴とか素晴らしく、ワンピース全体も白……
衿も袖口レースも帽子も白。
身に纏う繊細な透き通る細糸レースがふんだんにあしらわれる、薄いシルク製のリボン刺繍がギッシリ細やかに縫い込まれている、見るからに特別な見事なぬいぐるみ用ドレスは垂涎モノだ。
スカートの裾の飾り、雪玉みたいな小さいボンボンが特に可愛いと思う。
ヨークのモフモフ、マイクロボアの素材も素敵素敵、可愛すぎる!!
所々アクセント?ーーー若干大きい飾りのボンボンも心憎い仕掛けだ。
こんなに小さいのにバッグ等の小物類がミニチュアすぎて凄すぎる。
うわーどうやって造ったんだろうーーー
針目も1ミリ以下じゃないかしら?!
まるで、オペラ舞台衣装に似た手の込んだ繊細な美しい造りだ。
〜見ていて何時までも見飽きない。
ああーーー私もいつか絶対、こんな衣装で是非舞台に立ちたい!
実際の本物の方が、頭で思い描いていた想像よりもずっと可愛らしい。
静かに優しく、豊で無心に清らかで
ついーーー今後の激しい不安と悲しみで知らず知らず心を尖らしていた。
ウサギのぬいぐるみが、エメラルドグリーンに銀粉入りの瞳で優しく見つめ返す様子に、思わず心がふーっと柔らかく和んだ。
この驚くほどキュートな様子なら、フレイア妃で無くとも必ず心の灯火にするだろうと緊張が解れる。
こうした”小さなモノを愛でる”
カワイイ物好きとか?
そういった趣味の無い彼女の目で見ても、完璧で途轍もなく可愛らしいのだ!
「すてき……!」
顔を近づけ、じっくり夢中で見つめすぎて
フレイア妃殿下が女官と共に、彼女との面会の為に入室したのも気が付かなかった程だった




