アグライア、城へ ①
アグライアが、ワープ航法につぐワープ航法で ジャパン・ハネダ宇宙空港に着いた時はそれは酷い「宇宙酔い」だった。
「きもちわるいーーーーウゥッツ」
ふらふらと宇宙戦艦から、何とかぐらりと落ちずにタラップの階段を手すりにつかまりながら降りきったのは実際奇跡で、出迎えの人々の満面の笑みが痛い……痛すぎる!
アグライアは、内心冷や汗で、今すぐ何処かに隠れたい心境ーーー……!!
『きっと心の中で、この国の人達には ”はしたない女の子” だと思われてるのね!』
っ!ーーーーええ絶対そうッッ!
惑星トールからの随行官、ジャパン高官、皆にーーー私は今見られている……
『まずいわッ、また吐きそうッッッ!』
格好の悪い、叔父の汚点になる言動は慎まねばーーー
しかし生憎 彼女の強がりもそこまでだった。
とても立っては居られない! 『もうダメ〜〜〜〜〜』
せめてもの救いは!、大勢の前で吐瀉をしなかった事だったが、頑張りもそこ迄で、そのままガクッ!と みっともなく膝から崩れ落ち意識を失ってしまう。
『丁度ジャパン時間は正午位かしら……?』
閉じた瞼でも日差しが何気に眩しい。
滑走路のざらざらした舗装が、針でチクチク突き刺すように冷たく膝頭を直撃する。
それもその筈 季節は現在「真冬」ーーー……!
華やかなクリスマスシーズンなのだから。
皆が待ち望む、聖なるクリスマスイブはもぅ直ぐそこである。
そんな彼女を、誰かがスイッと体を抱え上げてくれた気がしたが、完全にブラックアウト、意識が飛んでいた。
微かな残った意識化で、救援者の『顔』を見られなかった……のが、判別出来ず
お礼をこの先言えない事が、アグライアにはその事が非常に申し訳なく苦しかった。
彼女の想像以上の体調不良に慌てた空港管理スタッフにより、ジャパンの某有名な最寄りの大学病院へと、意識の回復を待たず大急ぎでドクターヘリで緊急搬送
ーーーすぐさま完璧かつ安全なる警備の為、『特別室』
病室ドアの外には、キリッと涼やかなジャパンの紺地の制服を着用した、凜々しい2名の長身の警察官の護衛、いわゆるSPが配備される。
遙々ジャパンに来訪した特使が、いきなり突然〜
航空機から出た途端、完全に意識喪失で倒れたら、これはもぅやむを得ない処置と言えた。
様々な検査が即座に行われ、極度の貧血と疲労、脱水症状が認められたが、その他は無事、特段、生命の異常は無い事はキチンと病理的に確認される。
関係者一同ホーーーッと胸を撫で下ろす。
がーーーー……念の為、1晩入院という事に決定する。
「〜〜〜〜〜〜……ごめんなさいーーーー」
「お嬢様はお気になさらずに、ともかくお体を労って下さい」
彼女は平謝りで 必死に病院看護関係者にベッドの中から謝罪するのだ。
ーーーー医療関係者の方が恐縮してしまう程に。
「良い方ですね〜信繁さん」
「あぁ雅、 本当にな…」
「っったく……!
あんなに周囲にメチャ気をつかったら、治るモンも治らないだろうが?
ぁーーー……もっともっと、体が本気で痛んでる時位、ちょ〜ズーズーしくても構わないって言うのになーーー?
実際、彼女本当に体調不良なんだし?
ぉいおい、あの娘、ホントに『姪』なのか? 性格良すぎるぞ??
ぁんなぁーーー『宇宙酔い』ーーーっ……て奴はだ?
屈強な男でも『今すぐ殺せーーーッ!』って本気で願う程辛いんだぜ?」
「そうなのか?子龍??」
「俺も ガキん頃なった事があるからな……!
あのときゃーーー マジで此処で俺は死ぬンだ!と思ったぜ?」
彼女のあずかり知らない部屋の外で、実はとある男達の間で密やかな会話が交わされていた。
アグライアの意識の完全な回復と体調が落ちつく迄、それからタップリ”数時間”
ーーーー暫くかかった。
「お加減は如何ですか?」
アグライアが休む特別室にて、テキパキと点滴と、複雑なベッド装備の様々な生命維持に関する設定を済ませた人物〜
水色と白の看護ユニホームの抜群に似合う担当看護師は、優しくそう言うとニコッと笑うのだ。
「有り難うございます」
思わずこちらも微笑みで返したくなるーーーーー
そんな可愛い『少女?』『少年?』……である。
その後、人なつっこい表情を浮かべる看護師が、まるで天使のような容姿の可愛らしいスタッフが嬉しい事に ずっと彼女の側に付き添ってくれるのだ。
ーーーーこういう配慮は嬉しく有り難かった。
(アグライアの目には10代の未成年者にしか見えない!)
アグライアは初めての環境にドギマギし……!
まして、生まれて初めて接する地球人の、噂に聞く「トーヨー人」と呼ばれている特殊なアジア人との直接の接触に胸がドキドキで。
オペラ「マダムバタフライ」〜は職業柄大好きな演目だったから、より強く……
好奇心いっぱいでその様に感じたのだ。
「そうですか、地球は初めてなんですね?」
「えぇーーー
でもジャパンは、とても有名なオペラの題材にもなっているので、声楽を志す者のある種の ”聖地” なんですよ?」
「『蝶々夫人』ですね?」
「えぇそうです」
「うぁあーーー自分もあの演目好きなんです!!
『大昔』舞台を拝見した際にこんな事がありました、海外のオペラ興行です。
劇中〜頑丈な『フスマ』、扉とは全く構造が違う『ショウジ』扉を〜
あっっ、これはジャパン家屋の…紙張り扉の1種なんですが?
現物を多分〜ていうか?
本物を絶対見た事が無くて???、とわからなかった外国の美しい演者の方がですね?
少し穴を ”ちょん”とーーー繊細な細い木枠に張られた障子紙
〜要するに、光が明るく透き通るほど薄い紙の事!
唾液で、水分で濡らした指先で、プスッと開けて、コッソリと中の様子を可愛らしく覗き見る〜
つまり、キュートにコチョコチョッと盗み聞くという、その時の設定が、”何を表現してるのか” わからなかったんでしょうね。
いきなり
ーーーー振りかぶったパンチで、可憐で華奢で綺麗なヒロインが、バリッと本格的格闘技家みたくセットを力一杯破壊したんで。
驚きの余りーーー 一瞬の静寂の後……!
ジャパンの会場は大爆笑の渦でした」
「なにそれ酷い……!!」
アグライアはお腹を抱えて笑った。
その可愛い看護師は、緊張をほぐすように、興味を持てるような 沢山の面白い話をしてくれた。
『気遣いが嬉しいわ……!!』
ーーーー……あれ程 『もうダメーーーーー!!』
青息吐息、喉から胃が出そうな強烈かつ猛烈な吐き気が ゆっくり……ゆっくりと、次第に穏やかに緩和されて来たのだ。
勿論ーーー
処方された即効性の優れた効能の医薬品のお陰もあったのだろうが、こういったことは自律神経などの気分にもよる。
交わした会話で、上向きに気が紛れて……
次第にあの死にそうに感じた不快な吐き気も次第に治まって来たのが、彼女自身にも信じられなかった。
「おいくつなんですか?
ここは学校外の、研修とかの、実習訓練の教育で来てるんですか?
あなたはジュニアハイスクールの生徒さんですか?
お勉強ーーー実習大変ですね?」
それを聞くと、何故か可愛い看護師は、ケラケラ面白そうに笑う。
「えぇぇぇぇぇぇ〜……!!」
「ーーーーもう慣れっこです。
ジュニアハイスクールの生徒ならまだ良い方ですよ?
大抵〜
『ぁらまぁ、こんなに小さいのにご苦労様、ママのお仕事のお手伝い、ホントにこんなに頑張ってて偉いねぇ〜!』
〜が自分の定番ですから……!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「もう『成人式』も、20歳の門出の祝いも、とっくにタップリ済ませた立派な大人なんですけどね……
あぁこれ、中に加熱した『アズキ』、そう言う名前のビーンズがタップリ入った肩用枕です。
スッゴく気持ちいいですよ?
”気持ちが悪い”時は、肩がビシビシに堅く張ってる場合が多いんです!」
ニコッと微笑み、彼女の薄い肩にふんわり温かな温度の、サラサラ音が耳にも優しいミニクッションを、不思議な童顔の看護師は、まるで頸に巻くマフラーのように優しくセットしてくれた。
更にーーー看護師の本当の歳を聞くと!!
殆ど、ほぼほぼ同じ年齢だったのには仰け反る程にビックリ仰天
ーーーー本当に驚いてしまう。
「トーヨー人」の年齢は、本当に判りづらいと思った。
でも~何だか嬉しい ーーーーだって可愛いのだ。
本当にミステリアスなエンジェルみたい!
カラリーーーーー 漸く体調が整ってから ーーーー数時間後ーーー
時間は深夜帯に突入していた時、優しい目をした看護師が、そっと病室に
〜密やかに
ーーーーー忍ぶ様に訪れた。
「?」
「シーーーー!」
綺麗で細い左手の人差し指を……
ピタリと優しく アグライアの唇に当てる。
驚きで 目をまんまるにしていた彼女に、不意に後ろ手に 隠す様に所持していた筒を
ーーー筒に装着の、”透明な樹脂マスク”部分を、いきなり口にグイッと強く押し当てたのだ。
「〜〜ぅんんんっっっつっ……!!」
シューーーーッツ!!!!……
そして~ 一気にーーーー何かのガスを吸わされる。
そのまま再びーーーーー
ストンと意識が完全に飛んだ。
特別室「扉」がーーー……
サーーっと開いた音が微かにした気がーーーした……
『ここは何処……?』
気がつくとーーー……どこもかしこも白い、見知らぬ真っ白な空間に居る。
謎めく部屋〜 中央部に位置する場所ーーーーに
彼女は中空に頼りなげに浮かぶ「無重力ベッド」に、アグライアは長々とトロンと寝かせられている。
「ここはーーー!!」
〜ぁああっと驚愕したものの頭が霞がかかった様で、何もかもがボンヤリして思考がまとまらなかった。
彼女はーーー…… つらつらと混乱する脳内で、姉タレイアの事を思った。




