ロームルス ①
惑星トール軍事参謀長官 ロームルスはフレイヤ妃殿下との面会の許可を得た。
トール 王城 内設置ーーーー……巨大な温室 「クリスタルパレス」
とある1角ーーーー早朝
そこがフレイヤとの面会の指定された場所。
トールが誇る銀河でも有数の美しき巨大温室の中は、様々な極彩色の珍しい銀河の花々が、彼等が育った惑星を模した疑似空間に、常に満開に咲き誇っている。
パレス内 各区画には個別に「名称」はつけられてはいないが、いつしか誰から言うとも無くそれぞれに「あだ名」〜
そこを愛する者達によって麗しのニックネームがつけられて今に至る。
ロームルスが向かったのは、その中でも別格、屈指の美しさを誇る一角で、地球ジャパン産の美しい素晴らしい桜の樹木が数多く植樹されていた為〜
桜宮〜と呼ばれている。
宮〜キュウとは、パレスを表す別の言語、「パレスの中のパレス」は”少し変”だったが、エキゾティシズム溢れる短い名称を!〜と、此処を愛する誰からともなくそう言い出したらしい。
フレイヤ妃はこの ”桜宮” 〜ジャパン産の『桜』が咲き誇る区域に建てられた東屋で、1人で静かにタブレットの電子書籍を開いていた。
「素晴らしいな、矢張りここはーーー」
一重咲きの桜に八重咲き桜に枝垂れ桜、様々な匂桜。
淡紅色ーーー桜色 純白、白、黄緑 緋色、紅紫色、紅、濃紅
今は盛りと艶やかに満開の桜花ーーー
ハラハラと舞い散る花吹雪。
たわわに花房をつけた大きな枝垂れ桜の陰には、さらに……美しき石像がある。
ーーーー地球産純白の白大理石に刻まれた〜白雪の滑らかな石肌ーーー
白玉のような優美なる艶めきを放つ 清らかな乙女の姿形の天使像が極控えめに添えられている。
花影のロマンティックな石像……
これはとても人気があり、乙女に花を手向ける人々の姿が堪えないのだ。
この天使様、いや女神の背中側には元々、流麗に、美しいカリグラフィーで整えられた字体で切なく美しいメッセージが刻まれていた。
”ーー…… ”…… 〜へ……
我が愛しき君に永遠の愛を捧ぐ
”ーー…”…より 生涯の忠誠を込めて
かつては、まだメッセージの”宛名”も”送り主”の名もキチンと解読〜判別でき読めたとの事だが。
「彼女に恋愛成就の祈りを捧げると必ず叶えられる」
いつしかーーーーいつの頃からか。
誰とも無しに言い交わすようになった事から触ったり、この名前部分を「御守り」としてコインや刃物、ヤスリで削り取るフトトギ者が続出し横行。
ーーーその為もう現在では詳しいことはわからない。
一体誰が誰に向けて贈った言葉であろうか??
諸説有り、恋を誓い合いながら、永遠の別れを迎えた相手を偲び建立したとも。
結ばれない悲恋から〜……忍ぶ恋の相手を想い、ここに愛を誓ったとも??
いや!! 結ばれた恋の記念碑として「永遠の愛を誓ったのだ!」
ーーーという者も居る。
諸説有るがーーー……”誰しも” 乙女の姿の天使の立像から。
ミステリアスでロマンティックな男性が、おそらくひっそり恋したう女性を想い、密やかに人知れず建立したのだろうという意見は一致していた。
クリスタルパレス職員は 全員黙して語らなかった、よって皆首をひねるばかりで 真実は何もわからなかった。
然し、それがかえって、白き天使像の 高潔な神秘性を生む事象になり、恋に落ちた恋人達の守護天使、彼等には無くてはならない心の灯火。
そしてまた、母国に恋人や愛しい大切な人を残し、唯1人後ろ髪を引かれながら
母国から気の遠くなる程、果てしなく遠い星系に出発しなければならない心細い人々の、生きて再会を誓う、素朴で純粋な心の拠り所ーーーー
永遠の恋人達が愛を誓う、神聖なグレートな宮として機能。
現在のトールの、神秘的でスピリチュアルな、大切な祈りと誓いの場として愛おしく愛されている。
今朝は珍しい事に、普段必ず1人は祈りを捧げに来た民人が居る筈なのに、この密やかな美しき区画には彼等以外誰の姿も無い。
それもその筈、ロームルスが「人払い」を、先程行ったからだ。
温室内 小さなドールハウスのような東屋は、ハラハラ舞い散る薄紅色の桜吹雪に抱かれてーーー
フレイヤ妃は、まるで汚れ無き桜の花の精ーーーいや くだんの乙女の天使像の女神が天界からフィッと気紛れに地上に降り立った様だと、案外ロマンティックな事柄を愛するロームルスは ふいに目眩に似た美しき錯覚を覚えさせる。
「お久しぶりです」
彼は礼儀正しく挨拶、フレイヤは朝の清浄な光に照らされ、清らかな微笑みを浮かべる。
「……!」
ロームルスは一寸怖い顔を作る。
「先日、出産という戦場から帰られたばかりのーーー尊いお方が
早朝の、温度が全館快適にコントロールされているとは言え、こんなジャパンが4月上旬の温度設定、冷えた冷たい場所に、そんな薄着でいらっしゃってはお体を確実に冷やします。
ーーー男性と繊細な女性の肉体は違います、殿下」
「別にーーーお気になさらずに」
「それはなりません お妃様、何かあってお体を壊されては 私が困ります。
ーーーですから……
お体をくれぐれも冷やしてはいけませんよ?」
ロームルスはバッと自らの仕立ての良いコートを脱ぎ、フレイヤ妃の細い両肩にかけた。
背の高くガッシリとした彼の肉体に合わせた衣類は、痩せて小さくなった彼女にはサイズが明らかに大きかった。
だが返ってそれが良かった。
スッポリと……まるで守り、埋もれさせるように彼女の体を覆ったからだ。
「有り難う、正直な方ですね、閣下は」
彼女は小さな声で謝意を伝え ロームルスに微かに微笑みかける。
「少し歩きませんか?」
「お付き合い致します」
穏やかに電子書籍の装置を閉じた妃に、ロームルスは紳士の口調で答えた。
現在2人がいる東屋一帯は、樹木が大型なので広大なスペースの敷地面積と高さを誇る区画になる。
そんな雄大な桜宮の中でもことさら、トール大王が事にお気に召した区画で
ーーー王城の若い女官を伴い毎夜ロマンスーーーー
恋を語り合う 尊い神聖な場所である。
「覗き見など恐れ多いことだ!」
無粋な監視カメラの記録媒体のたぐいは特例にて全て撤去されている。
ロームルスは「これを利用」し、密使との「人に聞かれたくない話」をする際は時々利用していた為、クリスタルパレス職員達とも顔なじみであった。
勤めるクリスタルパレス職員も内々にそれら極秘の事情を全てをよく承知している。




