ロームルスの姪、アグライアの心情 ③
「酷いわよねぇ〜お父様ったら!!」
「んーーーーでも、タレイアと2人っきりだなんて、本当に久しぶりだから、私は逆に嬉しいわっ!」
本当は悲しくって辛かったけれどーーー
ブツブツ言う姉を一生懸命に元気付けたくって、精一杯私は気持ちを奮い立たせて言ったのだ。
それに二人きりでいられたのは事実とっても嬉しい事だったし?
お別れは一時的な物だ 私は必ずここに帰ってくる。
そのつもり」だったからーーー……こんなに寂しいのもチョットだけ!
またすぐにーーー
「ただいま!」「お帰りなさい!」ーーーって会えるから。
そうーーー思い出しても、この当時の私は馬鹿みたく本当に子どもだったのだ。
出会いと別れはトランプゲームみたいな物
一期一会、その瞬間しか手元に無いし同じカードはほぼ2度と無い。
今言えない事が、未来何故言えると考えるのか?
そんな保証などどこにも無い ーーーー「時間」は今しか無いのに。
”祭りはいつまでも続く” 呑気に考えて居た、コドモの私は単純にこう思った。
”だってーーーーー!! 今日は何をやっても、何処へ行っても自由なのだ!”
”こんなに晴れ晴れするチャンスなんて滅多に無い”
「自由」
ーーーーというものがどんな重い責任を負うかなんて、これっぽっちも考えてはいやしない。
そうだ、”恐るべき子ども”だったのだ。
「危険かも知れないのはソリャ確かだけど……」
「…フフフッ〜誘拐されずに帰ればいいんでしょ??
だったら『大丈夫』!!
だって〜……最新式の『警護用ドローン』を用意して来たからね!
ほら見て見て見て!新作の素晴らしいドローン”くらげちゃん”よ!〜可愛いでしょう?!」
なる程ーーー!
タレイアの指し示す高度に、ぷかぷかとクラゲみたいな雰囲気の味のあるドローンがヒューーーーンと、ジェット噴射でチンマリ良い感じで浮かんでいた。
当然カラーリングは……
周囲の光景に馴染む様に、鈍いグレーの独特の塗装が全面に施されていた。
「『クラゲちゃん』ーーーー
もっとホワイトにピンクの水玉模様とかだったら可愛いのにね♡」
姉の「可愛いでしょう?!」は毎度少々『?』が付く。
「え〜〜〜? だと役に立たないしーーーーー
しょうが無いよ?タレイア
確かにーーー抑止力としては”いいかも”だけどーーー
悪者に見つかっちゃって……!
”あそこだーーー!撃て!”〜〜って、テログループに真っ先に狙われてしまうじゃない?
自分を守る装置が無くなったらお手上げでしょ?」
「フフフッ だよね〜」
そんなこんなの〜たわいない話をして盛り上がり、姉妹2人で仲良く、民間の飛行艇に乗船しーーー……
あっっ そうそう〜
大統領府防犯部都合で、電力が切断する事が出来ないクラゲちゃんはーーー
キャーッとジタバタ嫌がるのを無理矢理、姉の肩掛け式ドラム型バッグに2人がかりでギュウギュウ押し込んで運搬したんだったっけ。
〜私達には絶対に攻撃出来ない設定だから、それが可能な荒業だった。
そんなこんなで公共運賃を支払い〜
宇宙空港まで重い荷物やスーツケースをウンセウンセとゴロゴロ運んだのはいい思い出だ。
クラゲちゃんは、宇宙空港に着いてからゴソゴソ取り出してあげたら、マシンだけどちょっと塩たれていじけてた。
機械なのに、何だか如何にもホッとした感じで……
フニャ〜ンーー〜と、フラフラーーー
ヨロヨロ疲れ切った様子で飛び上がったのが、まるで感情を持って居るみたいだった。
姉じゃ無いけれど、何だか本当にユーモラスで愛おしかったっけ?
「わぁ!」
ーーー見知らぬ場所、何時も通される ”ルート” ”場所” ”特別な扱い” も無く、何でも他人にして貰える貴賓席では無い場所。
自由ーーー……生まれて初めての「ひとり旅」
普通は不安でいっぱいの筈
でも! この時の私は!
身体からはち切れそうな未来への明るい希望でフワフワ、まるで天に昇りそうな程ワクワクしてたから ちっとも辛くは無かった。
それにだってーーーーーー!!
何と言っても大好きな姉と ずっと居たのだし?
ーーー常に父にコキ使われ忙しい姉と、こんなに長い時間楽しげに共に過ごしたのは初等部の幼い子どもの時以来っ!
「済みませんお願いしますーーーー〜〜〜〜ッッ!」
宇宙空港では姉がポーターの担当者を目敏く見つけて手際よくサクサク、重苦しい”留学セット”運搬を手伝って貰った。
近寄ってきたポーターのイケメンなお兄さんは、ギョッとへたり込みそうな感じで私達に意見する。
「何で大統領閣下の大切で高貴なお嬢様方が、こんな事してるんですか!!」
〜〜〜〜そうでしょうとも!!
空港の職員である「ポーター担当」の若い青年は……
無鉄砲さに呆れるやら驚くやらで、腰を抜かさんばかりの表情だった。
「今日の事は貴方と私達だけの秘密よ……? 絶対に誰にも言わないでね?」
タレイアはニコッと罪深き天使の微笑みを浮かべた
「お望みとあらば、お嬢様ーーー……」
ポーターの爽やかな青年は、薔薇色に頬を染め、ぽー……っと姉の顔を眺めるばかりだった。
ーーーー……怒りんぼの父よりも、大統領〜政治家という職種は、タレイアの方が断然絶対向いていると確信した瞬間だった。
「ねぇアグライア!
どうせなんだからタップリここの施設を利用しましょうよ!!
先ずはそうねぇ〜〜〜……!!
マスメディアで話題独占、流行の『食べきれるか巨大パフェ』
一緒に食べない??
”トライ” 私達もしてみない?!」
「や〜〜〜ん食べる〜〜〜!!」
私達は荷物を搭乗カウンターを通して一気に手ぶら、持ち物が小さな小さな手荷物こっきりの身軽になると、ふたりで空港内の様々なスィーツの店を探索して次々に制覇しまくった。
笑って食べて、沢山沢山キャッキャと話をして。
ふたりでお互いに〜……
バースデーソングを小さな声で唄ってお祝いして
”お誕生日ケーキ”の代わりに。
2人以上でしか注文出来ないという、超特大パフェを”お願い”しーーー……
「うわーーーーーーーっっっっっ!」
何これ素敵、こんなの見た事が無い!
「お待たせ致しました」 凄い! 凄すぎるっっ!!
父と子と精霊の為に〜無事完食出来ます様に!
奇妙な ”食前の祈り” を済ますと、私達はお腹がパンパンになりそうな程、いっぱい食べた。
いっぱい いーーーーーーーっぱい食べた!!
甘いバニラの香りが最高の、バニラアイスにふわっふわのトロリ濃厚なホイップクリーム……
綺麗な色のサクランボ、どっさり信じられない程入った懐かしい味のカスタードプリン
色とりどりのジューシーなフルーツ!!……
キウイにピーチに、サクサクアップルに、メロンにオレンジに……後バナナ!
トロットロのあま〜〜〜いチョコソースがたっぷり、もう最高!!
後には果物の皮と空っぽの、大きなガラスの容器が残っただけだった。
「私達食べちゃったんだよね〜」
「ウッソみたい〜!」
凄い凄い凄い……
ビックリするが 噂の巨大パフェを何と2人で本当に完食してしまったのだ!!
「今日は色々と有難う」
「どう致しまして、私もこんなに楽しかったの久し振りーーーよ?」
スペースシャトルに乗り込む寸前、私は今までの一連の事を「本当に有り難う」真面目に姉に心からのお礼を言った。
惑星ラオコーン〜地球間の、巨額の渡航費用や、時差が無い高額の最新式ホログラム通信費の関係で。
この先〜滅多にもう、姉タレイアには こうして会う事が今後帰国までおいそれとは出来ないのだ。
つまり、これから数年間滅多に会う事は出来ない
ーーー声は聴けない
それが悲しくて哀しくて涙が零れた。
しかし夢を叶える事ーーーー技術を習得する事が私のするべき事〜
銀河で知名度が限りなく低い、貧相で貧乏な祖国の命運が掛かる”私の使命”なのである。
もうどんなに寂しくとも、後戻りは出来ないーーーー前に進むのみだ。
タレイアは優しく私をギュッと抱きしめ、そして、耳元で囁く。
「今日は貴女がもう1度生まれる~新しく自分の人生をつかみ取り『生まれ変わる』記念すべき日よ?
ーーーだから、旅立ちは御目出度いこの日でいいの。
普通の日だったら、私達も大人になってーーー!!
いつか私達のレボリューション……
お父様やお母様に勇気を出して〜『革命』を起こした事を忘れてしまうかも知れない
あの世代の人達は観察していると、本当に〜嘘みたく忘れっぽいからねっっ!!
……でもーーーー”最高の記念日の出来事”だったら、今日の日の事は生涯決して私達忘れないわ!」
「タレイアも……『あの夜』ひょっとしてーーーもしかして勇気がいったの?」
私は驚いて身体を離し、目をまんまるにしビックリして聞いた。
姉は明るく楽しげに笑う ”悪戯完了”と言った風情だ。
「〜もちろんよ!!
心臓なんか口から飛び出しそうに高鳴って、それはもう すっごい緊張したものっつ!」
私達は 姉妹仲良くクスクスと声をそろえて笑った。
そっか〜 姉も頑張ったんだ、不甲斐ない妹の為に頑張ってくれたんだ。
本当は〜私が自分でしなければいけない事だったのに!!それなのに!
ーーーー本当に御免なさいっっ!!
私はこの留学で強くなるから……
必ずタレイアが守れる位にしっかりして帰ってくるから……!
待っててね?
私の事を忘れないで……
必ず強くなって戻ってくるからねっ!
溢れ出る感謝の余り、震えて、胸がいっぱいになった。
「ほらー〜〜…! コラそんな顔しない!!
綺麗な声で唄ったり〜……
元気に笑っているアグライアでなきゃあ私嫌よ?」
「タレイアーーーー!」 もう たまらなかった。
タレイアは『泣き虫』の私が落ちつくまで、いつぞやの夜のように、そのまま優しくピッタリ抱きしめていてくれた。
「ゴメンね?」
「いいのよ」
ううん?ーーー最後の最後まで本当に御免なさい。
私とは同じ遺伝子〜同い年〜の筈なのに……どうしてこんなに姉はここまで大人っぽいのだろうか?
目立たぬ様に、私達姉妹は、共に地味で装飾性の無い何処にでもある大量生産品の
……「ありふれた服装」を着用してここまで来た。
「じゃあね!!」
「タレイアも元気で!!」
そんな私達を、クラゲちゃんだけがフワフワ、漂いながら見守ってくれていた。
ゲートで手をずっと〜
千切れそうにブンブン振り続け、私にキラキラとした瞳で
「頑張って!」
大きく最高のエールを全身で贈ってくれた姉は
ーーー今まで目にして来た外交上の大がかりなパーティーで着用の、どんな高価なシルクのドレスやーーー……
国家秘蔵の伝来のハイジュエリー
大粒のダイヤモンドを、ティアラにネックレスにリングにピアスと……
ジュエルを全身、身にまとい正装した時よりもっ!
ーーーー誓って良い。
燦然と、体の内側から 眩しく美しく光り輝いていた。
ーーーー素晴らしく美しかった。
私も、今日の日の、神々しいまでの姉の姿を生涯決して忘れない。
シャトル搭載のロケットが地球に向けて発射されて船窓から見る……
次第に遠ざかる茶色の、荒ぶる星
どこもかしこも砂と氷に閉ざされた、惑星ラオコーンの姿を。
すっかりーーー何も見えなくなるまで じっと窓から見守っていた。
姉が言うとおりーーーーーー
私はこの厳しい環境の星が大好きだった
「??」 あれ?
一瞬、地表は同じ2色ばかりだと思っていたのに……!
微かに1点だけ、鮮やかに燃えるような紅い色と眩い煌めきが見えた気がしたのだが、直ぐにフッとあっと言う間にかき消えた。
ーーーー見間違い? わからない
ーーー……アレは一体全体何だったのだろうか?
この人生最良の燦めく日……
まさかーーーー 数年後 何もかも
最愛の姉すら失うとは 私は夢にも思わなかった。
留学から3年後の18歳
本当に突如ーーーーー……何の前触れも無く
愛する祖国、ラオコーン首都で軍事クーデターが勃発した。
国の最高権限を持つ大統領夫妻である〜私の両親は銃殺にて処刑。
姉タレイアは生死不明、行方不明になった。
私は大統領支援者の手で地球を離れ、叔父様の住む惑星トールに政治亡命した。




