ロームルスの姪、アグライアの心情 ②
私達は堅く手を繋いでプライベート居住区内の、私にとって強い、打ち消せない程の激しい怒りと憎しみ
或いは、恐怖の対象でしかない父の元に進み出た。
ーーーイライラと未だ怒り冷めやらずの父。
心配そうな美しい母。
母さまーーー男性を見る目が全然無かったね!
本当に若き日、タレイアの言った通りの格好いい時代があったの?
嘘みたいだけれど〜……それは本当の事なの?
ーーー私にはとてもそんなの信じられなかった。
そのーー……2人の大人を前に姉、タレイアはドーン、両足を開いて立ちキッパリ言い切る。
「アグライアに……!
『地球』ーーーで、音楽のキチンと正規の勉強をさせてあげて!!」
えっっ??? どうしちゃったの一体??
何時もの楚々とした「父好みの優等生」のーーーー清楚な姉の姿では無かった。
〜本当に全然違った。
本来の快活な、私にだけ気を許して見せる”本来の気質”〜ずぅっと隠し通して来たタレイアの本当の姿だった。
驚く両親に1歩も怯まず、この夜の彼女はーーー
まるで怒れる小さな黄金のライオンさながらで。
誇り高きーーーー……! 金色の小さな獅子は 高らかに咆哮!!
「いいですか? このままではアグライアは、妹は、間違いなく壊れてしまうわ!?
ダメで元々で、私達全員で賭けてみましょうよ?
もしも上手く行ったらばーーーーー……!!
文化都市惑星の惑星フレイの王家にも、お父様威張れるわよ?
叔父様のいらっしゃるトールにも、大きな顔が出来るんじゃなくて?」
姉は 父の痛いところをズバッと突いた。
叔父様のーーーー
お母様の義理の弟のロームルス様とは父は、誰もが認める程の犬猿の仲なのだ。
2人のーーー……端で見ていても最悪の間柄なのは直ぐに解る程の!!
元々ソリが合わないにせよ、どうしてそこまで拗れたのか〜は……ハッキリした事はわからないが。
姉が昔ーーー遠く離れた氷原の地にフィールドワーク中に遭難。
雪原であと少しで、彼女が死にそうになった事が決定打となった ”原因” だと
ーーーー当の遭難当事者であるタレイアから聞いたことがあった。
「お父様、私は譲りませんから!」
「何をーーー!」 憤懣に声を震わせ気色ばむ父に尚も畳み掛けるのである。
それはもう、勇猛果敢で容赦なかった!!
「私も~……アグライアも同じ遺伝子よ?!
子どもの頃に亡くなった『エウプロシュネ』の3人で、本来完全な”姉妹”だったのよ?
3つ子の私達が……
ーーー難産の末お母様から産まれた時……!
『これは奇跡の神様からの恩寵〜グレイスだ』ーーーーって……
お父様は感動の余り仰ったとか??」
タレイアはキラキラと光る瞳で訴えかけた。
「お父様が『恩寵』
グレイスという言葉の語源になった3美神~
3人の美しい女神の名前から私達の名前を自ら名命されたのをーーー……
私は今でも誇りに思っているわ? とってもね!!」
「〜〜〜〜……」
タレイアの態度は完全に戦闘態勢だった。
完璧に、場の主導権を握っているのは最早、無意味に理不尽な父では無く、何処からどう見ても 賢い理論武装した姉タレイアの方だった。
タレイアはスゥーーーーーウ…と……!
大きくーーー本当に大きく息を吸った。
そして強烈な舌戦ーーー”姉が主役”
ーーーーーー第2幕が開幕した。
姉、タレイアは胸を張って堂々と言う。
「ーーー確かに、妹にもーー大統領職の〜優秀なお父様の目から見たら。
そりゃぁーーー至らぬ事は多々あるはずと思うわ?
でもその分~……必ず私がアグライアの分まで仕事も勉強も ”今後”も。
申し分もない、お父様の後継者として頑張るから、〜だったら!
国を率いる指導者として 全然文句ないでしょ?!」
タレイアはニッコリ笑ってーーーーー
尚もビシビシ追い打ちをかける様にこう言い放つ。
「本当はーーー『歌の勉強』がダメなんじゃ無くーー……
歌そのものが嫌い!
そしてーー……お父様は〜家族の名目で、娘を支配したいだけでしょ?
そうじゃないの?」
表情は笑っていても、瞳は冷ややかに鋭く輝いていた。
「アグライアはね この星を心から愛してるわ?
だってまるで…… 唄を歌う時、ラオコーンの女神様がこの地に覚醒したかに見える時があるもの
お父様はーーーー……その妹に『この星なんて大嫌い!』
そこまで言わせる程 追い詰めたのよ?
本来力のある者は、弱者に対しては鷹揚に寛容で有るべきなのでは?
”フェアじゃない”ーーーー
トールの『叔父様』だったら必ずそう仰る筈よ??
ラオコーン大統領として如何かと、資質が問われかねないわ?!
そして私は今だ『学生』でーーー未成年者。
親には守られるべき存在、全力で勉学に勤しむべき立場と年齢ではなくって?
ーーーねぇ『お父様』?」
その後〜まるで取って付けた様に、綺麗なタレイアはウフフフフ……と!
誰もがボンヤリ虜になる必殺の微笑を浮かべた。
計算し尽くした冷静なタレイアの斬り込みにーー……
「勝手にしろ!! 」
単細胞の〜肝心な時に怒ってばかり、辺り構わず怒鳴り散らすしか芸が無い大統領の父はグウウッと思わず言葉に詰まった
『出た!!』
父のーーー ”勝手にしろ!”ーーー
彼のギリギリの、根拠の裏付けの無い馬鹿らしい自尊心を取りあえず守る、自分では ”決めたつもり” の、なさけない言葉
ーーー敗北を示す捨て台詞だった
未だ賢い母とタレイアが大統領の金看板を守るべく巧妙に、さり気なく必死でカバーしているから醜聞が表沙汰にならないだけ。
父の実態は、小心で頼りないしょうの無い男の人だった。
しかも母や姉の腐心のそれを感謝するでは無しーーー!!
普段 〜〜散々我が儘をーーーー
おとなしく、親の言う事を何でもハイハイと聞いていた有能で物わかりがいい真面目な姉に押し付け、顎で無償でこき使って ちっとも恥じない父。
ーーーでも保身にかけては人一倍、才能を発揮する父。
後ろめたい、痛い所を散々ーーー
あの時グサリと ”側近中の側近 ”
寄りにもよって完全に見くびっていた娘に突かれたのだ……!
もしも~学生で有りながら ”優秀な美人秘書役” である彼女に、明日からでも随行を「全面キャンセル」〜
学業優先を盾に、ストライキを決行されたら、とたんに自分が行き詰まって「万事休す」
”お手上げになってしまう!”
〜のを都合よく、父は言われて突如、急に思い出した様に見えた。
ーーーーーそうなのだ、父への随行行為は あくまでも姉が敬愛する父への好意による「ボランティア」
”学生の本分”は本来「学業』なのである。
〜しかも私達は未成年〜
母は政府筋の切り盛りを分担で任されているから、そもそもお気楽な父には 他に選択肢がないのだ。
「まぁ……お互い頭に血が上ってたんだ、怖い顔をお前もせず 穏便にいこう」
父の表情が甘ったるく激変、突然猫なで声に変わったのには気味が悪かった。
あのさっきまで、耳をつんざく金切り声で私達に散々圧を与え、所構わず大声で喚き散らしていたのに?
私は余りの変貌ぶりに心底ギョッとしたが、タレイアは何事もなく 全く平然としていた。
『よく有る事なのよ、お父様〜気が小さくて虚勢を張りたがる方だから』
耳元でコソッと、タレイアが極小さな声で囁いた。
つまり勝った!ーーーーーー 姉も私もそう悟った。
それから暫く立って、私が祖国ラオコーンを、荒ぶる愛する星をスペースシャトルで旅立つ日〜
着陸地宇宙空港 ”地球行き”の船に乗船、留学が無事受け入れられたネオアメリカ名門音楽学校に向かうのは丁度、私達姉妹の15歳の誕生日、当日だった。
ーーー宇宙空港への見送りは〜ポツンと、姉タレイアだけだった。
留学を一応は許可したとは言え~大人げない父が。
大統領府の親しい顔見知りの職員達に、嘆き悲しむ彼等に対してお別れの見送りや送迎の類いを一切許可しなかったからだった。
子どもの頃から面倒を、なにくれと無く優しく見ていてくれていた大好きな人達だったのに。
そんな心優しき人々にお別れが出来ず、なんと酷い命令だと本心では腹が立った。




