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打ち上げで美味しいお酒を飲みましょう ①


信繁は寮の私室に、親友の子龍と雅、ヨンを誘った。


今回の”理由”は、クッキング教室作業を共に頑張った3人に対する、彼なりの慰労の為の打ち上げ、労いである。


 

ーーーつまり「ご苦労さん会」うち飲みの”飲み会” である。


信繁も、もう昔のような子龍との相部屋では無く、れっきとした1人用の個室が与えられている。


そして小さいとはいえ、多機能、結構な本格的仕様の立派なシステムキッチンも備え付けられている。


三個口の電熱系の装備、食洗機、グリル、オーブンレンジに簡単なフライヤーなんかもある。


彼の私物としては、良く研いだ手入れの行き届くピカピカの包丁ナイフ類、信繁のこれで作るしっかり水切りしたサラダ等の冷菜も絶品!


ジューシーな宝石みたいな野菜の切り口には、思わず誰もが箸やフォークを延ばすのだ。


更にどうやって作ったのか?ーーーな、風味豊か美味なるドレッシングも最高。


子龍は誘われた際、”待ってました!”と言わんばかり目がキラキラ輝き、信繁は相変わらず正直でげんきんな奴だよなぁ〜と面白く感じる。


「さてーーーと……!」



信繁は「お約束」の、よく冷やしたビールと野菜サラダ、大振りに切ったジャガイモの揚げたてホクホクのフライドポテト。


新鮮な白身魚のジューシーフライ、幾らでも食べられるパリッと皮が香ばしい鶏の唐揚げ、それからとっておきの酒。


〜この酒とは、自分の故郷であるシンシュウ地方の某「地ウィスキー」。


ジャパン中央アルプス某山麓にある蒸留所にて、素晴らしい大自然の地下120メートルから汲み上げた清廉な水で造られた香り高い原酒を元にしている。


遠く離れた遙か彼方、モルトウィスキーの故郷アイルランドと製造法が同じと言う、古式ゆかしい伝統に則った同スタイルのタンクで少量のみ製造製品化。


醸造所は今も脈々と同じ製法で続けているという知る人ぞ知る贅沢な逸品だ。


信繁は癖の強いシングルモルトでは無く、絶妙な塩梅に調合した柔らかな香りの美味いブレンデッドウィスキーを特別な日の為に用意していた。


しかも今回、地ウィスキーは未開封品で、繊細な馥郁たる香りは今だきっちり封印されたままだ。


ーーーこれで不味かろう筈がない。


「飲むか?」

「当然ッ!!」


信繁がキュキュッとボトルの蓋の栓を開封するとたまらない爽やかな、この酒特有の花の香りがした。


信繁があえていつも「飲みの席」に出すのは、かつて子龍と当時同室だった際、寮で偶々その酒を相棒が初めて口にした時


「何これ この美味い奴!!」 手放しで褒めた事が切っ掛けだった。


信繁にとって美味いは美味いが良く舌に馴染んだ味で、子龍がそこまで喜ぶとは思ってもみなく、逆にその事に感動したのだ。



信繁は、子龍から自分の始祖は、神君徳川家康の直参家臣だと、何かの弾みでチラッと聞いた事があった。


 

「明治からは抜け目なく主を変え、ウマウマ貴族院、華族議員になって、で外交官に任命され現在に至るらしいぜ?」ーーーと。


そのせいなのか?

信繁の眼で見て、子龍は目の玉が飛び出そうな高級酒各種をごく普通に明らかに飲み慣れていた。


というかーー……! 酒にめっぽう強かった。


信繁も決して弱い方では無いが、過去食堂での実際のテキーラのショットグラスによる ”飲み比べ”


結果、この恐ろしい勝負に負けたのは班長の自分、勝利したのは子龍という凄いオチが付き、信繁班員全員ひえーっと肝を潰した。


おまけに悪酔いをするどころか益々「イイオトコ」に変貌する事には信繁すら唖然とさせるのだ。



「おまえーーー凄いな……」


「何が?」


「そんな色気を出してどうする!」


「??……何馬鹿いってんだ信繁〜ぇ??


まーーー確かに俺のアニキ〜長兄の哲《アキラ》兄は凄いけどな……


自分なんかあの『美しさ』の足下にも及ばないよ」



「ーーー子龍の兄さんって そんなに綺麗なのか?」


〜というか、男性に綺麗と言う表現はアリなのか?逆に失礼ではないのか?



「?ーーーていうか もはや”芸術品” 綺麗と言う表現方法以外、表す言葉が無いから仕方ないだろ?

 

俺にとって母親〜であり、そんでもって父親代わり!

長兄が静々歩くと周囲が一斉にピター……っと沈黙する。


男も女も 年配者も幼年者も

しかもフワーーーッと追視で視線が動き後を追うんだ。


そんなのを見て、俺ぁ〜大きくなったんだよ。

アレを見ちまうと、あ〜〜俺って3流役者だなぁ〜とガックリ来る。


ほんもんの超一流ってのは ”歩く奇跡”なんだよ」


 

「……珍しいな、初めてじゃ無いか?」


「ハァ何が??」


「お前が…家族の話をするの 絶対にしないだろ?

色々 複雑な家庭だったんだなぁってな」



「まーーーな〜 やたらめったら古い家系でさ、神君徳川家康に直に仕えた伝説の直参の家臣なんだとさ。


明治からは抜け目なく主を変えウマウマ貴族院、華族議員になったってヤベぇだろ?


そんでずーーっとなんだかんだ、外交系の仕事に任命され現在に至るらしいぜ。


まっ、長兄の哲兄は頭良くて雰囲気優しくて誰にも嫌われずキレッキレだから適任なんだけどさ〜


お前んちみたいな仲良しさんな、極楽家族じゃないのは確かだなぁ〜」


「よっぽどそのお兄さん、お前の自慢の人なんだな、何だかホッとしたよ」


「何で??」


「今の話、凄く嬉しそうだからな……善い人なんだろ?」

 

「はははっっ、兄貴は優しくて綺麗だけどスッゲー遣り手だぜ?

〜にしてもコレは美味いぞ……♪」

 

 

信繁はその時の親友の満足げで打ち解けた、心から嬉しげな表情をずっと覚えていたのだ。


信繁は子龍が時々、何処かこの世でない何所かーーー

自分とは又違う世界、遙かな遠くを見つめている様な歪で昏い貌を感じていた。



しかしその酒を吞む際は、つきまとう仄暗さがーーー


暗い過去を持つ信繁でさえ、ズブリ底なし沼に容赦無く引き込まれそうな、魔的で異常な闇がフイっと消えていた。


それ以来、なるべく彼の為に手配している。


信繁とて、心許せる友人には朗らかに明るく笑っていて欲しかったのだ。



結局は何だかんだ班長としてケンケン小言を言いつつも、「特別の時の為」には必ず同一の酒の用意をしているのだった。



信繁はヨンと雅に、自班の最年少班員である彼用に前もって購入しておいた酒〜


新発売、現在爆発的に人気があると聞くビールを薦めた。


実際品切れ状態に馬鹿売れしている、購買部でも高評価、手に入りにくいお薦め銘柄だ。


「いただきます」


「ーーーーー」


てっきり喜ぶと思い勧めるとヨンはともかく、これがどうだ?


雅は何故かとたんにシューンと耳をたれた〜

クゥンと、シトシト冷たい雨に打たれたワンコの様なションボリ哀れな様相になってしまったのである。


「……いいんです僕なんか……」


???……なんなんだ一体?


ウワバミ男の子龍ならいざ知らず、20歳そこそこの見るからにな育ちの良いお坊ちゃん、しかも隊員としても若年層〜


飲みの席で上司から「さぁ吞め」

40度越えのアルコールは、常識的にいきなりは明らかにハラスメント、有り得ないだろう??


というか、最早立派なパワハラ案件だ。


ーーーあっという間に急性アルコール中毒患者の「いっちょ上がり」


中毒にならないにせよ、飲み慣れない酒をムリに飲ませたかどで懲罰委員会一直線だ。



本当にあれよあれよと、強いアルコールは一気に回り、先ず足が立たなくなり、急に身体がヒューーっとガタガタ凍えてピクリとも起き上がれなくなる。


子龍はウワバミだ。


比較対象、八岐大蛇《ヤマタノオロチ》の生まれ変わりみたいなコイツを世の中の基準には出来ないと信繁は思っている。

 

飲んでもちっとも酔わない自分とコイツは「変」〜 元々がおかしいのだ。


 

子龍は今現在、自分で勝手に手酌でグイグイ、水もトニックも氷も入れずにそのまんまグラスでぺろぺろ好きな様に吞んでいる状況だ。



「何で余計なもの入れるんだよ?」 〜発言には信繁すら絶句したものだ。


だが子龍はいうだけあって、自身の許容量を知ってるから、端で見て心配になりそうだが決して無茶飲みはしない。


要領がいいというか賢いというか、ヤレヤレだと信繁は思う。


 

「あ〜……」

雅の様子に、突如子龍は何か言いかけたが、最後まで言わずに何故か黙りこむ。


「?」


おかしい どう言う事だ?


「〜〜〜……グスッ 僕には勧めてくれないんですね?

信繁さんはーーーー


わかってましたが、僕馬鹿だから少し期待しちゃって……

ーーー身の程知らずに済みませんでした」



「?」


何で雅が馬鹿なんだ? 全然意味がわからん。


お前は俺や俺の班を幾度も窮地から救ってくれた素晴らしい”頭脳”だろ?

毎度深く感謝してるし?



信繁が剣呑な顔で相棒子龍を ”チラッ” 見ると、これがまた何とはなしに気まずそうな表情を浮かべるではないか!


急にフラァァーーっっ、如何にもわざとらしくパタッと視線をそらしているし?



「?!」

ひょっとしてお前隠し事が有るだろッッ!


そうこうしている内、目に見えて益々雅がションボリしてしまったのでいよいよ危険な状況。


自分がボンヤリしているうちに事態は一段と悪くなってしまったようだ。


信繁は激しく慌てた。

 


『〜〜〜〜〜ッッッ困ったな……』


しかし意味がわからないからどうする事も出来ない。


「あ〜〜〜〜……」


その様子にさしもの子龍も再び変な間延びした声を出すのだ。


どうやら見慣れない本気でオロオロする自らの親友と〜涙目ウルウル状態で俯いてしまった雅をほっとけないと感じたらしい。



「ハァ〜〜〜〜〜〜ーーーーッッッ」


子龍は1度大きく溜息をつくと渋々種明かし、とうとう意を決した表情でおもむろに口を開いた。



「おまえ『噂』 信繁はホントになーーーんも知らねえの??

マジかよ、アンナにまことしやかに、さんざんっぱら流れてるのに?」



「???なんだよそれ?」 信繁はハァ?っという表情で眉を寄せる。


その怪訝そうな無垢な顔を見て、子龍は再び溜息を思いっきりフーーッと吐く。



「ぁーーーーー……てっきり、『知ってる』からだと?

だからお前、今夜雅も”来ないか?”って誘ったとオリャー思ったんだけどな?」


「どういう事だか最初っから説明しろよ」


「わーーったわーーった」


信繁の怒りを込めた地を這うような低音ボイスに子龍は仕方なし、そうヒョイッと肩をすくめた。


それが又、嫌らしい、小面憎いほど様になっていた。



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