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不可思議な双子の紳士 ②

信繁は敢えて疑念は口に出さずに、真面目くさった顔をしてその場を流すことにする。



『……成る程な、”偽装”か……?』


 

確かに、厳重な監視体制のここへ、正規の職員とは言え……

 

誰にも怪しまれず悠々持ち込めるには、それしか方法は無いだろう

 

でなければーーーどうして着装していないのだ?


『何者だ?こいつら』


『やり口』が……堂に入りすぎている。


「いつもの事」〜そんな匂いがした。




『ただ者じゃ無いな?

……

第一、双子の利点は”それだけじゃ無い”だろう?』



おそらく彼等の真の目的はーーーー『入れ替わり』


ーーーーアリバイ工作、外部との密かな接触を目論んだ為だろう。


対象者は勿論、D-01政府派遣の諜報員。



『ま、”あの人”は先刻承知だろう?そんな事は。

ーーー俺には全く関係ない話だ』



で……ふと”思いつき”ーーーチラッと子龍を見れば、不思議なことに

 

奇妙な……変な表情を浮かべていた。


今まで見た事が無い、感情が抜け落ちた貌

 

ゴッソリ……何も浮かんでいない無表情

 

ーーーー昏い眼


見た瞬間ゾワッとした。



『?』


何だ?お前一体何を考えてるんだ?子龍



……と

ハッと〜

 

どうもジッと見つめる信繁の視線に気がついたのか、子龍は急に取り繕う様な笑みを浮かべた。


いつものーーー明るい戯けた子龍の貌に戻っていた。



全ては一瞬の事、そんな些細な変化。


しかし妙な慌てぶり、普段相棒として親密に接する彼だからこそ気がつく暗い違和感。



ーーーーその時だった。



「これ……は?」



突然、ごくーーーーーーー小さな囁き声



「なーーーに……?」 微かな……声


!!


皆の視線が集中する


信繁は奇跡が起きたと思った。

 


自分の目の前で、なんと今の今まで精神が病み、死んだ様な姿だったクリストファーが言語で反応したのだ。


「〜〜〜!……!」


部屋がザワッと揺れた。



「城の、模範的収監者にはある一定時間、精神の均衡を取る為に”趣味の時間”……

 

レクレーションタイムが、もうけられます」



「ヘルヴィム様はーーー”絵画制作”を

 

お若き頃、まだ夢と希望に満ちあふれておられた学生時代、たいそう親しまれておられていたと〜


我が母上から聞き及んでいましたから、お薦めした次第です。


事実、かなりの達者な腕前で、これはいつも『必ず』……

 

片時も手放さず

 

愛用の画材ケースに入れておられていた物ですよ」


「……そう」


「勿論お部屋には一切、持ち込みは禁止でしたが。

 

しかしヘルヴィム元王太子様の物として、我々が責任を持って保管に当たりました。


〜〜開けてご覧下さい。

 

どうか……是非、御手で触られれば、”意味”がお分かりになられるかと?」


「……」


「因みに防腐処置は行われておりますので、素手で触られても大丈夫です。

 

ご心配なき様、御随意に」


「……」


クリストファーは震える指先でーーーー……


おそるおそる透き通る細長い小箱を開けた。



カタンーーーケースが開く。


中に入っていたのは


ーーーーー1本の絵筆。


かなりの特殊な物なのか〜全く見慣れない形状だ。


フッサリした毛束、柔らかく、かなりタップリした質量だ。

 

毛の部分が開き、まるでダンスを楽しむレディの、丸く広がるスカートの様。


猫っ毛の〜

毛の質からどうやら油絵用では無さそうだ。


では水彩画用なのか?……?


それにしては大きすぎるし、毛先が妙に長い。


第一 ……毛束の毛先がおかしい。


そうーーープッツリ『切りそろえられている』のだ。

 

普通こうした画材の、絵筆先端は線が描きやすい様、先細なのでは無いのか?


それにーーーーこの色と手触り、どこかで確実に見た気がした。



「?」

怪訝そうなクリストファーの表情を見て、2人がくすくす……面白そうに声を揃えて笑う。


「どうやら……お気づきになられたようですね」


「これは”実用品”ではありません

 

さりとてーーー……

”鑑賞用か?”と言われても、真実は少々異なります」


 

「え……?」


「そもそも、これをお手に取っていても不審に思われない様に、我々は内々にお薦めしたのですよ?


得意な絵画を再び……お楽しみになられては?と」


キョトンとした王太子に、”最後の種明かし”を、2人はし始めた


「ヘルヴィム元王太子様ーーーが御国を出る日の直前


……貴方の御父上様が”お忍び”で。


彼の最も信頼する護衛を御側に伴い、密やかに、あの方を、厳重に拘束する牢にやって参りました。


牢に〜最後の時を共に過ごそうと。

 

側に”側付き”として内部に控えていた……

 

冷酷な処分に泣き暮らす我が母は驚きました

 

目を疑ったそうです。


ーーーいつもは華やかに髪を閃かす若き弟君が、その自慢の綺羅々かな美しい髪を、後ろで固く結わえて、お髪を結んでいたからです。


柔らかな、いつもは肩をフンワリ覆う髪。


弟君はーーーー

護衛に目配せすると、一振りの鋭利なナイフを出させました。


アッと……

皆、誰も口を出す暇も与えずにザックリ……ひと思いに。


髪束を惜しげも無くご自分で、結びより更に上で断ち切りました。


そして、懐から出した柔らかなペーパーにクルリと包むと母に差し出しました」


「ヘルヴィム元王太子殿下様は、今や『罪人』……!


全ての晴れがましき権利は剥奪

 

思い出の縁を忍ぶ品は、何1つ御国から持ち出すことは出来ませぬ。


全身X線検査で、隈無く調べられる為、例え隠すことが出来たとしても直ぐに〜

 

あっという間に『これは何だ?』と発覚した事でしょう」


「ですからーーー……

 

唯一、怪しまれない可能性の有機物の物


しかも最も弟君のチャームである自慢の、ご自身の髪をああして……


兄上に献上〜差し出されたのでしょう。


せめてものーー…… ”自分の想い”として。


国王に即位後は、以降1度も〜

 

あの時分の様な、綺麗なロングヘアに彼がしたことはございません。


最後ーーーーーの、自らの長い髪と、ケジメでした。


母はヘルヴィム様の御髪に細やかな編み込みを施し結び……その中に隠しました


巧に髪束を埋め込んだのでサッパリ〜外からは全然わかりませんでした。

 

母の技術は完璧でした」


「私達は、別航路で先んじてジャパンに入国、城に到着。


”髪”を無事回収後、密やかにーーーー永久加工を施した次第です」


「こうすれば、誰にも見とがめられない


ーーーあの御方がこの世を去る瞬間まで。


お髪は以後は、あの御方と共に冥府へと旅立つこととなります

 

最後まで、心の支えとして」



「僕達を……僕や父をーーー……


伯父上様は、お恨みになっていらっしゃらないのですか?」



2人の紳士は微笑んだ。

何とも言えないーーー……慈愛に満ちた微笑みで。



「正直なところ、我々よりも少々、年下の貴方のお父上の”特別待遇”


ーーーそれらについて、お恨みする心が無かったとは言えませぬ。


『どうしてなのか?!』

 

『酷いじゃ無いか、不条理、不公平だ!』と


ですがーーーー……


食い下がる我々2人に、ヘルヴィム元王太子様にとっては乳兄弟である我々の長兄〜

 

一番上の兄者はそうは申しませんでした。


”あの方は負けたんだ……認めたくは無いが”


”負けた以上見苦しくなく退くのは致し方ないさ”


ーーー確かに『その通り』、王族として誇りある潔い撤退……


舞台からの『退場』だと。


それはそれで1つの生き様で、矜持の在り方


……心のあり様、美学、スタイルですから。


他がどう言ったとしても撤回は出来ないでしょう。


ですから、貴方が気に病むことでは無いと存じます


これがあの方の”運命”だったと、つまりは、あの方の『選択』です」


「”選択”?」



「ええ

彼の生き様です。

 

正に傾奇者(カブキモノ)ーーーー…!


物事の最善かどうかはわかりませんが。


でしたら、せめてお付きの我々は新しい、当代随一の傾奇者に相応しき新たな展開の『第2幕目』をご用意しなければ!と


こうして……しゃれ込んだ次第です」



「第2幕目は……ゆるり穏やかに過ぎる面白き時間でした。

 

静かに〜でも熱く……忍びやかに。



クリストファー王太子殿下様


ーーー1幕目で終わってしまう演目などつまらなくは無いですか?


第3幕ーーー……


これが今、『現在』です。

 

貴方も大いなる運命の織りなす演者の1人です


今後どうなるーーーか?……


それは運命の糸を繰る、女神のみぞ知る『定め』

 

全ての出来事が、彼女が織りなす錦の、果ての 宿命でしょう」


「ーーーーー」



「今は難しくて、理解出来ないかと思います。

 

ーーー全てはヘルヴィム元王太子様のお心の侭に」



「ーーーー……」


クリストファーはコクンと頷いた。

 

瞳には弱々しいながらも、漸く光りが戻って来た様だ。



「〜〜〜〜!〜〜!」


信繁班のガードは顔を見合わせ、一様にホッとした明るい表情を浮かべていた。



が、信繁は、”何かが引っかかる”ーーーー!

 

後頭部がチリチリ、そそけ立つ様な薄気味悪い悪寒がした。



いささか観念的な話だったが「そういう事」では無くて……


現実主義者の信繁には一瞬、「エッ?」と思う事があった。


 

『”負けた”……ってー〜 一体どういう意味だ?』



ーーー負けた、確かに。


彼の国の司法には事実「負けた」

 

だからここ、銀河最悪の監獄、城に護送されて来た。


無実の、罪状で、父殺しの息子として。



ーーーーしかし、それを本当に指しているのか?



信繁には『そうじゃない』、気がしたのだ。



ーーーー絶対に!



2人の紳士は病室に来た時と同じく慇懃に、滑らかな影の様に音も無く部屋を退出していった。


あの細長い小箱・・・・・・


”不思議な絵筆”と共に



彼等だけじゃ無い


”知りすぎた関係”と、信じて疑わなかった、そう思い込んでいた相棒子龍。


チラッと一瞬、垣間見せた、不可思議な謎めく表情。



信繁には何もかも……


まるで、鮮やかに狐狸に騙された、そんな奇妙な白昼夢を見ていた気がしたのだ



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