不可思議な双子の紳士 ①
「じゃ彼達を紹介するよ?」
子龍の促しで、彼の陰に上品に控えていた人物が前に進み出る
それはーーー
一見してしっかりした教育を受けてきたと思われる物腰が柔らかそうな2人の紳士〜
この施設の制服を着用の事から、彼等が職員に間違いは無いだろう。
しかしーーーー…彼等の容姿
彫りの深い貌
グレーの髪、明るいライトブルーの瞳、そう明らかにアジア人では無い人物達だった。
しかも……同じ雰囲気、殆ど同一の背丈
瓜二つの貌
『年の頃はクリストファーの父親より少し上位か?』
”推定年齢”は外観の成熟度が全く違うからハッキリとは判断出来ない。
ーーーが、他国の有名クライマー・アスリート達その家族と、幼い頃から直に頻繁に接触がある信繁は素早くそう計算し判断した。
「まぁ中で細かい事は話そう、監視カメラはあるが何とかなるさ」
「そうだな…」
取りあえず戸口の外に、信繁は部下をしっかり安全の為に2人見張りに残す。
”部屋用のガード”の部下と……
子龍や”客人”
”チェア”に乗ったクリストファー……そして自分、皆で”白い病室”に入る。
信繁はチラッと様子を見たが、クリストファーは相変わらずの無表情
……無反応
全く研究室と様子は変わらない。
心が死んでしまったのは明らかで、余りの痛ましさに胸が痛んだ。
『こうなる事はわかってたのに……!』
真剣に反対したのだ自分は!
怒りが沸々と湧く
その時だった、ポンッと肩を叩かれたのは。
「!!」
ーーー子龍だった
「お前がそんな恐い貌をしてたら、上手くいく物も上手く行かないだろ?
ーーー何とかなる。
クリスの精神力を信じろ
ーーーだろ?」
「ーーーー」
「お前が認めた王子様はそんなにヤワじゃ無い〜そうじゃ無いのか?
……俺らの自慢の機長ーーー”班長”さん?」
子龍はニヤッと笑い、明るい表情でウィンクをした。
……何が起きるのか
ーーーーーどうなるのか?
打つ手無し。
歴戦の猛者の信繁にも、流石にこの先はわからなかった。
「クリス様、済みませんが今から抱きかかえてベッドに移します。
ーーーよろしいですね?
では、行きますよ?」
信繁は、”無重力チェア”からクリストファーの様子を見ながら、体をユックリ抱きかかえた。
怯えない様に
恐怖を感じない様に
ーーーー今以上に。
「……」
グラグラする細い体、目には何も映っていない。
「……ッたくあの人はっ!」
すっぽりーーーークリストファーの身体が、信繁の長いガッチリした逞しい腕の中に収まる。
如何にも細く、頼りなさげな体が余りにも痛ましすぎる。
「寝かせますね?」
作業ごとに声掛けし、出来るだけそっと……広々としたベッドへと、座る様に寝かせる。
何の反応も無く相変わらずの無表情
『”話”は、長くなるのか?』
信繁は、今から始まる「四方山話」の為に、幾つかのフカフカのクッションをクリストファーの背中に差し込む。
『これで体が少しは楽だろうーーーー…』
そうであって欲しい
せめて体くらいリラックス出来る体勢にしなければと、心苦しい。
「じゃぁ子龍、クリス様にご説明を」
「あぁ〜この方達は、クリストファー王太子様の伯父上様、ヘルヴィム元王太子殿下付きの職員の方々だ。
現職の方だから直ぐに見つかった。
まーーー『タネ』、仕掛けを言ってしまえば、魔女当人から俺も直で名前と所属、聞き出したって〜のもある。
当然、働きかけても貰ったさ」
”フフン〜どうだまいったか〜”と言わんばかりに鼻高々。
堂々、臆面も無く振る舞う姿に信繁は思わず苦笑してしまう。
というのも……
「コイツはワザと明るく振る舞ってるな?」と感じたからである。
これはいわば「ポーズ」……
重苦しくピンと張り詰めた空気を払拭する為に、こういうところが彼の美点の1つだ。
ムードメーカーとして瞬時の判断・天性の才能がある。
「あのなぁ『ズル』だろ、ソイツ?」
「まーな
そんなに期待されると照れるじゃないか」
「……」
「だがーーー
”会って貰える”って〜のは又、別口の話だ。
だろ?
でーーーそこはキチンと、口上の為の知り合いを通し交渉して、こうして……
ここへご足労、遙々来て戴いたんだ。
何とか間に合って良かった、しかし王子様、大変なことになっちまったな」
子龍は形のよい眉をひそめる。
「初めまして、我が国の誇りーーー
輝ける至宝のクリストファー王太子殿下」
客人の紳士の1人が優しい瞳で話しかける。
只事で無い気品の持ち主である。
「”私達の言葉”
こう話すのも久し振りなので、微妙にアクセントが違うかも知れませんが、わかりますか?」
もう1人も続けて後を引き継ぐ。
ーーーーー……と
あれ程呆然とーーー
魂が抜けきった様子だったクリストファーの瞳に一瞬、光りが灯る。
「……”訛り”か」 子龍が小さく呟く
「ええ……
確かに今私達は”連邦英語”ーーーでも、王太子様の故郷
……我々が憧れて止まないD-01王宮の『しゃべり方』で話しました」
「私達の母はヘルヴィム元王太子様付きの乳母でした。
後に〜子どもの頃の、行儀作法を教える教育官に出世。
母は自分のコネクションを存分に使い、事件後、何とか自らの子どもの私達を、ココの職員にする為の推薦状を2通確保。
で……今…こうして居るという訳です」
「故郷が珍しいと言う事と事情ーーー
『因果』をしっかり考査〜で、こうして配属されています」
同じ顔
同じ声
「双子だからーーー…選抜されたのか?」
「ええ」
「フォローする側が、コロコロ体調不良などで変わるとマズイという配慮からです。
超常空間に今後、ヘルヴィム元王太子殿下は一生居るわけですし……ね?
でーーーそんな折、2人居ればどちらかがーーー…
片方が、仮に死したとしても、”どんな事があっても対応出来る”
……母はそう考えました。
しかも我々は、2人で1人の様な他にない強い結束がありました。
”人の喪失”のダメージ
親しい者が、今後存在しなくなるという心の痛みを……
それはそれは心配しての配慮でした。
何かの事情で、我々が外に出なければならない時も、お1人には精神的になりません。
無論喧嘩はしますが?
……この先お互いがお互いに支えあい『何とかなる』と
正に先見の明、事実そうでした。
一卵性双子の私達兄弟。
『天然のクローン』と言われる私達は、常人とは違いました」
「ーーーー」
立ったままで居た、2人の紳士の片割れがそっと……
腕にかけて持ち込んでいた、ネイビーブルーのジャケットの内ポケットから何かを取り出す。
『?』
「これをお手にどうぞ 敬愛する王太子殿下様」
スッと……
信繁の前で音も無く細長いケースを差し出した
普段は余り着ない制服の一部で、仕立ての良い礼服
他には、もっと大げさで派手な、金&純白のコンビネーションの物がある。
勿論、こんな大げさな衣類は、日常は全くだれも着用はしない。
しかし「着ないわけではない」ここがポイントだ。
……なにせ最高位に近い、高貴な身分の貴人の御前に〜
「自分は急遽出る事になった」
〜と言えば、誰も不審には思わないし、寧ろ当然と思うだろう。
ーーーその中に仕込んでいた。




