番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (42)
信繁は航空機内部、コックピットに入ると、今日一日自分達にずっと付き合い、しかも観光案内までさせてしまった凄腕飛行艇営業マンに、先程の旅館の電脳ペア宿泊チケットを渡す。
『まぁ、相手は公務員でないからいいだろう』
公務員が民間業者から金品の接待されるのはマズイが、相手は民間企業、贈賄にはならない筈だ。
相手の目が大きくなる。
「あんな高級旅館、一泊しようものなら我々の給料の大半がーーーー」
「どなたか大切な方と。
ーーーでなければ是非親孝行はどうでしょう。
自分にはもう尽くしたくなる家族は全員いません、感謝を伝える機会は永遠に無いんです。
このチケットをどのように使われるかはお任せいたしますが、どんなもんでしょう?」
「ーーーーーー父も母も、私の学費を捻出するために一生働き詰めで、決して贅沢はして来なかった堅実で質素な人達です。
ありがとうございます、きっと思い出に残るサプライズになるでしょう」
「では叔母にも宿のオーナーにも、俺の大切な客人だと伝えておきますね。
あなたがずっと頑張ってくれたおかげで、かなりの無理めの行程がスムーズに行き随分と助かったんですから当然です」
「〜〜〜〜〜〜〜!」
「おっしゃる通り、素晴らしい最新式飛行艇です。
城主も乗り心地、気に入ったようでした。
では城まで行きましょうか」
「ええそうですね、メンテナンスは今後とも私をよろしくお願いします」
旅館の飛行艇発着所でフワリと危なげなく信繁の操縦する飛行艇は浮き上がり、クルリと半回転するとそのまま一息に高度を上げ、素晴らしい滑らかな高速飛行状態に入る。
そのまま樹海上空にて、突如出現したキラキラと中空に揺れる水面のように滲み出すオーバル状の輝き目掛けて機体は突入する。
ーーーーフッと丸ごとかき消すが如く飛行艇は消失した。
この空域は国防の演習場にも被るため、例え見慣れぬ機体が怪しい動きで飛行していても不審には思われないだろう。
「木の葉を隠すのは森の中」である。
こうして信繁は無事、時空の異なる「城」、何事もなく勤務先に舞い戻った。
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「わぁ〜〜〜〜お帰りなさい!信繁さん」
信繁は城主は隊長閣下が直々に護衛を務めている事、子龍達は体調を整えるために外で一泊する事を手短に畳み、雅に告げるのだ。
「職場を二日も空けてしまって済まないな、ああこれ向こうで購入した土産だ。
子龍御推奨の運気アップのお守りで、美守の方は子龍が雅に用意していたよ。
それからーーー工房で購入のオルゴールだ。
曲名は『主よ、人の望みの喜びよ』、バッハだ。
バッハ弾きの雅に気に入って貰えると嬉しい」
パァ〜〜〜〜〜っと顔を明るく輝かせた雅は
「今ここで開けてもいいですか!」嬉々としてせきこんでたずねるのだ。
「勿論」
わぁ〜〜〜嬉しいな嬉しいなとペリリと包装紙のテープを剥がしたーーーまでは良かったのだが。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「??どうした」
しゅぅうううと、ほっぺを真っ赤に染めた雅はボソボソと小さな声で告白後、恥ずかしげに顔を伏せるのだ。
「ええッとーーーー箱の蓋が開かなくて」
「ああ、最近爪を短く切ったんだろ? しょうがないぜそんなの、だって最高の凄いピアノを弾くんだしな、雅は」
「ーーーーハイ、いつも済みません、毎度毎度本当にお手数をかけます」
俯いてプルプル恥じらう雅の両耳の縁は見事に真っ赤っか、信繁はあまりの可愛らしさにプププッと笑ってしまうのだった。
信繁はドンマイとポンポンと肩を優しくタップし、白い紙の蓋をキュッキュと開けて小箱を掌の上に返すのだった。
瞳をキラキラさせて取り出された透き通るカバーが可愛いオルゴール。
演奏される魅惑のアレンジは雅の気持ちに寄り添ったらしく、うっとりと目を閉じ耳を澄ませて頬擦りする姿はやはりとてつもなくキュートである。
「ホログラムの映像、今から直ぐに編集しないと駄目ですね、高速で取りかかりましょう」
「え? ひょっとして手伝ってくれるのか?」
「何言ってんですか〜〜〜、それ位僕にだってお手伝いさせてくださいよ!!
もぅっ、仲間外れは酷いですっ!!」
雅は普段使用する装置をパッパと起動させると、皆で手分けして撮影して来た莫大な映像編集に恐るべき高速で挑むのだ。
全てのデータを信じられないスピードで落とし込み読み込ませ、当初の信繁の望む雰囲気、抱くイメージ通りに、素晴らしい壮大な山頂の映像のみをピックアップ。
綺麗な形で時系列順に並べて、あれよあれよという間に最良の形の完成体に仕上げてしまった。
「後の物はナスチャからの可愛い系ルートという形で見せた方が、僕もいいかなーっと思います。
それにしても野鳥の声が素敵ですね、子龍さん録音本当にレベル高くていい腕してますねー!
僕もコレクション、自分用のが欲しいですっ!」
そんなこんなで和気藹々と締め、信繁は最後の大仕事、誕生日に欠かせないイチゴのケーキ作りにいよいよ取り掛かる準備に入るのだ。
ーーー食堂の調理場を信繁は貸してもらう許可をすでに取ってある。
時間はとうに夕食の時間、多くの職員がガヤガヤ訪れるを過ぎ去り、食堂調理師達も後片付けに入っている時間帯。
積極的に皿洗いや鍋洗い、ゴミ捨て等のなかなかに大変な肉体労働の助っ人に予定通りに入る。
厨房白衣を借り、ゴム手袋と調理専門長靴を装着、いちボランティアとしてせっせと働いた。
「今日は凄く助かったよ、腰が楽だったー」
「信繁に任せておいたら安心だから、今夜も綺麗に使ってねぇ〜!」
「いつもありがとうございます」
皆が職場を離れた後、いよいよ生菓子制作に取り掛かる。
まずは金属パットに個人で用意の材料を分量ごとにきちっと分ける事からスイーツ作りは開始である。
「ケーキはスポンジが命だ、さてーーーと」
今回はどんな方式の生地がいいか?
フワフワ系? しっとり系? それとも濃厚系?
いやいや流行のふわモチ系もアリかーーーーー??
マドレーヌは始終焼くものの、本格的ケーキは久々、だが腕がなるぜ!!
意外にもスイーツ作りが大変に上手な信繁は、流石に手際がよく、動きには全くの無駄がない。
直ぐに軽快なバターと卵を泡立て器で撹拌する音が聞こえ始める。




