番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (40)
信繁は思うーーーー
「夜明け前がもっとも暗いから、苦しい努力後はきっと良い日が来る」
コレは前半部分についてはその通り、本当の事だということを知っている。
古代の人にとっては「何故そうなのか?」がわからない、わからないのだが鋭い観察眼で自然現象を自身の目で見て感じたまま、真実を言い当てていたのだと思うのである。
暗いというのは今でいう「ブルーモーメント」の事だろう。
グルグル地球が回ることにより位置が移動する太陽が地平線のすぐ際まであり、波の大きい、例えば赤い光〜
波長の長い光はブロックされ散乱して見えなくなってしまう。
反対に小さな波の青色の光は濃縮され強く、殆ど黒に近いほど濃紺に、最高純度の青を空全体に展開させ覆い尽くす。
更に言うならば、地平線よりも絶妙に角度が低い訳だから斜度がつき、投げかけられた青の光線は成層圏の高い部分にぶつかり下方に反射、散乱した青の細かい光の純粋な粒子が人の目に映る仕掛け。
この現象は、「地球が丸い」と言う証明、条件を際立たせる役目すら担っており水平線と地平線に地球本体の影さえ作り出すのである。
〜 「信繁、あの海と陸、空の狭間、境目をよくしっかり見ておけ」
「どうして?」
「今は暗いが、周囲が薄く照らされて薄明になったら、地球の影が映り込むからな。
物体を下から角度をつけてライトで照らすと、光が当たらない部分がただ影だというのでなく対比でより暗く薄暗く見えるだろ?
地球が丸いからこそ、ぐるっとグレーの帯がご来光周辺均一に途切れなく見える、そう言う事なんだ」〜
彼の亡くなった父親は、富士の魅惑の不思議を愛する息子に余す所なく伝えた。
大人になってブルーモーメントーーーー
この不思議な光の現象に、レイリー拡散という名がつけられていることを知る。
じゃぁ日中の水色の光はどうなんだと言えば、青の他にも緑、黄緑、黄色、オレンジ、赤等の色の光も同時に散乱しシャッフル、混じり合って干渉しあっているから薄い水色だと言う事。
この深い濃紺の青が見られるのは約5分〜長くて14、5分、日の入りと日没の期間限定、よりしっかり見たければ断然夜明けだという。
古代からの言い伝えとして、人生の苦難からの反転に使ったのはきっと夜明け前より労働を行うものの、日々目にする極当たり前の実感として共感、だから営々と伝承出来たのだろう。
この世でもっとも深い蒼の天空ーーーーー
ミッドナイトブルー
それは宇宙そのものの色
ブルーモーメントが終了すればじんわり朝焼けが広がる。
周囲は急激に薄明の白いぼんやり霞む輝きに包まれ、陽の出前とはいえ急速に明るさを増すのだ。
下方から太陽がせり上がり始めると同時に、逆光となる山頂火口稜線がくっきり墨色に塗り潰され、スパッと刃物で切り出したかに鋭く薄暗がりに浮かび上る。
ーーー轟々と耳の側で間断なく鳴り響く富士の名物、轟音の風。
天と海の境が薄暗く鈍い青墨色で緩やかに彩られ始め、ほんのり薄く浮かぶ雲海がまるで極彩色、温かみのある彩雲と緩やかに化す。
雲らは極上の柔らかな真綿の如しの輝きを燦然と纏い、極楽浄土を舞う鳳凰の羽に似た虹色の煌めきに余す所なく染められる。
独立峰ゆえに遠き駿河の海も、くぐもる磨り硝子のように眠り込んで見える。
今にも易々手に取れるように感じられるのだが、夜明け前の朱の輝きを海面に移し取り、ゆるゆると穏やかな魅惑の顔を見せ始める。
日の出直前、山頂の本当の現実は今、氷点下の恐るべき気温の中より僅かでも日が差した事により急激に温かくなりつつある。
この惑星が目を覚ますかのように、地平線、水平線に突如、白く輝く光の帯がさぁっと流れ逆光度が明暗を増す。
溢れる朝日で富士の火口の底は黒々と反対に沈み込み、陽の光は赤みを帯びた荒々しき大地の美を、まるでどうだと言わんばかりに嬉々と人間に見せつけ始めるのだ。
アイスブルーとターコイズ、透き通る上品な菫色と、優しい桃色を帯びる紫色。
いくつもの区別かつかない色合いが重なる、えも言えぬ繊細なグラディエーションの透き通る世界が目の前に展開されている。
色味すら超越した白く丸い光の光源が、おっとり恥ずかしげに姿を現す。
ーーーが、みるみる鋭く濃厚な目を射る、眩しすぎる黄金色の塊が雲間に光を引き連れて勇ましく全力で光輝く。
日がさしただけでこうも違うのかという温かい豊かな空気、気持ちまで柔らかく解れたような優しい気持ちが訪れるのが素晴らしい。
金色に水色 茜色 桃色に紫……
それこそありとあらゆる素晴らしき鮮やかな色味を作り出す恒星は、金の輝きと共に想像を絶する圧倒的に強き光源を地上万物にもたらすのだ。
「この光景、何度見てもスッゲーなぁーーー」
「そうだな、子龍」
全てに圧倒され、言葉を無くし呆然と佇むヨン。
信繁は、天高く太陽が登ってゆく様に満足げに、きっとバースディの為の素晴らしい映像が撮影出来ただろう事を、感謝の気持ちで見つめるのだった。
「剣が峰は下山が特に危険だ、砂礫でツルツルで驚くほど滑り易い。
足元を注意しながら転ばないようにゆっくりと、慌てず無理せず歩けよ」
光学機器撤収作業後、信繁が前もってチャンと指摘したお陰ーーー!
富士登攀初めてのヨンも戸惑わず、一度も転倒する事なく、なんとか無事、山頂の火山口の縁で彼らを待つ城主、隊長、藤班と信繁班のメンツと合流が達成される。
「ほんっとに食べて良いんっすかーーー?」
「いいんでしょうか?!」
「腹減ったーもぅ死ぬーー餓死するぅーー」
信繁の誘導により、全員、富士山頂での極上の、この世でもっとも高所、ジャパンで一番標高の高い場所での食事、カップラーメンとカップうどんを堪能した。
「なにこれうっめー」
「本当だ」
「あったかーい♡」
「生きててよかった〜〜〜〜」
「美味しいーーー」
「ぁあもぅ最高に美味しい」
やはり皆で食べるこういった品は、兎に角やたらに美味しいのである。




