番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (38)
信繁は正直、天候気温完全管理のコロニー人であるヨンは、富士のような荒ぶる無慈悲で気まぐれすぎる自然には対応しきれないと踏んでいた。
「まぁ最悪、カメラの設営は子龍に頼むしかないな」
そうなれば山頂手前の胸付き八丁でヨンと共に待機し別映像を収めれば良いか〜
外国どころか、地球外でこれまで大人になるまでずっと生きて来たヨンを一人きりにするだなんて危なっかしい事など無理。
例え城収監者でなくとも、無責任過ぎ、一番駄目なことはわかりきっている。
そんなの責任者として恐ろしすぎるーーーー
そのような心づもりで腹を括っていた信繁であったのだが。
〜まさかのまさか、激しい気圧の差と空気の薄さ、特に山頂など気圧は650ヘクトパスカル(地上の約2/3位)、急激な気温の急落、吉田口とは全然違う激しい傾斜その他諸々に、初めての登攀で耐えられるだなんて自身の経験からも想像だにしていなかった。
「まぁ相当個人でも気合いで頑張ったという証でもあるな」
ヨンの潜在能力を信じるしかないかーーーーー
予定よりも若干早く到着した3名はまず空いている間にトイレ休憩(有料)を取り、山頂の浅間大社奥宮への参拝。
その後最終関門の剣が峰への登頂を果たすのみ!
信繁らは比較的空いた状態の山道〜
カーブ曲線が優美な「馬の背」をゆっくり登り、他の登山客に邪魔にならない場所、決して場を傷つけない撮影ポイントを探し出しバッテリーチェック、レンズ向きの調整などを行い高所へのカメラ設置を行う。
なにせ3人とも185越えの高身長、色々と融通が効いたのは実際に良かった。
「どうだ?」
「んーーー桜香にも使ってる簡易システムの様子でしか飛ばした映像中身、詳しくは分からないが、ま、いいんじゃね?
チャンと録画出来てる〜これでいっちょ上がり〜 めでたしめでたしだ。
もうついでに試運転の撮影、してよくね?」
「それもそうだな、バッテリー予備パックも十分あるしな、やってみよう。
まだ雲海も薄いし、いい絵が撮れるかもしれないな。
光学機器の調子も異常ないし、後は高身長揃いの海外勢による盗難に注意ってトコかーーー」
「はははーーーいいか、システム盗られたら不夜城の奴らにぶち殺されっぞ?
アイツらのマシン愛は異常、なにしろ全部一個一個、キラキラプリティーな名前つけてるんだかんな?
ところでさ、『お鉢巡り』、どうする?
時間的余裕あるし、古代の富士講だと参拝後、時計回りに回ったんだろ?」
子龍のいうところのお鉢巡りとは、山頂の火口を一周ぐるっと回る事で、既に剣が峰、標高3775.6にも登攀した後に富士山の火山口「大内院」標高3537を覗きながら360度のパノラマ、北アルプス槍ヶ岳まで天候次第で見えるのだ。
他は古代から使用されている名称である金明水、銀明水、虎岩や雷岩、様々な見所を楽しめる。
「そうだなー、確かに90分程あれば回れるが、後発隊の事もあるし、勝手な事をされたら彼らも困るだろ?
ここで石碑と記念撮影を皆でし、星を見ながら待つのが無難かもな」
「なるほどなー」
「ここで星を見ながら、せっかくだからしばらく休憩しよう」
信繁はそう言うと、あっさりとーーーー
担いで来た大荷物の中より山専ボトル(山岳専用の脅威の保温能力を持つ大型水筒の事)と、チャック式ビニール密閉袋に収めていた簡易カップとマドラーを取り出す。
そうして手頃な風の当たらない無風の段差に別収納ランチョンマットを汚れ防止に丁寧に敷き終わると、その上にてほっかほかのコーンスープをあっという間にクルクルっと3人分用意する。
ポカンとする二人の目の前に、食欲を堪らなく掻き立てる素晴らしい魅惑の温かな飲み物が魔法のように登場。
それはふんわり良い香りを振り撒き、ごくり生唾を飲み込ませる。
「こういう異常な場所だから、絶対に急いで飲むなよ?
出来るだけゆっくり、少しずつ、ゆーーっくりチビチビ飲むのが体調を整えるコツだ」
「お前ってさー、いーっつも思うけどさ、なんでそんなに女子力高いんだよ?
だから釣り合うオンナがいず、カノジョがいいトシして一人もいないのさっ!」
「フン、俺は仕事が恋人だーーー
そりゃなんでも一通りやらされた、父の下僕時間が長いからさ。
あんな熱血体育会系 お貴族世界、お殿様お世話役の忠実な奴隷が居なけりゃ成り立たんさ」
「ハハハハハ違いない」
「ーーーー」
皆無言で降るような銀の星空を黙って眺め、時折キラッと針の如く天翔る流星を目で追う極上の幸せ。
「いい夜だなーーーー」
深々と冷える外気温はなぜだかあまり気にならない。
3人で富士山山頂の深い、深い闇の中で振るような星の元、熱々の美味いコーンスープを言葉少なに飲むのも悪くない。
不思議に中々のハードボイルドに信繁にも思えた。
飲み終えたカップにさらに少しの湯を注ぎ、綺麗に内側についた液体もマドラーで全部溶かし込んで飲む。
すると口の中が意外にサッパリし、口内のベタベタもグッと薄くなりスッキリ気分が上がるのだ。
そんなこんなで片付けも過ぎ、強風を避けまったりくつろぎ満天の銀の星を見ていると、剣が峰登り口より見覚えのある人影がゾロゾロと見え始める。
立ち上がった信繁は手を挙げて、スティックライトで居所を知らせると先方からも同じような手動の光による返信が返る。
隊長を先頭にした城主と藤班と信繁班、全員が無事、富士山登攀を成功、果たした姿である。




