番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (30)
藤の感覚では、富士の山岳は言ってはなんだが、遠くから見ることが最も美しい山というイメージであったのだが、今回の道行でその意識がガラリと変わったと言っても過言でなかった。
まず想像以上の苔むす古道の有り様、ジャパン近郊にあるだなんてーーー
〜そりゃぁ遠き原生林があるという遥々屋久島まで足を伸ばせば〜だが。
こんなに素晴らしい見事な美しき場所が、景観をきちんと守られて存在する事がまず信じられなかった。
何故信繁が会話中、あそこまで踏み跡についてくどい程言及するのかが、鬱蒼と緑の世界、現地を実際に訪れて見れば、ああ納得と言わざるを得ない。
「早朝でしたらまだ水蒸気、ガスが抜けていず凄いんですよ」
駐車場で凄いすごいと興奮しながら信繁に話しかければ、まるで冥界というか幽玄そのものの霧の漂う神秘的な世界が更に広がり、何故ここが霊山と崇められたか理解出来るという。
「もうもうと水蒸気が満ちる、何もかもが朧げの薄ぼんやりする視界の中で。
木々の合間を一筋の朝日がサーっと降り注ぐとですね、古代の修験者が神を見た、神秘体験を得たと信じる気持ちがわかるんです」
「それは凄いね、一度見てみたいね」
信繁の話は実際に体験し、自分に落とし込んでいるからこそ説得力があり楽しいのだ。
その事だった、駐車場を取り巻く深い梢のどこからか、鶯の鳴き声が聞こえ始める。
「ああ、今日はあまり車両がかしましく無いから、彼らも安心してるんでしょうか、じゃ子龍、休憩中本当に済まないがいいか?」
「ほーぃ任せとけ、相棒ーーー?」
「?????」
藤がぼんやり疲れを癒し、風を渡る透き通る鶯の声に癒されていると、そこで全く思わぬ奇跡が起きた。
「ホーーーー〜」
「ホォーーーーーーーーーーケキョケキョケキョ〜」
「ヒヨヒヨ ヒーーーヨッーーーー〜」
「ホ、ケキョ」
「ホーーーーーホーーーーーホーーホーーーーーケキョォ、ホー」
「ケキョケキョ ホーーーーー ケキョ〜」
「ホーーホーーーーーケキョ」
「ケェッキヨッケ キヨッックッケ ケヨックッケ 」
ーーーーそれこそ、そこら中の方位から一斉に囀りが聞こえ始めたのである。
しばらくその様子を収録した子龍が「まぁこんなもんでいいんじゃね?」
漸く話し始める。
「あーーーーー信繁、だいぶ警戒されてんぞ?ウグイスちゃんに。
彼らにしたら滅多に見ない、見慣れない大勢の集団だから警戒してああして集まって来たのかもなぁ。
でも永遠の謎?!
なんで鶯とヒヨちゃんセットなんだろーなぁ、どこ行っても そだしさー」
「ーーーー?」
「藤先輩、子龍の言うヒヨちゃんとはヒヨドリの声です。
鋭い声でヒーヒーヒョーーってこぶしをきかせて強気で鳴いたのがそうですよ。
鶯ですが、一説には『ケキョ』『ケヨッ』は警戒音、鶯の音声だと言われます。
後、ジジジジという鳴き方は、シジュウガラが蛇を見つけた時だけに発する本物の救難信号、かの鳥は様々なバリエーションを駆使して仲間達とコミュニケーションとって、二語文で喋るといわれてるんですよ。
『人間だけでなく鳥も言葉を持つ』、これはジャパンの研究者、博士号を持つ方がコツコツ地道にフィールドワークを行い、論文で世界中に発表し実際認められた凄い事柄たから、確かな事です。
鶯もジジジジという聞き慣れない地鳴きをする時があるので、同じなのかも。
が、あんまり上手に聞こえない囀って良いですね、未完成なところが可愛らしくて」
「ま、普通にも囀ってんから、そこそこ茶化してんだろ、彼らも。
鳥ってめちゃくちゃ好奇心強いしさー、ま、普通にしてれば良いんじゃね?」
その後も鶯は心地よく囀続け、藤には詳しい事はわからないが、今までの疲労が全て溶け落ちそうな素晴らしい時間を過ごす事ができて幸せだった。
「やっぱりいいなぁ、野鳥の声はーーー」
「全くだよなぁ、なんつっか、心の解放だよなぁ〜」
信繁と子龍も目を細め涼しやかな風に吹かれ、二人共、大変幸せそうに見えた。
「僕には鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴 著 小学館
シジュウガラの研究の話はこちらを参考に致しました。有難うございました。
シジュウガラの驚きの生態、素晴らしい目を見張るお話が満載ですので、ご興味のある方は是非!
ちなみに鶯の話は体験談です。別の場所ですが標高の高めの駐車場や広場は何故かこうなりやすいのです。




