番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (29)
大淵林道 「石油採掘跡地」の前を、まだランの靴を変えず軽快な足取りで大淵南林道あたりまで歩き、そろそろ1度目の靴の履き替えを勧めに従い行なった。
本格的な重装備になるため、結構に面倒なのだが、確かにその通りに行ったおかげでなかなかな急勾配になりつつある土の道を踏み締めるのはこの方がいいかもと納得である。
再び舗装された道が続くのでもう一度、重たい靴から軽いラン用シューズに。
そうしてしばらく歩き某宗教施設区域を越え、頃合いを見て再び靴の履き替え。
ロッジなど立派な建物がある旧自然公園施設、今は閉鎖、キャンプ等が可能な手入れをされた区域がある方角へ向かうのだが、流石にここでの空間は広場であるという特性故に相当に、かなりに面積が平面上に広かったのだ。
信繁が装置で細やかに、いく先の進路を特定してくれなければ多分行きすぎたり或いは手前だったりの、相当に無益な時間ロスをしただろうと全員が思った。
すると急に信繁が、スッとハンドサインを出し、子龍が頷くのが見える。
藤の「シー」と言う合図で全員でピタリ、打ち合わせ通りに黙り込み耳を済ませる。
と、煩いくらいの蝉の声に混ざり、高く細い声でツーーーピーーーっと野鳥の声がいくつもそこら中より重なり聞こえるのだ。
子龍からのハンドサインで皆が漸く緊張を解くと信繁がこんな風に解説する。
「シジュウガラの声、あとヒッヒッと囀る声も聞こえますから、あれはジョウビタキですね。
ジョウビタキはチャイナやサハリンより多くは飛来するのですが、ジャパンの標高の高い地域でも繁殖が認められる野鳥です」
しばらく皆は再び静粛に耳を澄ませ、すると聞き慣れない明らかに異質の囀りが耳に入るのだ。
「珍しいですね、オオルリです、標高も低いですし、標高130が最も多いと言われますが、110位の場所でも確認出来ます。
非常に水辺を、渓流を好む青い鳥です、そろそろ渡りの季節ですのでね、森林を移動途中なのかもしれません。
けれど囀るのは縄張り宣言や繁殖の為なので季節外れ、姿を見る事は可能でも今の時期は貴重ですね」
子龍がハンドサイン、皆はお喋りをやめ、素晴らしい美声に聞き惚れるのだ。
ピーーーピィーーーーッ (ジジッ)
キーヒューピィーーーヒュ、ヒーコロローーーヒュル(ジジ)
存分に癒され、良い気分に浸っていると、信繁は高山帯に行くともっとこれ以上だと微笑む。
「えっとーーーこれ以上なんですか?!」
「なんだか今日は、野鳥の集まりが良い気がします。
天候のせいでしょうかね、まぁこの時期に聴けるだなんて皆さん強運と言って良いでしょうね。
きっと採録、素晴らしいコレクションになると思いますよ?」
その言葉を胸に、ワクワク良い気分で、そこそこキツめの本格的な細道の山道〜踏み跡を進行してゆくのだ。
村山古道(1部分)細い登山道、土の踏み跡の中では、本当に様々な夏鳥の気配を感じ、豊かな囀りが聞こえ始める。
ーーー姿は見えないのだが、時々ああ、囀るとはこう言う事なのねと言う美声は心地よい癒しの力となった。
で、湯治場の次の「中継点」
スカイラインとかち合って2度ほど渡りきり、富士裾野編を踏破したと言う確認アクセスを再び行い……最後のチェックポイントを無事クリア!
その後も案内板の表示通りの富士山自然休養林歩道を利用、自然のマイナスイオンタップリの踏み跡を走破。
「マダマダ傾斜も緩やかで、きつくはありません」
ーーー信繁が語ったのが嘘でしょ信じられない、結構な勾配をヒィハァ登る。
やむなく途中で藤班メンバーは全員、各自の荷の中に常備の折り畳みポールを取り出し、無理をせずに使用する事に決めるのである。
でーーーなんとか漸く、富士山スカイライン「2合目」である ”高鉢駐車場” に出、此処でトイレ休憩を挟み、皆とりあえずぐったり座りこみ、あるいはバタッと大の字で寝そべった。
そんな思い思いの休憩をとり、溢れる様な野鳥の囀りを堪能するのであった。
「信繁君は続けてこうも言ってたなぁ〜」藤は頭の中で反復する。
「後は新五合目までなんにもありませんからね、休憩後は本格的な登山道に入りますので」
「我々の間では”踏み跡”って言ういい方ですが、慣れない方がアレを見ると殆どけもの道という感想かなぁ、兎に角細い道幅で、本当に此処でいいの?、多分不安になるかも知れないですね。
これは余計な所をグチャグチャに歩いて、乱暴に地面を荒らさないためって事もあるせいなんですか、でも大丈夫です、ガイド役の自分がいますから、取りあえず大丈夫です」
「このルートは山に分け入り、暫く管理された遊歩道を通ってから ”高鉢〜御殿場庭行き” との双方向分岐通路の辺りから、村山古道の道が奥に延びています。
此処から札や赤いリボンのしるし通りに入っていき、標高1860mの笹垢離跡へ行きます。
ここは少し土地が平らですし、天候の状況によっては少々休憩してもいいかもしれないですね、皆初めてでしょうし」
つまりはこの先、想像以上の荒業が待ってるのかーーー
とはいえ、命の危険は絶対にない様子、まだまだ頑張れそうなのはその安心感が大きい。
藤は気合を入れて、ただ純粋に冒険を楽しもうと考えを改める。
確かに、たまには頭の中を真っ白にしてただただ肉体を動かす、これぞ究極の精神のデトックスに違いない。




