番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (27)
「?どう言う事ですか?」
「地図に無いのにあるって変でしょ」
「ぁあーーー……その事ですか……
一般的な良く使われる登山地図はですね?
大丈夫な、例えば予め登攀にかかる所要時間が計測出来るとかの、確かな登山ルートしか載らないんです、他は掲載されません。
そのラインは地図上で赤の実線で表現〜表すことが多く、じゃ破線〜はと言うとオリガミの ”山線” っていうか、そんな黒の薄い単線を繋げ、ラインにした物が ”破線ルート” と呼ばれるものです。
この道は道上の整備とかがバラツキがかなり有り、難易度も実際に現地に行ってみないとわかりません。
それこそ野生の動物でもクルッと回れ右して拒否、トットットッと進むのを嫌がりそうな、遠くからでも見るからに先細り、道幅も平均台みたく狭くデンジャラスで険しくって、ね。
ウッソだろ?ーーーな、細い細ーーーい稜線上を行く、一歩でも踏み間違えて滑落、転げたら即死亡、特に下山は絶対に無理!!
ーーーそんなだったりとかね?
後はゴゥゴゥ、唸りを上げる谷川の急流の中を突っ切る様な、超無茶ぶりとか、概ねそんな感じ?
俺も今回のルートは、何度も行った事があるから土地勘がまずまずで、これだったら一応は皆さんに紹介可能、大丈夫ってなだけで。
〜他はルートマップだけ見せられても、先んじて下見をすればともかく、別に自信がある訳じゃ無いですね。
聞く所によると? かつての見捨てられた寂れた廃道が多いとか、そんなこんなを聞きますよ?
それだったらまだ〜
登山地図に最初っから載っていないけれども、有名所のテクニカルルートの方を俺だったら装備万全で選びます。
それでしたら取りあえずの定番ノウハウが、確立されてますからね?
ですんでーーー
特殊装備が不可欠なテクニカルルートみたいな?
俗に言う”バリエーションルート”は、岩山を主戦場としたクライマー対象という特殊性から、ソモソモ最初っから一般的な登山地図には載せていません。
ジャンルが違う為の、棲み分けなんですよ」
「へ〜〜〜〜〜!」
「はぃ、整備不良の道は本当に怖いですよ?
道行きに張ってあるロープなんかボロボロですし、足場も登山靴を乗せたらガクッと急にいきなり崩れそうでーーー
そういった不測の『まさか!』が滑落事故に直結するんです。
ですから地元の方が、土地の状況をよく知らない遠い土地から遠征する登山者の方が、万が一にでも誤って迷い込むっていう可哀相な事故を防ぐ為に。
防犯上の理由で、地図上から破線ルートの削除を依頼、求めたりすることもあるんです。
そういう所は確実に、元々地の土地の人しか〜
イイヤ彼等ですら日常は避けて、絶対に通らない、草ボゥボゥの大昔限られた人のみが抜け道に使っていた旧道の廃道って話です。
『よくご存じーーー!』
藤先輩が貴女方に仰りたかったのは〜つまりはそういう危険地帯がある事を。
特に大切な部下である貴方方の様な、マトモでカタギの人間は ”絶対に近寄ってはダメ” という、明らかな危険性の事だったんだろうな?、と俺なんかは思います。
〜でしょ?藤先輩?」
「〜〜〜〜うん…まぁ〜〜〜〜〜……まっっ、そういう事だよハハハ……!」
「へーーーーーーー……っ!!」
「スッゴい!」
尊敬ーーーーーーーーー……
藤は自分の部下からのキラキラする熱い視線を存分に浴び、何だか体全身がこそばゆい感じ?
『……』
藤は何だか妙な気分だった。
それにまさか信繁から絶妙なパスが来るとは思っていなかったからだ。
でも流石にフォローが効きすぎ、ちょっといたたまれない。
まるでーーーチャッカリ美味しい所取りでズルしたみたいである。
藤はポリポリと頭を掻く。
だがーーー…藤は少々気になる事があった。
「信繁君ーー少し質問していいかい?」
「どうぞ?ーーー何でも」
「君の言うーーー特殊装備が不可欠なテクニカルルート〜
”バリエーションルート” だが、岩山を主戦場としたクライマーが対象という特殊な所って言うのはわかった。
地図に無い道ーー ”テクニカルルート” って言うのかい?
でも本当に地図にも載っていない道があるとはね、予想外だよ。
しかし理由を聞けば地図に載っていないのも『そりゃそうだ』と納得出来る。
でももし、そんな場所でーーー『事故』…
遭難事故とか滑落が起きたらどうするんだい?危ないじゃ無いか」
「ええ、ですからだからこそ、一般的な登山地図に載せないのです。
これはまぁ〜言い方は国籍によっても、時代によってもまちまちですから、ある程度は想像で補って会話をしてるんですが、まぁ普通の登山道ではありません。
ザッというならシネマとかのクライマックスで派手に出る様な?人間業とは思えない場所でアクションが有るじゃ無いですか、そんな場所です。
でもーーー本当にあんな場所で滑落事故があったら、手に負えません。
ザイル1本で宙吊りになったら、重力でハーネスとか体にグイグイ容赦なく食い込むしで肉体の血流は最悪、つまり滅茶苦茶自重で苦しいですよ?
繋いでいる上のパートナーにも非常に迷惑がかかりますし。
仲間により大急ぎで救助要請をして、貰えかつ幸運にも専門の救助隊が直ぐに駆けつけられた、条件が最高に整った場合だとしてもーーーですね?
宙吊り現場に到着の頃には、多分最悪の結果になっているかと?」
藤はゴクッーーーと息をのむ。
「でもーーーーー ”降ろす”んだろ?なんとか」
「はい」
信繁は非常に困った様な貌をする。
「これは今の時代の事ではありませんがーーーそのつもりで聞いてくださいね。
ロープ〜ザイルを、現場ーーー
断崖絶壁の為に、誰もどうしても近寄れないから、例えて言うとウチの子龍みたいな 国のーー
特別に優秀な狙撃手が呼ばれまして、狙い澄まして『撃って』。
宙吊りでブラブラ揺れるザイルを、随分遠方から切断したそうです」
「!!え、その方はーーー堕ちたら! その辺はどうなんだい?
そんな事をしたら、死んでしまうだろ? 遭難者が」
信繁は辛そうで切なそうな貌をする。
「そうですね、しかしーーーそこまでした場合では既に。
最悪、子龍みたいな狙撃手が遠方からザイルをバシッと撃ち抜いて、切って、下界に降ろす場合の対象者は。
ーーー救助要請の段階で、対象者がトリアージでも最終段階のレヴェルに達しているからこそなんです。
致し方が無かったというか、それしか方法が無い最悪の場合の話です。
あくまでも滑落者をそのままにしておけずの、回収の為の作戦だったとの事でした。
ですから……クライマーは皆、誰にも嫌な大変な思いをさせぬ為にも、実際は大きな責任があるんですよ。
今日はですから、俺がちゃんと最後まで責任を持ちます。
安全第一、道迷いや滑落が絶対に無いように、子どもの頃よりよく知る、父直伝のルート取りで行きますからご安心下さい。
誰も悲しい想いはさせません」
信繁はしっかりした口調でハッキリそう言い切った。




