番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (26)
信繁班を実質上〜名実共に陰でガッチリ支える男、子龍はこんな話をサクサク始め出すのだ。
藤の ”見た感じ”ーーー
どうやら ”これの発案”〜実行しようとの推す強力な推進者は、どうも雰囲気的に信繁では無く子龍らしい。
奇妙に堂々と主導権を取る様子から、どうやら前もっての準備も万端にして今回来ているらしかった。
「子龍君はーー何か『したい事』があるんだね?」
「まーーーな?
折角のこの抜群のロケーションと気候天気だ、『蝶』だけで無く〜『山の天使』
富士の高山の野鳥の歌声を記録したいって思ってさ?
自分事だが、標高1460位から鳥の種類が明らかに変わるなーってなんとなく体感的に感じるのさ。
最も俺は里山のバージョンしか種と囀りの区別が付かないから、判別はコイツ!
この時期だったらコールポストで巣立ったばっかりの勇ましく新天地を目指す幼鳥、若鳥の元気の良いチョイへたっぴな自己主張がタップリ聴けるんじゃ無いかってね?
そういう一生懸命なのカワイーーだろ? 勿論出たとこ勝負。
ーーー確実に居る ”採取”、絶対的に美声が採れるとは思えないし?
……全く偶然におもねる事になる。
だから先頭の信繁が合図したら、俺がとりあえず音響機材で収録。
その間は僅かな間だが、足音を立てず身動きを止め、静かに佇みほんの数分待って欲しいんだよ」
「野鳥は雀や烏、あと珍しい所では〜そうだねぇーーー燕しか見た事無いな?」
「雀だって地鳴きのジュッジュ以外、あるんだぜ〜?
群雀状態でリラックスしてたむろってると、ケッコー良い美声でノンビリ仲間内で囀ってるし?
ーーーー燕の美声もいいものさ?
彼等の透き通るソロを聴くと信じらんねーと思うしな?
あんなちっこい体でよくぞまぁーーーって位の素晴らしく良く通る声なんだ」
子龍はウットリと蕩ける美貌で優雅な仕草……長い逞しい腕をスルッと、まるで貴公子然に組む。
〜途端、抑えきれない強烈な甘やかな色気がぶわりと発散される。
「……」
『……ッたくコイツらは〜〜〜!』
何がどうなって此処まで自分と違うのか?、藤はバリバリ頭を掻く。
しっかり鍛えられた見るからにな頑丈な腕、本来パーツ的に厳つく粗野な筈なのに、何故か彼がそれをするとワイルドさと気品と艶っぽさが複数同時に存在、ふわり滲み出すのが凄いのだ。
子龍の業務内容はヘリ操縦だけでなく、寧ろ本来の役目は”狙撃手”、信繁班を支える有能なスナイパー、多少は関係あるのかもしれない。
「野鳥って、そんなに色々と鳴き声があるんですか?
そのぅーーー子ーー龍ーーさ……まぁーー?」
「ハハハそんなに堅くなるなよ?
俺も相棒と一緒でフランクに『さん』でいいっしーーー?」
「!!」
子龍は崇拝者が聞いたら一瞬で心臓麻痺しそうな事を極上の笑みを添えて……
更に綺麗な美しいウィンク付で言い添えるのだ。
どうやらこう言った所作は、どんな時も何時如何なる時も、レディに対して標準装備らしい。
『ヤレヤレヤレヤレ……』
一生かかっても真似出来ないなーと、藤は諦観の念で溜息を零さざるを得ない。
『彼等の方がよっぽどか、幻の美しき野鳥に思えるぞ?』
…とまぁ、そんな埒もない事を心の中で呟くのだが。
「バードウォッチングだったら、本当は早朝の方が良いと言えばいいんですが、何せ鳥は早起きですから。
ですがーーー縄張り宣言の為の ”鳴き合わせ”〜目的でしたらば、今時分でも充分可能でしょう」
信繁も神妙な貌で、相棒子龍のアイディアに言い添える。
「君の『お薦め』は?」
「そうですねーーーー……」
藤の質問に信繁はウーンーーーと言いながら
「今はシーズン的に少し遅いですが、駒鳥とミソサザイの鳴き合わせなんかが聴けると楽しいですよ?
どちらかが自慢の1コーラス、ひとくさり朗々と披露すると待ち構えて ”反証” 『自分の方がもっと上手いんだぜ?!』
〜言わんばかりに切れ目なく、引き継ぐ様に歌い出すんです。
これを幾度も行い、聞き惚れる程、本当に素晴らしいんですよ!
勿論ーーー! 同じ種の野鳥同士でも行いますが。
駒鳥ミソサザイ双方〜……
共通に生態的に沢に繁殖期に巣作りする鳥ですので、溶岩の火山岩と軽石で出来た富士には大きな小川が出来ないから多分〜俺が思うに?
新たな生息域の住処を探しての、餌確保場であり ”移動中”なんでしょうが、本当に素晴らしい美声なんです。
ーーー俺は大変好きですね。
英国マザーグースに『クックロビンを殺したのはだぁれ?』
〜とまぁ、ジャパンでも超有名な童謡がありますが、あの”クックロビン”というのはヨーロッパコマドリの事で、かの国の国鳥です。
当時、ミソサザイがーーーー
コッチは10㎝有る無しの極小さな地味な小鳥で、マザーグースの唄が作られた当時。
青いベスト着用の某有名野兎の挿絵にも確かあった、見た目煌びやかで華やかなオレンジが美しいコマドリの雌が、てっきり彼らなんだと誤解されてたんです。
ですから唄の中で、コマドリが”旦那さん”で、奥さんの”ミソサザイ”がーーーと
事情を知ってると、クスッと『成る程!』
なかなかドキドキのサスペンス風味の面白い童謡ですよ?」
「「「へーーーー…!!」」」
「因みにミソサザイも、小さな体に似合わず大砲みたいな大きな声で、ビックリする程、もの凄い声量で朗々と囀る野鳥です。
何所にも全然〜姿は全く見えないのに、なのに美しい声だけが清涼で良い空気の中、どこからともなく聞こえて来る〜
神秘的でロマンティックじゃないでしょうか?
後はヒタキ科の野鳥が、姿形も愛らしく総じて声も美しいです。
里にも下りますがーーー……雲雀に似た声のビンズイも堪らない美声です。
是非ーーー
富士の裾野の森林限界値までのマイナスイオンタップリの清涼な山の中で聴けたらなぁと俺は思います。
だってーーーこんな贅沢な耳へのご馳走はありませんから……!
今後は厳しい足場の悪い道行きになるかと思いますが、お楽しみを目指して頑張りましょう。
子龍が採った録音は、後日説明付きで皆で共有出来る様にしますから。
後々感慨深いーーー良い思い出になる様に!」
信繁は悪戯っぽく、茶色の瞳をキラキラとさせて楽しげに笑みを浮かべる。
「わー班長〜そりゃー楽しみ〜〜〜〜〜!」
「オレッチさ? 実は実家でヨウム飼ってんだ〜!
今飼うのに希少生物だから許可いるんだけどさー
”寂しいからこっちに連れて来たい”って言ったら、妹にウワーンと大泣きされて渋々断念したんだぜ?
妹が学校から帰ると大喜びで名前を呼んではしゃいで、スッゲ可愛いってさ〜
もぅ完全に一番下の ”きょうだい”〜って感じ?
あ〜〜〜
我が愛しのヨウムちゃんに聞かせたら歌声覚えて、上手にまねっこするかな?」
「ソリャするだろ?」
「いーなあ〜〜いーなぁ、ヨウムかぁ……人生1度は飼ってみたいよな〜
全身グレーに尾羽一筋だけ鮮やかな緋色、オシャレ過ぎ?!
で〜噂じゃ何だって覚えちゃうんだろ?」
「犬とかニャンコもいいけどさ? 鳥っていいよな〜案外さーーーー」
「だってさー子龍のペットのオオタカ”桜香嬢”だって、完全に”彼女”だろ?」
「コラ〜〜〜〜! 大事なアイツをペットって言うなーーー!
れっきとした ”パートナー” だっつーーーーんだよっ」
「ああダヨナー! いっつも熱ーく イチャコラしてんだもんな〜〜〜っっ!
クーーーー羨ましいぜ、あんな賢いロシア美女をチックショー!!」
皆ワイワイと口々に、信繁班のメンバーと子龍も加わり興奮気味にくっちゃべり盛り上がる。
そんな明るいムードを纏い、藤班メンバーは信繁らと共に湯治場を出発する。
「忘れ物は無いですねーー」
信繁は相変わらずのんびり人当たりが柔らかで、丁寧で好感度抜群。
〜こんな男が本当に戦闘中は ”無敵の恐怖の魔神” なんだろうか?〜
『ちょっとーーー今のオットリ穏やかな人のよさげなあんちゃんな御様子では想像がつかないなぁ』
やっぱり藤はそう思うのである。
信繁はのほほんと、あくまで穏やかな口調でこんな事をへらりと言う。
「これから時々は、村山古道〜
破線ルートも通りますから、気を引き締めて行きましょう」
「?破線ルート?」
「何ですかそれは?」
???ーーー藤の部下が、えええ?っという顔でお互いを見交わす。
「あーーー 破線ルートっていうのは、一般の登山道で無い場所だよ?」
藤がヤレヤレーーーといった感じで返事をすると、こんな逆質問が返ってくる。
「? でも地図の登山道に、れっきとした場所としてあるんでしょ?」
「”地図に無い場所” ーーーって事なんですか〜〜〜〜?」
「そんなのあるんですかぁ?
地図に無いのに、地図にあるだなんて絶対に矛盾してます!」
「そんなのおかしいですっっ!!」
「!!」
ああ言えばこう言う〜……!!
ワァワァワァワァ藤に対して突如一斉砲火、遠慮も何もない、そんな物欠片も無い。
ーーーーブンブンワンワン 蜂の巣をつついた様な質問攻めだ。
〜えっとーーーー困ったな、どこからどう始めてコレーー
”オチ”として、どう締めを答えればいいのか?
う〜〜〜〜〜〜〜んんーーーー 藤は頭を掻いて必死で考える。
困った、この場の納め方がわからない。
自分には信繁みたく、何に対しても何を振られても、テキパキ闊達に答えられる様な流暢な言葉の備蓄なんか無い。
『ちっくしょ〜〜〜〜〜っっっ!!』
チラリンと藤は厄介な言い出しっぺの信繁の方を見る
『大体がお前のせいだぞ?!』
ジロッと睨む
ーーーところが信繁は全く動じずーーー……
「藤先輩の言うのは正しいですよ?」
ーーー逆にニコニコ微笑んで、意味深にそう語るではないか!
無性にイラッと、理由理屈抜きに腹が立って来るのだ。




