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番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (22)


信繁の新たに計画したルート取りはこうである。

 

現在の補給物資を購入したルート最後の小売りの店を出た後〜


更に72号(道路)を山に向かい約50分……はかかりすぎか?進み、次のチェックポイントの薬湯が自慢の湯治場まで、道的に72号から逸れキュッと折れ曲がる感じで進む。


機器への記録用アクセスと共に、汗をこの施設で流し服装その他身支度を済ませ以後は再び72号に折り返して戻る。


すぐ側に分岐がある為、そのまま薄暗い細い大淵街道に入り進む。


大淵公園小道に回り込まず直進、此処を越えると再び開けた民家が点在する地域に出る。


一応1番太い道幅なのでゴチャゴチャ迷う事は無いが、この辺りは民家が多い分生活道路の細道が多い。

迷い込んだらリカバリーがかなり大変だろう。


白線でペイントがしっかり有る幹線道路をまたぎ、最後の民家群を抜け山神社へと抜ける参道脇を通過するといよいよ本格的な林道に突入する。


山神社は ”人の住む場所” と ”山の世界”〜

いわば俗世と人ならぬ物が住まう聖域を、キッチリ区分ける厳かな境目の役を成す物ーーー”装置”なのだろう。

 

結界〜とまでは行かないだろうが、そのあたりは自分にはよくわからない。


しかし此処を越えた辺りから、急に空気と周囲の雰囲気が変化するのも確かで一変する〜と言っても良い。


まだまだ当分は地面は舗装道路だが、左右はビッシリ隙間が無い程の植林地帯。


進んでも進んでも景色が変わらず、単調でうっそうとした薄暗い林が延々と続く為、現在地がどこだかつい錯覚でわからなくなる、というか感覚的に麻痺する。


こんな所で別ルートに迷い込むと、本当に精神的消耗が激しい為、案内役はくれぐれも注意する事だと信繁は自分にしっかりと言い聞かせる。


広大な某学園敷地の端を通り過ぎ〜この近隣でかつて石油掘削があったとか?


地図で見るところの1車線の車両舗装道路を右手に向かい、ウネウネと端に白線の引かれた道沿い進み、とあるY字に別れた三叉路の箇所を向かって左側のルートを栗倉地区に向かって進む。

 

道は益々細く険しくなると思いきや、急に開けた見晴らしのよう場所に出たりするから爽快だ。

 

で再び……更に行くと ”大きな分岐” がある。

 

宗教施設の敷地程近くから自然公園区域がある方角へと、かなり更に本格的な細道の山道〜踏み跡を進行

……因みにこれが村山古道(1部分)だ。


端に到着したらそのまま180号〜富士山スカイラインを目指しひたすら歩けば良い。


スカイラインとかち合うから横切り、地図上右手すぐに富士裾野編の〜最後のチェックポイントで記録を取る。


表富士での3つめのチェック〜……及び班員の休憩を済ませ、自然休養林コースで高鉢駐車場を目指す。


今も昔もスカイラインはデンジャラス、車両等がブンブン高速でぶっ飛ばす為、とてもではないが歩行者向きとは言いがたいから、林道を通り、舗装道路の道なりには進まない。


到着の駐車場の此処で再度トイレ休憩ーーー大きな休憩を取る。


何故ならばこの後は本格的な山道、村山古道でも最も難所、巨大な倒木帯に入るからだ。


なお高鉢駐車場は結構広く標高1,600m、富士の2合目である。

 

『〜こんなに歩いたのにまだ2合目〜……! アイツら絶対言うだろうな……』


表富士の裾野はとにかく驚く程に広大、そんな事は重々、頭では分かっているが信繁は心の中で溜息をつく。


つまり、本来は、こう言う事なのだ。


登山人口が桁違いに多い吉田口の方は、最初っから”それ様”の仕様だからついウッカリ、ぁあこういう物だ〜と思いがちだが。

 

こっち側〜富士宮方面は修験者が元々は修行の為に清める場だったり、林業系の山を使う&保全する本職側なのだからそもそも観光路ではないのだ。


富士に冷寒地に強いとされる高山植物が意外や意外少ないには理由がある。


貴重な ”氷河期の生き残り” とされる健気な彼等が生きた時代、現在の姿を形成する古富士はその当時、”今正に絶賛活動中”〜

 

造山活動にてボウボウカッカしていて熱量が高く、とてもではないが繊細な”高山の天使”〜彼等が根付く地盤の状況では無かったからだとされる。


「だからこそ有り難く、大切に守らなければいけないんだよ?」


マムシバーグを息子に喜々と食わせた父親は、確かにそう語っていた。


「本当に偶には、真面で良い事を言うもんだ」〜信繁は今でもそう思うのだ。



富士の裾野の2合目以上〜

”森林限界”と呼ばれる植物や木々が生えなくなる地点までの間には、山屋や自然が好きな人間には堪らないお楽しみがある。


アサギマダラ〜等の美しい蝶もそうであるが、普段滅多に囀りが聞く事も出来ない野鳥の楽園なのだ。


留鳥ーーーゴジュウガラやミソサザイ、まだまだ鳴き声が拙い所が可愛らしい、若いウグイスーーー


〜ホ〜……ホ〜ーーーホォーーーー……ケキョケキョケキョケキョ〜〜〜


お気に入りコールポストで囀る、夏の有名所の、夏鳥のキビタキ。

 

信繁は個人的には、漂鳥のルリビタキが好きだ。

高山で彼等の高らかに唄う鳴き声を聞くと、あ〜山に来たんだなぁと実感する。


ヒタキ科の小鳥達は、ちまっとして形からしてカワイイ、

ズバリ〜 ナスチャのストライクゾーンだろう。


メボソムシクイの、鈴虫に似た透き通るハイトーンの囀りには、スーッと疲労と暑苦しい体感温度まで涼しやかに一時に変わる気がする。

 

そんなこんなで、小さな可憐な鳥達の声はまるで耳に届く宝石だ。



高鉢駐車場を出ると再び自然休養林遊歩道〜…御殿庭に向かうコースを暫く進む


御殿庭と村山古道分岐点〜…

至高鉢駐車場〜御殿庭行〜


2方向はそれなりに立派な看板が出ているが、古道は研究されて復活したとは言え、国に認定された正式な登山道では無い為、若干入り口や方向がわかりにくいかも知れない。


迷わず「登山口」

〜スズ竹に埋もれるように覆われた、「え?」と、まず驚かれる、本当の踏み跡を知らない人間が見ると、不安を通り越す、唯の”けもの道”だろう。


衛星で細やかに確認しつつ、”踏み跡”を分岐後も見分け、キチンと誘導出来るかが案内役の肝〜力量なのだ。


分け入れば斜面がきつくなり、見晴らしは部分部分は良いのだが、疲労が進む倒木帯がいよいよ始まる。

 

そんな中、登山者は笹で”穢れ”を落としたとされる場所〜

瀧本・笹垢離跡 1,860mに到着する。

 

趣があり比較的広い場所で ”パーティ”によっては此処でランチタイムを設ける事が多い。


この場所は歴史の深い場所、廃仏毀釈で富士の山中の仏様を取り除いたのだが、僅かに破棄を助かった地蔵3体や、「富士山表口瀧本前」と彫り込まれた不動明王1体が此処に安置されているのだ。


しかし頸が無い地蔵の姿や、袈裟切りされた破壊の不動明王の様子から当時の凄まじい神道VS仏教、かつてこの国を襲った狂乱の宗教弾圧の傷跡が今に残る。


「こんなとんでもない山の中まで〜全くなんとやらだよなぁ」

初めて見た時の衝撃を思い出し、信繁は溜息をつく。


この先に進むと、そこそこ丈のあるヒヨドリ花の群生地が本格的に広がり、蝶達の元気な群舞が天気が良ければ見られる事だろう。


そして僅かに残る、立ち枯れた〜 ”白い白骨樹”


表皮どころか色素まで、根こそぎ風雪や雨風で漂白された一種異様な木々の群れがこれらとセットだ。


だがその空間に、生命の燦めく輝きをまき散らす青々と茂る植物達。

命の時を謳歌する、野鳥の素晴らしい楽園ーーー……


この対比が信繁は気に入っており、そろそろ遠景になだらかな雄大な富士の山が見え隠れする。


何度見ても自身のちっぽけな感情など吹き飛ばされ圧倒される空間だ


更に遠く遥か彼方に、晴れれば駿河の海も見え、海抜0メートルの、あんな遠くから自分はここまで来たのかと感慨深く胸が一杯になるのである。


今回ーーー是非とも光が射して欲しい。

と言うのも蝶は明るさに敏感な為、曇り空や薄暗く日が落ちると飛びが弱く、木々の葉の裏に止まって隠れるか、でなければ ずーっと吸蜜行為でノンビリしており飛翔しないのだ。


ーーーだから、ここは何とか明るい日差しが射して欲しい。


あの〜

ひら〜〜っと滑空する、艶やかさに心躍せてもらいたい。


苦労してなれない山道を登ってきた藤先輩のグループの人々に、癒しの美しくも不思議な景色を堪能して欲しい。


この後更に厳しい急登の傾斜面と、ダイナミックなーーー

火山岩で出来た厳つい大地に伸びる水が一切無い赤茶けた涸れ沢渡り!


どれも吉田口の方から登ったら絶対に無い、荒々しくも、思わず敬虔な気持ちに頭を垂れるワイルドな富士大自然を堪能することか叶うのだ。


ーーー信繁はそんな事を思う。


 

その後は、激しかった村山古道を進路左側に外れ、再び認定の整備の行き届く、古道と交差する休養林遊歩道を僅かに歩み、後は車両用に舗装された幹線道、スカイラインに出るだけだ。


でーーーその道を歩き、勇次や城主や隊長との「待ち合わせ場所」


……富士宮5合目施設はもうすぐ「目の前」ーーー……!

ゴールはもうすぐ其所だ。


信繁はザッと頭の中で、計画をもう1度グルッと復唱する。


「で、班長、この先の事〜補正ルート聞いとくわ」

 

「〜あぁ」

 

「色々予定とか新たな計画案とか有るんだろ?」

 

「まぁな」


チョコミントアイスバーを、モグモグ如何にも上品に食べ終わった信繁に、子龍は細かい指示を仰ぐ。


信繁は今後何所でどうするか、フレイヤ王女とは直接関係ないが、ここまで来た以上、藤班の皆にも見せたい印象的な素晴らしい景色についても細かく伝える。


すると子龍は一寸考え〜こんな提案を語るのだ。


「そりゃフレイヤ王女様にも見せたら喜ばないか?」

 

「そうか?別に興味ないだろ?」

 

「そんな事わからないじゃないか……?

〜ていうか?

この節天然の美しい大型系の蝶の乱舞なんか、誰が本物見た事あるってんだ?

それにさ〜 きっとイメージする野鳥の声なんかさ……

精々カーカー真っ黒けの鴉ぐらいだろ? 


〜銀河でも何所でも都市部で耳にすんの、そんなもんさ。

高山で聞く天使の囀りなんか、今まで意識して聞いた事もない筈だ。


お前が当然と思う世界なんか、それこそ特殊な『マニアック』な情景だぜ?

……喜ぶと思うけどなァ俺は」


「う〜ん……

戦闘艦乗りのアグレッシブな性格の王女様には退屈じゃ無いか?」


「……んじゃこうしよう?

”富士御来光”はお前から〜でさ?、コッチは〜『オマケ映像』だ。


女性同士〜例えばナスチャからのプレゼント風景とかさ?

そうすりゃ、彼女も意識が分断され気分が変わるだろう。


”別の日の披露”でもい〜よな!

ーーーあくまでもメイン、頑張った主役はお前だからだ。


但し勿論〜”何所のどれ”を撮ればいいか〜……お前が直々に指示出ししろよ。


な?ーーーそれに鳥のどれがどれやら、俺には其所まで区別が付かない。

 

狩り対象物の、平地に住む鴨とかヒヨドリとか山鳩とかはーーー

……まぁ桜香関係でわかるけどな……!


そうだな〜なるべく多くの品種の天使の美声の取れ高があった方が楽しめるだろ?


王女様には ”コレがこれだ” って

お前が図鑑の小型立体映像でチラッと見せれば、コミュニケーションツールにもなるしな?


あ〜鳥類はスッゲぇ良いぞ?

ーーーどんなにちっちゃくても生命力の塊で。

しかも揚力の、野趣溢れる空を飛ぶ為だけの、完璧な無駄の無い見事な体つきだからな……!

 

風切り羽の〜天から与えられし素晴らしき芸術性!

あんなに魅惑的な連中なんかこの世に無いサ。


それにさ〜王立宇宙軍エリート部隊〜

”空を飛ぶ” 空挺の人間だから、きっと本質的に好きだと思うぞ?

ーーーこういうの」


信繁は少し考え、音声映像各各の撮影ともなると其所で又結構な時間が取られてしまうだろう。

そうした事をしても大丈夫か?


今回の大所帯のメンバーを率いるリーダー……案内役として、余計な事じゃ無いだろうか?


「〜じゃこうしよう信繁?

『運』ーーー…状況次第、囀りの音声は偶発的な物だろ?

有るかどうかも漠然とした雲を掴む話だ。


だからさ〜『あったら』

……出会ったら合図で皆で一斉に静かにするから、お前が其所を音声を狙うのはどうだ?


足音とか喋りとか、余計なノイズが入ったらヤバイだろ?

折角なのに…ーーー全て”台無し”だろ?


鳥だって驚いてパタパタ逃げちまうし?

ーーー蝶だって慌ててビックリしちまうサ」


「……出たとこ勝負って事か?」


「まーーーー…… ”そうとも”言う。

〜登頂を目指しながら、何気にソッチもこなすって、なかなか要領良く無駄が無くって合理的だろ?


折角此処まで来たし?

ーーーーソリャ多少の手間はかかるが ”そうしただけの事”は、後日参加メンバーの記念にもなるしさ、俺は絶対アリアリのアリだと思うぞ?」


「……」


「やろうぜ?お姫様の誕生日の、お祝いのコーラス、山の天使達の美しい囀りの贈り物〜……!

 

お祝いには『音楽が欠かせないですよ!』 雅がいつも俺達に言ってんだろ?

 

なぁーーー班長」


「ホントに良いのか?

それに……大体ーー撮れる機材有るのか?」


「っくッッ ”こんな事もあろうかとーーー!” 」

 

子龍はニヤリと……

バッグから小型撮影機材と、音声専用録音システムを取り出して見せた。

どちらも驚く程小さい品である。

 

そして ”こんな事もあろうかと!” は、不夜城勤務の研究者、若手エースである同期の同僚 ”天才瑠架”の〜ここ1番の際に必ず出る口癖でもある。


子龍は戯けて〜 ワザワザ符丁として信繁に対し口真似して見せたのである。

 

当然、友人の煮詰まった思考と緊張感を解す為!

 

「ホラよ〜 ”作って貰った” し?」

 

「わかったよ」

 

肩をすくめ、信繁は子龍の発案に頼る事に決める。


本当は内心ーーー……

ひどくホッとし、その温かい優しさと気遣いが嬉しかったのだが、口に出す事は無かった。

 

『何で自分はこう頑固で素直じゃ無いんだろうなーーー』


信繁は自分の狭量さが恨めしかった。

 

『いつも済まんな子龍』



嬉しいのに嬉しいと言えない、全く自分はつまらない奴だよな〜


お前の〜自由闊達な明るさが羨ましいーー……


信繁は心の中で溜息をつき、後ろめたく項垂れた。



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