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記憶の中へ


それから1時間後ーーーーー




再び同じ研究施設に出向いたクリストファーは、ピッタリとしたウエットスーツを着用後、準備が整ったという強化樹脂カプセル内に入っていた。




特殊ジェルに満たされーーー……

 

さざ波の様に感じる装置内低周波刺激

 


呼吸を整える酸素マスクに顔面を覆われ肉体は密閉された。

 

……ふわりと漂うここちの摩訶不思議な感覚に意識がボンヤリするーーーー


 

ゆらゆらと半分眠っている体験にーーー心がとけつつ、目を薄く緩やかに閉じる



指示通りの、シンクロ化を目指した。




立体映像がーーーー

 

電脳装置と連結された透明な巨大クリスタル球の中に、徐々にはっきりした輪郭で屈折無く浮かび上がる。



「無事同調(シンクロ)しました」


「上手くいったようね〜後は無事に帰ってくるだけ」


「それが大変難しいんです。

『今回』は、大丈夫でしょうか……?」


主席研究員が顔を歪め辛そうに言った




クリスタル球に色鮮やかでーーー鮮明に映写された、過去を再現した立体映像。



クリストファー王太子の意識は転送移植された。






……何故、隠蔽された真実だったのか?


驚愕する理由がそこにはあった。


クリストファーが転送移植されたのは「事件前夜」だった。



結論から言うと、長男であった世継ぎの叔父ヘルヴィムは


酒と女とカネとクスリに目がくらんだ、ろくでもない父(クリストファーにとって祖父)を、あらゆる方策を使い


「国王」というーーーー金看板の輝かしい格式を、全身全霊、全力でフォロー


ずっと長い時間行って来た、有能すぎる息子ーーーー王太子だった。


現実も素直に受け入れ、含みを良くわかった上で父の行き過ぎた行為を諫める


ーーー心に正しさも備えた、魅力的な後継者だった。

 



ーーーー殺そうとしたのは、実際は父王の方だったのだ。



「惑星デメテルへの開発は最小限にすべき」ーーーという理念の持ち主の伯父


外国の巨大企業に足下を見られ、すっかり快楽の奴隷化した……!


「開発大賛成派」の父(祖父)


ーーーーーそれでは意見が合う筈も無かった。


激しい諍いが恒常化ーーー


深夜決まって、王宮最奥にある家族しか入れない究極の奥の院、プライベートゾーンで炸裂した。






「事件当日」



呪われた出来事は、なんと既に爽やかな朝に萌芽があった。


その朝、”趣味である射撃”、最新型モデルである高価なエネルギー銃が届けられた日の事であった。


 

”過去の映像”……

 

佇むクリストファーの目の前で


 

昼食前ひとしきりテラスの前庭で、どんな初心者の人間でも必ず等しく容易く撃ち落とせるという巨大な仕掛け


エネルギー銃愛好者用に、特別『大きく』

しかも、少し当たっただけで粉々に割れやすいように開発された、特殊素焼き製


「射撃初心者専用ソーサー」を、専用射出機で、しかも最も緩いスピードでジャンジャン放出させた。


そうしてジックリ、「試し撃ちを堪能」したのだ。



それにしても何故クレー射撃用の中折れ二発発射式散弾銃ではなくて、エネルギー銃ーーー??


これはおそらく、運動機能が落ちた彼の手にはクレー射撃は高度すぎ、技術〜


必要不可欠の「技」に体も目も動体視力が全くついて行けず難しすぎて、ソーサーが1枚も撃ち落とせない、カッコ悪く高い自尊心が傷つくからに違いない。


そうなったら、プライドだけは”高かった”祖父にはーーーー


「面白くない」誤魔化しようがない


ーーーーーーーー耐えられない

 

「ーーー……聞いてた話と全然違うじゃ無いか!」



素晴らしき模範的な青い血の国王、 コロニー都市D-01の誇り

 

この世に2人と居ない賢き名君!



クリストファーは気分が暗澹となった


高等部1年に在籍中の学生の次男坊(クリストファーの父)はその日、偶々学園が休日だったから

 

”少しばかり付き合った”


細やかなやり取り


様々な時系列ごとの流れ……



ひとつひとつ、小さな今までの?『謎』……が……

 

引っ掛かっていた事に得心がいった


 

「お前も食べるだろ?」

 

「でも……」


「心配するな、アルコールは舐めるだけだ飲みはしない」

 

「良かった!」


途端にホッとした顔をする…瑞々しい少年の姿形の父


「う〜〜〜ん、何処にでもいる仲のよい家族にしか見えないよ?」


お気に入りの次男との触れ合いに悦び、父王は2人分の豪華な昼食を庭のテラスに用意させた。



その時ーーーー……だった


銀河でも入手が特に難しいと言われている


「貴重で珍しいビンテージワインが偶々偶然に手に入りました!」


……そう言う奇妙に若いソムリエが現れたのだ


『?』


ーーーー……変だ


おかしい


さっきまで居たベテランはドコに行ったんだろ?



「おぉお!それはまた」


酒に目が無い彼は大いに機嫌をよくしたーーーが、サッ!と〜


まだ少年である父の顔が引きつるように暗く曇ったのを、クリストファーは見逃さなかった。


 

「もっと有るだろう? よこせッッっ」


「っ……!国王様これ以上はーーーー恐れながら…」



「言うことを聞かないとお前はクビだ!!」

 

「……」





やめてッッ

 

やめて!


お願いだから……やめて!



蒼白になるクリストファーの目の前の映像達は、破滅に向けて突き進む



国王ーーー彼の祖父は全部持ってこさせた


 

つまり、もう既に、アルコール中毒なのだ



「やっぱりコイツは最高だ! アッハッハッ!!」


飲み終えたばかりの空のーーー空き瓶を、酔いが回る国王は更に給仕に大きく放り投げさせ…


高く高くーーー舞い上がった酒瓶を



ガァンーーーー・・・ッッッッッッ・・・ッッ



満足げに「的」にした





醜悪の極み



              

なんて下品なんだろう。



どうしてクリストファーは敬愛する父が、公式行事のパーティー以外では、どうして滅多にアルコールを「嗜まない」……か?


ハッキリわかった。


今まで、虚弱体質の体が異物を受け付けないと思っていたのだ。



ーーーー最悪だったのは〜



さらに悪かったのは


そのままの射撃スタイルで、着替えもせず、ダラダラーーーー


切れ間無く


ーーー昼食中に出されたビンテージワインにどっぷり没頭してしまった事



高等部に入学したばかりの学生の小言など、何処吹く風



サッパリ聞くはずも無かった……



延々チビチビ アルコールに耽溺した彼は、夕刻ーーー



忙しい伯父が立ち寄った際


ーーーーーまだガンベルトを装着していた。




ホルダーには新たにタップリ充電ーーーーし


”エネルギーチャージ完了”、ゲージが満タン状態の銃が未だ入ったまま



「父さん?」


「……」


「?」


新品の銃身が不気味で、ヌラリと魔物が宿るみたいな、気味の悪い底光りする光を放っていた。



「父上は?」


「それがーーーーーー」



「じゃあいい。

今日の会議決定事項の事で、取りあえずお伝えしたい事もあるから私が行こう。


大体、お前達では手に負えないだろう」


 

「申し訳ございません…」



「まぁこれでも私も、一応息子だからな。

ーーーヤレヤレだが」



叔父は早朝から、ろくに満足な食事や、充分な休息も取る事無く。


父の代役として出席した、ウンザリする長い、それでいて少しも気の抜けない、かなり厄介なタイプの会議を終えたばかりだった。


と……!

いきなり急に、場面が王宮内プライベートスペースからコロリと変わる。


”早送り”で展開される、フラッシュシーンの連なり

 

……夕刻


 

どうやらようやく神経を研ぎ澄まし、精神を磨り減らすような状況で行った難しい案件の会議も終了した時間帯らしい。


大勢の人間が見覚えある〜

 

重厚な扉から吐き出される。



王族側として、伯父はまずまずの戦果を残したらしく。


宰相以下、議会の評議委員会のうるさ方議員達も、取りあえず一時的にでも彼の論調に納得。


ーーー無事なんとか「お開き」になったのだ。


物々しい国会議事堂の赤絨毯の敷き詰められた廊下

 

パッと見ても極めて背の高い2人の男達が何か、言い争う様な鋭い口調で話しながら歩いている。


 

誰?

誰なんだろうーーー?



「ヘルヴィム王太子殿下ーーーー


もう少し評議委員会の方々のお顔を立てては下さいませんか?」


「……お前の言い分もわかるがな宰相?


しかしだがーーー彼らの『本音』は国のためで無いだろ?


心の中でお前もわかっているはず、私腹を肥やすことに明らかに意識が向いている!!


既得権益を失いたくない気持ちは理解できるが、王家にもそれなりの矜持がある


惑星デメテルの扱いは、慎重過ぎるほど慎重に行わなくてはならないと考えているだけだ」


 

「そうは言っても 貴方様のご意見は頑固すぎます」


「今のままでは大国にいいように利益を吸い取られ、しまいに弊履の如くD-01は捨てられるに決まっている。

 

お前だって重々わかってるはずだっ!


そんな切っ掛けを私は作りたくない、私を信じている国民に申し訳が立たない」


「そうですかーーーーーーわかりました」


 

『え!』


宰相ーーーと呼ばれたーーーパッと俯いた顔を上げた男の顔を見て驚いた。


だって、余りにも似すぎていたから。


黒髪の親友ーーーウィンストンに。


ただ〜瞳の色だけが違った。


 

色味も同じで、”政治家”として親しみが持てる雰囲気に似せてはいたがーーー


どこか冷たい〜〜


そう 例えて言うならば……!


蛇に似た、怖い冷血な光を保持していた。

 

それはウィンストンには絶対無い特徴である。


そうか!!

彼が「不世出」といわれ歴史書にも名を残す、伝説的な大政治家ーーーー


彼の祖父 その人なんだ!!


威厳や醸し出す威圧感が、想像以上に圧倒的だった。




「アルマン……お前も少し休め、すぐまた厄介な議題の会議への出席だ。


今日はご苦労だった」



ピタリとーー……どうしてか追い縋る様だった、蛇に似た男の足が止まった。



「私の事を未だに…… ”アルマン” と?」



「何言ってるんだ、お前は私のかけがえの無い友人だーーー

 

年が離れ、例え意見の相違があっても私の気持ちは変わらないよ。

 

よせよ、人の目の無いふたりきりの時位はいいだろう?


……あぁ昔はよかったな。

 

秘密の地下室で語り合ったり、王宮を2人自由気まま抜け出してーーー


馬で〜侍従を振り切って遠乗りに出かけたよな。


アルマンは本当に馬術の天才だ、君は覚えてるかい?」


「ーーーー……その様な昔の事は忘れました」


「ははは頭の良くてそつの無い、お前らしい理屈だな

 

時に〜……君も息子のジュリオはどうしてる?

 

私の弟と同じ学園に通ってるそうだな

ーーー留学はさせないのか?」


「ええ……

あの子は私の手元で大切に大事に教育する所存です

何もかもーーーね。

 

知りうる事全てを実体験、生きた経験が人生の……全てですから。


時に、太子様は ……この後のご予定は??」

 


「うむ、一旦王宮に帰り、少し体を休める。


流石にキツイーーーーもう年だな」



「何をまたお戯れを、私よりお若い貴方様が……!」


「アルマンも謙遜が過ぎるーーー相変わらず口が上手いな」



「滅相も無い、是非ごゆっくりご休憩を。


遅延は……

いらっしゃらない時間は私が何とか致しましょう。


懐かしいお話しが、今の最後に出来て良かった。


ではまた、議事堂大会議室で」



慇懃に丁寧な様子で ”アルマン”は、伯父に深く頭を下げた。


どうしてだかーーーーゾクリと背筋が震えた。



そう……

やっとの事で政務から開放されたんだ。



だからーーー……!


ピリピリしてプライベートゾーンに戻って来た、疲れ切り雰囲気に余裕の無い伯父は、少し精神的に参ってたのは事実。


彼は軽い食事と仮眠を取る為……

ほんのいっとき偶々立ち寄ったにすぎなかったのだから。


ーーーー無理も無いと思った。


この夜も僅かな休息後…!

 

すぐにまた深夜まで続くと予想される、議事堂で開催される重要会議に出席〜〜

 

出向く予定だった。



伯父ヘルヴィムが『国王代行』として何故、そこまで全ての政務にかり出されていたのか?


それは……それは、国王は〜


人目に既に出せる姿と状況では既に無かったから……だ。



息子である彼は、自分の気力肉体、双方の限界が越えそうになっても


どんなに辛くとも!、必死に父親を庇っていたのだ


でも……

明らかに無理をしすぎていた


しかし、そんな息子にーーー国王は、いい気なもので。


1階の庭続きの遊戯室の緞子の長椅子に寝転びグダグダになっていた。



「何をやってるんですかーーーー!!」


予想通り、伯父はグデングデンに酔った父を見つけ、溜息をつきながらも手を貸そうと優しく右手を差し出す。



パシィッ……


国王はうるさげに指をはねのける。



ーーーーーーーそれが本格的口論の引き金になった。




ヘルヴィム伯父様ーーーは、エネルギー銃で至近距離から腹を撃たれた。



ホルダーから引き抜かれた銃の筒口からは、微かな紫煙が流れ落ちていた。。


 

息子を撃った父親。

 

その目には『狂気』が浮かんでいた


ーーーー明らかな殺意が。



「殺してやるーーーーお前など

 

生意気でかわいげの無い、貴様など!


この私に指図するなッッ!!


私は偉大なる国王だ

 

青二才の小僧のお前などとは訳が違う人物なのだ!!


小賢しいお前とは格が違うのだよ!」

 

 

ドゥと体が倒れたところを、祖父はゲラゲラと笑いながら、息子ヘルヴィムの体にゆうゆうと馬乗りになった。


「殺してやる……!」


酔っ払い特有の手加減無しの怪力で首を絞められ


ゲホゲホと堪らず口を開けたヘルヴィム伯父様ーーー


父親は床に置かれていたエネルギー銃のこれみよがしに拾う。


そして銃口を、口腔内に父親の手で無理矢理ねじこまれた。



国王である父親は酔って濁った血走った目で。


白目を紅く染め、悪鬼の如くのおぞましい表情で笑いながら……


再びロックされた銃のセイフティーを外した



ーーーーわざとゆっくりとーーーーだ


威力の目盛りを大きく上げる


ーーーーいいやマックスに、エネルギー最大値にした


 

即死にするべくあえてしたのだ。




「私はお前が嫌いだ」




指がーーーーーーートリガーを引く寸前





物が吹っ飛び倒れる激しい物音と、エネルギー銃特有の鋭い銃声



真っ先に気がついた次男が、まだ少年に近いといってよかった年齢の、僕の父が


重い遊戯室のドアを凄い勢いでこじ開け、体全体で転げるように入って来た



父王に渾身の力で体当たりをかける。



直後すざまじい音と光がーーーーー放たれた




いつの間にか次男の、クリストファーの父親の両手が無意識の内に、父の手首をガッシリ握りしめていたのだ。



何が起こったのか?



ーーーー当事者同士でもサッパリ、恐らくわかっていなかったろう


発射直前だった銃の銃口が衝撃で口腔から抜けて


ーーーー運悪く 

反り返った弾みで父王を向いたのだ。




国王の体を、胸部を眩い光が貫いた。



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