研究ラボ内部にて
城主が先導し「研究設備区域」ゾーンに彼をいざなった。
目的地には、信繁と病室でのガードが警護の任についたのだが。
信繁のみ ーーーー何故なのか??
「自分は 施設研究ラボの外で待機致します。
お前達…
俺の代わりにこの方を頼むな?」
そう言い出しクリストファーの付き添いを断ったのだ。
「まかしておいてください!! 信繁さん!!」
「済まんなーーー頼んだぞ。
ではクリス様、俺はここでお待ちしていますから」
「どうして?どうして 中に一緒には行かないの?」
信繁は〜 ちょっと困った表情をしたのみで、業務での必要以上の事は何も言わなかった。
「必ずこの場所に居ますからクリス様は、安心して中に行ってらっしゃい」
信繁は廊下で待っていると静かな声で柔らかく言い〜
ーーーしかし頑として自らは研究ラボに入室をしなかった。
「じゃあね 信繁」
「ーーーーええーーーごゆっくり」
振り返り入室する城主と、厳しい顔で腕組みをする信繁との間に、チリチリとスパークする静かな緊張感が走った。
ガード全員もどこか居心地悪げな、奇妙なアイコンタクトが所在なさげに行ったり来たりの物言いたげな表情だった。
頑丈な特殊金属製の扉がシュッと閉鎖。
研究設備区域は装置を保護する為、あえてほの暗い照明に落とされどこもかしこも無彩色。
ーーーー巨大空間
「……凄い」
未知の不思議な機械がギッシリ並び、きょろきょろしていると研究員が恭しく説明を始めた。
「薬物で熟睡中の対象者の脳の記憶部分を、特殊装置がスキャンします。
人体に影響が出ない特殊な手法で、映像を抽出します。
抽出を元に、さらに遙か過去の映像が鮮明になるクリーニング、その後データ化
欠損ビジョンは、同日同じ時間の記憶を部分的に持ち、さらによく似たDNA配列の人物からの提供ケースのみ時間軸を整合〜
合成する事も、近年技術革新で可能となって来ています。
滅多に無い希な事例ですが、専用装置での抽出データはむろん保存可能です。
人工知能搭載再生機で完璧に、あるべき姿に再現されます。
ではクリスタル球をごらん下さい。
安全確認後、復元再現の特殊立体映像プログラム内部に対象者の意識が転送移植されます。
サイエンスフィクション作品群に登場する『タイムマシン』に乗った状態が、この度の最もイメージ的に近いでしょう」
最高難度技術開発におけるプロジェクトリーダーとおぼしき研究員は、胸を張り誇らしげに語った。
「貴方方にお渡ししても決してダメージを受けない良い物だと、検証結果、内容の安全確認を致しましたら、こちらを離れるまでに責任を持ち準備を致します。
貴方を通じ、国王様に是非差し上げたく存じます。
ホログラムの再現は、どんな立体映像機器でも機種を選ばず再生可能状態に、データの互換性を確認しセッティングしておきます。
こちらの記録チップをお父様にお渡し下さい。
ですが、『安全』の為、お持ち戴いた時と同じ仕様で口腔内にセットさせて戴きます。
もう一つの依頼、隠された真実についてですが……
おなじ血族のDNAをお持ちなので、事件の日の映像を時系列で確実に合成できるでしょう。
もしもお父上のお言葉ーーー『真実』を知ることを選択され、勇気を持ち実行するおつもりでしたらば
ーーーこちらも叶えられます
転送移植による……『疑似体験』という形でお知りになられます」
聞く方にとっても相当な難しく長い説明だったが、城主は淀みなく躊躇わず一気に話し終えた。
「全ては王太子様〜貴方の御意思のままに」
ーーー厳かな声色
キッパリとした、人の上に立つ者だけが持つ、強烈な自負と威厳に満ちており全身から、白いビリビリするオーラが迸るかのようだ。
思わず気圧されそうだったが、クリストファーも1歩も引かなかった
「僕の気持ちは お伝えした先ほどのままです。
絶対に何があろうとも後悔しません、お願い致します」
「本当にそうですか?」
探るような漆黒の瞳で、ジッと真正面から表情を見つめられる。
瞬きもせず 心の奥底まで見透かすような黒い眼差し。
何もかも、今ここにある思考さえも、全てスキャニングされているような居心地悪い思い
「構いません」
ーーーーグッと奥歯を嚙み締め堪え忍んだ
「ーーーー面白い方ですね、クリストファー王太子殿下は」
城主は突然フイッと全身の緊張を解く。
クリストファーは、自分の体がいきなり弛緩したのに驚く。
金縛り状態で、呼吸もしていなかったのが、直ぐ後、無意識に自分がした大きな深呼吸でそれがわかった。
『試されていたのだ』急にその時理解した。
「貴方はまだ若い正義感をお持ちですね。
先程の、最初の個人的なご依頼ーーーこちらを先に行っておきましょう。
ではまず、今から如何ですか?
衣装その他もそれで構いませんよね?
銀の髪に白い肌、菫色の瞳に、純白の儚げな介護服の清潔感が加わり、こう言っては何ですが、中々よく似合っていますよ?
何というか、犯しがたい汚れ無き気品と、それでいて正反対の願望
トコトン欲望を開放し自由にしたい、貴方に嗜虐趣味が誘発されるんです。
クリストファー王太子殿下、貴方は大変に罪な方ですね?
ある意味、危なっかしく危険すぎます。
貴方様に、”自覚は一切” 無いと思われますがーーーーー」
クリストファーは項垂れる。
「私はこの先…どうすれば良いかと思われますか?」
「貴方は貴方ですーーーこの先ずっと変える事はありませんし、それは第一、無理でしょう。
この先予想外の苦労が絶えないと思いますが、自分を許してあげなさい。
ーーー受け入れることです。
温かく貴方が望む様、優しく抱き締めてくれるのもこの先 貴方の腕だけです。
他人に数多を望む前に まずご自分を愛しなさい。
愛しく大切に慈しむことです。
クリストファー王太子様でしたら、お出来になられる筈です。
あのキャサリン様が〜ご自分の命を賭してお助けされた方ですからね?
貴方が根底からわかり合えるのも、望んだスタイルで、お心を大切に出来るのも、ご自身だけです。
貴方が相対される事を望む『あの方』も…
”予想外の急所”〜
美しい貴方にふいを突かれ、思わず心を開くかと推察されますよ?
確かに『お望み』は良い選択だと思います。
今後の為にも、その方がいいと察します」
クリストファーは俯いた
「貴女は厳しい方ですね」
「よく指摘されます」
城主はきらきらと輝く笑みを浮かべ、平然と優雅に微笑んだ。
「私ほど酷い人間、極悪人はいないんだそうですよ?
それを受け入れるのは私の悦びです」
そう艶然と笑い、自慢なのか卑下しているのかわからない、変で滅茶苦茶で奇妙な発言をした。
『クスクス笑っているから、彼女流の「ジョーク」なのかも知れない。
そうだ!! きっとそう』
なにせジャパンは『ニンジャ』の国。
コロニー人の自分の想像を毎度毎度はるかに超える、マジカルでアメージングな 魔界の土地柄なのだ。
人間の姿の物の怪や、妖魔妖怪変化のたぐいが、「こんにちわーーーっ」と別に直ぐ隣に居たって全然可笑しく無いとすら思うのだし。
ロマンがあっていい!!
『実は彼女は、”現在の姿は世を忍ぶ仮の姿” ーーーで
夜な夜な黒衣でサササーーーッと瓦屋根を疾走する、本当の正体は女忍者!
『くのいち』なのかもーーー!!
大体、考えてみれば、城って名前も意味真だ
本当はココは忍者部隊の総本山で、彼女が現代における忍軍総裁、仕切ってる首領なのかも知れないな!』
クリストファーは心が急にポカポカ温かくなった。
元々こういう事は彼の得意分野である。
妖怪変化だったら美女『雪女』とか『鶴』?……?
彼の頭脳の中、様々な妄想、『可能性』が むーーーんと頭をよぎる。
「貴女は『油揚げ』がお好きですか?」
「???
ーーー甘く煮上げた『お揚げ』で造った『いなり寿司』は私の好物ですよ?
豊川稲荷というジャパン3大稲荷土産の美味しい『いなり寿司』が特に好物で、ジューシーで甘くてお出汁が利いていて、シンプルで大きさも最高!
帰省や出張後の部下達が、ラックの、幸運の縁起物として私に良く差し入れてくれますが?
あぁ、さては信繁からお聞きになったのですね?」
コーーーン・・・・・・
そうか そちらかーーーーーーー…
狐=頭に葉っぱを乗せドロンと美女に変身
永遠のお約束、もはや鉄板である。
「よろしくお願い申し上げます」
『いいなぁ、美しきお狐様へ〜と、これで良し!』
心の中だけでそう甘く呟き同意書、及び誓約書にサインする。
妖狐はーーー
物の怪の中でも最強クラスの、美しき妖怪変化だと言い伝えられる別格の人気の存在だ。
ジャパンの、チャイナの最古の王朝〜殷王朝から生き抜いて今居るこの国に来たという……
白面金毛九尾の絶世の美女に変化した狐伝説。
平安時代の玉藻の前の、殺生石伝説にドキドキしたのを思い出す。
モデルはその時代終盤、国のトップの男達を手玉に取り、実の兄弟同士の即位にまつわる、後継者問題の諍いを起こした女性。
多数の貴族が失脚し、実力主義の武士の力が台頭する切っ掛けとなった戦を招いた天皇寵姫がモデルだという
ーーーー凄いよね!
クリストファーは城主のすすめに従い、研究員の言うとおりに必要な行為その他を全て済ませた。
良かった……これでいい
きっと僕の気持ちは届くだろう。
「では、お時間になりましたらお呼び致しますので1時間ほど。
再び、あのお部屋でお待ち下さい」
クリストファーはコックリと頷き、再度ガードされて研究室を出た。
『本当に居たっ!』
「・・・・・・」
ドアの外には難しい真剣な表情をした信繁が ムッとした顔で仁王立ちで立って待っていた。
「オイオイ、なんちゅう顔で待ってるんだよ信繁〜〜〜」
「元々こんな顔だ」
シリュウのへらりと言う茶化しに、信繁はフンという面持ちでそっぽを向く。
「ったくーーーー!!
そんなに心配なら意地張らなくていいのに」
ぶつくさ小言を言いつつ、シリュウは頑固者の相棒に対し特大の溜息をついた。
「後悔はしないから・・・・・・」
クリストファーの返事に、信繁はフーッと大きく息をつく。
「あんたホント可愛い顔をしていて頑固だなあ~」
クシャクシャと頭をかいた。
「僕なら大丈夫です」
「あんまり無理はするなーー辛い時は本能に従え」
「いいんですか?」
「当たり前だ、何考えてるんだよ」
憮然とした信繁の声が即答でポーンと返ってきた
クリストファーは何だかウキウキと、その直球の反応が嬉しい。
「ところでーーー……クリス様」
「はい?…」
「ヘルヴィム伯父様ーーー残念でしたね」
「ーーーーええ……
どうやら会う事は無理なようです。
それにお会いしてももう。
まだ、意識だけはあるそうですがーーー」
「だがさー、ここまで来て会えないって言うのは酷だぜ?
彼はもう充分すぎる程犠牲を払ってる」
「そうは言っても……相手も自分のそんな姿を見せたいと思うか?」
「……」
「…」
シリュウと信繁が暫くボソボソ何かを話していた。
「・・・・・・じゃこうしたらどうだ?」
「?」
「収監長かったろ?彼の伯父殿は?
元気だった頃の彼担当のスタッフに話を聞くのはどうだ?
厳重に管理されている個人情報とは言っても『数少ないお身内』だったら、ほんのさわりだけでも聞かせて貰うのはどうだ?
それに機密に関わる総花的な事じゃなくってさ……!
”クリストファー王太子について”だけ〜
あぁ、なにか『彼について』聞いてるかも知れないぞ?
それくらいの四方山話、単なる雑談〜思い出話サ?
ーーーーー許されるだろ?」
「出来るのか?」
「まぁ任せとけって!、俺の人脈を舐めんな、一応魔女にも許可貰っとくな?
こういうのはタイミングをずらしたら、根暗くゴチャゴチャ揉める元だぞ?
ーーー先に病室戻ってろ」
シリュウは小さく一礼すると再び研究室に戻っていった。
本当に?!
クリストファーはドキドキと心が躍った
というのも不可能が可能になった気がしたのだ
「彼ーーーアイツだったら大丈夫です、クリス様」
「そうなんですか?」
「えぇ…絶対!」
漸く信繁のしかめっ面が優しく柔らかくなった




