子龍と城主登場。たった一つだけの依頼について
今を去る事、数十分前。
信繁に呼び出しがかかったのだ。
しかしそれは「伝令付き」
クリストファーにとって、あんまり嬉しくない手法によるものであった。
ムッと嫌そうに眉をひそめる信繁とーーーヒソヒソとーーーー
偉そうに腰ポケットに手を突っ込み、ニヤリ親しげに会話するこれまた謎の男
彼の名前はーーーーどうやら
”シリュウ”と言うらしい
「信繁、伏魔殿に魔女が来いってさ
〜〜〜〜〜〜!あ〜マドレーヌ、俺の分は無いのかよ?」
「当たり前だろ、けどお前がワザワザと此処に来なくても
〜特別病棟内線通信で呼び出せばよかったのに?」
「ハハハ、そういうワケにはいかんだろ」
「マドレーヌだったら後で幾らでも焼いてやる。
発酵バターと、いつもの蜂蜜とオレンジピール入りの奴だろ?」
「ぉう!、皆、信繁の焼き菓子楽しみにしてるさ!!
さっき〜食い意地の張った奴ら
ーーー自分達の分が無いって知ったときガックリしてたぞ?
特に『カワイイ物好き』ナスチャちゃん。
〜『噂』だけだったからな?超美味いソレの話」
「ーーーわかったよ。
好みを聞いとけ、そのように専用にレシピ材料組んで焼いてやる」
「ぉ〜〜サンキュー 『機長』さん!!」
「お前一言多いぞ? シリュウ〜『副機長』」
『〜〜〜〜〜何か横柄だよ〜!?この綺麗な人』
でもシリュウと言ったら、チャイナの『三国志』という物語の
”蜀”とい国の領主?国王?王様?に仕えた名高い武将しか思いつかないや』
それからの命名なのかも?ーーーークリストファーは僅かな手掛かりより考えを巡らせた。
子龍とは趙雲ーーー趙家の”雲”君の事。
「雲」は諱ーーー
忌名という特別なネーム、よって慣習として自ら成人後、自分で自分に命名するのだ。
(万が一悪霊に知られると乗っ取られ、色々悪しき良くない事をされるらしい)
でも少しは本当の名前に掛けて洒落っ気を出すのが、当時小粋だったらしい。
特別名に関連するテイストで”雲は龍を呼ぶ…”ーーーつまり龍神だから。
そう言う伝説と、男らしくかっこ良さげで強そうだから「龍」なんだろう
そして”子”の漢字……
現在の表記文字では”チャイルド”、子どもだが、本当の意味は、本当の特別の貴い人に付けた敬称である。
しかも音的にも綺麗にまとまりやすく丁度いい。
”子曰く”ーーーはチャイナの古代史では、ヒトで有りながら死後天に昇って神仙になったと言い伝えられる孔子を指す。
ジャパンでは古代史の、チャイナから輸入された最初の概念・取り扱いでは兎に角凄かった。
国の命運をになう程のハイスペックの超大物豪族男性しか、”子”は恐れ多く名のらなかった事がその証明である
『それにしてもーーーー!』
背が信繁と同じくらい高い〜いいや「謎の男」の方が僅かに彼よりも背が低いのだが、全身から醸し出す態度は信繁よりもはるかに派手!!
凄まじく容姿がキラッキラだ。
少し長めの艶めく漆黒の髪、お揃いの真っ黒な瞳、抜ける様に白い肌。
秀でた額、全身から発する凄いオーラ
凶暴な迄の華やかさーーーー!
実際、奇妙でーーーー脇で見ると2人は不思議な取り合わせだった。
〜でもって闖入者は見るからに態度がデカく、強烈な自信家に感じられた。
『何だか熱帯雨林地方ジャングル奥地の極楽鳥?!
飾り羽根が目を見張る程もっさもっさ艶やかで華やかな、幻の鳥類のケバケバ系
ーーースパークする極彩色、未知の鳥類みたいだ…』
突然静かな部屋に乱入してきた、このおそろしく美しい容姿の『謎の男』
……
多分だが、口調の気の置けない親しさから『彼の同僚なんだろうな…』
クリストファーは悶々と想像する。
さっき信繁がポロッと言った「事情」とやらが……なんとなく
『あ〜〜ーー』ーーーー正しくわかった気がした。
信繁は謎の男ーーーー
呼び出し役『同僚』シリュウ(子龍?)と 遠慮シイシイ、クリストファーの方を振り返りつつ、今までずっと静かだった病室を退出していった。
それで入れ替わりに、「同僚」の後方にピタリついてきた厳ついガード達が病室に居残り、彼の身辺警護任務に就いたのが今現在の状況である。
信繁が部屋を退室する直前にクリストファーは彼からーーーー…
「城」内部における注意事項や規約などをザッと説明される
「・・・・・・・・・」
「そんな心細そうな顔をしないで下さい、執務室での御用が終了次第、直ぐに戻りますから」
「は〜んお前ーーー 随分懐かれたもんだな、この人たらし」
間髪を入れず ボコッと謎の男に対し信繁は喝を入れた。
「ーーーそういう事を言うと ぶっ飛ばすぞ?」
「〜〜!〜〜!やってから そーいうこと言うなよな信繁!!
この凶悪師範!!暴力反対!」
「ふん」
全てジャパンの言葉だったから、細かくはクリストファーに会話内容は理解出来なかったが
ーーーなんとなく「いつものお約束的」わちゃわちゃ感から、言外に様子が想定出来た。
『相当仲がいい同僚、友人関係って事だよね?』
ーーーーもぅ羨ましくって泣きそうだ
「早く帰ってくる」ーーーと、信繁は悪そうな顔で彼に優しくそう言っていたが
ーーーついつい心細く、ソッチ方面でも目がウルウルとしてしまう
『信繁にーーーー本当に早く帰ってきて欲しい〜〜〜〜!!』
ーーーー空気がドシッと重苦しい
信繁がいた時は、静かで誰も居なかったので、何だか物々しく落ち着かない。
そうこうしていると、「コンコン・・・・・・!」
穏やかなノック後に待ち望む人物、どことなく機嫌が悪そうな信繁と
〜先程の「同僚」に伴われ、城主は和やかに現れた。
ーーー本当にジャパンの可愛らしい女子高校生と全然見分けがつかない。
やっぱり
ーーーーそれくらいの若さに見える。
今度は腰までのサラサラな黒髪を、ストレートの状態で下ろしていた。
顔周りのみ邪魔にならぬ様、複雑な形に結っている。
頭の背後ーーー
オレンジ色のマンボウ貝に精緻な薔薇が彫られた小ぶりなカメオと鼈甲造りのバレッタ、それで業務の邪魔にならぬようカッチリ髪がまとめられている。
言うまでもなく、かなり高価で手の込んだ装飾品だ。
『綺麗ーーー』
余りにも魅惑的で、彼女のサラサラな揺れる髪に触ってみたいと、つい思ってしまって顔を赤らめた。
女性の艶やかな指通りがする…なまめかしい髪は、男性の心をグッと捕らえる。
「先程は失礼致しました」
「いえ……」
改めて出会った城主は、職員共通のシンプルな糊がよくきいたベージュ色の制服を、型を崩さず着用している。
まさかこれほどユニフォームがピシリとよく似合うと思っていなかったのでドキドキだ。
城主は信繁が新しく用意したチェアに、さらりと優美に当然の如く着席した。
「王太子様、早速ですがデータをお預かり致します」
美しいソプラノ!
高い声だが、聞き惚れてしまう柔らかさと優しいゆらぎが備わっている。
「はい」
頷くと促しに応じた。
口腔内に親指と人差し指の2本の指を入れる。
下顎のもっとも奥まった空間を探ると、微かなカチッと音がした。
小指の先ほどのーーーー小さな銀色の『箱』が取り出された。
口の中に出血は無かった様だった。
「お預かり致します」
彼女は広げられた除菌ウエットペーパーに丁寧に乗せ綺麗に汚れを落とすと、サイドテーブルに置いた樹脂ケースの中から、優美な手さばきで銀色の特殊工具を摘まみ出す。
極細の針の先のような工具の先端でーーーー
極細い工具の先でも接触がやっとの「箱」の中心部分の極小ネジ部品の溝に丁寧に接触させ、クルクルとゆっくり正確に回す。
急に硬く閉じあわされていた「箱」の蓋が緩んだ。
ーーーフワリと開く
「確かに。中身も大丈夫のようですね」
「箱」の中には、防水加工された内部の極薄の2枚のスポンジに、1枚の映像用チップが、サンドイッチ状に挟まれて入っていた。
城主は 滑り止めがついた先端が平たい、チップ用ピンセットで用心深くつまみ上げるとカード型再生端末に貼り付ける。
信繁は 何気にベッドサイド近くの壁面に接近し、壁面設置の小型操作パネルを指先で操作した。
何処もかしこも真っ白だった部屋が薄暗く変化し、すいっと緩やかに病室内の光源が落ちる。
ーーーー突如 壁に帯型の巨大スクリーンが現れる。
「信繁これお願いね」
彼は慇懃に神妙な面持ちで ぺこりと頭を下げた。
カード型再生端末を 口元を引き締め受け取り、手慣れた様子で、なめらかな動きで小型操作パネルに接続されている再生機器にシュッとカードを挿入。
ブンッッ!!ーーー
鮮明な映像が映し出される
映像は 現在病床に伏せっている、コロニーD-01を統治する、クリストファーの父親である国王を撮影した映像レターだった。
現代は盗聴ハッキングを恐れて、本当に重要な連絡は、電波を飛ばすタイプの通信機器及び、一切の連動式コンピューターを介さないことは常識である。
だからこそ「厳重なガード」が悠々と政府公認でつけられる王太子が、あえて危険を冒してまでも「極秘連絡役」に選ばれたのだ。
このスクリーンも独立型で、メインコンピューターとは連結する回線そのものが存在しない設計となっている。
また毎朝全室、盗聴盗撮やスキミング防止の為の検査が行われている。
『お父様ーーーーー!!』
〜今 お体はご無事でしょうか?
映像にコロニーDー01・現国王の姿が写し出され、余りの痛々しさに、こみ上げる嗚咽を必死で堪えた。
「ーーーこれを見ていると言う事は『城』に、お前は無事に着いたと言う事だな
あぁ善き事だ。
あなたの伯父、我が愛する兄上に、王家のーー隠されている真実を聞きなさい
ーーー本当に済まなかったと絶対に伝えて欲しい。
お前にも大変な迷惑をかけるのが心苦しい。
ーーーー兄上
愛する兄様ーーー
素晴らしい誇り高き貴方に、息絶える最後に一目だけ会いたかった
今でも貴方を心より尊敬、忠誠を誓い愛しています」
『隠されている真実?』
何の事?ーーークリストファーは思わず眉をひそめた。
そこで無常にもプツッと映像が切れ、城主は立ち上がった。
「さてどうされますか? 王太子様。
御父上が望むようにーーーーー貴方は伯父上様に お会いしたいですか?」
「伯父上に会います、是非宜しくお願い致します!
祖父より続く〜〜〜3代の永きにわたる 全ての決着をつけたいです」
クリストファーに迷いはなかった
はっきりと答えた
「それから、1度貴女と2人だけでお話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ーーーー少し口ごもりながら目をパチパチさせて、上目遣いで城主をおずおずと見る。
だがそこに、僅かながらの熱を城主は感じた。
「わかりました」
さっと城主の一瞬の”目配せ”で、信繁達は病室から静かに、流れる水の如く速やかに一斉に退出した。
「これでよろしいんですね?」
「ありがとうございます」
部屋には城主と王太子のみの2人だけ、シンーーーーと静かすぎる空間が広がる
閉鎖的なくせに奇妙な拡張する気分がする病室。
『この部屋に果てはあるの…?』
意識がそちらに向きそうになり慌てて集中を元に戻す
多分この事も、”部屋のパワーの影響”だ
観念や夢想に浸りやすいのもーーーー
「あのぅーーー信繁さんに先ほどお聞きしたのですが?」
「彼は何か特別な事を貴方に言いましたか?
ーーーー何なりと この私に仰って下さい」
「『たった一つだけの依頼』〜は、願い事を聞いていただけるのは、ここに入る収監者の方々だけですか?」
小さな声に、城主はヤレヤレと苦笑する。
『信繁 相当この王太子様が気に入ったのね』
しかし彼の洞察力…『人を見る目』は実際、彼女も信頼し一目置いている。
信繁は子どもの頃より、経済最前線にいる父親からこうした事を叩き込まれている。
彼がそう見込んだ以上、異論は無いのだ。
「いえ、特には…、範囲的には、城の力の及ぶ中限定になりますが?
あぁ、空間建物内限定という訳ではございません」
「そうですか」
クリストファーは 打ち解け、心からホッとした様子で、フワリ
まるでーーーーー可憐な……貴重な…銀色の美しい花が咲く様に笑った。




