幸せな思い出話と恋の話について
「極秘任務」
クリストファーの託された役割
この「城」に収監された伯父に面会し、余命僅かで病魔に冒された父王からの録画メッセージを必ず見せる事だった
クリストファー王太子はポツンポツン心に思い出した、まるで問わず語りのような昔話と、現在の自分の正直な気持ちを前後させながら。
一種の独り言の様に、緩やかにベッドにもたれながら、一種のセラピーの如く信繁を聞き手にして話し続ける。
「クリス様はご兄弟も姉妹もいらっしゃらないんでしたね…?」
「はい・・・・・・
私が待望のーーーーー
たった1人生まれたベビーだったそうです」
「それは可愛がられたでしょうね」
「ええ。
ですからーーーーー少しでも期待に応えようと
…
一生懸命でした」
「そうでしたか、よくわかります
我が家も幾代も……
江戸と言われる古代から代々継承する、某会社経営を生業にする一族でしたので
王子様もーーー色々大変でしたね」
『あれ?』
クリストファーは何か引っかかるものを感じた。
「??
ーーーーじゃあどうして??
こちらで防衛のお仕事をなさってるんですか?
お家の家業の勉強とかーーーーどうされてるんですか?
取引相手との顔合わせとか、重要じゃ無いですか?
もしかして、反対を押し切って、こちらに就いたんですか?」
すると信繁は痛い所をつかれたのか、少し困ったような笑みを浮かべた。
「そうですねーーー質問を整理しますと……
まず”最初の答え”は、〜ですが、自分がどうしても就きたかった〜
『就職したかった』の一言です。
他は考えられませんでした、奉職は城1択です」
「・・・・・」
えーーーっと、本当にそれで通るんだろうか……?
「次はーーーーー
家業の勉強は、実は〜〜〜ですね、クリス様とおそらく同じでして。
幼児の頃から高校3年までみっちりでした。
それは先取り教育の最たる物でーーーーハードでしたね。
常に1〜2年分は先をやらされていました。
で……空いた時間で様々な『別』の事を。
ーーーーですので、もう1度勉学の再開、あのハイペースを再び実行すれば経営の勉強も何とかなると言えば何とかなるんでしょうが〜
まぁね、自分はどうにも気が進みません。
一旦レールを外れてしまってコースアウトしてしまうと、唯々細々と面倒で……
まぁそれ自体が、『その仕事に向いていない証拠!』……
”失格”って事なんでしょう。
最後の質問についてーーーですが。
現在でも、『そんな危険な事をするのは止めて今すぐにでも戻ってこいっ!!』
ーーー方々、各方面から未だに言われますよ?
ヤイヤイ追求がキツイので〜処世術として、なるべくその話題を振られないよう上手に顔をあわせないようにしているのですが。
しかし流石に正月の、年始の一族の懇談を無視することは出来ませんので。
でー……その時に。
ドサッとまとめて『待ってました!』と言わんばかりに追求が激しくて……」
「〜〜〜〜!…!」
「父の姉、俺が最も頭が上がらない『大おば』から皮切りに、次はその夫君。
その次は、彼等のまだ学生の子ども達〜つまり従姉妹達を寄越すんです。
でーーー会社を支えてくれる大番頭夫妻……
後〜各国各地支店の社長が続きます。
まぁーー……順番にそんな感じで。
それはもうイソイソと、喜色満面、『さぁさぁいつ職場を辞めるのかい?』と嬉しげにやって来ます」
信繁はフッと溜息をつき、綺麗な腕組みをすると苦笑した。
「もうーーー随分こちらに奉職して時間が経つので、いい加減諦めてくれてると俺は思ってたんですがーー…?
最近気が付いたんですが、どうもそうじゃないらしくて。
『お兄様…私達がお嫌いなんでしょうか?』
純情な従姉妹に2人揃ってポロポロ泣かれてしまったのには参りました。
よく分かっていない子どもを利用し、要求をするだなんて狡いですよ全く。
おまけにこの頃は、我が国の内閣府の人間まで、どういうツテを使ったのか大伯母達が引っ張り込んできたので、こっちはすっかり防戦一色です。
厳しい実務経験により、強靭にバキバキに鍛え上げられた弁論のプロフェッショナルには、流石にかないませんよ素人は。
『気の毒にーーー!
君も様々なしがらみで、あっちを辞めたくとも辞められないんだろう?
私が何とか上手に掛け合って交渉してあげるから、だから安心して、大船に乗った気で任せてくれればいいんだよ?』
……だそうです。
う〜ん……別に〜……あっちは後継の優秀な人材には困って無い、俺程度など掃いて捨てるほどウジャウジャ居る筈なのに、全く奇妙な事です。
こちらとしては?ーーーーですね、1日も早く、正直早く諦めて欲しいなぁ、ほっといて欲しいなぁ〜が実際のところの本音です」
信繁は最後に、”茶目っ気タップリ”……
心臓がズガンと撃ち抜かれるキラッキラの『飛びきりスマイル』
邪気なくニコニコ添えて言った。
「全くーーー
こんな半端者などサッサと忘れた方がいいのにと、そう思いませんか? クリス様」
「……」
『いやーーーーソレは無理でしょ?』
真っ赤に頬を染め、思わず視線をそらして俯き、心の中でブツブツ呟いた。
『そりゃ〜、この人をむざむざ手放せるはず無いじゃないか!
彼の親族や、味方を自認する関係者達にホント同情するよーーー』
で、クリストファーも お返しに自分の事を話した
率直に、今まで言えなかった、最愛の妻キャサリンにすら言えなかった、正直な自分の本当の気持ちを。
皆自分に優しかったが、孤独だった王宮のこと。
子ども時代の自分と〜親友と妻でした 悪戯の数々。
伯父ヘルヴィムの秘密の地下の隠し部屋のことーーーーー
電脳にはかつての存在の記録のみで、本物は最早現存していないとされていた、伝説的忍者の2次元アニメーションを発見〜
3人でキャッキャと何度も繰り返し見たこと。
どんなにキャシーを〜 妻を愛しているか。
少しでも何かしていないと、何でもいいから語らないと、本当に気持ちが潰れて参ってしまいそうだったから。
信繁は長い足を組み、時折何気ない仕草でふいっと話の先を促した。
そうしながらーーーー
新たにポットで入れ直したお茶のおかわりを……
〜フランスの言語で『西洋菩提樹』を意味するティヨルのお茶
白磁のティーカップにゆっくり、零さなくてもいいように少量ずつ数口分ずつ継ぎ足していった。
喋り疲れた舌を優しく癒やす甘く香しい癖の無いお茶と……
口の中で、しっとり蕩けるきめ細やかな味わいのマドレーヌの美味しさ。
疲労し翼折れた心に 静かなる活力と平穏、安らぎを与えた。
信繁は驚いた事に、「聞き役」としても最高の相手だった。
意外と頑固そう、さっきは頑として自説を譲らなかったのに拍子抜けし思う程、全てに肯定的だった。
絶対に譲れない時は信念として意見を変えない。
しかしーーー……
それ以外は寧ろ柔軟で、相手の心の赴くままに……
別に『勝手にすれば?』
フーーンと聞き流しという態度でなく、取り巻く環境と文化が違う人間の精神と思いを尊重している。
キチンと言い分を”対等と認めている”
ーーーだからの様だった。
これは嬉しい
気分は最高である。
『信じられないよ……!!』
『こんな人が僕の側近に居たらなぁ……』
銀河で密やかな噂、悪名高き最低最悪の恐ろしい「城」
〜何人とも脱獄不可能の、1度投獄されたら生きて2度と出られないという究極の地獄の監獄。
信繁はそこの「鬼」ーーー獄卒、刑務官のような立ち位置で。
ーーーここで初めて会ったはずの東洋人。
何で、彼のような特別の、生まれつきの毛並みの良い人材がここに居るのか?
『優秀だから』とは〜どう考えても変だし違うだろう。
ちっともーーー何度考えても解らないけれど
『信繁は真面目で とってもいい人だ』それだけは解る!
『もしもーーー彼が兄様だったら』
役目から逃げる訳ではないが、ツラツラとクリストファーは妄想するのだ。
こんな人物が兄君だったらどんなに心強かったかーーー
2人で役割を分担し、苦楽を分かち合い〜
国を支えられたらどんなにも幸せか!!
彼と出会って 随分永い年月がたったかに思えた。
或いは…〜こんな話もした、ズバリ「恋の話」である。
男性だって恋の話は大好物なのだ。
「キャシーを心から愛しています。
彼女しか妻はいりません。
再婚はーーーこの先しないつもりです。
それが僕の〜
自らの、そして命を捧げてまで守ってくれた妻へのせめてもの誠意です」
「……」
「ーーー信繁さんが、お付き合いする女性はどんな方ですか?」
ふと軽い気持ちでした、良くある極たわいない内容の会話のつもりだったのだが
「自分には居ません」
「?アァ
〜〜〜〜!!
っっっつ、これは失礼致しました、もう信繁さんはご結婚されてたんですか?!
〜済みません。
マリッジリングが薬指に無かった物ですからーーー
出過ぎた事、本当にごめんなさいっっっ
御無礼の段、誠に失礼致しました。
相手の御方にも悪いことを致しましたーーー!」
「?……自分はまだ結婚をしてません。
大おば達は早くしろ早くしろと、これもまぁ、五月蠅いですが?
で、適当にかわすと
『お前はもしや、結婚出来ない人とおつきあいしてるのか?』
ーーー要するに恋人は既婚者で、夫が居る身なのかと。
正月、松も開けぬ内にヤイノヤイノ非常に変な事を言われて参りました。
全くーーー何考えてるのか?
お屠蘇や特別な清酒をふるまわれて、”不倫をしているのか?”だなんてお目出たい会場で言う事じゃないですよね!」
信繁はフワリと本気でおかしそうに笑い、キュッキュと形の良い鼻筋を掻きながらやれやれといった風情で語った。
しかもさらに、こう付け加えるのである。
「恋人が居ないくらい 今時ごく普通でしょ?」
「……」
『エエエエエエエエエエッッッッーーーツ!!』
何いっちゃってんの?!この人
ナイナイーーーー
この人に居ないなんて……
もしかして超絶理想が高いとかーーー?
「え……?? ”好きになった人”が『理想』でしょ?
〜〜〜〜うーん、今って世間ではそれと違うんですかね……?」
「……」
何言ちゃってんの??
のほほんと、ノンビリ平和そうな貌をして!
全然全く…次々容赦無く投下される爆弾発言。
思いもしなかった予想外の返答すぎて、気の利いた切り返し方がちっとも浮かばないのが理由抜きで悔しすぎる。
ベッドからコロコロころっと、全身転がり落ちそうになったほどに本気で驚愕した。
『まてまてまてまてまて……!』
動揺する頭を取りあえず落ちつかせ、”意味”を整理する
連邦英語の訳における誤解は無いか?
えっとーー…
『〜…〜…〜…〜…〜〜〜〜…』
うん……ーーー無さそうだ!
『冗談?!』とか?
ーーー揶揄われているのだろうか??
”これほどの人”…が…!!
優しく賢い気の利くこの人がモテ無いはず無いしっっ!』
「城」勤務の女性達〜〜ボヤッと一体何をしてるのだろうか?!
ウッソでしょーーーーッッッっつ!!
ゴクリと息を飲み込みつつ『残された可能性』ーーー
いいや此方の方が圧倒的に真実みが〜『アリ』かもしれない…
冷静を装い
言葉を慎重に選びながらーーー続きを振った
今からの質問はかなりの威力がある。
ニコニコしている彼のその先の『答え』が怖い。
声が引き攣りそうだ。
「ひょっとして、貴方のパートナーは『同性の方』ですか?」
『もしだとしても〜…だからといっても偏見は絶対良くないし?
差別は決して良くないし、自分は色眼鏡なんか無い』
「??」
とーーーーー
信繁から訝しげで、怪訝そうな視線が真っ直ぐ返って来た。
「いいえ?
確かに、偶にどうしてか?
自分はクリス様が今言った同じ事、チョイチョイおそるおそる聞かれます……
んーーー ”まぁちょっと”
…
これには、思い当たる、とある事情がございまして」
『〜〜〜〜!ーーーやっぱり聞かれるんだ…!』
〜〜だよね?
だよねだよねだよねだよねだよねだよね〜!
その「とある事情」とやらが、本心では大変に気になる所だが〜?
クリストファーは敢えて”ソッチ”はムニャムニャ聞き流すことにした
『話を元に戻そう!』
「どうしてですか?!
信繁さんに恋人が居ないなんて信じられませんっ」
「?ーーーそうでしょうか?
ーーー現在俺は 仕事と勉強が恋人なんですよ。
日々忙しすぎてワケが解りません。
まぁそんなこんなで流行にも疎く遊びの無い、本当につまらん人間です」
『あれ?』
そこには幾ばくかのーーー「微妙な含み」
フッと…
謎めいた仄暗い微笑みが含まれていたからだ。
さてーーー…
クリストファーの滞在中の病室
ーーーーー現在
「済みませんーーークリス様、自分は少し席を外します」
信繁が先ほど病室を退出したその後はーーーー……
常に別の男達、フル装備の特殊部隊がガードしている訳で心細くて仕方がない。
『早く帰ってきて欲しい!!』
クリストファーは余りにも寂しすぎて、オロオロ泣きそうになってしまった。




