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信繁との和解

クリストファーはーーーー


信繁とは先ほど意見の相違から激突して以来、もう口を開くのも嫌だった


『あんな言い方しなくったって……!』



本当は、彼の思いやる気持ちーーーー


本気の、自分の将来を考えてくれたからこその、真面目な優しさだと気がついていたが、どうしてか心が素直になれなくて。


しかも今回、自分から謝るのは何故だかしゃくに障り、どうしてもイヤだった



……ブスッと頭まで上掛けを被り、フンッとふて腐れてシーツの中にゴロっと寝転がっていた。


だが気分がモヤモヤと、すこぶる後味が異様に悪かった


そんな時、見守る彼がスッと静かに席を離れた気がした


やはり足音はしなかったが、空気の動く気、というのか、どうも部屋の隅のコーナーに歩いて行ったように感じられた。


相変わらずそれ以外の気配はしない。



『まるでネコみたいだ……!!』


それもペットの純潔の血統書付きのではなく、サーバルキャット、もしくはヒョウみたいな?


そんな美しくて、根っから野生の塊の彼は、そんな身についた気高さがあった。


『……??』


何だろう?


漸くカチャカチャ、硬質な陶器の〜鈴のような、心地よい甲高いふれあう音が耳に届く。


暫くするとーーー今度は温かな仄かな香りが漂い始めるのだ。



『??』


パッと上掛けから思わず顔を出すーーーと、信繁は小さな盆に”何かをのせて”、優雅な足取りで戻って来たのが見えた。



「どうぞ、クリス様」


『えっっ??』


サイドテーブルにのせられたのは白磁製の透き通るように美しい、無地のティーカップに注がれた、ごく薄いイエローのハーブティ。


同じく揃いのデザインの皿に盛られた幾つかの”焼き菓子”、琥珀色にピカピカ輝く貝型のマドレーヌだった



「・・・・・・」


クリストファーがポカンとすると、全く何事も無かったかの様に信繁はニッコリ笑みを浮かべる。



「クリス様のお名前は〜私と同じのようですね」



『??どういう事??』全く話の意味がわからない。



「御父上達は 俺と同じく〜相当な『後継者』としての期待を込められ


貴方にーーー国家の未来を託し名付けられたって事です」


「解るの?」クリストファーは驚いて目がまん丸になった



「ええ、勿論」



信繁はーーーー『ヨシ 上手く行った!!』

 

「悪戯大成功!」的な、悪ガキそのものの表情をニマァと浮かべた。


屈託なくクスクスと笑う顔が実に楽しげだ。


『っ!…やられた…!』


クリストファーはついウッカリ、信繁の、興味を引く話にマンマと引き込まれてしまった自分に赤面してしまった。



信繁はこう語る


「クリストファーは、半分伝説化した、とある聖人〜殉教者の名前ですから。


『メシアを運ぶーーー担う者』


〜苦難を受け入れる尊き高貴さを表す、地球欧州ではとても人気がある、大変有名な男性の名称です。


貴方もご存じでしょ?


王子様も親と国の期待に添えるよう、今までずっと、必死に出来うる限り名に恥じぬよう頑張ってこられたんだなぁ〜と。


此方にて目を覚まされて以降のお姿を拝見して、思いましたよ?


自分のネームも、大概といえば大概なんです、がーーー!


本一モトイチのモノノフってなんですか!』ってね。


普通つけませんよ、『オイオイどーすりゃいいんだよ〜〜!』 〜って。


子どもの立場として、あまりの重圧に幼い時分、ホント頭を抱えましたよ?


好き勝手に、異様に高い理想を勝手に押し付け、無責任というか何というか!!


……いくら何でも、親の期待値がべらぼうに高すぎーーってものです」



信繁は小さくフフッと苦笑しーー〜尚も言葉を続けた



「ーーー地球の某巨大宗教の聖人巡礼地で、俗に”3大聖地”といわれる歴史的人気スポットがあります。


その1つーーーメシアの弟子〜

『12使徒』の内 最後の殉教者、聖ヤコブ。


彼は、スペインという南国の国家に建造された素晴らしい大変立派な聖堂〜


『サンティアゴ デ コンポステーラの大聖堂』に遺骸がお祀りされています。



彼の地の〜街の名『コンポステーラ』は一説によると、ラテン語の『星の野』を意味するのだとか?


〜起点であるフランスという文化国家から巡礼に到る道を『銀河』……


『ミルキーウェイ』と例える人もいるのだそうです


で『マドレーヌ』という名前の、敬虔な信仰心を持つ大変に料理上手な女性が、尊いボランティアスピリットで。


この巡礼のシンボルマーク『ホタテ貝』に似せ、『焼き菓子』をこのデザインにし、栄養価の高い素材で祈りを込めて自ら焼きました。


苦難を享受し銀河を旅する旅人に、敬意を込めて〜


ボロボロに疲労しきった、道行く巡礼者達に配ったのだという美しい伝説があります。


マドレーヌが生きた時代、当時の巡礼行は死と隣り合わせの荒行です。


生きて再び、愛する故郷に帰りつくことが出来、懐かしき大切な人々に無事会えるとは限らない……!


厳しき試練の連続する、大変な旅路です。


『銀河を旅する事』はーーーー

今も昔も旅人が、自身の命を一途に賭ける所は一緒です。


ーーーーようこそクリス様

 

遙々地球に……遠き遙かなるジャパンにおいで下さりました。


あの状況の中、よくご無事でーーーー


しかも我々の『城』まで、善くぞここまで辿りつかれたと思いますよ?


本当にーーーーー凄い事です」


「ーーーーーーーー」


王太子はそっと指先でマドレーヌをつまんだ


えっっ……?!


『まだ温かい!!』


「温かいのは……どうして?」


「えぇまぁーーーさっき焼き上がったばかりです。


リンデンの蜂蜜とブランデーを、かなりタップリ使いました。


アルコール分だけ飛んでる筈ですがーーーどうでしょう」


 

「〜!信繁が〜ひょっとしてわざわざ焼き上げたの?」


「結構得意なんです、調理は。

栄養価抜群なので、ホクホク美味しい内にどうぞ!」


「・・・・・有り難う………ござい……ます」



じんわりと胸が一杯で、クリストファーは涙が止まらなかった。


ティーをそっと唇に含む。


『アッ…!』


ーーーココでも驚いた



「!!〜このお茶は『ティヨル』ですね?!」


「ーーーーーええ。

フランスの思想家マルセル プルーストが自作の『失われた時を求めて』という作品中で、これにマドレーヌを浸して食べるんです。


その甘やかな味覚で、記憶が甦り〜

本人でも忘れていた懐かしい忘れがたき思い出が脳裏に浮かぶんです。


俺は、その場面がとても気に入って心に残って〜


最初に自分で初めてこしらえたのが、この貝型のマドレーヌって訳です。


南仏のカルパントラが産地で有名な『千の用途を持つ木』〜


ーーーリンデン。


リンデン=『西洋菩提樹』


”ティヨル”は癖の無い〜リンデンに咲く樹の花のお茶です。


花に含まれるビオフラボノイドが優れた鎮静効果や不安や緊張、イライラなど精神的ストレスを緩和させます。


東洋医学的、漢方的な働きをしますから、現在のクリス様のお体に良いかと思われます」


「ーーーー素晴らしい薫りです」


何故 信繁が『ティヨル』〜

リンデンフラワーティーをあえて選択したのか、クリストファーは直ぐに気がついた。


隠されたーーーー『理由』があったのだ



『”本当の訳”はーーーーー僕と妻の事を思いやってだ!』


胸の奥がジンっっ…と温かくなり、後から後から涙がヒタヒタ零れる。


心の底からの熱い涙だった。



『……リンデンはーーーーーあの樹は、菩提樹は。


”守護の木”として有名な樹木だ』



薄い透き通った美しいイエローの花弁に、長い雄しべが花火のようにしだれて咲く花。


ふっさりと甘い香りで咲き誇り、ローマ神話で美の女神ビーナスと例えられる。


地球の自然科学に精通した博物館館長から聞き及ぶ、ロマンティックな神話を思い出す。


ギリシャ神話の主神 ゼウスとその妻が〜

夫妻がある時、人間世界に思うことが有り


ワザワザ変身し、みずぼらしく身をやつした旅人に姿を変え、ひとの誠を試すのだ。


そして、心の真に綺麗な貧しい老夫婦に、手厚くもてなしを受けたのだ。


(人にしてみれば〜随分はた迷惑な話だ)



彼等の手厚い心配りに感動したゼウスは「是非礼がしたい」と申し出る


が……謙虚な老夫婦は辞退し首を横に振る。


ただ、彼等は日々感じる”悩み”としてこう語った。


「私達は深く愛し合っています

なのに……

死によっていつか離れ離れになるのが悲しいのです」


「そうかーーーあいわかった、その望みを叶えて進ぜよう……!」



〜願いを聞き届けたゼウスは、老主人をどっしりとした、見事な堂々と立つ威厳のある樫の木に。


彼の配偶者〜

長年連れ添った愛する妻を、しなやかで美しい菩提樹リンデンに変えたという。


2人が永遠に清らかな愛を誓えるように……


見事でーーーー見惚れる姿に


敬意を持って周囲にいつまでも敬われるように。

 

花言葉は『夫婦愛』ーーー



「いただきます」


「どうぞ」


 

クリストファーは焼き菓子を両手で持ちパクッと1口食べた。


口内に広がる焼き菓子の、トロリと上等な蜂蜜の自然な甘味。


気持ちを和ます優雅なブランデーの香気。


温かなティーの醸し出すほんのり甘やかな香り


ささくれ疲れきった心に柔らかに寄り添い、まるで優しく癒やすかの様に優しいフワフワな口溶けで切なく甘く包み込む。



『・・・・・美味しい!』



ーーーーーもぅ堪らない……!!


素朴な素晴らしいこの味を、自分はきっと一生忘れないーーーーー


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