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第4章 秘密の地下室

クリストファーにとって、伯父おじヘルヴィムは奇妙な存在。


何故なら、惜しみなく与えて根こそぎ奪ってゆく。



それは彼が初等部に在籍の9歳頃の出来事で。

 



王宮の深夜の探検で、大昔、「城」に追放された伯父ヘルヴィム元王太子殿下が執務に使っていた部屋ーーーー


現在は彼の父王の手により厳重に封鎖されている難攻不落の私室、様々な方法を散々試してみて初めて潜り込んだ深夜の事である。



「アレは本当に嬉しかった!!」


今でも思い出に残る、心から喝采をあげた夜だった。


入室を恐る恐る、でもドッキドキで行うと、長らく閉鎖されているから独特のカビ臭いような埃っぽいような、お約束の香りがしたのをクリストファーは随分経った今でもよく覚えている。


当時、隅から隅まで、全ての引き出しを開けて楽しんだ

 

その時ーーーーー偶然に!


ポツンと残されている、重厚で大きな地球産マホガニー製デスク奥にしこまれた「謎の空間」を見つけたのだ。



「何だろう??」


鍵のかかった1番下、右側一番下部の大きな引き出しを、自作の2本の針金キーでガチャガチャ繊細に操作して何とか開けると、驚いたことに最奥が、いわゆる上げ底仕様になっていたのだ。


 奇妙で不自然な厚みは……巧妙に誤魔化されて、外から絶対わからない「別板」が念入りにピタリと埋め込まれていたのだ。


何が入っているのかなぁ……?


僅かな隙間があって 開きそうで開かないのが余計にムッと腹立たしかった。



知恵者のウィンストンに相談すると、秘密の深夜恒例、王宮泊まりがけでの探検中に「2人で」、ソレをじゃあ、開けてみようということに決まった。


「今夜いい?なら都合がつくかも」


「いいよ!何とか侍従長 誤魔化しておくよ。

プライベートルームの衛兵は僕の味方だしね♪」


ウキウキでひそひそ話で計画中ーーーー


こうした男子の悪戯にめざとい許嫁であるキャサリンが 幽霊の如く背後にいつの間にやら立っていたのだ。

 

「フゥン、何だか楽しそうな計画なのね」


突然のおっそろしい声かけに、ぎゃっ!!とのけぞる。


「いつから!」


「ーーーそれはこちらの台詞です、声大きいし夢中になり過ぎ。

私の事、やっと気がついたの?!」


「そんなァ〜〜〜〜!」



何と言うことだ…

口うるさい女子、それもよりにもよって「彼女」に計画の全貌を知られてしまったと、クリストファーは大ショックで項垂れる。


「私も参加させてくれるんだったら、国王様に黙っておいてあげるけど?」


「そんなぁ〜〜〜〜!」


もめに揉めたが、彼女は「自分も立ち会う」と強く言い張り、やむなく3人で秘密を調べることに決定する。



深夜の元皇太子の、とうに主人を失った伽藍堂の執務室。


元の部屋の主人はある日突然に発狂、狂乱の中、聖王と名高かった父王を高出力のエネルギー銃にて射殺。


その後も乱射していた所を衛兵に取り押さえられ、本来は極刑のところをクリストファーの父親、つまり彼をこよなく愛する弟の懇願と、彼の即位に伴う恩赦のため城に送致、実質無期懲役刑が施行されている。



シーーーーーンと静まり返る中、首尾よく3人は再びの入室に成功する。


定刻巡回の衛兵が去ってから悪戦苦闘、何とか秘密の空間を開けてみようと男子二人はアレコレ頑張るが、これがどうしても開かない。

 


するとじっと今まで作業を見守っていたキャサリンが、美しい自慢の髪に挿していた簪型髪留めをサラリと引き抜いたのである。

 

クリストファーとウィンストン、2名の男子が呆然と見守る中、板と引き出しの微かな空間の裂け目を、簪の先の薄く鋭い金属部分で丁寧に探り始めた。


「ここかしら?」


そう言うと掌で握り込み、ググッと強く押した。


ーーーカチャリと中から軽い金属製の音がした。




「キャシー凄い~!」


「どこからそんなテクニックを覚えていらっしゃったんですか?」

 

ワイワイ、口々に褒め称えて言うと、急に表情が険しくなる


「あなたたちと付き合ってこうなったんです」

 

ーーージロリと目を細めて睨まれて、無責任に無邪気にはしゃいだ少年らは慌てて首をすくめ口を閉じる。



板をソロソロ緩めながら開けると、中部には何かの為のボックス式電子制御の鍵穴と、どうやらそれを起動させる為らしき小さなキーが一緒に封じられていた。


映像でならともかく、本物の金属製の鍵なんかまるで見たことが無かったから、皆順々に手にとって大興奮した。


伯父の『ヘルヴィム』の署名のカード。


流麗な手描きの文字で書かれたメモが、シルクのフリンジ付きの紐が通されて鍵のストラップとして上品に添えられていた。



「間違いないーーーー本物だね!」


「一言、『ここを開けられた君に託す。君の都合次第』

ーーーだなんて、なんてオシャレなのかしら!」


書かれていた文言を口々に推理し合い、3人とも高まる期待と興奮で、口がきけない状態に舞い上がる。



「もし何かあったら私のせいにして下さい」

 

「え〜〜〜〜?」


「わかりましたーーね? クリス様」


キャサリンはこういうとき絶対に言い分を通すのを知っていたクリストファーは彼女に「ごめんなさい」のハグをキュッとした。

 

「いつも本当にごめんなさいーーーー」


「そういう謝り方はズルイです」


ポッと頬を赤らめたキャサリンは、文句を唇を尖らせ小さく言った。





クリストファーは鍵をゆっくり慎重に差し込んでキュッと回す。


すると立っていた伯父の私室の床のどこからか、密やかで謎めく音が聞こえ始めた。


カラカラカラ……

微かで軽やかな音が響き、隅の一角がいきなりふいっと透き通った

 

「行こう!」

駆け寄って中を見ると、埃っぽい小さな階段が奥まで続いているのがわかった。

 

「大丈夫かしら?」


「……先に私が行き様子を見ます」


「ダメだよウィンストン、皆で全員で行こう!」


「……」


「壁側にはライトも点灯していますから可燃性ガスはないだろうし、空気もあり大丈夫かと思われます」



キャサリンの言葉に後押しされ、思い切って先に進む「探検」を続行することに決まり、奥の隠し部屋は伯父にとっての完璧な『秘密基地』だったことを知る。



そこには子どもーーーー

特に、男の子が好きな物は何でもびっしりとそろっていた。



小部屋自体も美的に「子ども心を巧みにくすぐるしつらえ」で。


檸檬色の滑らかな絹の織物が張られ、飴色のフレームに精緻な彫刻が施された、くるんと絶妙に巻いた猫足のソファーが可愛らしい。



階段から部屋に入る時に開く、重々しいマホガニーの扉に埋め込まれた丸い蒼いステンドグラスはキラキラとロマンティックに輝いている。


ステンドグラスデザインの……海洋のモチーフ。


クリストファーの母親の宝石箱の中でも彼が特に気に入っている、極めて大きな宝石リング。


素晴らしく青く、またさまざまな艶やかな色味を角度によってうっとり魅了するオパールの宝玉が如く、神秘的に魅惑的に光り輝き、皆のお気に入りとなる。


「だって…それは…『ようこそ!』


まるで秘密の場所の、この部屋の魂、精霊に密やかに入室する僕らを温かく大歓迎する印に見えるよね」


「ええそうですね」


「綺麗ーーー!!」


「オパール、っていう宝石みたいだ」


「オパール?、なあにそれ?

私 全然見たこと無いわ?」


「何色も…色彩が、まるで虹のように石の中に閉じ込められていて…

奇跡のように すっごく美しい宝石なんだよ!


色々と分類できるんだけど、本当に凄いんだよ! 虹色に美しくってさ!

アースで採掘出来るんだ」


「そうなんだ? 僕も見たこと無いなぁ…?

コロニーじゃいっくら掘っても資源は無いものね

あぁ〜1度見てみたいなぁ〜クリス様は本当に物知りですねぇ!」



自然科学に特に興味があるクリストファーは口々に賢い友人達に感心されて 鼻が高かった。

 

 

その後、いつも3人で深夜何度も入り浸ったのは言うまでも無い


楽しくって仕方が無い


「こんなワクワクする事って無いよ!」


クリストファーはその空間に決して飽きる事はなかった。


「ジャパン」の貴重な文化的お宝を見つけた時は気分が舞い上がり「ニンジャ」も、伯父ヘルヴィムのコレクションで初めて知って夢中になった。


本当の、彼らが実際使用していたという武器クナイや、本物の手裏剣もあった。


こんな不思議な世界が地球にはあるのかと、夢の中でまで現れた。



キャサリンは「惑星デメテル」記録ファイルと、ジャパンが国際的に風雅で趣のある「日本」と呼ばれた頃の、雅な絵巻物や古典文学に目を奪われた様子。



ウィンストンは、古い埃のにおいのするーーー


映像がまだ紙に印刷されていた時代の、古代と言っても最早良い、地球近代歴史記録、それも特定な時代の物に強い興味を何故か持った。


この理由についてはクリストファーは結局は聞かせてもらえなかった。



「凄いわね・・・・・!」


キャサリンは溜息をつきながら毎回食い入るように見ていた。

 

その時の……キラキラした宝石みたいな眼差しに、2名の男の子達は思わず見とれてしまった。


集中している時の愛しい人の表情は本当に綺麗でーーー


高揚する頬、真っ直ぐな視線……


フフッと嬉しげなアーチ型に上向くピンク色の花びらみたいな唇、間接照明で滑らかな影をフンワリ落とす長い睫毛。


チラチラーーー

無心な彼女をコッソリ見つめていた。




残されたコレクションの幅広さと充実ぶりから、狂ったと伝承された伯父が、実際は並々ならぬ知性的で探究心溢れる人物だったと充分推察された。



資料はどれも入手困難な博物館収容レベルの一級品揃いで質も高く、また誰もが今直ぐに手に取れる様きちんと分類、綺麗に整理整頓されていた。


伯父の唸るようなコレクション群は、どれもが隅々まで本当に手が込んでいた。


その様な…

感性も知的にも 人並み外れた傑出した人物が、何故〜〜

 

周囲から洩れ伝え聞く程の、城に追放される程の凶悪で陰惨な事件、しかも禁忌とされる尊属殺人を起こしたのか?


クリストファーは「どうにも解せない」と感じていた。


ーーーそして現在。

 

彼の謎めく人生に関わった、深入りし過ぎたおかげで全て失った、と思うのだ



 

ーーーーーだが


病身の大好きな父王の頼みは、例えこうなるとわかっていたとしても息子の自分は 肉親の情として断れなかった。

 

父と少し…10ばかり年の離れたヘルヴィム伯父。


かつて長子として誉れ高い王太子〜


絶対的な嫡子と祝福され 誰もがうらやむコロニー都市を統べる後継者頂点の地位にいた男。

 

僕とは違う、健康で頭脳明晰な跡取り息子の伯父。



それが偉大な父親(国王)と意見の対立からエネルギー銃の乱射事件を起こし、王を射殺。


尊属殺人は罪がこの国ではより重く重罪


「何て事!」

国民の燃える様な憎しみから死刑が確定していたという。


彼の父は、こよなくその兄君を慕う次男坊だった。


いつもお洒落な当時少年であった彼の父は、国民に熱狂的に愛され。


その弟君の頼みーーー必死のなりふり構わない嘆願がさすがに涙を誘った。


また捨て身とも言えた、「命と引き替えですが?!」と議会で揶揄されたほどの玉座への強行即位によって得られる特典~


ーーー『恩赦』を法的に利用し、ヘルヴィム伯父は星系外への永久追放刑後、脱獄不可能である究極の監獄「城」に収監されたのだ。



当然王族の全ての権限を剥奪されたが、取りあえず命は助かった。


辺境とはいえ王家の嫡子・元後継者・元王太子故の、特別処置だった。


国民はみな心優しい次男の少年が国王になるのを心を痛め心配した。


生来体が弱く、国王の重責は誰の目にもわかるハードワークで、年単位で寿命を縮める事が解っていたからだ。


しかし諸外国に対する脅しと見せかけ、弱小国の看板である王制を維持するために選択肢は無かった。



10代の少年王として即位後、職務と運命の両輪と、懸命に戦い耐え抜いた。



惑星デメテルに眠る膨大な地下資源


星丸ごとーーーー

全ての掘削権「銀河法」で正式に認可されている弱小コロニーDー01の命運。


「虎視眈々と狙う大国の圧力に屈せず、20代で得た役立たずの1人息子の僕が成人するまで。


自身に代わる有能な後継者として全国民を守れる器になるまで…


満身創痍で闘ってきたのだ。

今その父が僅か40代で力尽きようとしている。


現在は『巨万の富』が転がり込む ”千載一遇のチャンス”とばかり暗躍する〜

大国の思惑に翻弄されている状態なのだ」



クリストファーは自嘲気味に笑った。


四方八方を敵に囲まれた状態で、僕はたった1人だ。


もう僕を慰めてくれた妻もいない。

 

不甲斐ないせいで大親友すら袂を分かった。



何も無い自分は密命を果たし、祖国へ無事帰国できるのだろうか?



考えれば考えるほど…苦しい、でも決して逃げられない。


ーーーー父は今どうしているだろうか?


元気でいて


どうかーーー僕が側に戻るまで。



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