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番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (19)


ーーーすると信繁はこんな風に話を繋げるのだ。



「アサギマダラの卵はモンシロチョウの卵の色違いみたいな真っ白の、玉蜀黍(トウモロコシ)の

〜ヤングコーンを先端で切り落としたみたいな形で、透き通る真珠色の綺麗な粒です。

 

ガガイモ科のキジョランという蔓性植物の葉裏にポチッと1粒2粒産み落とされて、この植物はアルカロイド系の毒性……だったかな?


自分を動物の食害から守る防御機能が備わってるんです。


でーーー……毒性を薄める為生まれたイモムシは葉っぱをサークル状にひたすらカミカミカミ、ほんの小さな口で咬み跡をつけます。

 

そうすると、葉脈の傷から乳液状の毒素を持つ水分が滴り、ぷくぷくと出ききります。


でーーー美味しく彼等は、噛み跡サークルの真ん中だけの、上手い事、毒の水分を取り除いた葉を ”いただきます〜”となるんです。

 

凄い知恵ですよ? 毒を持つ植物を体内に取り込む虫ですからね〜!

体内に微量に残る毒のせいで、他の虫や鳥だって恐くてエサにしません。


それに更に、大きく成長すると、メチャ毒々しいエキセントリックな前衛的な姿形で脅しまくり……!


別に触ったって毒虫でもなんでもありません。

そりゃ”食べれば”〜何かあるかも知れませんが、俺も流石にソレは無いので。


ーーーいわば嘘んこの ”ハッタリ” です。


そんな感じでスクスク育ち、蝶に羽化すれば更に雄は特定の花の蜜しか吸蜜しないんです。


これも何でかというとーーーさっき言った『ヒヨドリ花の蜜』にはですね……!

彼等の性フェロモンの前駆物質である、ピロリジジンアルカロイド が含まれてるからです。

……

ここでもやはり、アルカロイドーーですからね、食餌の植物と同じく幾ばくかの毒性な訳ですよ。

大人になっても鳥に食べられずに済みます。


でーーー驚く事にね、雄はこの物質を自分の体内で性フェロモンに作り替え、自分の胴の先に、普段は収納し備わってる筆みたいな器官に溜めて溜めて、後ろ翅の裾にあるマークーーー

 

専門用語で『性標』……と言うそうですが、好みの美しい雌が来ると此処にソレッとーーーー

飛びきりの良い香りを塗って『お洒落して』……


綺麗な同族の蝶のレディに求愛行動をするんです。


彼等は専門家の研究によると、雄で元来 ”性フェロモン” があったとしても。

ピロリジジンアルカロイド を摂取しないと『恋をしない』


スイッチが〜 アサギマダラの雌の美人さんに対して入らないんだそうです。

吸蜜出来なければ『一生独身』……!

つまり脳や神経中枢の刺激物質になってるらしくてね。


もしもアサギマダラの雄が特に好む、決まった植物が何らかの事情でこの世から無くなってしまったら、種として絶滅してしまうって事なんですよ。


また植物の方も彼等がいなくなれば、自分の所に蜜を吸いに来てくれる事で、花粉を受粉する昆虫が居なくなる訳で。

〜そうなると矢張り、自然界から淘汰されてしまう。


この共生関係がいつから?ーーーかは知りませんが、聞いた時はひたすら不思議で凄いって感動しました。


だってアサギマダラは、21度前後の清涼な温度を好む蝶で……


ですから富士の裾野や八ヶ岳が『旅』中継地として、お気に入りなんです。

山ヒヨドリも”山草”といってよい、比較的標高の高い場所に生育する植物です。


よくもまぁ……『上手い具合に両方が』ってね!

これぞ自然の神秘って言うか、面白いなぁ〜と俺は思う訳です」


信繁はニコニコとそう締めくくる。


「凄い〜〜……!」


信繁の発言に皆ホゥ……と溜息を漏らし、蝶と植物の持ちつ持たれつの絶妙な関係。

植物は場所からそんなにもは動けない訳で、だからこそそんなふうに進化したのだろうけれども、それにしても凄い共存関係!!


「信繁君、でも富士の山林の中はうっそうと暗いだろ?

そんな繊細な植物の群生地……何故、山奥に立派なコロニーがあるんだい?


ーーーー生育環境に矛盾している。

そういった蜜が採れる程の植物は概ね大型だろ?

豊かな土壌と、燦々と降る日光が植物の光合成に欠かせないだろ?」


「ぁあそれですが〜かつて大型台風が山肌を直撃しまして。

……何と言っても富士は単独峰で吹きっ晒しです。


堪らず軒並み、山林の木々がやられて折れたり抜けたりしーーー大被害です。


今ではその木々が『白骨樹』という山屋独特の呼び名の状態に変化してます。


ーーー荒涼とする、芯だけが剥き出しの白い残骸を富士をバックに晒しており一種異様な景色を形成しています。


で、突如高山帯に現れた、明るい場所に色々な涼しい場所を好む生命力が強い植物が根を下ろし、山ヒヨドリ花もその1種だと言う事ですよ。


草花の栄養分ですが、おそらく大量の倒木が朽ちた為に突如出来た腐葉土が、彼等の栄養分かと?

強い雨風で木々の表皮など柔らかい部分が全て、火山岩火山灰で出来た無機質な地表に刮げ落とされる訳ですからね? それしか考えられません。


『死』と『生』

一見、この真逆な2つが同時に同じ場所に存在してるって言う訳です、自然の摂理とは本当に驚きですね」


「へぇーーー」


藤は想像以上の濃い返答に満足げに唸る。

きっと彼が自身のコドモの頃からの体験で、直に触れ合い知り得た事実なのだろう。

全てのアンサーに淀みも迷いも無い、これではれっきとしたアサギマダラの研究者だ。


ーーー流石に凄いと感動する。

 

「高鉢から上の登山道……古道はそう言った訳で、かなりの難所となります。

 

倒木帯や涸れ沢や、崖の上を横に這うように移動する、場合によってはザイルを使用する事も考えられるポイントもルート上でありますし。


白骨樹の下を頭や体を引っ掛けないよう頭上に注意しながら、ゆっくり落ち着いてくぐる箇所も何回かーーー


しかしそう言った危険箇所は既に予めわかってますので、俺達がフォローしますから安心して下さい。

 

我々としても災害派遣の訓練になっていいですので、遠慮しないで下さい」



『『『〜〜〜〜うわぁ 』』』


ニコッと天真爛漫に笑う信繁に藤班メンバーは目が離せない、彼は有言実行の男性だ。


信繁は本当に自身が言った事はその通り、班員と共に守るだろう。


つまり格好いいにも程がある!!



その時だ

「信繁班長ーーー質問があります」


男性の声での質問が投げかけられた。


それはアナスタシアの隣に席を取った、ヨンからだった。


「なんだヨン?」


「もしもーーー俺達が襲った宇宙巡洋艦が、通り道の場所に墜落したら。

渡りをするという蝶や、花はどうなりましたか?」


ーーーーーしぃんと座は静かになる。


「……」 信繁の顔はすーーーーっと真顔になる。


ヨンの真っ直ぐな水色の目が信繁を射る。

 

『本当のことが聞きたい』 いい加減な誤魔化しは通用しない視線である。


信繁自身も過去、実は同じ事を心配した。「蝶のルートは大丈夫なのか?」と。


無論駄目なら、彼等は ”八ヶ岳ルート” を選び取るだろう。

 

だがーーー ”足りなくなる”事は無いのか? 吸蜜行為の花が。

 

人知れず心配して、個人的にも調査した。


収入にもキャリアにも、何の益にもならないことだったが、信繁は有休まで取り古道を踏破、幾度かフィールドワークを行った。


アサギマダラ研究グループと、一応 ”職場” 〜城主にも、双方に署名入りで詳細なレポートを提出した。

 

何時どこで”要り用になる”か? こう言ったものはわからない為である。


墜落についてだけは、マスメディアにも ”オープン” な出来事だった。


よって事件そのものに主導的立場で関わった、城の施設の当時のアレコレに抵触することは無い。

 

信繁はヨンに対しキリッと居住まいを正し身を乗り出す。



「ーーーーヨン、ソレについては既に俺が現地調査済みでレポートの報告も完了させている。

今回の事での影響は微細だ。


撃墜ーーーー

墜落現場は研究施設、不夜城総力を挙げて土地の清浄化、浄化作業が行われている。

残念なことだが、無傷な事はここまで宇宙開発が進化した時代で有り得ないだろうな。

 

この地上に住んでいるのは俺達人間だけじゃ無い、それだけは忘れないでくれ。


……でも感受性が高いヨンらしい発想だな?

他の厳つい兵士だったら、そんな事気にかけもしないだろう」


訥々とした信繁の返事にーーーー大きな両手でヨンは思わず顔を覆う。


胸の中に様々な苦悩と、割り切れない思いと同時に、自分達が縁もゆかりもなかった無関係の他者と土地に対して加虐した罪悪感。


『今回の事での影響は微細だ』

『でも感受性が高いヨンらしい発想だな、他の厳つい兵士だったら、そんな事気にかけもしないだろう』


安堵と承認欲求が同時に満たされて、何かが一度に込み上げて堪らなかった。



”立派な昼食”が終わると、信繁達は皆で食堂の方々に食器を返しがてら明るく手を振り挨拶をしーーー……


「頑張ってねーー!」の声援の後、いよいよ古の踏み跡に向かい出発する。


「へぇ……あちこちフラッグが立ってるんですねぇ、物好きは別段、班長だけでなかったんすねぇ」


「ふーん、歩行者用の通行路にも青いマーキングがされていて便利ですね」

 

「まぁな、市街地が案外迷いやすいんだ、意気込んだ分、オロオロと結構アタフタするんだよ。

 

さぁ行くぞ、モタモタしていたら今以上に気温が上昇する」


信繁の言うとおり既に太陽は高く上り、中天に近いのだ。


道ーーー舗装道路からの照り返しがかなりあるから変に眩しい。



「背中に仕込んでいるパックから、水分は足りなくなったら言って欲しい。

遠慮無く飲んで補充しろ」


「オーーーーー」

「了〜〜解、班長〜!」


「ぇえっと藤先輩、水分の購入先やトイレ休憩は町の中にいる間は豊富、24時間営業店にてすぐに配慮しますんで、遠慮無く言って下さい」

 

「わかった……と言うことだ。

信繁君からの依頼〜頼みだし、特にウチの綺麗なレディ達、宜しくね?」


「はいっっっ!」


ウキウキウキ……キャッキャと藤率いる部下達から明るい声が返って来る。



藤は今後の行程を頭の中で思い浮かべる。


〜さてとーーー……上空の警護ドローンの様子もいい、何もかもが絶好調。


話を聞く限り倒木帯に入ってからがキツそうであるが。

だがーーー信繁は必ず約束を守るだろう。

 

藤は先程のアサギマダラと〜ヒヨドリ花の共存関係を思い出す


まるで自分達のようだ、信繁達が『アサギマダラ』。自分達が地場から動くことが出来ない根を張る『ヒヨドリ花』だろう。


我々も彼等と出会っていなければ、きっと昼夜を問わない猛烈なハードな仕事、それでいて退屈極まる毎日に飽き飽きして、使い尽くされ擦り潰されていたかも知れない。

 


「じゃぁ、宜しくね信繁君」


「こちらこそ」


信繁からスッと左手が差し出され、藤は満足そうに左手を出して固くハンドシェイクを行う。


彼は元々ーーーー……サウスポー ”左利き”の人間だ。


コレは彼が相手をリスペクトする際の合図の様なもの、ジンッと胸が熱くなる。

 


「取りあえず急いで市街地を抜けて、決して涼しくはないかもしれませんが、早く林道に入りましょう。

 

ソロソローーー水蒸気のガスも消えている頃です、鬱陶しい湿気は薄くなってるでしょう」


打ち合わせ通り、子龍を列最後尾に配置しますから、アナスタシアとヨンを”俺の後ろ”ーーー観光客を装わせて。

 

でーーー藤先輩は女性職員の方をフォローを……

ではよろしくお願いします」


「構わないよ」


ーーーーー役者は揃った。



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