↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

214/329

番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (16)

『手を貸す?』

何を手を貸すのかしら??


話の中に出てきた不思議ワードーーーー

察しのいい藤の部下の女性スタッフはキョトンと首を傾げる。


信繁はその空気を素早く察して苦笑する。


やっぱり口頭でも丁寧な説明がいるなーーーーー……

でなけりゃ俺の変態親父とかわらんもんな。


『だまし討ちで、卑怯すぎだぜ』 そんな事を心の中で思ったから補足説明、新たなミーティングに入る。



「今から行く道は、決して好き勝手なルートで無く、富士山自然休養林を通るんです」


信繁の答えに??という視線がぱぱっと集中する。


「”休養林”ーーーってなんですか?」


「そうですねぇ」

信繁はニコニコし美しい箸使いで刺身を口に含み、口腔内から食品が消えすっかり食べ終わるとおもむろに質問にこんな風に答えるのだ。


「ではゆっくり食べながらリラックスして聞いて下さい。

休養林というのは、その土地土地のシティーが下草を刈ったり路面の管理をする、”公”の自然公園てことです。


えーーっと海外でも例えば〜……

ぇえーー”国立公園”とか”州立公園”とかありますよね?」


「はい」


「有名所ではネオアメリカでも、イエローストーン国立公園〜

ヨセミテ国立公園、グランドキャニオン国立公園


ーーーまぁそれに似た感じな仕組みですよ。

 

あの場所だってチャンと資格を持った保安員、自然保護のレンジャーとかが常駐してる場所なんです。


勿論訪れる登山客や観光客の安全の為にね、経費の為、入山の年間パスとか発行しています。


アッチはジャパンの常識を越える程、兎に角雄大すぎて『公園』の概念が俄には信じられませんけどね、……嘘みたいですよ?


ですから休養林では、”決められた場所以外”で、キャンプ場とかでなければ、たき火とか煮炊きとか好き勝手にしてはいけません。


動植物の採取も当然、違反です。

苔とか草花とか、蝶とか鳥とかもです。


マップ付、安全なハイキングコースの整備も行われていて、ルート通りでしたら足場もキチッと踏み跡があります。


それから一応の注意事項として、標高の低い場所のしけった草むらに暗くなって踏み入れない方が良いです、マムシが居るんですよ、蛇が。


マムシって特に昼間”、とぐろ”をぐるぐるっと巻いて、ジッとしてるんです、人間に踏んづけられるまでね。


ーーーまぁ薄暗いとわかんないですよね、爬虫類の彼等が何処にいるか?


それに特にマムシは夜行性の生物で、暗くなると獲物を求めて優秀なハンターとしてニョロニョロ縦横無尽に彷徨い出します」


「〜〜〜〜!!」


「じゃぁ昼間のマムシは?っていうか……

実は毒を持つ蛇の中でというより〜 彼等の種の中で、マムシは大人しいオットリ型なんですよ。


本州に住む有名毒蛇として、余りにも名を馳せ過ぎてるせいで凶悪凶暴〜

ーーーって言う強烈なイメージが先行しすぎてしまって、多分個体数が多いせいだからなのかも?

見つけたらすぐ殺せっていうダークな存在ですが。


ーーー実際はね、昼間はボーッとした昼寝大好きのんき者ですね。


ソリャ人間だってウトウト、イイ気分で寝ているところを〜ドカッと背中を真面に足で踏んづけられたり、あるいは全身で体重をかけられ、飛び乗られたら〜


『なにすんだ!』

『やめて!』

ーーー心臓が止まりそうな程ビックリして誰だって、例え蛇でなくともブゥブゥ文句の1つも言うでしょ?


ですから、存在がわかって、あそこにいるな!?と思ったら、遠巻きにそーっと避ければ向こうから飛びかかってくる事はまぁ、余程でなければありません。

沖縄のハブの方がナンボか凶暴です」


「「「「へ〜〜〜〜〜〜!!」」」」


「本当ですよ?

……父に山に連れられて行った子どもの頃、自然豊かなキャンプ場草むらで、自分がてっきり『アオダイショウの幼生』……

よくいる彼等の子どもだと思ってね。


”これは面白い!”

男の子が爬虫類なんか運良く手に入れたら、もぅ生きたオモチャです。

 

とは言え〜何だかんだで自分も多少は恐いので、Yの字型の長い木の枝で遠くからつついて面白がって遊んでいたら、フーーーッと隣に父がやって来て。


何故か暫く座って、自分のその様子を眺めてました。


でーーーぁれ、変だなぁ?ーーーと。

ちょっとは思っていましたが、なにせ自分もガキで、目の前の『イヤン!』


可愛く、くねくねくねくねする滅多にお目にかかれない天然の綺麗な生き物に本当わくわくしてて、好奇心優先で夢中でオチョクリに没頭しました」



「え〜〜〜〜!」

「酷い!」

 

「ヘビさんかわいそう…」

「班長ーーっっ、いたいけな爬虫類様になんつー鬼みたいな事するんですか!」


「えぇ全くそうなんです。

ーーーまぁ当時俺も、今はしませんが悪戯盛りのやんちゃなお年頃の男の子ですからね?

見たこと無い、変なヤバイ物程ワクワクで心が躍るって言うか?


気分が盛り上がりすぎで……! 最高にハイで高揚してたんです。

 

ところがその内に??…アレレ

『アオダイショウの子ども』が、短い体でモコモコクニュクニュしながらも、細いシッポの先端をプルプル細かく震わせ出したんです。

 

自分も初めて見たんで、良く覚えてます」


「ぷるぷる?」

 

「えぇ、『ぷるぷる』ーーークニュクニュと ぷるぷるが同時です。


器用だなー〜さすが野生動物!!って何だか感心しました。


”丸に点”の、模様。

胴体の銭形紋のピカピカのツヤツヤの蛇皮も見た事ないほど美しくって〜


学習用ホログラムなんか問題にもならないくらい、屋外の本物は野生と生命力の塊で魅力的でした。


後それから蛇の目って、至近距離でマジマジ実際見ると本当に綺麗ですよ?

真っ直ぐピカッと縦線ラインで ”キャッツアイ”

まるで猫の目みたいでした。


……今思うと完全に動物虐待で、これが海で亀でしたら、心優しい浦島太郎が出て来て

『コレコレぼっちゃん、生き物にそんな酷い事をしてはいけないよ?』

とか言いそうなんですが……


生憎自分の近くにドッカリ座った大人は明らかに ”そう言うタイプ”ーーーではありませんでした」


信繁はくすっと笑うと、整った高い鼻の頭を掻いた。


「やりたい放題ーーー枝でくるっと引っかけてクルッとひっくり返したり。


でもどうしてか、草むらに必死に逃げようとするばかりで、飛びかかってきませんでしたので ”へーーーっ”ーーーと

 

『大人しいヘビだな』

『面白いな〜…』なんて考えてると、そこで漸く大人げない父がーーーボソッと


『信繁それはマムシだぞ?

丸に点の銭形紋で、目がニャンコみたいだろ?

アオダイショウの子どもはクマのヌイグルミみたいな真っ黒で、つぶらな瞳なんだよなーーーっ

大体もっと細いスレンダーだ』

 

俺にサラッと種明かしをしました、本当にやっとです。


『それとシッポをガラガラヘビみたいに振るわす時、それ相当向こうも目一杯ストレス溜めて

”やめてーーー!” て、意思表示してる合図だ。

 

まっっ、キレる寸前だよなーーーー毒蛇として』


ソリャもうーーー俺は声も出ないくらい驚きましたねーーー……!

ポロッと手から木の枝が落ちました。


それを父がすかさずハシッとーーー!むんずと枝の真ん中を掴むが速いか。


今度は『きゃーーーっ』と命からがら、何とか自分達の前から逃走しようと必死のマムシの首に、又の部分をザクッと刺し、ブロックを仕掛けました。


なんかーーー速かったです、電光石火で。


『一応危険な毒蛇だしな?』 父は言いましたが、そんなのどっちが危険なんだか〜?って奴ですよ。


父に枝で襲われビックリ仰天

『ひぃ〜〜〜っ!』とバタバタ、恐慌状態で暴れる蛇に対し、なんとまぁ怯ますあっという間に素手で首根っこを押さえました。


でーーー捕らえたマムシをニンマリ満足げに見つめて、こう言いました。


『いいか信繁、握る力が強すぎると苦しがって反転してくるから、ギューギュー恐怖に負けて握りこむな、毒のある牙で噛まれるぞ?

 

グローブを嵌めてると、返って手の力加減がわからず危ないんだよな。

実はさ、父さんも過去、実際昔噛まれそうになったんだ』

 

ヤバすぎる、ヤバすぎてーーー

絶句する俺に、尚も益々父は奇妙なことを言い出して

 

『……ところでお前、今虫歯はあるか?』

 

『?ないよ父さん』 そう答えると、今度は〜

 

『じゃ口内炎はあるか?』と聞いてきたので、それもないと答えました。


『胃は痛くないか?』

『いいえ』

父は次々変なことばっかり散々聞いた後、どうしたかと思いますか?


その蛇を、何と父は自分でシャーーーっと鰻みたく捌いて、つみれ状態にし、フリーズドライの大豆ミートとかで、かさ増しミックス、各種スパイス投入、持参の重々しい鉄鍋でジックリ中まで焼いて蒸らして、ハンバーグにしてくれました。

 

父の友人の山仲間の間では、この料理法を ”マムシバーグ” と言うそうです」


「「「へーーーーー……!」」」


「『毒はないの?』


完全にドン引いている俺をよそに、美味しそうにモリモリ……

”マムシバーグ”をぱくつく、目をキラキラさせる得意そうな父に聞くと


マムシの毒がタンパク質系である以上、捕食者の体内のどこかに傷があって毒素が血液に溶け込まなければノープロブレム〜〜〜〜

 

胃酸で分解されて無問題、菌や寄生虫関係も、爬虫類系はしっかり内部まで火を通して焼けば大丈夫!〜〜〜と言うことでした。

 

おそるおそる……かなり意を決して目をつぶり決死状態で自分も食べましたが」


「「「「「どう?」」」」」


「それがもぅ、メチャんこ美味しかったです、生涯最高のハンバーグ料理でしたね。


自分もーーーまさか、あんなマムシが美味だとは思っても見ませんでしたよ。


ムシャムシャ食する父の言うのには…!

 

地球上に住む全ヘビ類の中でも、ジャパンに住むマムシはおいしい事でトップクラスなんだそうです。


もう滅多に居なくて……こんな風に手に入らないのが大変に残念だと言っていました」


 

「「「「「 へ〜〜〜〜〜……!! 」」」」」



マムシ=美味、超美味しい物!


未だかつて……!

藤率いるコンピュータールームメンバーの誰しも、全然全く1度もどこでも聞いた事もない、途方もない話だった。


「そりゃ〜また気の毒なマムシちゃんだったねぇ。

君ら親子に捕獲されなければ、虐められた挙げ句ムシャムシャーーー…

哀れハンバーグにされなかったのに」


「ええーー本当に〜

生きとし生けるものの尊い命を、我々が戴いてることに感謝です。


あの時俺は、心からそう思いました、ご馳走様でした」


信繁はナム〜…と上品に箸を、手と手を合わせた親指と人差し指の間に挟みぺこりと食後の挨拶をした


藤が「え?」っとマジマジ見ると既にいつの間にか信繁は綺麗に静かに昼食を食べ終わっていた。


『いつの間に?!』


一体いつだよ!ーーー

 

本気でビックリしたが、なにくれと全てに於いて そつの無い信繁の事だ


『参ったなぁ〜〜〜!』こういう所に育ちが出るのだろう。

 

日々荒っぽい生活をしながらも、どうやらコドモの頃厳しく身につけさせられたであろう美しい習慣は大人になっても消えない物らしい。


『”三つ子の魂百まで” ”雀百まで踊り忘れず”ーーーーって事か?』

藤は心の中で1人呟いた。


信繁はとても男性とは思えない程、食べ方が静かで美しかったのを今更ながら感じた。


『ソリャモテるはずだよなーーー女の子はこういう所に目敏いからな』


藤は自分の大学の後輩の美点に満足げに目を細め、何だかんだで礼儀作法の美しい男は好感が持てる、クスリと微笑むのだ。


〜今時珍しい、クラシックでいいじゃぁないか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。