番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (14)
「究極の自分好みの〜かわゆいものが欲しいの!」
……その宣言通り ”カスタマイズ”は着々と進行する。
「お願いしますっっっ!」
各分野の「我こそは!」という手練れの有志に特別に頼み
「君の為なら良いよ?」
ーーー製作依頼した大切なぬいぐるみである。
信繁班は精鋭班故に、特に出動件数が多く心のケアが他班よりも重要で、荒っぽい仕事から心が病まない為にも、積極的に様々な工夫、遊びを導入しているのだ。
アナスタシアは、カワイイ物好きが究極に高じて、メイクは過去映画の特殊メイク部門で、華やかな受賞歴がある技術者にそれはそれは、すんばらしい表情をつけて下さいとお願いした。
「いいよ」
「やったぁ〜〜〜!」
「誰も見たこと無い可愛い子を造ってあげるよ」
「ありがとう」
「どう致しまして」
その言葉通り……繊細なメイクで立体的表現……素人にはどうやったか全然わからないレベルの特殊技術で、ウットリする表現をほどこした。
瞳、アイは、アナスタシアの希望通りの透き通る美しいエメラルドグリーンに銀粉入りの物を、”師匠”が知り合いのガラス作家に特注した物をはめた。
「後は洋服ね」
「素材は何色?」
ーーーと、アパレル課デザイナーは、ぬいを台座に据えると美しい絵を描いた。
一方パタンナーは小さい故に難しいのにもかかわらず、立体裁断で巧にボディ原型を起こし、全く希望通りのデザイン画の洋服をサクッと……でも丁寧に。
思わずうっとり見惚れる、素晴らしいドレスをお揃いの生地のヘッドドレスや小物と共に造った。
子龍が「新作だろ?」
そう言ったのはこれで〜 ”数着目” だからだ。
「今回のイメージは富士の雪渓をイメージしたの!
雪と氷の富士山の妖精よ」
「凄いなぁ……メチャアイツらも気合い入ってるな〜
よしーーーでどうするよ?
記念写真、1点物の服造ってくれたアパレル部に送信すんだろ?撮ってやるよ」
ぱぁぁぁぁ〜〜〜〜〜彼女の顔が光り輝く。
「ついでだ、コイツも持たせろよ」
子龍は先程自分に信繁がワザワザ渡してくれた……
「貴重な」海辺の石を、小さなウサギのぬいに持たせる。
海風が強い
風に煽られフワッと優しい色合いの素材がアナスタシアの顔にかかる。
「今回の洋服、ポイントがお前の髪色と一緒の素材ってお洒落だよな〜
ーーー美術部やるじゃないか」
「そう?」
「カワイイよ」
うふっとアナスタシアが、イイ感じにポージングをとらせると、城評判の美形とそのオーナーにソックリのちっちゃなぬいぐるみが、何だか不思議っぽく良い感じだ。
各分野の天才達が技術の粋をこらし、愛情深く造りあげたウサギちゃんのぬいぐるみが可愛らしくないはずがない。
”値段が付けられない程の”
世界に1つの、もはや手工芸を軽ーく越えた芸術作品なのだから!
子龍は自分の端末のカメラ機能を作動させる
「どーせならそっちへ行け」
「なんで?」
「富士山が背景に写るからだ」
その後はワイワイ撮影会、楽しい賑やかな心癒す時間である。
「どうせならその子にさ……あっちこっちで写真撮らせないか?」
「なんで?他の人怖がらない?そんな事して、嫌がる人は嫌がるでしょ?」
「少しぐらいの、節度のある短時間一瞬の写しなら大目に見て貰えるだろ?
まちょっとみっともなく騒ぎすぎとかは、何やったって本来NGだろ?
写す被写体〜ぬいぐるみに関係なくさ、その辺は配慮と常識さ」
「うん」
「昔さーー……桜香の元パートナーがさ、俺の友人がさ ”こういう事”言ったんだ
ソイツに好きなふるーい映画があってさ、ヒロインが、奥手で内向的なんだけど、感性がユニークな子で、周囲が幸せになるちょっとした悪戯すんだ。
彼女には家に引き籠もりがちな父親が居てさー、何とか外に連れ出したい訳よ!
で、一計を案じ、父がささやかに家の前庭でガーデニングを楽しんでんだけど、庭のシンボルみたくしてたドワーフを、国を出国する知り合いに託し。
リレー方式で世界各国様々な観光名所で、ドワーフがまるで”旅行を1人楽しんでる”〜みたいな構図を1枚撮って貰っては、エアメールで遙々届けるんだよ」
「でーーー……どうなるの!」
「映画の最後でヒロインの恋も叶い、あんなに家から出なかった出不精の父親もおそらく今から新しい世界への冒険〜
長期旅行に出かけるンだなーーって観客に想像させる旅立つカットで終わる。
ーーーコイツ俺達でやろうぜ?
フレイヤ王女様、病室から出られない訳だろ?
ーーー本当は ”出たくても出られない” そういう心境なのかも知れない。
〜気持ちがすくんじゃってさ?」
「ーーーー」
「無理もないさ、キツイ辛い想いが多すぎた、普通の女の子が体験しなくても良いような出来事ばっかだろ?」
「そうだね」
「だが……俺も信繁と同じく、トールにともかく行く事と言うのには賛成だ。
でなけりゃ……彼女の心の時計は止まったままだ。
善くも悪くも、動かなけりゃな?、きっと彼女なら大丈夫さ」
「なんでよ?」
「信繁がいるからな」
「?」
子龍は楽しげにクスクスくすっと笑う。
「?俺がどうかしたか?」
「い〜や何にも」
子龍はフッと面白げに微笑み目が笑う。
「ナスチャのぬいぐるみーーーじゃなかった『ぬい』って身内では言うんだっけ?カワイイーーって話してたのさ」
「ナスチャ俺にも見せてくれるか?
所でーーー素手で持って良いのか?
こういう物って〜例えばドールでも白手袋するだろ」
「そんなのいい、私だってしてないもの」
それでも信繁は丁寧に受け取ると、掌を拡げ両手で大切そうに持つ
「ふ〜ん……でもなるべく気をつけるな?
ーーー実はさ
俺昔妹のモフモフの白うさぎのヌイグルミ、部活帰りでつい可愛いなーって思わず手に取ったら凄い叱られた。
”お兄ちゃんバカーーーー手を洗って!”
”なんで移動させるの〜〜〜!”ってさ
どうも久々のお出かけのプレゼントで買って貰って、お気に入りの場所、指定席に『飾ってあった』らしい。
1番いい角度だったのに酷い酷いって、その一回でたっぷり1週間無視されたぞ?」
「ハハハハハ〜〜〜〜そりゃ怒られて当然だろ?」
子龍が気持ちよさげに大笑いする。
「あ〜人形自体もかわいいが、衣装とか靴とかホント良く出来てるよ、ワンピース全体も白……衿も袖口レースも帽子も白。
う〜っんスカートの裾の飾り、雪玉みたいな小っさいボンボンが特にいいな〜
ヨークのモフモフ、マイクロボアの素材なんか堪らんだろ?
所々アクセントのチョイ大きい飾りの梵天もいかしてる。
こんなに小さいのにホント〜バッグとかの小物類どうやって造ったんだろうな〜デザイン部の奴ら縫ってる針目なんか1ミリ以下だろ?
〜そういう所プロだよな」
「餅屋は餅屋!〜だろ?」
アナスタシアがありったけの愛情を注ぎ込み、時間と手間暇をかけ、ひたすら拘り抜いて造りあげた小さなぬいぐるみは、フンワリ微笑み感心しきりの信繁の大きな掌の上。
上向きに顔を傾けチョコンと微笑んでいる。
小さいと言うだけでこうしたものはただもう〜人の心をググッと掴む。
多くの人の心を和ませるーーそこに小難しい理屈なんか無いのだ。
オットリと緩やかな時間
思わずーーー……その様子に、彼女は思い出話に出た”白うさぎのヌイグルミ”を連想してしまった。
信繁は案外こうした小さな物が好きで、不思議に理解がある。
それはおそらくーーー刷り込み
多忙で目が回りそうな両親の代理で、彼が病弱だったという妹の面倒を日々丹念に見ていたせいもあるのだろう。
それに聞くところによると、北斗星というそれは立派な艶やかな毛並みを持つ、犬種としてはかなり巨大な部類のジャーマンシェパードを飼っていたらしい。
愛犬は更にそれに輪をかけて”巨大”だったという。
毎日の散歩は彼の役目、力が強すぎて、どうやら誰も出来なかったらしい。
『思い出しちゃったのかしら……?』
信繁は言わなかったが、2度と戻らない、還る事が出来ない愛しい家族との追憶
ひょっとしたら、痛みと共に心の中、そっと思い浮かべているのかも知れない。
怒られた〜と語ったが、不快な様子は感じられない。
むしろどこか面白げで楽しげに見える。
傍目にはこんなささやかで穏やかでーーー平和で幸福な時間だったに違いない。
「欲しいって言う奴らいるだろ?」子龍が突然言葉を挟む。
え?
アナスタシアはハッと気がつくと、自分を腕組みした子龍がジィッと見ていることに気がついた。
『立ち入るな』
キラッと光る黒い眼がそう言っている気がした。
ーーーーギクッとする。
『もしかして話題をそらしたの?』
「だよな〜〜〜これだけ可愛いと欲しがる奴、続出だろ?」
子龍とアナスタシアの静かな攻防戦を知ってか知らずか、信繁はノンビリした口調で彼女に問いかける。
慌てた……!!
『……っつ』 息をのみ急いで答えを用意する。
「うん……
”幾らでも出すからこの子売ってくれ”
”その子が欲しいの!”
あんまりにも ”そう言う申し出”が多いから
『自分で作ったら』ーーー?って親切のつもりで言ったら。
”この子が良いの”
”他の子はイヤだ”
〜なんだって。
でもこの子は『私の妹』だも〜〜〜〜ん、絶対に譲ったり出来ないわよ!
……オカネなんかで」
「ハハハハハそらそーーーだ、相手が手放さず、どうしても手に入らない物程人ってどうしてか魅力的に見えるもんなァ。
ーーーましてや持ち主は人気者のオマエだ。
『誘拐』されないように気をつけろよ?ナスチャ……
そういった輩、欲望を叶える為に、最終的に実力行使で来るからなーーー」
「?……うんそうする」
ニッコリ笑った魅力的な笑み、海面の燦めきに輝く瞳。
彼女の前からすっかり、さっきのどこか恐い ”別人だった子龍”は消えていた。
一瞬の出来事、瞬きする程のーーー変貌、まるで白昼夢。
目の前にはいつもの剽軽でおちゃらけているが、フレンドリーで優しい格好いい子龍しかいなかった。
『……あれは何だったんだろうか?』
アナスタシアは首を傾げた 『見間違い……?』
そうなのかもしれないーーーそう思う事にした。




