番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 (11)
「でーーー何で貴女が今回来るんです?」
航空機ヘッドセットを付けた信繁はブスッと後部座席、自分の直ぐ後ろに悠々陣取って居る人に聞く。
今はーーーー高い高い空の上
城、特殊空間から出てもうじき目的地となる2つの内の1つ、”富士登山ルート起点”に到着である。
「え〜?だって たまたま行っていた”5人会議”で
『是非データを君の目線で持って来てくれ給え』
ーーーって言われちゃったんだし……?
『隊長と信繁君がいれば、君の安全も補償済みだろ?』
ーーーそう言われちゃった以上宜しくね?!今回」
「まぁさ、俺もたまには愛する部下の成長を確認しないとだな!わっはっは」
「どうだかーーー」
「??なんか言ったか信繁」
「いいえ、何も言ってません、隊長殿」
城主の隣の席の人物は、ふんぞり返り話しの続きを受け持つのだが、彼が特殊部隊隊長閣下様だ。
ところでこんなところに来て大丈夫なんだろうか?
しかも大事な「長」が2人共だ。
すると、まるで信繁の疑問を見透かすように特殊部隊隊長はこう言うのだ。
「大丈夫だ、指揮権渡して副隊長に任せてきたからな。
アイツは真面目で信用出来る、〜まっソウイウコトだ、頑張れ信繁!引率頼むな?
ーーー但し俺達年寄りは5合目から参加だけどな!ガッハッハ、あー山小屋は確保済みだから心配するな」
「……」
『何が”ソウイウコト”ーーーだ!』
信繁は深い深い溜息をつく。
もっと身軽ーーー! 予定ではこんな筈では断じて無かったんだが。
何でこんな参加メンバーが増える一方なんだよオイ!
信繁は無理だと実は諦めていた〜上級飛行艇免許に見事合格、晴れて取得をした
確かにやるだけはやったがーーーあの最悪とも言える最終試験……
明らかに準備不足の実技試験にも一発合格、突破したのは自分でも信じられない
ヨンのこともあり城主に一応の説明をする為、城主の執務室に訪れた時は会議中で秘書室で待たされたのだが、何故か内部に通された。
でーーー「こうなる」と。
信繁は自分の間の悪さに絶望する。
「丁度良いわねぇ? 現地まで速いわよ?
今回ーーーー”試し”に使うといいわ、特別許可を出します」
その一言で、試運転、城が莫大な資金を投入し購入したばかりの大変に高額な飛行艇
ーーー初期不良が無いか?の検査チェックの為のテストパイロットを仰せつかったという訳でーーー
で現在、こうなった。
特別に移動に、最新鋭飛行艇の、使用許可が出た。
『落ちたらどうする気なんだか!』
信繁は城主の余りのチャレンジャーぶりにゾッとする。
「ぁーーーー大丈夫ですよ!
この飛行艇は我々の航空会社の最高傑作……自信作です!絶対に大丈夫です!」
信繁の不安をモノともせず、特別に販売会社航空機製造メーカーから営業マン兼インストラクターがやって来て、現在副機長席で賑々しく熱弁をふるっている真っ最中、パイロットの彼は熱かった。
……要するに喧しい。
「何かわからない、不具合や不慣れなことがありましたら仰って下さい!
微調整を直ぐ行います!!
後はーーー現地到着後は私が操縦も代わりますからね!
田子の浦港からはこの私が!!
この大切なお方様方を富士宮5合目の登山道施設に安全にお連れしますから!
で、帰りも当然あちらこちらに行かれるんですよね?観光で。
任せて下さい!
降ろす場所も予めこの一帯は調査下見済みですっっ!」
「……」
何でも良いが あーだこーだ五月蠅いぞ?!
「信繁さん良かったですねーーーー……!」
「乗り換え無しで現地に着けるだなんて最高じゃないですか?!」
「余計な時間がかからなくってこの分じゃ計画通りですねぇ…」
「しっかしまーーー信繁の操縦丁寧だよなーーー」
「ホンット信繁君は優秀だねぇ」
後ろの座席で信繁班のメンバーのキャッキャウッキウキの声
子龍と藤が楽しげに話す言葉が聞こえる。
「行きは”富士宮ルート”で登り、帰りは”吉田口登山ルート”で降りてきて小御嶽神社に参拝し北口本宮浅間神社でご祈祷してもらうんですよね?
でーーーラストの富士山本宮浅間大社!!ご祈祷フレイヤ王女様きっと喜びますよ?
ジャパン屈指の恋愛運アップ縁結び あーんど出産安産霊験あらたかな神社詣で
イヤァ〜ン最高です班長♡
寄るって言ってた有名なオルゴール工房、えーっと私も何か買おうかなー」
『この声はナスチャだな?』
フゥと信繁は小さく溜息をつく。
確かにーーーー……女性にとってこんなに楽しい”詣で”は無いかも知れない。
恋愛運アップというのは乙女心をくすぐる〜堪らなく。
信繁はしょうがないなぁと諦める事にした。
今回ナスチャはどの神社でも宮司の方々に、霊験あらたかな御朱印を貰うんだと張り切っていたから尚の事ーーーだ。
「いいよ、欲しいグッズとかステイショナリー、小物類があったら、全員まとめて俺が支払うから」
「良いんですか!」
「ぁあ」
「嘘みたい!」
ぱぁぁぁぁ〜……とナスチャの顔がピッカピカに輝いたのを思い出す。
御朱印を貰うには、書いて貰い印を押して戴くのは結構な時間がかかる。
だから信繁は ”帰りに必ず寄る” と約束したのだ。
『富士は元々それ自体が霊的な聖域なんだよなぁ……』
信繁は物知りの父親から様々な話を聞いていた。
富士は不二……2つと無い存在でかつ美しい。
活火山という事で平安の太古の時代には煙を吐いていたという事象から、富士は美しい女神伝説が元々あったという。
そうだ、俺がまだ存命の家族と子どもの頃に行ったハワイ島……
キラウエア火山・ハレマウマウ火口に住む美しき奔放な火の女神ペレもそうだ。
そのせいなのかはわからないが、富士は女神が宿る神域、大昔は登山出来るのは男性のみ
ーーーー女人禁制の山だった
古事記や日本書紀の神々の系譜の伝説にはこうある。
天の浮き橋から矛でかき混ぜてこの国を造った、国作りの神のイザナミとイザナギ。
この2人の黄泉国騒動の夫婦喧嘩の果てに、ようやく地上に戻ったイザナギが禊ぎを行い、彼の左目から生まれたのが天照大神……つまり太陽神の女神。
彼女の孫が鹿児島の地で、とある美しい乙女と恋をする。
これが山の神の娘 木花開耶姫、桜の花の精〜化身とされるそれは美しい女神。
色々と身内のすったもんだのゴタゴタの末、大恋愛の男神と契りを結ぶのだが何と彼女は一夜にして懐妊してしまう。
これをいぶかしみ……「不倫していたのでは?」
貞操を疑った最愛の夫の為に、彼女は出産の為の産屋周辺に火を放ち
「貴方様との、神の御子である事を証明します!」
〜貴方との子、神の御子でしたら無事でしょうと、囂々燃えさかる炎の中で無事3人の子どもを出産する。
実に熱く勇気ある心意気だ。
この驚きの、女性の誇りをかけた命がけのインパクトのある逸話で、女神は火と安産、縁結びを象徴する神、その他諸々。
女性に関する事に、特に強力なパワーを持つ神として祀られている。
因みに、この時誕生した3人のベビーの長男があの有名な伝承「海彦」、3男が「山彦」……
”海彦山彦”ーーー浦島太郎伝説の元ネタだ。
兄弟喧嘩の勝者 ”山彦” の系譜がその後限りある命を持つヒトの歴史に繋がると古代の伝説は今に伝えている。
富士を山岳信仰のご神体と崇める浅間神社は木花開耶姫を主祭神と崇める社、つまり富士山は彼女の山と言って良い。
木の花の名から主に桜ーーー又は梅の花の女神とされ、特にアナスタシアの発言の大社は戦国の雄 武田信玄が社に手植えで植えたとされる桜の木の子孫がご神木とされる。
そして徳川幕府を造った家康が関ヶ原合戦の後、熱心な後援者として神社を造営した。
彼の本拠地である職場、居城が直ぐ近く、お膝元だったからとも言えるが、富士の八合目以上はかの社の物だと正式に寄進している。
ジャパン全国、浅間神社は1,300社有るが、その頂点に立つ本宮の大社が富士宮ルートの比較的近くにある。
アナスタシアが、縁結び系だとキャッキャ浮かれたのも仕方が無い話だと信繁はよっくわかっていた。
女性なら誰だって良縁的結婚系こうした話は大好きだ。
絶世の美女が、神々のセレブ中のセレブの貴公子と恋に落ちる、元祖シンデレラストーリーと言えなくもない。
ただし姫のお相手は、信繁的にはあんまりよろしくない性格だとは思うのだが。
『ソリャ誰だってなぁーーー
本当に自分の子どもか?って疑われたらそりゃないよ〜ー、だよなぁ』
だから信繁は思う
この先の身分や境遇の不安定なあの姫、惑星フレイ第5王女フレイヤ様
お子様についてDNA検査で確認は取れているが、彼女は大丈夫だろうか?
そして仮にーーー……
夫と新たに契りを結んだとして、上手くやっていけるだろうか?
向こうで孤立しないだろうか?
木花開耶姫のように、情熱的な熱さを持つ、そんな気性の激しく美しい女性だ。
今は大人しく、ああして自分達の手元に我慢して居てくれるが、決して本来の姿では無い。
信繁はギュッと心臓が掴まれた気がした。
いずれ世話役でもある自分の元から飛んで行かせなければいけない、これは当然であり既に決定事項、決められた事だ。
だがそれがーーー何故なのか辛かった。
彼女の為だと、幸せの為だと思っていても
本音では
『〜〜!!』
ーーー突如よぎる不穏な心の動きにギョッとなる
『何考えてるんだ自分!』
いけない、そうだ……あの方は好きになってはいけない高貴な御方だ。
まして恋しい〜など、とんでもない話だ。
絶対にはき違えてはいけない……
信繁は奥歯をギュッと思い切り嚙み締め自分に強く言い聞かせる。
今回の事は全て今後のフレイヤ王女殿下の幸せを願う行為
身の程知らずに勘違いするな自分ッッッ
……ーーー恋をしてはいけない
「……ソロソロ目的地に到着です」
内心の激しい動揺をひた隠し、信繁はワザと明るくアナウンスする
「もうかよ」
「じゃぁ〜打ち合わせ通りにっ!」
子龍の軽口に藤が軽妙に相づちをうつ
グングン眼下に地上の海辺の公園ーーー”着陸地”が接近。
起点となる場所に設置の装置がハッキリ上空からも確認された。
「じゃーね!」城主が言い残し……
これからエンエン、しこたま合流地点富士5合目まで歩き続ける運命の職員達を海辺に降ろし、ブゥンと飛び去る飛行艇。
「いよいよだ」ーーー 見上げながら、信繁は気合を入れ直すのだった。




