番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 ⑨
「ヤッパコイツ、羊、白じゃねーだろ」
子龍も信繁に同意する
「だけど角がインパクトありすぎるもんな、毛皮部分ホッペくらいしか殆ど無いだろ?」
「今よく見るとどっちかって言うと〜茶系だな。
ちょいグレーの大きな角がドンと子ども心に相当インパクトあったんだなぁ?きっと」
「ウンーーー
だったら僕だって”白い”って感じると思いますけど?」
信繁班の皆も、あーだこーだ機長と副機長同士のたわいない会話に面白がり参加する。
子龍はヒョイッと肩をすくめて戯けた声で突っ込む
「ーーー信繁の親父さん、大会のトレードマーク〜
100マイル情報がちゃんと書かれている羊のネックの下の方バッサリ切ってただろ?」
「ぁあ!
現地行って俺も『ええっ!』と思ったよ……
ひどい!!当時俺が見たのは動物の頭部の部分だけ!
だからこその強烈な印象だ……改竄にも程がある。
でさあ、親父に詰め寄ったらーーー
『そうじゃない、コピーの際のトリミングだよ、こっちの方が勇ましくって勇壮で美的で格好いいだろ?!
”父さんアイディア凄い”っタップリ褒めてくれ!』
褒められるか〜〜〜〜〜ッッッッッ!」
「げーーーーー」
「よっく言うぜッッ!」
「班長も大変だったんですねぇ」
「良くグレ無かったよなぁ〜…」
「教育費の悪用っ!」
「ほらさーーー班長の家 ”金持ち”だから」
「まぁ無尽蔵だもんなぁ〜」
「あ〜〜〜〜……」
「ぉ、ぉぉう、 子どもにしたら超悲惨だよなぁーーー」
「『大切な後継者の教育に金かけて何が悪い』って奴?
……最悪、教育虐待かよ」
子龍が難しい顔で答え、スラリと長い腕で腕組みする。
聞くだけで腹が立ちそうな程の美声ーーー低音の魅力、美しい声が朗々とコンピュータールームに響く。
ウットリとーーー皆漏れなく聞き惚れたが、当然中身は子龍らしく中々な渋い内容である。
「あのさフツーだったら、莫大な海外遠征滞在費なんかの費用的に外野から”待て待て” って普通ストップがかかる筈が、そう言う縛りが無い、一切無い!
全然無い!
ーーーーむしろ『行ってこい!』 後援者続出の案件だろ。
多分、賭け事も女遊びもしないだろ?
君の親父さん、人生そのものがギャンブルってタイプだから。
聞く感じ、余暇の娯楽は人生1点ガケで山に賭けてる、私生活的に博打的投機も興味無し、仕事中毒で働くばっかりで普段無駄使いしないから、資産は貯まる一方。
よってアリとキリギリスのアリ並みに貯め込んだ貯蓄
〜資金も潤沢で通常普通人が手が出ない大会バンバン参加出来る。
社長自ら過労死寸前まで夜遅くまで働いて得た金だから、趣味も健康的体張ってるから社員も文句が言いづらい。
”ああいう大きなレース” ってーーー出るだけでも誉れ高い。
大概がポイント制で出場権得るだけでも大変なんだよ。
ーーー信繁君の場合、コツコツ真面目だから ”親の言う通り頑張ってた”せいで
自分でも気がつかないうちに自然に走破技術が付き親的には『シメシメ!』『イケルイケル!』
ーーーいつの間にやら息子も自分と同じく、コソッと有資格者に仕立て上げ育てたって訳ですねぇ」
藤の鋭い考察に悲鳴がそこらじゅうから上がる。
「ーーー俺家出していいか? 班長ーーッの弟だったらさっ」
「うわ最悪ぅ……!」
「でもさーーー100マイルのソイツ、出場の倍率、応募総数もソモソモメチャメチャ高いだろ?
だからこそ、エントリーの条件を満たし、尚且つ厳正なる抽選に御尊父様が見事当選したとわかった途端、無茶して嘘こいても息子を引きずり込んだんだし〜
ホントだったら、スポーツライターとか関係メーカーとか、兎に角大手マスコミが大喜びの密着取材の格好の好材料だ。
親父さんーーー良くそうした連中の同行を許可しなかったよ?
信繁、お前は特に子どもだったから、万人受けする喉から手が出そうな取材対象サ、なのにそれしなかったのはまぁーーーそれも愛か」
「暑苦しいがな」
「藤さんは ”ジャパンの100マイル” 出ねえの?」
子龍は疑問符を今度は藤に振る。
「ぁあ……あれはねぇ、コッチもレース選考基準が厳しいのさ。
出場者は ”専門の講座” ーーーー
大手スポーツクラブに開設されて有るんだが、それの中でも講座内で選抜で『大丈夫』って太鼓判押して貰って更にバックアップして貰い、大抵は出場するからね?」
ひょぇぇぇぇ〜〜〜と雅は仰け反る。
「個人なのに?! オリンピック並にそういうものがあるの?!
何で!信じられない!」
「何でって……言われても」
「そういう物だし」
「故障するでしょ」
「だってねーーー……『出れば良い』って言うものじゃ無いんだよ?
100㎞マラソンは増えては来たけれど……嬉しい事に!!
でも子龍君の言うのはね……時期は不定期
『ジャパン唯一の100マイルウルトラマラソン』
富士山をグルリ1周して160㎞、国防の演習地も突っ切るコースの驚異の奴なんだ。
最も夜中でヘッドライトの明かりだけだから、特に何にも見えないけどね?
出場者は1年、それに向けて一身に体調を整えるのさ。
2晩徹夜で意識朦朧として走りきる……主催者用意の仮眠室以外でも屋外の登山道で寝る。
転がって眠る。
……うーん一寸過激すぎる、バックアップのメンバーの疲労も考えると僕は遠慮かなぁ、せいぜい一泊二日だよ?
そういう……短い行程で終了するものでないと私達は職種的に無理なんだ。
とりあえず死んではいけない、だからこそ運営側にそういう厳しいタイトな縛りがあるのさ、むしろ私は良心的だと思うんだ」
「……でも徹夜するんですね?」
「そうっっ! 走りながら眠るんだ、あの睡魔の壁が本当に厄介だハハハハハ」
藤はニコニコ実に嬉しそーーーーーに満面の笑みで言い切る。
「……」
「だから藤先輩……そんなにウチの子を脅かさないで下さいって……!」
信繁は困ったような顔で頭を掻いた。




