番外編3 フレイヤ姫に捧げる富士登攀計画 ④
「じゃぁ藤さんはどう思ってるんですか。 プランBーーー
貴方の解決策はなんでしょうか?」
雅は強引に信繁と藤との会話をぶった切る様に乱入、ここは少し ”空気の入れ換え”が必要だろうと考える。
藤は滔々と弁が立つというか、もぅ完全に理論武装しているのだ。
見るからに苦戦が感じられ、雅的には敬愛する信繁に少しは考える時間を与えたかったのである。
その”優しさ”から出た行為、すると藤はきょろんと顔の向きを変えるのだ。
「……ぁあ雅君、ウチの子達こう見えて『ランナー』なんだよ、長距離方面の。
秋口からソロソロ〜 フルマラソンの準備に入るんだ。
何せ冬に大きなイベント目白押しだからね! 開催地は国内も海外もあるんだ。
……で、ここで発案なんだが、長距離を走破する肉体訓練ーーーと、ウルトラマラソン向けの高地トレーニングもかねて、連れてくのはどうだろう?
ねぇ信繁君も、本格的ホロ撮影用の大型機材……重いだろうに遠慮して運搬するのが君1人だなんて、そんな無茶なのは止めなさい。
無理するのはどうなんだと〜先輩ずらする訳でもないが、心配なんだよ?
負担は皆で分担して山頂まで担ぎ上げて運べば良い、その為のシェルパ的人材としても活用、我々を使えるよ?」
「〜いいんですかーーー?」
「うん雅君、私達も案外、近場ーーーーって『何時でもいける』と高括って。
どう言う訳なのか富士に御縁が無くって、私以外この部屋で登頂は未だ誰1人無いんだ。
職務上、”渡り廊下”みたいになってて、この地の事は良くは知らない。
それって不味くはないかい?
もしも城を襲撃した残党の一派が、町中に逃げ込んで追撃する必要性が急遽出た時にとかさーーーどうするのさ?
不安で仕方が無いだろ?地の利が無いと、少なくとも私は恐い」
「そりゃまぁ、そうですね!」
「ぅん、ウチも堪った有給が捌けるし、『大義名分』も出来るからさ?
だってさー 他課に臨時の欠員の応援を要請出来ないだろ?
何事も口の上手さと要領だ、でなければ中々消化無理目だしね」
「……? 『大義』って ”フレイヤ様の”ーーーですか?」
「いや違うよ ”ヨン君”だ」
?何でヨンが? 僕、意味分かんないしっっっっ!!
意味不明の話の飛躍に雅は目がまん丸になる。
正直〜
発想が明後日の方角にスパーンと跳びすぎて、思考の反応が追い付かない。
え〜〜〜〜何が言いたいのこの人?!
「?? またどうして?」
「ヨン君に対する 有用な更正プログラムとしてだ
ーーー”あの事件”で もしもーーーだ、コロニー都市D-01発・宇宙巡洋艦が市街地に落下、撃墜されていたら?
目の前に広がる穏やかで美しい平和な町並みは、ことごとく汚染され破壊しつくされてただろう、違うかい?」
「……ぇ」
「ーーーしかし 『そうはならなかった』
その事の『幸運』の自覚。
名誉の戦死ーーー命を賭した巡洋艦クルー達の存在の重みを現地を視察し実際に自分の眼で見て考えて、よくよく感じ取ってもらう。
”自分達がしたかも知れない地獄” に対し、タップリ理解して欲しいのさ。
まぁ中々良い ”言い分” 外に出る『お題目』、理由付けだと思うんだがね。
多分 ”フレイヤ王女殿下” の名を出したら最後きっと揉める。
平穏が崩れ、危うい均衡が壊れる。
そうなったら、一足飛びに修羅の人間関係が待っているだろう。
信用は崩れ出すとうんと案外に早い……女性の嗅覚を舐めたらいけないよ」
「ーーーですね……」
「まぁそれはともかく端的には、後で痛くも無い腹を探られて面倒って事さ。
とはいえーーーしかしヨン君のみ、”彼だけ”だと収まりがつかないだろ?
監視人として現教育係パートナーである、ナスチャも含めれば、周囲の街行く一般人から見れば、まるで海外から参加のインバウンド客
ーーー右も左もわからぬ外国勢、お上りさん集団の富士登山者……それを率いる優秀なガイド御一行様。
そう言う設定ならば、不審者として通報も職質もされないさ
ーーーーーねぇ『子龍君』、君もそう思うだろ?」
「ーーーーーーですね、藤さん」
突如自分に急転直下、今度は話題の矛先が疑問符付きで、ポーーンと振られた子龍は……酷くムッツリした口調、怒った様に短くポツンと言葉を返す。
『うわ〜〜周囲半径30㎝ 黒い妖気が漂う様!!』
ーーーきっと藤さんは、以前の子龍さんの職質の事、しっかり知ってるんだ!!
雅は色々な意味で、あまりの恐ろしさにガクガクブルブルしてしまう。
「〜つかぬ事をお聞きしますが、あのぅ……何㎞なんですか?それ」
雅は自分とは全然縁の無い、未知の不思議な世界におそるおそる……疑問符を入れる。
聞いたら最後、最早戻りが出来なさそうな聞き慣れないワード。
”ウルトラマラソン” とはソモソモ……何ぞや?!
「ああ、いい質問だね、雅君も是非、参加しないかい?」 藤はニコッと笑う。
「……」
ーーー仏様のような晴れ晴れとする微笑みが恐すぎる。
「藤先輩ーーーあんまり〜ウチのカワイイ子を脅かさないで下さい。
俺と違い、雅は純情なんですから」
「そうかい?信繁君」
「ええ」
信繁は ”しょーがないなぁ〜” と言う顔で雅に向き直り、肩をすくめる。
「つまりだ、ここにいる方々は職制こそ内勤者なんだか、全員只者じゃないんだよ。
俺も事情を知るまで、あそこ迄とは思ってなかったがさーー……仰天したよ。
そうだなぁ……城の福利厚生のジムとかで時々見かける ”走り込み”
〜確かに少し変だったよ。
だって ”長すぎる” んだ、走行時間がさ。
精々ジムでチョコチョコ〜っと、健康維持の為だと思ってたのにさ、戦闘員の俺らとは違う、健康目的が精々な筈が
『何でいつも居るんだろう?』
『ずーーーーっとじゃないか?』〜とは多少は薄々感じてたがな。
……そりゃそうだよ、目指す物、目的の達成距離数が半端ない」
信繁はフゥーーっと困ったように茶色っぽい眼をパチパチさせ、サラッと前髪をかき上げた。
胸一杯の深い溜息に長い睫毛が揺れる。
「雅……この人らはある種 ”変態” 陸上界の異種格闘戦出場のれっきとしたモンスターなんだよ」
「ナニソレ」
「ーーーそりゃなぁ、ウルトラマラソンの走者って言ってったら普通は引くぞ?
『コイツチョイ、いやホントはソートー変わってんのか?』〜ってさ?
付き合って大丈夫な奴だろうか?って俺だって多少は身構え考えるぞ?」
ーーーなんと子龍が、雅と信繁が2人で交わす会話に参戦し、信繁の説明後に面白そうに口を挟む。
「雅ーーーー
俺の知ってるジャパンで有名な某ウルトラマラソンを教えてやるぞ?
スタート地点の場所からレッツゴーで標高1,500の山地に距離数20㎞かけて駆け上がって、残りフィニッシュ、ずーーーっと、ずーーーっと、ずーーーっとエンエン下りの山道を駆け下りてくんだぜ?
そんなの普通じゃ無い、疲れたって止まるに止まれないだろ?」
「……」
「なぁ雅、高所っていう概念は、一般に標高1,500m以上を指すんだぜ?
だからつまりーーー
高山病が起きそうなギリまで、ランで上がって下がるコースって訳さ。
因みにこの時の下りは80㎞だったそうだ、スッゲーなぁ」
「!!」
走破距離100㎞…… そんなマラソン確かに普通じゃ無い。
「富士の”五合目”が〜 高さが最も低い御殿場口が1,440mで須走口が2,000m。
……吉田口が2,305m、で富士宮口が2,400m。
まぁソウイウコトさ、雅、意味分かるだろ?」
信繁は流石に一段と詳細、データ的に詳しかった




