団結 ②
海里は城主に対し、最後に呟くようにこんなふうに淡々と続ける。
少し間が開いた。
大きく一気に息を吸い、おそらく聞き手への臨場感を重視したのだろう、どうやら自らの愛する弟の口調を真似たらしき口調で、心を定め、静かに回想を喋り始めた。
海里は先程とは声色が明らかに違っていた。
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〜弟は僕に唄うように言い始めました。
凪が言うのには〜
「スペースシャトルで爆弾テロがあった時間帯は、丁度シャトル機内のシートベルトを皆外していた時の出来事だったらしくてね。
んでーーー
遺体回収後の身元確認が、ほとんどが座席から吹っ飛んでいたからさ、爆発事件の事件専門に扱う部署の、医療のプロの目でも相当大変だったらしいんだなぁ〜
それに箏は 幼い女の子を、ギュッとだっこした姿で見つかったってさ
ーーーようやく行われた告別式の日、オヤジさんから聞いた。
お人好しのあいつらしいなぁ~~って俺思ったよ?
当初救助隊から箏はーーー『若いお母さん』
〜だと思われていたけど、すぐにねぇ〜……!
でも~~そうじゃない事が解ったってさぁーー」
濃厚な不気味な悪い予感過ぎて、僕は胸の奥からモクモク迫り上がる不安で吐きそうで、何も言うことが出来ませんでした。
弟は当時のことを振り返りながら、奇妙に明るい口調でこんな風に語りました。
「〜俺が用意したリングだよ……
俺、18歳のガキだったから、いっくら死にそうにバイトしたって大好きな彼女にすら、カネ無いからたいした物買ってやれなかった。
だからせめてもの気持ちって事でーーー
プラチナリングの裏側に、彼女の誕生日と俺の名前と箏への、精一杯のメッセージ、ぐるりレーザーで極小の刻印で入れてたんだよな。
〜お客さん、どんな女性も、これじゃあ肉眼で見えませんよ?!〜
~拡大鏡どころか専門機関の顕微鏡でしか見えないんじゃあ、全く意味ないですよ〜
お店のスタッフさん皆、全員にクスクス笑われたけどさーーー
だからすぐに彼女、箏は被害者の中でもかなり最初の段階で身元が判明、無事に大好きなコロニーの家に帰ってこれたって。
箏が戻ってきたとき、それに亡くなったのが嘘のように、救助医療班の方達の思いやりで体が綺麗に整えられていたとオヤジさんに聞いた。
俺も箏に葬儀で会ったんだ。
最後のお別れの為にーーーー箏を一目見ただけでーーー
どんなに救助に尽力した方達が、彼女の為にひたすら頑張ってくれたか全部わかったよ。
呆然と立ち尽くすばかりの情けない俺だったのに、しかしオヤジさんは最後まで気丈で立派だったよ
空港で俺達を見守ってくれたあの秘書さんに支えられて、見る影も無く憔悴した目が真っ赤なオヤジさんは〜
ずうたいばっかり大きくてダメな俺に。
本当に有り難う、君のお陰だーーー深々と頭を下げたんだぜーーー
それで
『もしも君が本当に兄様達を仕事で支えたいと願うならば、必ず私の元に来なさい。
どんな難しい世界でも必ず通用する、優秀な敏腕マネージャーに成長するべく本物の秘書の仕事が、鞄持ちがどんなものか、我々が全力で人生を賭けて世界と闘えるよう君を仕込んであげるから』
ってーーーそう言うんだよ。
俺はその後、何年か、オヤジさんと事情を全部知ってる秘書さんの元で丁稚として修行した。
側についてタダで勉強させてもらえるだけでなくて、なんとまぁ給料もつけてくれたから心底驚いたよ」
僕は何も言うことがで来ませんでした。
途切れ途切れに凪はーーーこうも言いました。
「昨日はーーースペースシャトルが爆発した日、箏の命日だったんだ。
それで今年も変わらず、箏に花を手向けに行ったんだ。
そうしたらすっかり痩せて髪が白髪になった彼女の親父さんが墓前でいつかの日みたいに俺を待っていて
ーーーー食事に誘われたんだ。
親父さんは……
『君の様々な噂は聞いている。
これ以上娘に縛られると君まで破滅してしまうよ?
だからもう自分の人生を生きなさい。
今後は娘の命日にも来なくていいーーー』
あらかじめ予約済みの超豪華なレストラン個室で言われたんだ。
俺は自分を思ってくれる彼の覚悟を知ったが、折れるわけにはいかなかった。
「それは出来ません!
俺が箏のことを忘れたら 俺から見た優しい努力家の彼女は本当にこの世から消えてしまいます。
ーーーお願いですから これからも来させて下さい!!」
必死に断固としてオヤジさんに嘆願したら、深くため息を吐き、静かにこう切り返されたんだ。
箏のオヤジさんーーーキャンサー
……癌だって
もう末期で、あと半年持てば御の字だって……
俺は箏のオヤジさんの事を、大人のビジネスマンとしての気構え、世界のありようを仕事と共に親身に教えてくれた彼の事を勝手にーーー
いつしか自分の父親のように感じて、ずっと慕っていたから
ーーー余りの事に言葉が出なかった。
最愛の娘 箏 を失った深い哀しみとストレスがさーーー
ひたすら家族と仕事を愛し、亡き妻を心の底から今でも愛している、普通に誠実に生きてきただけの男。
〜何の悪い事もしていないオヤジさんまで、あぁとうとう粉々に破壊したんだと思ったよ。
憎いテロリスト達は愛する箏だけで無く、大切なオヤジさんまでも 俺から奪うんだよーー……」
「ーーーー凪 ?」
私が呼びかけても、もう、後はすうすう寝息が聞こえるばかりでした。
ですから毛布を取りに行き、そっと完全に寝入った弟にかけ、ぱちりと電気を消しました。
ーーーー凪は平和で柔らかな寝息を立てていました。
せめて、箏の夢を見ていて欲しいと心より願いました。
『お休みーーーー……』
どんな時も、我が儘な僕の傍に居てくれて有難う
「だいすきだよ凪ーーーー」
僕は心を込めて言うと、静かに凪が眠り込む部屋を出ました。
その後の経過は先程の話と同じです。
兄弟達に僕は今と同じ事情を話しましたーーー
静まりかえった部屋の中で、スタジオ防音の中で僕はどうしたらいいかーーー
全員に長男として意見を求めました。
青白い表情の凪は、どっかと椅子に腰掛けると項垂れ、大きな両手の指で顔を隠し、むせび泣きだしました。
〜そんな姿は今まで僕以外、誰も見たことが無くて、弟たちは皆本気でエエッと驚いていましたね。
ーーーーそれはそうでしょう
自信に満ちた喧嘩が強く、だれよりも美しく頼もしい凪でしたから。




