箏 ④
俺がそう言ったらさ?
すると同じく、世間の事だけはどうもよくわかっていなかったらしきあくまでも真面目なお嬢さんの箏は、目を輝かしてこう言ったよ。
「じゃあ私と競争ね~っ」
「おおーーーーっし、これは絶対だかんな!!」
生涯を賭けた大いなる夢の契約、互いに「指切り」して約束を硬めようとしたんだ。
契約書として一筆入れようとか……
大人の常識、ソウイウコトすらも思い浮かばない程、抜けまくっていた子どもの俺達だ。
ホント今思い返すとハズい〜ハズ過ぎてマジで照れるぜ!ーーーウワッとな。
でーーー俺が……意気揚々と箏の右手を取り、しっかり指を絡ませると。
「……」
?…… いきなり不意に彼女はピタリと黙り込んだ。
突如、急に耳まで赤らめ……恥ずかしげに俯いたんだ。
暫くしてゆっくりと、ユルユル顔を上げ、視線と視線が絡み交錯した。
「俺でいいの?」
「……凪こそ」
上目遣いで至近距離で俺を見つめる、熱く蠱惑的にうるんだ瞳。
頬を薔薇色に染めて、甘やかに蕩ける視線。
俺はそのまま抱き寄せて、追い求めてきた優しい唇ーーー
箏の、夢にまで見た柔らかさ。
言葉は全然要らなかった。
この日初めて俺達は初めてのキスをした。
大人から見ればたかが口付けなんだけどさ、信じられない極上の幸せを隅々まで味わった。
それから俺は恐いほど彼女を欲し、どこまでも蟻地獄のように彼女との触れ合いに溺れていった
自分も初めてではない、ぃや散々方々の女と体験しまくった爛れた男だったけどさ……
「心から愛した女」
本気で自分から夢中に惚れに惚れまくった、大切な特別な彼女との接吻、そういった関係は生まれて初めての体験だったし。
で……
一切歯止めなんかきかなかった。
彼女は正真正銘、俺が初めてのファーストキスの男だった。
もちろん、箏は本当のお嬢様だから、俺も手加減っつーか、キス以上の事はしなかったさ。
そういう事は、ちゃんと真面目に結婚してからでもいいと本気で考えてたんだ。
どうだ凄いだろ、箏に対する純愛、純情っぷりに泣けるだろ?
”愛してるの”って自分から囁くのも
”愛しているのはお前だけだよ”って囁かれながら、男に耳にキスされるのも……
服を脱がされるのも脱がすのも
体全身に隈無く男の唇で甘く擦られ触れられるのも
指先で、ツゥ……っと雪肌の皮膚を伝わられるのも。
密やかな秘密をキスで……暴かれるのも。
大人の官能の口づけも。
男からの口付けで精神全てを蕩かされて愛されるのも。
全部俺との関係が「初めて」だった。
目の奥を見ると、どれだけ自分が箏に愛されているか、すぐに解った。
箏は絶対俺を裏切らない
その途方もない万能感というか満足感なんて……
愛し合う中、脳がドロドロ中心から蕩けてタプンと体外に溢れ出しそうな快感なんて
全世界を手中に納めたような途轍もない優越感なんて……
兄貴には想像もつかないだろ??
勿論ーーーその日以来〜俺も箏以外の「他の女」には一切目もくれなかったさ。
そんなの当然、あたりまえだろ?
俺の中心の絶対的愛の女神は確実に箏だった。
俺の人生に、彼女しか要らない。
しかし同時にさ?
調子こきの、屑で最低最悪な頭の悪い俺は、箏の優しさに甘えきりすっかり増長していた。
だってさーーー全校生徒の男ども、誰も手に入れられなかった究極の姫君を、本物の素晴らしい心優しい美しいお姫様を俺がモノにしたんだぜ?
俺だけの最高の光輝く女の子だ。
男としての雄としての優越感は絶頂……最高潮だった。
箏は ”最初は嫌がって” もーーー「愛してたら出来るだろ?」
俺が甘い声で、困った声で強請る……!
耳元でクチュッとキスをし肌や耳たぶを甘噛みして囁くと、折れてどんな無茶な事でも受け入れてくれた。
……顔中真っ赤に染めて、恥ずかしそうに俺の口付けで全身蕩けて身悶える姿を目にするのはゾクゾクした。
健気に〜必死に何とか不器用ながらも、男の要求に戸惑いながらも真面目に応える箏の顔を見、デレデレ悪どく、更に益々ハードな事を思いつきーーー
散々じれさせイジワルに、ギリギリまで翻弄したよ。
「じゃぁ頑張ったご褒美だよ……」
俺は堪えかねてとうとう泣き出してしまった箏に、その日一番のとっておきの甘い触れ合いと熱い愛の囁きを贈るのが、俺流のキスの流儀となった。
気持ちのたけを〜どんなに箏の事を大好きなのか。
どんなに幾らキスを雪肌に浴びせかけたって、そんなの全然言い足りない
ーーー過去の恋人達から、自分の身に受けた以上の
この世の男が一番愛する恋人に捧げ尽くす、思いつく限りの濃密な蜜の奉仕を時間を掛けてジンワリと……
自分との愛の時を忘れがたくなるように、精神と心に染みこませるかに繊細だが逞しく全力で挑んだ。
惚れ抜いた大切な箏が俺の事を、生涯決して忘れられなくなるように……
男の技能、ソッチ方面の真剣な研究も日々怠らなかったよ。
……
どこまでも何度でも
穢れた大人の爛れた性行為などせずとも、情熱的な想いを込めた俺からのキスだけで、究極のエクスタシーの高みに、真に愛する女を俺の手でどこまでも登らせたかった。
それが愚かな俺の考えた、自分が知るたった1つの手段、箏に捧げる究極の愛の証だった。
俺が彼女に夢中なーーー同じ熱量で、箏からも心の底から俺のことを、真面目に愛して欲しがって求めてほしかった。
元々は出だしが完全に俺の片思いからの出発だったから、そのあたりがまるで男として自信が無かったんだよなぁ。
だから絶対的な確証と証拠が、彼女からも欲しかったんだ。
言葉なんかじゃーーー全く足りない
そんなの全然さ
ずっと俺の腕の中に閉じ込めていたい、キスでそのまま食べてしまいたいくらい夢中にのぼせててさ?
でもなんでかーーーさ……
愛しても愛しても、いいや猛烈に熱烈に愛すれば愛する程 益々なんでか不安になったんだよ。
1秒たりとも箏から離れているのは嫌だった。
だけどーーーーこの恋のことは。
お兄達には絶対に言えなかった。
知られるのも厳禁だ。
だって卒業したら彼女と結婚するつもりで、家をーーー!
ーーーコロニーRURI-Aを出る予定だったから。
反対されても結婚するにはそれしかない。
あっという間に箏は連れ戻されて、俺は2度と会えなくなるだろう、そうなったらお終いだ。
俺は箏と別れることは出来ない、どう考えても、それだけは絶対にムリだった。
だけど最悪そうなったら……親のいない残された兄弟達の生活費を誰が稼ぐ??
誰がお兄達のマネージメントをする……??
だいいち当時ーーー……
1番実入りの良いバイトで高給取りとして、目一杯稼いで家にカネを入れていた圧倒的な稼ぎ頭は、誰が何と言おうと……ダントツに俺だった。
彼女の家も、よい噂がない俺との結婚は確実に反対するだろう。
ンなの猛反対に決まってる。
ぁあそうだーーー
その確信を裏付ける「出来事」も、俺は事実この目で学校内で見たんだよ。
1度箏がーーーー……
実際に理事長室から目を真っ赤にして俯いて、小走りで出てくるのを見かけた事があるんだ。
「箏……?」
大変だ、一体どうしたんだよ?〜と…
ビックリして声をかけようと物陰から出ようとしたら、ガラッと扉を下品に開けて、2人の大人がゲラゲラ笑いながら部屋の中から現れた。
それはーーー!
俺が大嫌いな理事長と、訳知り顔の彼女のクラス担任教師だった。
「箏はどうしてあんな顔だけの男にいかれてしまったんでしょうかねぇ?? 」
「まったくーーー
いいように男に騙されて抱かれて、体を弄ばれているのが判らんのでしょうなあ」
「これだから純粋培養のお姫様は……!」
「ハハハ違いない」
その他は〜とても口に出来ない、下卑たセクシャルな事を散々周囲に聞こえるほど大声で言い散らかして。
ズカズカ足音も高く、下品にけたたましく廊下を去って行ったよ。
ふつふつーーー
震えるように身体中、燃える怒りで充満した。
バッキャロー!!
箏はおまいら見たく、まだ大人の穢れなんか全然無縁、やらかしてない奇跡の清らかな体だっつーのに!!ってさ。
だけどさぁ、その時改めて俺はーーー
箏の置かれている立場が現在、相当マズイものだと自覚したんだ。
俺が思っている以上にさ、多分もうギリ……タイムリミットだ。
2人がこのまま付き合う事、永遠に結ばれる事ーーー!
ーーーーつまり2人とも
この世で愛する、1番大切なものを捨てるということだった。
俺はーーー
自分で「告白」の予定を立てたその日の決行の日のために、ギリギリまでバイトを増やして働いた。
それはーーー卒業式前日だ。
彼女は優等生の卒業生総代として華やかな式典に出る、そうに決まってる。
でその後ーーーー「次の日」卒業式に。
未だ人がザワザワしているその混乱状態に乗じて、計画通りに箏を連れだし、地球に向けたスペースシャトルに乗船する。
高価な2人分の搭乗チケット代や、「逃走先」
アッチでの衣食住、バイトの人脈を駆使して新しい仕事先のアタリもすでにつけた。
なにも無一文で、見知らぬ土地で彷徨う訳じゃない。
実はさーーー! バイト先の飲食業の本店〜ミシュランの星付だぜ?
そこがさ〜地球のフランスにあって、でーーー
〜”まだマスメディアに発表前で極秘なんだが、南フランスに新店舗をオープンする事になったから、君、是非フロアマネージャーとして行かないか?
新店舗はきっと大いに話題になり、人々の耳目を集める事受け合いだ。
銀河中から観光客が押し寄せて、それはやりがいが有るだろう。
君だったら雰囲気が神秘的だし、人当たりもいいしカンもずば抜けて良い……!
どこだって悠々自由に生きて行けそうだ。
正に適任だろ?私はそのポジションに君を推薦してて、本店も凄く乗り気だ。
君さえO.K.だったら是非この話を受けて欲しい
ウンと言えばすぐに決定だ” 〜
そういう打診が店長から直接俺にあったんだ。
フランスなら芸術の都、文化の中心地、アカデミックな音楽の専門的な勉強をするのにうってつけだろ?
喉から手が出そうな垂涎の、多くの巨匠を輩出した素晴らしい教育環境。
普段は長閑な環境……
ゴッホやその他が絵に描いた土地でノンビリ暮らしてさ
美味い料理に美味い酒……
美味しい空気。
都合のいい時は大都会に出てさ?
音楽以外ーー
精神的糧になりそうな本場の本物の美術も毎日幾らだって見られる。
ジャブジャブ日常の1つとして触れ合い勉強出来る。
ホント……願ったり叶ったりだ。
俺は未来の温かな家庭を想像してボーーッとなった。
だが……それにつけても何をしても先ずは ”金” だ
先立つモノーーーーー支度金がいる。
お嬢様の俺の愛する箏に、そんな苦労はかけさせられない。
だからーーー俺はトコトン働いた
結果……愛する女性ーーー肝心な箏との時間は目に見えて削られていった。
がくんがくんと音がするかに減っていった自覚がある。
こんなにも会いたいのに会えない、よって本気で時間が無くって。
以前みたいにノンビリ、ピアノの長椅子に座って幸せに話し込むこともなくなった。
バイトが終わって……全てが終わると殆ど深夜だ。
短い休み時間には必ず電脳の連絡を入れていたけれど、どうしても短くせざるを得ない。
それが素っ気なく映ったのか……いつの間にか箏からの返信も同じ様になっていった。
胸がチクチク痛んだがどうしようもない。
くっつき合ってキスをして、唇の上でいつまでも話がしたい
「大好きだよっ」って体が折れそうな程に、ギュッと抱き締めたい!
会いたくても会えない、我慢するばっかりで……俺は完全に「箏不足」に陥ってその分 偶に逢えた時間は狂気と歪みを増して、益々激しく彼女が欲しくてたまらくなった。
顔中燃えるようなキスをして、甘みを夢中で喰い尽くすように求めた。




