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第二章 箏 ①


凪はニヤリと昏く笑うと、僕に、古い、打ち明け話を始めました。



「あの時ーーーー当時俺はまだ17歳さ。

ジャパン管轄『コロニー政府』が運営する進学校、高等学園3年になったばかりだったよ。


誕生日はまだだった。


ある月の昼ーーーーー……

シンと静まりかえった誰もいない校舎4階の音楽室で、1人昼寝を決め込んでいた」


「お前そんなことやっていたのか!!」 僕は呆れました

 

すると凪は、急に酔いの醒めた神妙な顔で頷き真面目な声でいいました。


 

「〜まあね、俺、進学校の生徒のくせに勉強は苦手だったけれど、喧嘩とスポーツーーー

後『ルックス』だけは昔から負けたことなかったからな。


〜学園内で怖いものなど無かったんだ。


だらしなくーーー……階段状にしつらえられた席、狭い長椅子の上にグダグダ寝ころんでいると、誰かが音を立てず静かにこっそりと音楽室に入って来た。


『誰だ?』


自分と同じくサボりか?


薄目を空けてみると、俺にはすぐに名前がわかった。

それで漸くとっくに昼休みになってた事に気がついた。

 

ソイツが授業自主的ボイコット、サボりなんて有り得ない。


優等生で真面目で、だけどさーーーすっごい可愛い女の子、男どもの間では超有名な彼女だったからだ。


コロニーRURIーAでの、上位企業のオーナーの娘。


電脳ジャーナル配信の経済欄でも、当たり前のように企業名が堂々クレジットされる位の〜凄い上流家庭の本物のお嬢様だった。


成績は常にトップ、おまけに折り紙付きの可愛い顔と、抜群のスタイル。


極めつけは彼女が誰にでも優しく明るく親切だった事。


それが『ニセモノ』〜媚びているだけかどうかだなんて、男だって本当はわかってるよ?


気がつかない……わかってないふりを、女性に ”つき合って” してるだけさ。

 

だって面倒くさいからなーーー

 

『女の嘘』に本当に騙されてる馬鹿な奴も居るはいるが、俺は適当に日々そういう上っ面の態度で済ませていた。

 

その子はふて腐れる皮肉タップリの俺の目から見ても、まるで喜劇〜ジョークなのかってぐらい本当に真面目で……

 

見たこと無いくらいスッゲいい子でさーーー


で、これで男が盛り上がらないはずはない。


だけど余りにも出来すぎたお嬢で、流石に誰も、面白半分でちょっかいだせる雰囲気ではなかった。

 

クッソ真面目な彼女の名前は『箏《ソウ》』といった。

 

『箏』というのはジャパンの琴のことなんだ。


どうだ? 名前まで奥ゆかしくって綺麗だろ?


実際、名は体を表すってそのものだった子なんだ」


箏がどうしてここに来たのかは、手にした樹脂製の見開きの楽譜でわかった。



ああ、この音楽室のウリモノ〜コンサート仕様の。


地球から重いのにワザワザ運んできたという、教師が鼻高々で自慢しくさるグランドピアノで、休み時間に練習をしに来たんだなあ〜ーってさ。


何でも音楽室にある馬鹿でっかいピアノは特に破格の値段ーーー!


あれ1つで、最新鋭最新型の超高級飛行艇が余裕で購入出来ると噂をしていたよ


だから俺はてっきりーーー出て行け!と、ガンガン文句言われて叩き起こされるものだと思った。


楽器演奏者は繊細な人がなるものだろ?

だから関係ない奴がいるとメチャ気が散るってのを、流石にあの年頃の俺も知っていた。


『ーーーーいいさ別に。

つまらん文句を言いに、俺の近くに来たら手をつかんで強引に抱き寄せ、深いキスの1つもしてやろう』


当時怖いものなしだった俺は、ふてぶてしくも変わらず狸寝入りをしていた


ーーー幸い誰も見ていないし?

 

セクハラされたって騒いだところで恥をかくのは、真面目な女性の方だとわかっていたからね。


『俺がファーストキスの相手かもな……?』


どこまでもゲスい俺は。

真面目な彼女が、可愛らしい唇を強引に奪われた瞬間……!

一体どんな慌てふためいた顔をするか想像して、ニヤッとほくそ笑んだ。


コリャ面白いぞ? 俺の腕の中で泣いちゃうかもな??

 

湧き出る楽しい妄想で、俺の頭の中はすっかりと薔薇色だった。


ところが彼女ーーー箏……は、俺の全くの予想外の反応をした。


そーっと足音を立てずに歩くと、重苦しい淀んだ空気の音楽室を、新鮮な空気に入れ替えする為にーーーワザワザ〜


壁際に取りつけられたパネル装置で、空気清浄のセッティングをピピピとし始めたんだ。



更により早く、空気の循環がし易いようにーーーと、天井のやけに豪奢なファンを回すスイッチまで、カチッとオンにした。


箏は俺に気がついていた。

 

だって、さり気ない視線を感じたからな。


 

その後、箏はーーー忍び足で、システムのセッティングが終わると、来た時と同じように殆ど音を立てず出ていった。


寝ている俺を起こさない様に気を遣いながら、息をひそめてそ~っと音楽室から去ったんだよ。

 

入ってきた時は室内が無人だと思ってたのだろう、確かに程々の扉の開く音がした。


……が、出て行く時はそれすらしなかった。


微かな気配しか残さなかった。



『〜〜〜〜!!』

俺は椅子の上でグニャグニャ悶えた。



この時程、人として猛烈に恥ずかしいと思った事はなかったよ?


人のランク……人間力、精神のレベルが絶対的に違いすぎた。


本当にカーッと一気に顔が赤くなったんだ。

 

俺はコイツに完封、負けたと思った。



この話、お兄は”絶対ウソ”だと思うだろうけど?


ーーー強烈な敗北感と同時に、俺は箏にあの一瞬で、熱烈で悶えるような本気の恋をしてしまったんだよ。



何が何でも箏をーーー手に入れる!!


誰にも絶対に渡さない。

あの子を自分の『彼女』にしようと、カァッと熱く真剣に思ったんだ。


「そっから先は断られても断られても、格好悪くてもかまわず待ち伏せしまくった。


ソリャもう不自然な程に行く先々で、偶然を装って話しかける回数を増やすべく頑張ったさ!


ーーー女なんかさ……!

面のイイ自分がちょっと優しくすれば簡単に堕ちるもんだと、正直軽く思っていた。


が、箏はここでも予想外だったんだ

どんなにキザな言葉で熱く話しかけても、箏は無反応。

 

ホントに全く靡かない


……えっ……?何故なんだ? ワケがわかんないし……??


男としてのやっすい自信なんか木っ端微塵だよ。


でーーーとうとう万策尽きて、彼女に白旗を掲げた。


 

その時、頭を下げて本気で謝ったんだ。


箏は無言でジーーーッと俺の姿や表情を観察していた。


もぅねぇーーー

殆どヤバイストーカーっていうか〜……イイヤ立派な変質者と化してた俺を見ていたよ。


そりゃもう鬱陶しくって、文句なんか吐きそうに山盛り程あったろう!!

彼女の真面目な性格を考えれば当然だよ。


コワイっ

キモチワルイって……


それにダイイチ……!

 有名会社社長の親父さんに言いつければ、絶対凄腕の飛びきり優秀なボディガードだって速攻現れたはずさ。


瞬殺でボッコボコに、立ち上がれないほど殴られたと思うんだ。


学校の関知しない校外で俺はーー……!


ゴミステーションに『せーのヨッコラセッ』〜〜って、ワッハッハッと嘲られ放り投げられてたろ〜な。


そんなの当然だろ?

大切な大切な会社跡継ぎの『長女様』だぜ??


何しろ女性に一切落ち度がなくったって、自己中の思い上がった奴に、大切な命が奪われる凶悪犯罪なんかごまんとあるご時世だ。


 

”オイコラそこのゴミ!

身の程知らずの野良犬は手を出すな〜

 

美しいお嬢様の前から消えろっ!!”


ってーーーーー

俺はそういうのを、水商売のバイト先で散々見てきていたんだよ。

 

ーーーなのにだ、何でかプロの気配はしなかったんだ。

 

マジで不思議だったよ

 

スッゲー−−迷惑に決まってたろうに……な


俺は大人の世界の傲慢極まる汚い部分〜


一旦牙をむいた時に身の程知らずのガキが受ける制裁とか、手の内を経験で全部わかってたから余計に〜


俺の悪行に対して決して責めない、行動を自由にさせてくれていた彼女に本気で申し訳なかった。


つまり人格が初っぱなからもう違いすぎたーーー完全なる俺の敗北だ。


 

だからさ……


『〜……ゴメン悪かった

もうしつこくつきまとったりしないから安心して』


 

俺が格好悪く半べそで……情けなーくモソモソ言ったらさ?                              

初めて箏は、俺の目を見てくすくす笑った


ホッとしすぎて脱力した俺も一緒に笑った。



『俺と友達になって下さい』

スッと ”友情の握手” の為に、手を差し出した。


 

箏が 『……?カノジョで無くて良いの?』

 

思いっきり不審そうに聞いてきた


だから……

『君が ”そうしたいと思ったら”〜でいいよ』

 

『ずっと……思わなかったら?』

 

『それでもいい』

 

『ふぅん……ーーーじゃよろしくねっ』


 

箏からも ”友情の握手” の為の、凄く綺麗な白い手が差し出された。


ぃやったぁ〜〜〜……ッッッ!!

俺の頭の中でキンコンカンコン金色の鐘が盛大にお祝いで鳴る音が聞こえたよ。


そりゃ当初望みまくった ”恋人じゃない” けどさ……!


でももう 側に居られるっっっ!


これから堂々箏と 隣で喋られると考えただけで、もぅばばーーーっと、どこまでも心は天よりもより高く舞い上がっちゃってさ……!

 

何だって良かったんだ

スッゲー……サイコーに幸せだった。


箏が繋いでくれた手は大きくて〜柔らかくなく。


ピアノをしている人間特有の骨骼、まるで彫刻の芸術品みたいに美しい形だったのが新鮮だった。


そんな箏の宝物に直に触れて、思わずポロッと泣けた。

音楽に携わる人間の手は大切な魂、命と言って良い掛け替えのないパーツだ。


頬に涙が嬉しすぎてバーーっ、滴り伝った


『凪君って案外泣き虫さんなのね!』


箏はピシッと見たこと無い程完璧に、美しくアイロンのかかったハンカチを自分に貸してくれた。


”苦労なしのお嬢さん”……


天性の才能に恵まれた、何でも出来る女の子



俺達には両親がいないだろ?


自分はだからこそ負けないように舐められないように、サンドバッグ、ぺしゃんこに叩きつぶされないように、意地張って尖って周囲に威嚇、僻《ヒガ》んで生きていた。


ところがなんとまぁ……意外や意外、箏も同じく片親だった。


父親も忙しい人だ。

なんてったって超有名企業の社長様だもんなぁ〜……!

 

だから実質俺とおんなじ。

なのに全然、性格が真逆だった。



嘘だろ? 俺は此処でも完敗。


やっかみも込めて半分馬鹿にして考えていたのだが、実際は影で努力を重ねてきた相当の努力家だったんだよ」



ーーーーー……


ーーー…



〜



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