番外編2 子龍の学生時代の思い出 (15)
病院建物を出ると、外部庭園で肌寒い中にも微かに、うららかな日差しが感じられる一陣の風が吹いた。
『そっかーーー世間はもうすぐ春なんだなぁ……〜』
子龍にとって掛け替えのない2人
人生を変えた愛する人
夢中で「先生」に恋をした。
本当に好きで……死にそうに好きでーーー脳が沸騰し気が狂いそうに恋をして。
そしてーーー今……
心の底から玉蘭を愛している。
子龍は天を仰ぐ。
視線のずっとずっとうんと先には、彼女の病室がある筈だ。
「ずっと愛している」
……口の中で大切に、そぉっと甘やかに、うっとり幸せに呟く。
子龍は脳裏にその光景をしっかり焼き付かせると、専用ブースに待機中の飛行艇まで足早に向かってゆく。
飛行艇は乗員を内部に納めると、いつもの自動運転で滑らかに飛行した
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子龍が到着した、ざわめく宇宙空港ーーーーーー
身支度を済ませ、信頼する護衛達に守られている兄が待っていた。
目立つ待ち合わせ場所のモニュメントの側。
大きな鳥類用ケージを荷台に載せる哲が弟の子龍に遠くからでも気がつき、「こっちこっち!」ブンブン剽軽に手を振る様子がなんだかとてもおかしかった。
そして子龍は思うーーーー
細やかな性質の哲だから、生体の、こうしたものが荷物にある以上。
他の乗客の不測の事態ーーーー
最悪重篤なアナフィラキシーショック等、アレルギー反応を恐れて、きっとラウンジ内に入ることを遠慮したのだろうと思うのだ。
哲は何所までも周囲に気を配る優しい男だと、子龍は胸の奥が温かくなるのだ。
「兄さんゴメン!」
哲はニコニコ〜……
ハッハッハと息を切らす弟に対し、優しく微笑んでこう語るのだ。
「ぃや……このこ、本当に凄いな……!
猛禽類って神経質で機械音とか人間とか かなり嫌いって聞いてたけど……
キリリと大人しいもんだった。
よっぽど〜!この子のご主人様、大切に信頼関係を結びーーー
どんな場所にも桜香嬢が対応出来るようにっ!……て、きめ細かく訓練し愛して付き合ってたんだなーーーと思ったよ。
お前純粋で賢い、素晴らしい性格のいい子を選んだんだな……!
病気のことがなかったら兄さんが何としても、例え誰が反対したとしても、父さんや周囲を説得してお前と彼女を結ばせた」
子龍はそれを聞き……ポタポタ涙が止まらなくなった。
堪えにこらえた涙が、一気に噴き出したのだ。
哲は堰を切ったかに大号泣する弟に、清潔なハンカチを差し出しハグ。
ポンポンと優しく背をタップした
最近グイッと背が伸びて成長著しい子龍も、父親であり母親でもある思いやり深い優しい育ての親の兄の前では、素の年齢相応ナイーブな男の子に戻れるのだ。
惑星トールでの新学生生活
ようやく馴染んだ頃の〜ある晩の事ーーー
〜空調設備・防音が完璧の住居室内ーーーー
桜香専用部屋で、桜香嬢が激しくキーキーと情緒不安に鳴き叫ぶという途轍もない珍事が起きた。
桜香はバタバタと大きく羽ばたきし、翼を痙攣させ藻掻くように。
しかもーー
子龍ですら今まで聞いた事がない、悲痛なうら悲しい声で長時間声限りに叫び続けたのだ。
子龍はずっとーーー…… 一晩中桜香の側にいた。
彼女が落ちつくまで、片時も側を離れなかった。
「そっかーーーー
お前の『彼氏』が 今お別れに来たんだな……?」
遠きーーー信じられない遙かな時空を越えて
子龍には判った
ーーーー玉蘭が 地球ジャパンに残してきた愛する人が。
病との苦しい戦いを終え 静かに別天地へと魂になって旅立ったことが。
野生動物には 人智を越えた神秘的な力があるのだ。
幾ら人になれた猛禽類でも、魂のありようは人間とは違う。
書家〜文人や墨客は死すと、天宮に御坐す、天帝の新しく造営した白玉楼を褒め称える詩を作るために、特別に小型の蛇型竜に乗って招待されるのだという。
チャイナの超古代〜
唐の時代の夭折した詩人、幻想的な詩を得意とした 李賀。
危篤の臨終直前にフッと急に目覚め、たった今自分が見た夢として、看病に明け暮れ泣き濡れる母親に
「おかあさま、たった今、こんな夢を見ました。ですからもぅ泣かないで」そう言い残し、黄泉の世界に旅立ったという。
そんな話を師匠である青年書家から〜
「白玉楼中の人となる」という古事成語、「唐詩記事」出典ーーー
「お前の心の癒しの、せめてもの手向けになれば」と、玉蘭に披露する白木蓮の下絵の必死な勉強の際に、そんな事柄を教えられていた。
「桜香……お前は特にーーー…… 放鳥会でも一際賢いもんな。
玉蘭に会えて羨ましいよ? 本当に……」
子龍は万感の思いを込めて呟くのだった。




