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番外編2 子龍の学生時代の思い出 ⑨

玉蘭は実に忙しい女の子だった。


全国津々浦々、あちこちの放鳥会ボランティアのイベントでは衣装としてグループの大人達の仲間と共に、趣のある和装仕立ての服を纏うのだ。


漆黒の羽織風の上着と渋い同色ハンチング、スキニー、地下足袋を身につけ

キュッと……!

肩に掛かる長い黒髪はポニーテールに纏め上げる。


逆にインナーには女の子らしい色合いの膝丈のキュートな細い明るい色彩の帯付きの和装〜

華やかな甘めの色とりどりの小袖を合わせていた



キリリと真っ直ぐな瞳で、顔に緊張感を浮かべている玉蘭は、大勢の中、子龍には一目で発見出来た。


その姿は清楚で凜と なんと美しい事か!


玉蘭は洋風を好んだ「先生」とはタイプがまた違う 和風の美の女神で。


着慣れたお気に入りの衣装に身に包み、堂々自信に溢れた姿は、口ばかりの若造にすぎない自分など全く足下にもよれないほど完璧に大人びて見えるのだ。



一応は書家の卵で〜ーーー他はただの学生の自分。


玉蘭の放鳥にて、優美で無理の無い滑らかなストロークで放たれる、弓なりで空を滑るような流線型の特徴的オオタカの滑空にひたすらに憧れた。



桜香は長いスレンダーな全身の割にキュッと小さな頭部、全体的にシュッとクールな上品さを放つ美しい鳥だ。


玉蘭の先輩の放つ鳥達は、如何にも猛禽類の魂、野生の瑞々しさが命の素晴らしき輝きを見せつけるハリスフォークが多い。


彼等は勇壮で、ガッシリ強靱な個性を持ち、ゴージャスの一言で……

大振りの羽毛を持つ、カフェオーレ色の艶めく華やかな猛禽類である。


体型どころか全然見た目、オオタカとは個性が違う。


同じ猛禽類だとはいえ、また違う雰囲気を醸し出す鳥達だが子龍は桜香こそが最上級に美しいと感じている。

 

桜香のソフトな淡いーーーふんわり墨色のグラディエーションの羽毛。


それに包まれる細くしなやかな美麗ライン……

人に例えれば、絶世の美女といって過言でない、見惚れるうっとりする形の良い背中。


冬に向かい長くなる、ツートンカラーのそれは見事な惚れ惚れする尾羽。


玉蘭に日々丁寧に手入れをほどこされ、細やかな肌理の蕩けそうに見事な羽毛に包まれる清潔な全身。

 

ーーーー獰猛な、生きる、しなやかな宝石……



その証拠に桜香は誰もの心を必ず引き付け 残らず釘付けにするのだ。


ハッとーーーー目を引く、とにかく素晴らしいロシア美女




玉蘭と桜香ペアはーーー毎回。


十重二十重の、珍しきイベントに集まった大勢の詰め掛ける観客達を響めかせ、大いに歓喜させるのが通常である。


「オォオオオオオッッッ!ッッ!」


大人に混じり ひときわ小柄な若い玉蘭が、縦横無尽、重力関係なく、優美にオオタカを操るテクニックは何度見ても〜


誰が見ても、いつだって魂を虜にさせ、本当にそれはもう華麗で見事である。


その証拠に、玉蘭の鷹匠としての立場に対する「ファン」


ーーー熱烈な、「玉蘭&桜香ペア」を自らの推しと認定する観客達。



または「桜香」の!

「桜香様〜〜〜♡」と心より崇め奉る、幾つもの私設応援ファンクラブすら存在した程だ。

 



『そりゃそうだよなーーーー』

子龍はひっそりと遠い所から全てを見ていた。

 

主役は彼女達で、自分は ”あくまでも手伝い” で後方支援ーーー

裏方の人材で、決して目だってはいけないのだから。


しかし玉蘭と性別〜男女の枠組みを超えた、他の男女カップルのようにべたべたはしないのである。


男同士の親友とも言える〜

彼女にとっての唯一のバディ的立場が、子龍は心底とても誇らしかった。


自分があの場に立っている玉蘭の1番のーーー「真の理解者」なのだと、今すぐにでも全世界に大声で叫びたかった。


こんな絶対的な特別感は無い。



自分だけーーーー自分だけだ……!!


心の半身、永遠の友達


ーーー自分は今、間違いなく幸せだ。




こんな〜

現在、最高の友人を得ることが出来て、俺は誰よりも幸福だ。




皆の視線の輪のーーー


特設の空間の中央で老若男女全てに大絶賛、称賛され活躍する、眩しい小さな姿を子龍は毎回見惚れ、誇らしく胸を熱くしていた。

 


**************



トーキョーシティーーーー

子龍の長兄〜 哲のマンション内



「そっちの、今〜〜 弟の子龍の様子はーーーどう?


この前、玉蘭さんには、子龍からきちんと紹介されて会わせて貰ったよ?


ーーー書の個展を開くからって、子龍と一緒に上京してくれたから紹介してもらったけれど?」


「それはもう〜〜〜〜!!

すっかり見違えるようにお元気になられました!」


「そうなんだね、本当に良かった」





『よかった……!』

 

〜弟の住居に勤務するスタッフから細かく聞き及び、弟を溺愛する哲は心底ホッとする。


頬が思わず嬉しすぎて、にまにま緩むのだ。



”もしも”ーーー『後を追ってしまったら?!』〜とーーーー


本気で兄として 心より心配していたのだ。


それ程、弟が『先生』にーーーー

スタッフから間接的に ”参っていたこと” を随分聞かされていた。



新しく出来たーーーー幸せな居場所。


本当に今度こそ大丈夫だろう!!


ホログラム通信で大切な弟の近況を聴き、哲はホーーっと胸を撫で下ろす。


育児放棄した母親に代わり、自分がベビーの頃より面倒を直接見てきた愛する愛する弟。


その彼が激突した、父との、一人の女性を巡る拗れ〜


諍いにより最悪に拗ねまくっていた気持ちが、ようやくに温かく解れてきた様子に安堵するのだ。



「全く……父さんも酷いことをする……」




どうしてあんな事を「再びしたのか〜?」は、哲には理解出来なかった。


しかし ”あれ以上拗れる” ようであったら、本気で自分が介入ーーー


父から物理的に離し、今後暫くは自分の手元に長く置く事を考えていた。


つまり優しい兄は大切な弟の為に、そこまで腹をしっかりくくっていたのだ。


とーーーーーいうのも……

「それが出来る」最初で最後の大チャンスが哲に廻ってきていたからだ。



彼が、かねてより政府に希望を出していた、赴任先、惑星トール行〜


”かの星” に、新人外交官として駐在する旨が実はほぼ内定していたのである。



それも向こうの国の大使館職員より ”指名”〜


直々に名指しで懇願されての、最初から特別待遇での赴任である。



あの国家ーーー


惑星トールは銀河系随一の最強の軍事大国、強烈な武装国家だ。


物好きな自分は良いが、子龍の方は「はいそうですか?」〜とはいかない、思春期の弟の運命を根底より変えてしまう赴任となる筈である。


帯同の決断を簡単にする、生半可な覚悟で移住する、そんな星ではなかった。


機嫌を損ね政府機関「王城」にて下手を打てば、幾ら国を代表する大使、駐在員だとしても行方不明者として闇から闇へ、何処ともなく葬り去られる事が常識。


ーーーーそんな恐ろしい国家。


それでもジャパン〜地球で一人ぼっちにして……


父親から自分がいないことを良いことに無理難題言われ、彼にとってあえて嫌がらせとして嫌なことばかりを押し付けられ干渉されるより随分マシに思えた。



「やっぱりーーー残して置いておくべきかなーー」

ウン!好きな子もーーー新たに居るし?


「まぁ彼女、しっかりしたあの子なら大丈夫だろ?」



哲はホゥッと 紹介時の様子を思い出して、ヤレヤレ胸をなで下ろす。



そんな〜幸福で何もかも上手く行きつつある日



ーーーー幸せすぎる輝く日々。




意地悪なカミサマは、再び子龍に最悪な、それはえげつない底意地の悪い悪戯を仕掛けたのだ。



何もかも、今度こそ奪い取ろうと再び牙を剥く。




玉蘭に腫瘍が見つかる。




癌(キャンサー)ーーーーであった




「子龍くん 私死ぬの、もうすぐ」



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