↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/336

番外編2 子龍の学生時代の思い出 ⑧

「子龍君は正直者なんだねーーーー〜


じゃあ教えてあげる。

あの作品を見て『私負けた』ーーーーーと思ったわ?


……どきっとした、本当に……!!


あれは生涯何枚も書けないし出会えない〜……


掛け値無しの、すっごく……素晴らしい作品だった」



「なんで???」


「それはね?

あなたの文字ーーー筆捌きが色っぽかったからよ。

文字全身が隅々まで 半紙の端まで訴えてたわ?

『自分は今、最高の恋をしてる』って……!


〜ああいう向こう見ずで、本気の作品には〜


小手先の技術は通用しない、ぜんぜん敵わないの。


『ああ〜〜負けた〜〜〜』……って、頭を両手で覆って。正直に感じたわ?」


「……自分じゃわからん」


憮然と、子龍が呟くようにそう言うと玉蘭は再びクスクス、おかしそうに笑い声をたてる。


「〜……それが『恋』ってもんじゃない??

自分でも訳解んない位、すーーーーごく夢中だった証でしょ?


子龍君が好きで好きでーーーー大切に心の底から想ってて……


”忍ぶれど色に出にけり我が恋は” ……の、どうしようもない程好きな人って

あのとっても綺麗な方??


実はね……?あの日コッソリ〜 葬祭殿の子龍君の居るブースに行ったのよ」


「ーー……ウッソだろ?」


「ぅうんホントよ?

……私あそこで『書』を毛筆で書く、アルバイトしてるの」


「……!!」


「〜……あの葬祭殿の会社はね?……ずっと昔っから……

無名の書家の卵時代っから、たゆまず支援してくれてる大切なスポンサーさんなのよ。


〜私……

おじいちゃんの知り合いだった社長さんからね、赤ちゃんの頃からずーーっと、まるで本当の孫みたく可愛がって貰ってるんだ……


それでーーーーー

直の職場の年長の、プロとしての師匠から情報が入って〜


あなたの『噂のライバル』…… ”子龍君がいる”って

”でも何か様子がおかしい” って……」


「ーーーーー」


「で……凄く心配になって、驚いて急いで駆けつけたんだ。

……友人として。


で、わかっちゃった!

あの負けた理由……


そりゃさ勝てないはずよね〜〜〜〜!!

あんな綺麗な、朝露を纏う白薔薇みたいな人が心の中に居るんだったら……


本気でーーー同性としてうーんーーー羨ましい〜と思ったわ?


子龍君に、こんなに愛されてーーー」



「そう思うか??」



「そりゃそう思うよーーーー!

絶対 女冥利に尽きるわよ〜〜〜!


それにね?ーーー恋の、1番美しくって切ない時に全てを終わらせるなんて

 

相手の心に綺麗なまま、永遠に一生、ずっと住んでいられるじゃない?

ある意味、女の子にとっての憧れでロマンよ?


どんなにそれ願っても出来ないことだし。


それはそれである意味ーーー天命だと思うな?


まぁね不謹慎で、発想がおちゃらけて脳天気すぎて


今ーーーーー苦しんでる子龍君にとっては ”そういうの”って、ノリで絶対言われたくない、残酷で辛くてたまらない事だけど」



「聞いていたのか? もしかして」


〜あの殺してやりたい、くそったれオヤジと自分との醜い諍いを……!


「……」



玉蘭は返答的に特にゴチャゴチャ何も言わなかったが『やっぱり〜』〜と子龍は沈黙を肯定と受け止めた。


『ワイルドな彼女の流儀やり方で……

これでも俺を、一生懸命慰めてくれたんだな??』


子龍は〜 玉蘭は書家とは知っていたが、よもやマサカ鷹匠もだとはクラスの誰からも聞いてはいなかった。



つまりーーーーー明らかに秘密にしていたのだ。


彼女の遠回しすぎる、奇妙な荒っぽい思いやりが少し心に響く。


「こいつらしいなぁ」、女子とは思えない大胆さをちょっとばかり見直した。



**************


2人は、その後も沢山のコンクールに出品、共に切磋琢磨し続けた。

 

尚〜子龍は学業の方面もひたすら邁進した。


それがせめてものーーー

自分に出来る「先生」への手向けだと思いたかったし〜


ずっと学業の面倒を丁寧に一生懸命見てくれた彼女の努力に、生徒として最後まで応える、純愛だった初恋を捧げて、哲の言葉の方を信じ、今は星になってしまった彼女の真心に誠心誠意どうしても報いたかったのである。


「どれだけ好きだったか〜……恋の話聞かせてよ?」


「……変なヤツ!!

普通 男の喋る他の女のホメ話なんて、聞きたくないんじゃねー?」



「まあね…… 一般論はそうなんだけどっっ……!

『物や思ふと人の問ふまで』 ……百人一首の平兼盛《タイラノカネモリ》?


でも吐き出さないと参るわよ?」



「ーーーースゲーなお前……」



子龍は話し始めて彼女〜 「先生」との時間が案外に短かったことに驚くのだ。

小学校6年生の卒業間際からだから、時間にして、たった〜1年にも満たない僅かな月日だったのだ。


しかし恋した人を慕う気持ちは、事実語れば語るほどに、多く深く限りがなかった。


濃密な濃い時間は今でも心の中に横たわり、恋慕い想う気持ちが、デジタルな単一の時間では決して計れないことを知る。


『こんなにも好きだったんだ……』そして今でもと、改めて自分の気持ちを再確認し、思い知る。


確かに「先生」は、元々、過去現在未来共、全部あいつのものかもしれない。


しかしこの想う気持ちだけは、どうしたって奪えない。


ーーー過ごした時間の、尊い「先生」との記憶ーーー

今も気持ちに宿る「先生」の面影は紛れもなく、自分と先生だけの聖なるもの。


誰にも穢したり汚したり侮辱する事が不可能、決して邪魔したり出来ない大切な不可侵なかけがえの無いレディなのだ。


「ねぇ最近子龍君、学校に再び来る様になって雰囲気変わったと思わない?」


「うん、なんだか、色っぽいっていうか?」


「好きな子、本命がいるとか?」

「いや!!そんなの嫌〜〜〜!!」


「でもホント、何があったんだろ?」


「来る様になってからググっと、一段とあまーくカッコよくなったよね〜♡」

「ね〜〜〜〜〜♡♡♡」



書家という世界に幼き日より親しむ玉蘭は和歌にも当然のように造詣が深かった


彼女の指摘は図星だったのだ




**************


秋口になると、親しくなった子龍を、玉蘭は流派の放鳥会へ。


 

季節が巡り、冬になると、今度は桜香との狩りにーーー誘ってくれた。



馴染みの狩り場で、キリリと冷たい空気を滑空し獲物を追い込む〜〜桜香

 

狙いを定めた獲物をバシッと激突するように蹴り上げ、仕留める姿。


目にも止まらぬ一瞬の出来事

パッと細かく雪のように散る獲物の胸の綿毛


一旦空中に放鳥されたオオタカは、まるで弾丸である。



子龍は全てに付き合った


そんなでも長身の彼の姿に桜香はビクついたりしない。


玉蘭は言うーーーー


「オオタカは心が揺るがないし自己完結してるから、こんなに人には心を開かないわ?

やっぱり桜香はよっぽど、子龍君が気に入ったのね!!」


「そうなのかな……?」


「鳥によっては、今までの人間のパートナーを敵と見なし、激しく攻撃する子もいるって聞くけど、桜香はそんな事無いから嬉しいの♪」


「ソリャーーーー新参者の俺なんかより、お前の方がずっと好き、上っ面なんかではなくて心底信頼しているからだろ?」


「そっかな〜〜〜」


テへへへと笑う玉蘭の見立てはーーー


地道に面倒を見て、日々桜香との心の繋がりが深いからこそわかる、正しい指摘と言えた。



桜香といつも嬉しそうに、満足げに、「人鷹一体」といわれる、究極の放鷹術を繰り出す彼女の集中する戦闘風景。


知り合ったばかりの子龍から見てもキラキラ眩くまぶしくオーラを放ち、全身で艶やかに光り輝いていた。


絶妙のタイミングで助走を付ける勇姿。

ハッ……と滑らかに放鳥する、天高く舞う桜香をジィっと見守る集中真っ最中の孤高の玉蘭の姿に子龍はやられる。


「やってみる??」


「いいのか??」


「子龍君なら大丈夫よ!!〜元々お殿様が主役、メインの鷹狩りだもの!!


少しは私以外の〜他の人間に接するというのは、桜香にもとても良い事なのよ」



子龍はこうして初めて桜香をーーーー


自分も玉蘭のように晴れがましく、自分用のエガケを装着、オオタカを腕に乗せた、今日この日の胸踊る日の事を。


『きっと一生忘れないだろうなーーー』 魂が震えるほどに感動した。


「……!……結構重いな 鷹!」


「桜香は1キロちょいあるからね……!

だけどモンゴルでは馬に乗った騎馬状態で、5キロの鷲を腕にのせるそうよ?」



「ひえーーーーーー!!」



様々な鷹の話ーーーー


玉蘭は相棒はオオタカだが、ハリスフォークと呼ばれる群れで暮らす鷹をパートナーにする鷹匠も多いという。


「大型の梟《フクロウ》の方も先輩には居るわ! 

これがまた高貴でーーー美しいの一言で、ああなんて綺麗って素敵なの!」


子龍にとって何もかもが初めて聞く、動的で魅惑的過ぎる心躍る世界だった。



彼女が目を輝かせて語るーーーーその生態、飼い方。


ひとと違い言葉を持たない、気難しい猛禽類の気持ちを読み取る方法とは?



くめどもつきない興味深い話を直接〜

「もっともっと」と、せがみながら、目をパァッと輝かせて真剣に聴きまくる。


どんな事でも玉蘭の話は面白くて、魅力的で堪らなかった。



ーーーいつの間にか ”書の好敵手”


玉蘭とーーー桜香と過ごす、豊で幸せな時間が子龍にとって、本気の掛け替えのない時間に変わって行く。


父親との激突でとことん荒廃、荒みきった精神を癒やす場所へーーーー


漆黒の呪われた百鬼夜行の棲む闇夜から、光の世界に再び舞い戻る為の、孤独な心を支える新たな拠り所になってゆくのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。