番外編2 子龍の学生時代の思い出 ⑦
「ソロソロそこから出なさいよ!カビ生えるわよ?!
ーーー好敵手がいないと私も張り合いが無いものっっ!!」
玉蘭はツケツケ言うなり、まだ発売して直ぐの 高価な電脳機器を取り出す。
指先タッチで ”シャッ!!”
小さな音と共に、某公募・募集要項が現れる。
『オイオイ〜〜〜』
ーーーーぜんっぜん意味分からんし?
子龍はぶす膨れ、ムカついてぞんざいな態度をとる。
「……それで??」
「貴方も応募するの」
「なんで?」
「何でも!
〜しないというならーーーーこうしてやる〜〜〜!
私に勝ち逃げだなんて洒落臭い、百万年早いわっっ!!」
「!!」
玉蘭は鮮やかに、いきなり寝具を被る子龍に馬乗りに飛びかかり、技を決める。
グィィィィイ〜〜〜〜!!
思いっきりヘッドロックを、信じられない猫のような敏捷性で!!
ぎゃぁぁぁぁ〜〜〜〜!!
死ぬ!
絶対マジで死ぬっっ!!
完璧な決め技に子龍は思わず仰け反った。
「ぐえええええっっ!!
わかった わかったから止めてくれッッ〜」
右手でパタパタ、惨めっぽく右手でタップをすると、フッフッフ……得体の知れない未知の珍獣っぽく喉の奥で笑い、何とかようやく技を解いてくれた。
”くっっ……! なんつー凶悪な女っっ”
「子龍君、今日の予定はなんかあるの??
どうせ学校ーーーこのままサボりでしょ?」
「……っ 俺の予定が、お前に関係あるのかよ?」
すると玉蘭が突然クスッと笑うのだが、理由は答えない。
『ーーーやっぱり何かの謎な動物っぽいな。
サイズの小さい系の、凶悪な野獣みたいだぜ』
そういえば、サイズが小さくなればなるほど犬なんか凶暴だと聞いた事がある。
思い出した子龍は、剣呑に眉間に皺を寄せる。
「なんだよ!」
「だって〜お上品な僕じゃなくって言い方、俺だから」
「別に〜!何もないよッッ、この状態で予定なんかあるかーーーー!!」
「だったらーーー私についてきて……
今日特別許可取って、私も休み〜 欠席なんだ」
「なんで?」
玉蘭はブフーーッ、と笑っただけで 全然返事を返さない。
子龍は小さく溜息をついた。
『まさかコイツ〜……こんな過激な性格だったとはなぁ』
一方、その態度に 「了承」の空気を感じとった玉蘭は
「居間にいるからね〜〜〜♪♪♪」
一言 子龍に言い残すと自らサッサと部屋から立ち去ってしまう。
「っったく なんなんだよ〜〜!」
……ワケワカランし?
チッと舌打ちし居間に行くと、飛びきり変な物が鎮座していた。
デンッと金属製、背の高い系の巨大ケージが目に入ったのだ。
「!!」
そして……
何か大きな塊が ブンッ!!っと空中を旋回して、グローブを身に付けた玉蘭の左手に 派手にバタバタと止まった。
「なんだそりゃ〜〜〜〜〜!!」
私室では全然気がつかなかったが、よく見ると〜本格仕様の
”例のユニフォーム”
ガチ系「つなぎ』を スラリと着ていた。
”こういうタイプ” は〜 いなせなあんちゃん御用達!!
〜ちょいワイルドを演出〜 の1ジャンル。
レディースファッションお洒落デザインカテ、”オーバーオール” とは絶対に言わないだろうと確信した。
「紹介するわ! 私の愛する妹よ♪
桜香ーーーっていうの♡
〜賢くって とってもデリケートな子よ?」
「〜〜〜〜〜〜〜繊細じゃないし…」
『寧ろワイルドすぎるだろ?』と玉蘭に対し、心の中で突っ込むのだ。
「なぁに言ってくれちゃってんのーーーっ!!
鷹は神経質な美しい生き物よ!!
なんたって 天下のオオタカ様なんだから、名前はとびっきり格好良くないと」
玉蘭はおそろしく豪放磊落な格好で嬉しそうに笑い、オオタカ「桜香」はしなやかな首をぐるっと傾け、金色と黒の瞳で クチバシをほんの少し開けている。
桜香というオオタカは、子龍の顔を何とも言えない様子でじっと見ていた。
子龍は玉蘭から初めて〜彼女が現代の「鷹匠」……!!
とある流派の〜会員、伝統文化を後世に継承する事を旨とし〜
鷹狩りの「放鳥術」を理解を深めるデモンストレーションとして、公的に一般に披露するメンバーの1人だと教えて貰った。
彼女の年齢で、オオタカを自在に扱えたのは全会員中、当時玉蘭ただ1人だったと子龍は随分後から知った。
「お祖父ちゃんがこの桜香のことをね〜凄く可愛がってた」
「ふぅん〜その方は……?」
「もう亡くなったわ」
「ーーーそれは済まない」
「まぁ90越えだったしね」
文句をブゥブゥ言う子龍を玉蘭は一向に構わず、「桜香」の訓練場所という所にサッサと連れて行く。
巨大ゲージを載せるために、マンションの駐車場には地上用自動運転走行のバンタイプの車両が1台停車していたからさらに驚きを隠せない。
ギョギョギョッとすると、玉蘭は当然っと言った口調でこう言った。
「これに乗って、大人の〜『警察公認の』ーーー
許可取ったプログラム済みだから、安全で大丈夫よ」
「!……マジかよ……」
台車に乗せた桜香の大型ケージを、玉蘭は車両のハッチバックの扉を開け、如何にも慣れた手つきで昇降台に置くと、その後はヒョイヒョイと積み込んでゆく。
ばさばさっと桜香は一瞬、僅かにひと羽ばたきしたものの、後は平然と大人しくしているのが不思議すぎる。
子龍は玉蘭の手際の良い、余りに自立したっぷりに〜
自分の体育会系若手書家の師匠の ”有り難き御言葉”
「良い字を書く為には体を整え、体幹を鍛えなくてはなりません、手先だけでは良い文字は生まれません」ーーーを不意に思いだし成る程なーと独りごちする。
子龍から見ると随分小柄で背の低い玉蘭は〜
にもかかわらず案外に、凄い力持ちだった。
当然のようにたったひとりで、この作業を全く手を借りず、全ての作業を粛々と自分の手で行ったのだ。
「あーん持てなぁぃぃ〜〜助けてぇ〜!」
何でもかんでも男子生徒にやらせるクラス女子に馴れていたから、彼の目に言動が新鮮に映る。
玉蘭が車両で連れて行ったそこは……ガランとした縦長のだだっ広い古い倉庫。
「……こんな所でしてるのか??」
「そうよ?人やペットに危害が及ぶといけないでしょ?」
「?……鷹は愛玩動物じゃないのか?」
「彼らは違うわ」
キュッキュッと「エガケ」と呼ばれる鹿革製のグローブを左手に装着〜ダイナミックな放鷹術を実演してみせる。
倉庫の端からーーーぐわっと大きな翼で玉蘭の元に飛翔する桜香の様子に感動のあまり言葉が出なかった
ーーーーというよりも魂が震えたのだ。
「〜……お前すげぇなぁ こんな顔があったんだな〜〜」
「そっっ!!桜香がね、人工的な香りを嫌がるから、おっしゃれーで格好いい子龍君から見て、むさい女でゴメンねッ」
「……」
その時初めて彼女がーーーどうして野暮ったく見える格好だったのか?
”理由”が初めて判り、父が「先生」の通夜の席で言い放った言葉がドスンと重くのしかかる。
『〜今のお前は何の力も持たない、ただのいきがったガキに過ぎない〜』
ちっくしょ〜〜〜〜〜!!
「?……どうしたの?」
「……別に?」
ふぃっとそっぽを向いた子龍は頬だけで無く首筋までが赤い。
相手の「全くごもっとも」な理由にたいして疑問すら抱かず、理解どころかわかろうともしなかった、自分のどうしようも無い観察眼の低い見識の浅さが……
気分の単純さが、途方も無く馬鹿で罪悪で恥ずかしいと思ったのである。
その時玉蘭が驚いた声を上げた。
「あれっ? 桜香……子龍君のこと好きみたい!
まあ女の子だから〜……当然かもーーー♪」
玉蘭はニコニコ笑った。
「桜香は人になれるよう『インプリント』……
ヒナの頃から刷り込みされたロシア出身のオオタカなのよ。
だから〜人を性別問わず ”配偶者” だと思うのよね〜!
私にとって彼女は『妹』なんだけど、逆に桜香から見たら私はね『夫』〜
ーーーー彼氏なわけ。
放鳥術はそこまで行かないと、”便利な移動止まり木” って認識されちゃうの。
…ひょっとして……
やーん浮気しちゃったかな?〜悲しー〜〜ショボーン」
そんな事を言いながらも玉蘭はウフフと楽しげに笑いひたすら楽しそう。
キラキラ…… 大好きなことに没頭する ふわっとナチュラルな笑みはとても素敵で、彼女の全く違う自然な側面を見た気がして自分も気分が盛り上がった。
どうしてーーーあんなに伸びやかで自由な線が引けるのか……
今までずぅっと謎、解けない謎……!
羨ましくて羨ましくて悔しくて……!
喉から手が出そうに光り輝く才能が嫉ましくて
『そうか……!!』 全貌がやっとわかった気がした。
魂が喜んでいるかのようなーーー
光の輝きの中で踊っているようなーーー
圧倒的でためらいのない、流麗で独特の筆捌きを作り出す秘密が!!
そしてーーー
最後の最後のーー究極の謎。
子龍は以前からずーっと疑問だった事を、意を決して口に出してみる。
〜どうしても解らない、全く理解出来なかった事。
「以前俺が特等の賞を取った時……何であんなにお前悔しそうでなかったんだ?
……同学年か、それ前後の奴に
ーーー誰かに腕前で抜かれたの、人生初めてだろ?」
「フーーーン知りたい??」
「まあな……気になるもんは気になるだろ?」




